社会科学研究所・助教
第70回
1月のUTalkでは、菅原育子(社会科学研究所 助教)さんをゲストとしてお招きします。菅原さんは、人や社会とのつながりが私たちの生活を生涯にわたってどのように支えているかについて、社会心理学の視点で研究していらっしゃいます。今回は、中高年者を対象としたアンケートやインタビュー調査の結果を紹介していただきながら、超高齢社会を豊かに生きるための知恵を、参加者のみなさまと一緒に考えます。
2014年最初のUTalkは、菅原育子をゲストにお迎えしました。菅原さんは「人のつながり」をテーマに研究をされています。私たちの人生で、つながりはどんな意味をもっているのでしょうか。
菅原さんは「つながり」について社会心理学の観点から研究されています。つながりについて興味はあったものの、最初はそれがどの分野で研究できるのかもわからなかった。さらに、大学に入るまで心理学は得体の知れないもので、何をするのか分からなかったといいます。菅原さんは様々な心理学の先生に聞いて回り、心理学は人の心の仕組みと法則を見つける学問だということ、そして社会心理学は、特に人が集団になった時に起きる問題やパターンが、どんな法則のもとに起きるのかを明らかにするものだ、ということを理解しました。それから菅原さんは、人のつながりが私たちの心に及ぼす特別な影響に関心を持つようになりました。
菅原さんの研究テーマは、高齢者や中高年の方のつながりです。もともとは指導教官のすすめで研究を始められたそうで、はじめは高齢者のことはよく分からなく困ってしまったそうです。そこでまず身近な場所から調査してみたのが、自分の父親の人間関係。お母さんさんが「お父さんに友達はいなよ」と言う一方で、お父さんからは友人らとの思いもよらないつながりを聞くことができました。「私の知らないところでこんな人間関係を築いていたんだ」と、親の新しい姿が見えたそうです。年齢を重ねてきた人はその分だけ、今に至る人生の物語を生きており、多様な人とのつながりをつくっています。調査を続けていくうちに、「私もこういう人になりたい」と思うおばあさんと出会うこともあり、菅原さん自身にとっても意味のある研究になっていきました。
しかし、研究として結果を残すには何らかの「法則」を見つけなければなりません。人のつながりがどんな法則に結びついているのでしょうか。その一つが、「人生の豊かさ」です。これまでの研究から、人間関係をもっている人ほど長生きで、ストレスが少ないほど人間関係が多様であるという法則が見つかっています。多様な人間関係があると「人間としての免疫がつく」と、菅原さんはおっしゃっていました。
今回菅原さんが参加者の方に配布した資料には、人が人生を経る中で「友人」の数がどのように変化していったのかが世代別に示されていました。例えば菅原さんの親世代の人を見ると、友人はいるかもしれないけれども近所や地域でのつながりは少なくなっています。高齢になって遠出しにくくなった時に友人関係はどうなってしまうのだろう、困ったことがあったら誰に頼れば良いのだろう、そのような心配が浮かんできます。菅原さんは今後、どのような人とのつながりが「切れてしまう」のかにも注目しながら、調査を続けていきたいということでした。
菅原さんのお話の後に、参加者の方から「(調査を実施する上で)「友人」と「知人」の区別はどうしていますか」という質問がありました。菅原さんによれば、調査に答える方の判断に任せたとのこと。客観的に友人と知人を区別するのは実はとても難しいのです。さらに、東アジア圏ではそもそも家族の結びつきが生活の中心で、「友人」という概念自体が新しいものだというお話もありました。
このやりとりをうけて、イベントの終了後にUTalkのアシスタント同士で話をしている時に、私たちの関係って仕事仲間?友人?知人?という疑問が湧きでてきました。がっつりした仕事という感じでもないし、友人というほどいつでも関わっているわけでもないし、知人というほどよそよそしくもない...。仕事と余暇の時間、オンとオフの区別が曖昧になりつつある昨今では、ますます、人間関係のあり方は「友人」という言葉だけでは捉えきれない多様性をもってきているということが実感されました。
冬の寒い中お越しいただいた菅原さん、参加者のみなさま、ありがとうございました。
[アシスタント:杉山昂平]