UTalk / 色づけして見た生命の動き

吉村 英哲

理学系研究科化学専攻・特任助教

第69回

色づけして見た生命の動き

12月のUTalkでは、生体分子科学やバイオイメージングをご専門にされている吉村英哲さん(理学系研究科化学専攻 特任助教)をゲストにお招きし、細胞の分子に蛍光の色を付ける手法や、色づけすることによって見えてくる生命の動きについてお聞きします。

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2013年最後のUTalkは吉村英哲さんにお越しいだだきました。吉村さんの研究内容は生命の働きを分子レベルで見ることです。その際に用いられるのが色づけの技術。色づけによってミクロの世界で起きている生命の営みを見ることが可能になります。 


吉村さんが見たいと思っているもの、それはタンパク質です。吉村さんは博士課程では酸素センサーとして働くタンパク質について研究されていました。そこで研究に用いられていたタンパク質は研究用に生成されたもので、その構造を基にタンパク質の働く仕組みを調べることが吉村さんの主な研究内容でした。しかし吉村さんはそれだけではもの足りず、実際の細胞の中でタンパク質がいかに働くのかを知りたいと考えました。生きている細胞そのもの、そしてそこでのタンパク質の動きを見たいという思いから、現在の研究を始めました。


では、どのように細胞を見れば良いのでしょうか。単に顕微鏡を見るだけでは無理そうです。吉村さんは「白黒の絵の中から白黒のウォーリーを探すことができるか?」という問いを例に挙げられました。色がついた絵の中からでもウォーリーは見つけにくいのに、白黒の絵の中ではなおさら見つけることは困難。細胞を顕微鏡でそのまま見ることは、これと同じ。何か細かいものがごちゃごちゃと動いているように見えるだけで、タンパク質の働きを見ることは難しいのです。 


そこで吉村さんは、細胞の特定の部分に色をつけることを試みました。赤と白の服を目当てにウォーリーを探すように、観察したタンパク質だけに目印となるような色をつけたら良いじゃないかという発想です。 そのために用いられるのが蛍光分子。これは光を当てると特定の光を発する分子で、感度が良く、インクで染めるよりもはっきり見ることができるので重宝されます。


吉村さんには実際に蛍光分子が溶けた液体を見せていただきました。ほとんど透明なその液体はレーザー光を当てると緑色に光りました。この蛍光分子を生きている細胞に取り込むことで、細胞内の働きを色づけして見ることができるのです。


また吉村さんはタブレット端末で細胞の様子を映した動画を見せてくれました。そこには色づけされた分子一つひとつがもじゃもじゃと動いている様子が映されていました。吉村さんによればその中でたまに、一秒ほどぴたっと止まる分子があるとのこと。それがどうやら情報を伝える分子のようで、細胞の外の情報をやり取りしているのではないかと言われています。このような動きの様子も、色づけをしてはじめて見ることができるのです。 


吉村さんのお話の後に、参加者の方からこんな質問がありました。「物質と生命の違いはどこにありますか?」吉村さんはそれに対し、「『生物』の定義そのものは人間が決めるしかないのではないでしょうか」とお答えになりました。吉村さんは生物を分子的なシステムと見ていて、その研究はむしろ物質と生命の境目をなくすような方向を向いているそうです。しかし同時に、機械と細胞はどちらも「装置」であるけれども、それでも違いがあり過ぎる。それが何なのかを見たいがために研究をしていると、吉村さんはおっしゃいました。


今回のUTalkは、色づけして見た生命の動きの興味深さに加えて、そもそも生命とは何なのかという問いまで含んだお話でした。寒いなかお越しいただいた吉村さん、参加者のみなさま、ありがとうございました。 


[アシスタント:杉山昂平]