医学系研究科・講師
第65回
専門知識を持ち、身体だけでなく精神面 からも出産をささえる助産師。この仕事の背景にある知恵を科学的に支え「 産む 」ことの未来をひらく助産学 。8月のUTalkでは、現場と科学を取り結ぶ試みについて、松崎政代さん( 医学系研究科講師 )と考えます。
2013年8月10日のUTalkは、医学系研究科講師の松崎政代さんをお迎えしました。松崎さんは助産師として実務経験を積まれた後、研究者として助産学を専攻され、現在も科学の視点からお産に向き合っていらっしゃいます。
当日は大変な猛暑で、気温が40度近くにあがる場所もありました。そんな中、会場であるUT cafeには、定員ぎりぎりになるほどの参加者がお越しくださいました。今回の参加者は圧倒的に女性が多く、男性の方は1人だけという状況でした。やはりお産というテーマは女性の方が関心を持ちやすいのでしょう。しかし、松崎さんは「これは男の人にも聞いてほしい話」とおっしゃいます。
もともと助産師として、病院や助産院、自宅でのお産の手助けをされてきた松崎さんは、まず、その実務経験をもとにしたお話をされました。持参された骨盤の模型を見せながら、参加者と一緒に、自分の骨盤を触ってみます。「女性の骨盤はもともと赤ちゃんが通れるような形になっているんです」と話された後、赤ちゃんの人形を使って、実際に赤ちゃんがどうやって骨盤を通って産まれてくるのかを説明されました。お母さんの陣痛と骨格、赤ちゃんの出てくる向きが揃って、始めてお産ができるそうです。助産師の仕事は、産む前、産む時、産んだ後の期間に渡って、お母さんと家族などのまわりの人たちをケアしながら、お産を手助けすることです。あるお母さんのお産の経過を写真で見せながら説明された松崎さんは、「医師は異常に対処するけれども、助産師は正常にお産ができるように助けるんです」とおっしゃいました。
さて、研究者としての松崎さんは、妊娠中の生活要因と疾病の関連について研究されています。妊娠中のお母さんが飲酒や喫煙、過度な運動をしたり、精神的ストレスを感じたりすると、活性酸素が発生します。この活性酸素の量がどの程度なら健康に害はないのか、あるいは健康を保つためにどのような生活習慣をとれば良いのか、ということが研究のテーマです。そこで松崎さんが注目されているのがヨガ。ヨガは妊娠中の運動としてよく行われており、口コミなどでは、ヨガによって気分が良くなり精神的に安定したり、お母さんの呼吸法が上手くなりお産がしやすくなったりするとの効果がいわれていますが、科学的にそれが実証されてはいません。それに対して松崎さんは、心と体の両面から、ヨガの効果を調べています。科学的な検証のためには様々な尺度を作成する必要があり、研究には難しい面もありますが、妊娠・出産を正常に導くため、出産をより良く手助けするために日々研究を続けていらっしゃいます。
松崎さんのお話の後に、参加者の方から、「最近多い高齢出産の際に、特に気をつけていることはありますか」という質問が出ました。それに対して松崎さんは、「体力のことなどは考慮するけれども、あまり年齢についてとやかくは言いません。助産師の仕事はそれぞれのお母さんの良さ、力を引き出すことなので」と答えられました。良いお産・悪いお産と決めつけるのではなく、お母さんごとのお産のあり方を尊重し、気持ちよく育児につなげてもらう。助産師としての暖かいまなざしが伝わってきて、印象的でした。それと同時に、お産を科学に探求しようとする松崎さんの姿勢からは、研究者としての熱意も伝わってきます。助産師の視点と科学者の視点をもった松崎さんの研究からは、妊娠中のお母さんに寄り添った、頼もしい成果が生まれるのではないかと期待させられました。
僕も一男性として、将来パートナーができた時に、また思い返したいお話だと思いました。暑い中お越しくださった松崎さん、参加者のみなさま、ありがとうございました。
[アシスタント:杉山昂平]