UTalk / 歴史って役に立つの?

池尻良平

東京大学大学院情報学環 特任助教

第76回

歴史って役に立つの?

今回のUTalkでは、歴史と今をつなぐ教材を開発している池尻良平さん(東京大学大学院情報学環特任助教)にお越しいただきます。池尻さんは、歴史の中にある時間のリズムから人は多くのことを学ぶことができると言います。では、具体的にはどのようなことを学べるのでしょうか。会場には既に開発されたカードゲーム形式の教材もお持ちいただき、体験を交えながらお話をうかがいます。

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2014年7月12日のUTalkは、池尻良平さん(ご所属:情報学環)をお迎えして行われました。
池尻さんの専門は教育工学で、歴史を現代に活かす方法の研究をされています。池尻さんは学部時代は西洋史専攻でイギリスの教育史の研究し、将来は教師になろうと思っていたとか。しかし、日本の歴史教育は「覚えさせる歴史」が中心であることに違和感を感じ、研究者の道を志したそうです。

歴史が現代の私達に役立つ方法には、歴史がもつ教科としての独自性がヒントとなると池尻さんは考えています。今回の会のタイトルである「歴史って役に立つの?」という問いかけを中高生にしてみると、多くの中高生は役に立つと思っているのだそうです。しかし、歴史は役に立つとは思われていても、具体的にどのように役に立つのかというところは数学や英語といった他の教科に比べてそれほど明確でなく、実際に今までの研究においても曖昧にされてきたそうです。そんな中で、池尻さんは数学や英語といった教科にない歴史の独自性が歴史を役立てるヒントになるのではないかと考えています。その独自性とは、「50年から100年の長いスパンで情報をとらえる」ことです。

池尻さんは、歴史観には大きく分けて3つのタイプがあるといいます。まず、古代ギリシア時代は円環的な歴史観が支配的だったそうです。この円環的な歴史観はルネサンス期になると、時代は同じことを何度も繰り返しながら進歩していくという循環的な歴史観に変化していきました。2つ目として、中世になると直線的な歴史観が出現します。これは、歴史は直線的に進歩していくという歴史観で、キリスト教の終末思想が影響を受けて広まったそうです。さらに3つ目として、個性記述的な歴史観もあるそうです。これは、時代同士のつながりよりもある時代毎に区切って客観的に歴史をとらえるという歴史観で、現在の一般的な歴史学はこのタイプだそうです。

50年から100年の長いスパンで情報をとらえ、歴史を現代に役立てるという観点から、池尻さんは循環的な歴史観で考えて実践や研究をしているそうです。たとえば、現在の日本の経済が何が問題でどういう解決策があるのかと考えた場合、歴史は役立ちうると考えられます。なぜなら、このような問題を考える場合、寿命がある個人の経験では把握できることに限界がある一方で、歴史は個人で経験できることよりはるかに長い時間の経験を教えてくれるからです。池尻さんは経済に影響を与えた歴史上の偉人をカードにしたカードゲームの教材を開発しています。このカードを使って、過去の経済の問題とその解決方法がどのように現代にあてはめられるのかを学習することができるそうです。

今回の参加者の方はほぼ全員が歴史好きということで、池尻さんからのトークが終わると、次々と参加者からの質問が飛び出しました。ある方からは、トークで紹介された歴史を現代の社会問題の解決に役立てるという例の他に、歴史が役に立つ場面はどのようなものがあるのかとの質問が出ました。この質問に対して池尻さんは、アメリカの歴史の授業では過去の歴史的事実に関する定説を検証するといった批判的な思考スキルを身につけるといった事例もあることを紹介していました。また、歴史ドラマの役割に関する質問に対しては、歴史ドラマは人にフォーカスすることで感情移入をしやすいというメリットはある一方で、人以外にも社会制度などが歴史に大きな影響を与えていることを見落としがちになるのではないかと指摘していました。

最後に、池尻さんは今後の研究課題として、○○国△△時代という風に国や時代別に細分化された現在の歴史研究にとらわれずに、問題のテーマ別に歴史をとらえ、整理しなおす研究を模索することを挙げていました。

親しみやすい語り口で会を盛り上げて下さった池尻さん、台風一過で蒸し暑い中、会場に足を運んで下さった参加者の皆様、ありがとうございました。

[アシスタント:中野啓太]