総合文化研究科・准教授
第67回
10月のUTalkでは、共生のための国際哲学研究センター(UTCP)の梶谷真司さん(東京大学大学院総合文化研究科・准教授)にお越しいただきます。梶谷さんは「哲学をすべての人に」というプロジェクトを立ち上げ、「対話」の技法をワークショップ、子どもの教育、コミュニティ形成など、様々な場所で活用しつつ、新たな哲学実践の可能性を追求しておられます。当日は、こうした多面的な活動についてご紹介いただき、その後、参加者の皆様とともに、その場で「哲学対話」を体験していただきます。
2013年10月12日のUTalkは総合文化研究科の梶谷真司さんをお迎えして行われました。
梶谷さんの元々のご専門は現代ドイツ哲学ですが、最近は主に中高生を対象にした哲学対話のプロジェクトに多く携わっています。梶谷さんが所属されている共生のための国際哲学研究センター(UTCP)では2週間に1度研究会が開かれ、そこでは哲学対話を実践・研究する国内外の方々のネットワーク作りやイベント企画が行われています。この哲学対話プロジェクトでは高校生向けの哲学教育を目的としたキャンプイベントの他に、お母さんのための哲学対話、起業コンサルタントのための哲学対話、2011年3月11日の震災後には被災地域と大阪の学生をビデオレターで繋ぐ哲学対話など、様々な対象や主題によるものが実施されてきました。
今回は梶谷さんが実際行われている哲学対話を参加者の皆様にも体験していただきました。多数決で決まったの対話テーマは『よいこととわるいことって、なに?』。哲学対話は対象やファシリテーターによってルールが違いますが、梶谷さんの場合はこうです。
・話す時は、様々な色の毛糸を束ねて作られた「コミュニティ・ボール」を受け取ること。
・「コミュニティ・ボール」を持っている相手の話に耳を傾けること。
・話の流れは気にせず、話したい時に話したいことを話すこと
日常会話とは少し勝手の違う対話方式に戸惑う参加者の皆様に梶谷さんは、「私達は自分の思っている以上に、自分の言葉を使って話をしていない。」と語られました。話の落とし所を見つけようとするために、いつしか自分の話したいことではなく、その"場"に望まれることしか言わなくなっていく。その結果、自分の発した言葉に責任が取れなくなっているとも。
哲学対話では、落としどころを見つけたり、議論のように「どちらが正しい」といった白黒をつけたりということが目的になるのではなく、参加者全員が一体をもって「探求の共同体」となること自体が重要になります。それゆえ、哲学対話は、参加者全員に何らかの答えが見つかり、すっきりした結論が出たときに終わるのではありません。対話全体を振り返り、自分にとって重要な対話とは何だったのかをよく考えること。そしてその結果、それぞれが何処か消化不良でもやもやした状態で帰路につくことはむしろ良いことなのだそうです。
自分自身の体験から物事を考え、そこから出た言葉のみで語ることを重要視する哲学対話という方法について知り、またその実践を間近で見聞きしながら感じたことがあります。それは、答えを見つけることは勿論重要であり、どのような問題もいつかは答えを見つけなければいけないことは自明ですが、とはいえそればかりでは、いつしかまるで穴埋めシートのような応対しか出来なくなってしまう、という危機感です。"何を言ってもよい場"が用意されることで、本来の自分が持つ「自分の言葉」に気付くことの重要性について教えられました。
お話してくださった梶谷真司さん、今回お越しくださった参加者の皆様、ありがとうございました。
[アシスタント:猫田耳子]