UTalk / 人の体で外の世界を体験する

玉城絵美

総合文化研究科

第56回

人の体で外の世界を体験する

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2012年11月10日のUTalkは、玉城絵美さん(ご所属:総合文化研究科)をお迎えして行われました。

玉城さんはHCI(Human Computer Interaction)という分野で、手とコンピューターをつなげる研究をされているそうです。

玉城さんによれば、HCI分野の研究は発明されてから、日常的に普及するまでに20?40年ほどかかるそうです。今は私たちが当たり前のように使っているマウスは1961年に発明されましたが、本格的に普及するのは1984年のMacintoshの発売以降でした。玉城さんが今行っている研究も普及するのは2020?2030年ごろではないかとのことでした。

玉城さんが今回お話しされたのは、コンピューターによって手を動かすことができるようにする研究です。現在はKinectなど目や指先を使うデバイスがありますが、これらのデバイスは主に人の手からコンピューターに指令を送るものです。玉城さんはそれとは逆にコンピューターから人の手に指令を送ろうとしています。

私たちの手は、脳からの電気信号が手を動かす筋肉に指令を送ることによって動いています。玉城さんはこの信号と類似した電気刺激をコンピューターで生みだし、電極パッドを使って手に伝えることで手を動かすことに成功しています。実際にその場で実演をして下さいましたが、人によって手の中の筋肉の場所は異なっているため、同じところに刺激を与えても異なる動きをすることがあるそうです。

では、この研究はどのような発展可能性を持っているのでしょうか。現在はGoogleストリートビューなどによって、世界各地の様子をコンピューターを通して目でみることができます。しかし、この技術を用いることによって目だけでなく、耳や手などの身体全体で体験できる未来がやってくるかもしれないそうです。たとえばネットワークでつながることでイタリアの人が体験している光景を日本にいながら自分も体験できる、つまり外国に行かずに観光できる可能性もあるとのことでした。

コンピューターの中に人間の身体全体が没入することで「場所」という概念がなくなるのではないかと玉城さんは言います。手までコンピューターの中に没入するようになるのが、医療分野などで利用される10年後くらい、一般では40年後くらいではないかとのことでした。

玉城さんのお話の後で、参加者の方々からも多くの質問が出てきました。

玉城さんがこの研究をはじめたきっかけは高校から大学の学部時代にかけてにあるそうです。元々身体があまり強くなかった玉城さんは、高校や大学には入院をしながら通っていたとのこと。入院時にはコンピューターと接することが多く、コンピューターを通じて外の世界に行きたいと思っていたそうです。当時は、人とコンピューターを近づける分野としてはロボットの研究が発展していましたが、玉城さんはロボットではなく、人とコンピューターをより直接つなげたいと思い、研究を始めたそうです。

また、この研究成果を利用することでピアニストの演奏を再現することができるのか、という質問も出ました。玉城さんによれば、ピアニストは職業柄特殊な筋肉の発達をしており、鍵盤を叩く際にとても早く筋肉が反応していたり、小指や薬指を別々に動かすことがでたりするそうです。筋肉を動かすために信号を送ることはできるが、それだけでピアニストと同じように演奏するのは一般の人には難しいだろうとのことでした。

玉城さんのお話の中で筆者が印象に残ったのは、HCI研究はみなの頭の中にあることを具現化する分野である、ということでした。同じ分野の研究室ではドラえもんの道具図鑑やSF小説が本棚に並べられているということで、技術だけでなく発想が研究に欠かせない分野があるというのは興味深いものでした。

実演をしながらわかりやすく説明をして下さった玉城さん、寒い中足を運んで下さった参加者の皆様、ありがとうございました。


[アシスタント:中野啓太]