東京大学教養学部統合自然科学科講師
第64回
UTalkは、様々な領域で活躍している東京大学の研究者をゲストとして招き、毎月開催するイベントです。カフェならではの雰囲気、空気感を大切にし、気軽にお茶をする感覚のまま、ゲストとの会話をお楽しみいただける場となっています。 ネコと人はどのような関係性を築いているのでしょうか。7月のゲストでは、今まであまり研究されていなかった「ネコとヒトの関係」について研究している齋藤慈子さん(東京大学教養学部統合自然科学科)をお招きし、ネコに関する実験やネコの心理のお話をお聞きします。 みなさまのご参加をお待ちしています。
2013年7月13日のUTalkは、齋藤慈子さん(ご所属:総合文化研究科)をお迎えして行われました。齋藤さんは、ネコとヒトの関係を比較認知科学の立場から研究されています。ですが、齋藤さんが今の研究テーマにたどりつくまでには紆余曲折があったようです。齋藤さんは高校のころから研究をしたいと漠然と思っていたそうで、最初はなぜ自分が存在しているのか、という関心から進化論を研究したいと考えていたそうです。学部2年の後半から専門の勉強がはじまり、ある本に載っていた、ネズミが数を数えられるかという研究にひかれ、比較認知科学という研究分野に関心が出てきました。そして中学生のころからネコが好きだったこともあり、卒論のテーマはネコを選んだそうです。ですが、実験があまりうまくいかず、ネコは実験に向かなないのではないかと思ったことから、大学院5年間はサルの研究をしたそうです。その後、一旦大学外部の研究所で働かれた齋藤さんは東京大学に戻ってくるにあたって、再びネコの研究をしようと考えたそうです。
イヌとヒトの関係の研究は以前からかなり進んでいるようですが、ネコとヒトの関係の研究はあまり進んでいないそうです。これには、イヌが15000〜20000年前に家畜化されているのに対して、ネコは9500年前に家畜化が始まったこと、また、ネコの家畜化の仕方は人間が農耕を始めたことでネズミが増え、ネズミを狙って人家近辺に住むネコが増えたものであり、ヒトが家畜化させようと人為的に淘汰をしたわけではないことから、ネコの人間とのコミュニケーション能力が重要視されてこなかったという歴史的経緯があるとのことでした。この点で人間とうまくやっていけるように人為的に淘汰されて家畜化されたイヌとは異なるそうです。
しかし、ネコ好きでネコと接している立場からすると、ネコとだってコミュニケーションが取れる時があると感覚的に齋藤さんは思ったそうです。そしてそれを実証するためにネコが飼い主の声を聞き分けられるかどうか実験を行いました。ネコの飼い主1人を含む4人の声を録音し、ネコが声に対してどのような反応をするのかという実験です。飼い主ではない1人目の声にはネコは反応しますが、2人目・3人目となると段々反応しなくなります。しかし4人目に飼い主の声が聞こえるとネコは再び反応を示すようになります。一度慣れた状態で新たな刺激が与えられて反応を示すことを「脱馴化」というそうですが、まさに「脱馴化」が起きていることによって、ネコが飼い主の声を識別できることが実験で明らかになりました。
齋藤さんのお話が一段落したところで、参加者の皆様の質問コーナーになりました。ある参加者の方から、うまくコミュニケーションできるかどうかに個体差はあるのか、という質問が出ました。齋藤さんによれば、個体によって全然違うとのことで、幼いころにどれだけ人間と接したかによって、コミュニケーションに大きな差が生じる可能性が高いとのことでした。また、今回のUTalkではネコ好きの方が多く、飼っている方も多かったのでとても具体的な質問も飛び出していました。
齋藤さんの研究では実験などで映像をみることも多く、映像をみてネコに癒やされながら研究をしているのだと楽しそうにお話しになっていました。お話しいただいた齋藤さん、炎天下の中足を運んで下さった参加者の皆様、ありがとうございました。
[アシスタント:中野啓太]