UTalk / 「まち」と和合する

村松伸

東京大学生産技術研究所 教授

第75回

「まち」と和合する

村松さんの専門は、もともとは東アジアの建築史、都市史ですが、近年は、こどものまち教育に関心をもって活動を続けてこられています。6月のUTalkでは、10年目を迎えた渋谷区上原小学校との総合学習プログラム「ぼくらはまちの探検隊」や伊東こども建築塾での教育、さらには岩手県一関市達古袋小学校で行っている「達古袋なかなか大学校」のお話をすることによって、専門家が「まち」と和合することの楽しさ、難しさをご紹介いたします。

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2014年6月のUTalkは、総合地球環境研究所の村松伸さんをお招きしました。村松さんが東京大学生産技術研究所(生産研)に所属中にはじめられた「ぼくらはまちの探検隊」という活動についてお聞きしました。

今回、村松さんは紙芝居を使って話を進められました。初めに、村松さんの研究フィールドについてお話がありました。アジア、歴史、デザインという3つの領域にまたがって研究をされている村松さんは、もともとはアジア建築史がご専門。ですが、上海で行った工場再生ワークショップをきっかけに、実践活動にも携わるようになったそうです。日本に帰国し、生産研に所属するようになって始めたのが、「ぼくらはまちの探検隊」です

「ぼくらはまちの探検隊(ぼくまち)」は、生産研の近くにある上原小学校と共同で行っている活動です。上原小の総合的な活動の時間と、東京大学の全学自由ゼミナールという授業を活用し、小学生と大学生、大学院生が参加しています。
ぼくまちの理念は、「まちリテラシー」を獲得することにあります。それは言い換えると「まち博士」になるということです。自分たちが普段何気なく暮らしているまちのことを、わたしたちはどれほど知っているでしょうか。さらに、自分たちのまちに、わたしたちはどれくらい関わっているでしょうか。ぼくまちでは、1. まちを観察し、2. 良いまちとは何かを構想し、3. まちに責任ある関与する、という3つをまちリテラシーの要素と考え、小学生たちが上原というまちに関わっていけるように活動をデザインしています。

実際の活動では、大学生の隊長と5、6人の小学生の隊員が、与えられた「指令」をこなしていきます。指令の内容は「みえないまちをみつけなさい」といように抽象的で、一見すると戸惑うようなものです。村松さんによれば、実際、指令はけっこう難しいとのこと。そこには遠くの目標に向けて飛び石を越えていくように子どもたちの成長を促すねらいがあるといいます。指令をこなした隊員たちは、最終的に自分たちの成果を巻物や音楽、踊りなどによって表現します。そこでは自分たちがまちといかに関与していくのか、ということが表されていきます。この活動を通して、小学生たちが上原に主体的に関わり、まちリテラシーを身につけていくことはもちろん、隊長を務める大学生たちも、コミュニケーションが上手になるといった成長をしていくそうです。

2004年に始まったぼくまちは、今年で10年目を迎えます。大学と小学校の文化や時間のリズムの違いに活動の難しさを感じることもありつつ、これまでの経験の蓄積によって、小学生をいかに飽きさせないかといった点でも、様々な進歩が見られるといいます。ただ、村松さんは、活動が洗練されていくのも良いけれども、初めての頃のわくわくした気持ちも大事にしていきたいと考えているそうです。

「ぼくまち」の活動について、参加者の方からは「指令は誰がつくっているのですか」という質問がありました。その答えは「大学院生」。指令をつくることも大学院生たちの学びになっているのです。指令が抽象的な分、目標やプログラムをしっかりと組むことで、子どもがよりまちに関わっていけるよう考えているとのことです。村松さんの「子どもに自由にやらせるだけでは意味がない」という言葉が印象的でした。子どもの主体的な関与を促すために、指令や大学生の隊長の存在が大事な役割を果たしていきます。ここに「ぼくまち」の面白さがあると思いました。

今回は実際に隊長を務めた大学院生の方にも参加していただき、活動にあたって気をつけたことなどをお話いただきました。村松さん、院生の方々、参加者みなさま、ありがとうございました。

[アシスタント:杉山昂平]