UTalk Report

北川香子

文学部東洋史学研究室 助教授

ポスト・アンコールの道・都・港

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概要

UTalkは、様々な領域で活躍している東京大学の研究者をゲストとして招き、毎月開催するイベントです。カフェならではの雰囲気、空気感を大切にし、気軽にお茶をする感覚のまま、ゲストとの会話をお楽しみいただける場となっています。 文献史料がわずかしかないカンボジアでその歴史を解き明かそうとするとき、どのような方法をとることができるのでしょうか。6月のゲスト北川香子さん(文学部助教)は『王朝年代記』と、フィールドワークで採集した言い伝えや陶磁器片などを手がかりに歴史像を結んでいきました。 王の道、都、そして400年前から日本とも交流のあった港をキーワードとしてアンコール以降の歴史を解いていきます。

201368日の UTalk は、文学部東洋史学研究室助教授の北川香子さんにお越しいただきました。北川さんはアンコール王都期以降のカンボジア史を専門にされています。

 


 北川さんはまず、東大では「東洋史学」が示す領域が非常に広いという話をされました。ふつう東洋史と言うと中国や韓国の歴史がイメージされることが多いのですが、ここでの東洋史は、西はアラブ地域から東は琉球まで、「欧米や日本以外の歴史ならなんでも」含むそうです。その中で北川さんは東南アジア史、特にカンボジア史を専門にされています。


カンボジア史は「プレ・アンコール」「アンコール」「ポスト・アンコール」の3期に分けられると言います。まさにアンコール期を中心とした歴史区分です。アンコール・ワットをはじめ、世界遺産であるアンコールの遺跡群は、カンボジア史を考える上でも中心的な存在となっています。プレ・アンコール期とアンコール期は区別されてはいても、文化的に大きな変化はなかったと言います。ともにヒンドゥー教や大乗仏教が信仰され、建造物は石造りでした。ところが、アンコール期とポスト・アンコール期では断絶とも言うべき大きな変化が見られるそうです。



例えば宗教は上座仏教が信仰されるようになり、言語もそれまで使われていたサンスク

リット語からパーリ語に変わりました。そして何より、都としてのアンコールが放棄され、以降トンレサップ湖以南を転々とすることになるのです。現在のカンボジアの首都プノンペンも、ポスト・アンコール期に入ってから遷都されました。



 ポスト・アンコール期がどのような時代だったのかはよく分かっていません。北川さんは「歴史の空白の200年間がある」と言います。アンコールから都が移ってからの200年間に関する同時代史料がほとんどないのです。これは碑文が残されているアンコール期とは対照的です。アンコール期はカンボジア史の中で一度忘れられた存在であるにも関わらず、遺跡の存在によって現代では広く知られることになりました。しかし、ポスト・アンコール期は、現代カンボジアに続いていく時代であるにも関わらず、史料の少なさのために実態が明らかになっていません。北川さんは数少ない史料の読解や、現地での口承伝承の収集によって、このポスト・アンコール期の姿を描き出そうと研究をされています。


 

今回は北川さんがカンボジアの地図を持参されたので、参加者はそれを取り囲んで座りました。北川さんは席を立って自ら地図を指して場所を示しながら、遺跡などの写真を交えて熱心に話をされました。「現代日本人として史料を読んでも分かりません。現地に行って、その史料が生み出された土地の空気に浸りながら史料を読むのです」という言葉には、「場所」を重要視する北川さんの姿勢がよく表れていると感じました。



カンボジア史の中ではアンコール期が最盛期と考えられており、ポスト・アンコール期は衰退した時代と見なされているそうです。参加者の方からは「最盛期というのは、どのようにして判断されるのか」という質問がされました。北川さんの答えは「イメージによる」というもの。支配する領域の広さや建造物の大きさといったイメージによって、最盛期という判断がされているそうです。しかし、そのイメージが必ずしも実態に即したものであるかは分かりません。ポスト・アンコール期は果たして衰退の時代であったのか。北川さんの研究は、その「イメージ」を覆すものになるかもしれません。


 

今回の UTalk は梅雨入り後の開催でしたが、晴れて、暑過ぎもしない気持ちよい天気のもとで行われました。話は尽きることなく、会の後もたくさんの質問が出ていました。丁寧に受け答えしていただいた北川さん、参加者のみなさま、ありがとうございました。



 [アシスタント:杉山昴平]



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