UTalk / 砂漠で宇宙線をつかまえる

野中敏幸

宇宙線研究所助教

第62回

砂漠で宇宙線をつかまえる

UTalkは、様々な領域で活躍している東京大学の研究者をゲストとして招き、毎月開催するイベントです。カフェならではの雰囲気、空気感を大切にし、気軽にお茶をする感覚のまま、ゲストとの会話をお楽しみいただける場となっています。 5月のUTalkでは、柏の葉キャンパスにある宇宙線研究所から、テレスコープアレイ実験をされている野中敏幸助教にお越しいただきます。野中さん達は、現場での観測に体当たりで励み、宇宙からのメッセージを解析されているとのことです。宇宙線とは何かその研究史から、実験研究者の日常まで、幅広くお話いただく予定です。

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2013年5月11日のUTalkは、野中敏幸さん(ご所属:宇宙線研究所)をお迎えして行われました。
野中さんの所属している宇宙線研究所はその名の通り、宇宙線の研究を行っています。宇宙線とは地球に降り注いでいる原子核や素粒子のこと。野中さんは宇宙線の原子核の成分についての研究をしています。

非常に高エネルギーの原子核成分の宇宙線が観測されているそうですが、どのようにして原子核がそのようなエネルギーを獲得したのかは、100年間にわたってほとんど謎なままです。それを突き止めるには発生した場所をみつけることが必要であるそうです。といっても、宇宙線を観測してその起源をたどることは容易ではありません。なぜなら宇宙線のエネルギー量によって、宇宙線の進み方が異なるからです。比較的エネルギーが小さい宇宙線は、地球にやってくる間に磁場によって曲げられるため、発生した方向はバラバラに見えます。しかし、高エネルギーの宇宙線であるほど、磁場の影響を受けにくくなり、10の19乗電子ボルト、と呼ばれるエネルギーでは段々とまっすぐ進むになり、10の20乗電子ボルトではほぼ発生地点から地球までまっすぐ進んでくるそうです。ただ、高エネルギーの宇宙線ほど少なくなるため、観測することが難しいそうです。

野中さんによれば、高エネルギーの宇宙線の観測は空気シャワーとよばれる現象を観測することによって行われているそうです。空気シャワー現象とは高エネルギーの宇宙線が地球の大気にぶつかってできる粒子群のこと。観測装置は1980年代から開発され、最新の高エネルギー宇宙線観測では望遠鏡と放射線検知器の両方が観測に用いられているそうです。

野中さんはUTalkの2日前にアメリカから日本に帰国されたそうで、実際のアメリカでの観測生活のお話しがありました。野中さんが観測を行っていたのは、アメリカのユタ州にある砂漠地帯です。ここでは複数国の共同でテレスコープアレイとよばれる実験が行われており、36基の大気蛍光望遠鏡と507台の地表検出器がおかれているそうです。前者が大気中の空気シャワーを観測する望遠鏡で、後者が空気シャワーによって地表にたどりついた粒子の観測を行う装置です。観測はシフト制になっており、昼シフトと夜シフトがあるそうです。夜シフトは夕方16時頃に起床し、食事などを済ませたあと、20時頃にミーティングを行い各自の持ち場につくそうです。この際、非常時の連絡手段として保安官に通じる無線機も携帯するとか。夜は望遠鏡を使った観測で日が出ていない間観測を続けるため。季節によっては長いときで11時間ほど観測を続けるそうです。観測が終わると朝方に帰って就寝します。光があると観測できないため、月の光が強いと難しいでそうですが、地元の若者が夜中にやってきて車のライトで観測が中断されることもあるそうです。一方で昼シフトは検出器の調整が主な役割とのこと。5%ほどの検出器が不具合を起こすそうです。野中さんは昼シフトが多かったようで「日に焼けました」と笑っていました。

テレスコープアレイ実験は約5年間続いているそうで、野中さんはその成果についても紹介されました。テレスコープアレイ実験で観測された高エネルギー宇宙線の到来方向と、南半球で行われている同様の観測から得られた結果を基にした北半球での予想を重ね合わせた図を野中さんは見せて下さいました。図をみせられた参加者の方々からは、一致しているような、していないような、といった感想が聞かれましたが、野中さんによると、北半球と南半球の予測が一致しているように見える所とそうではない場所があり、これから先の展望として、今回の観測結果をもとにエネルギーを出している星を絞り込んで研究を進めていくことが必要だと野中さんは述べられました。また、ゆくゆくは宇宙にも地表と同様の観測装置を設置することも視野に入っており、もし設置できれば海上の観測もカバーできるようになるそうです。

今回のUTalkではトーク中に参加者から随時質問をはさんでいただく形式で行われました。野中さんは、参加者の疑問点にも1つ1つとても丁寧に説明されているのが印象的でした。
お話しいただいた野中さん、お足元の悪い中足を運んで下さった参加者の皆様、ありがとうございました。

[アシスタント:中野啓太]
参考: 東京大学宇宙線研究所 研究所紹介パンフレット