UTalk Report

高橋薫

情報学環・特任助教

書きたくなる文脈づくり

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概要

書き手がほんとうに書きたいと思える状況をどう設定するか。今回のUTalkでは、ライティングの教育支援の研究をされている高橋薫さん(情報学環特任助教)にお越しいただきます。「総合的な学習の時間」における中学生向けアントレプレナーシップ教育の実践を中心にお話をお聞きします。

2012年10月13日のUTalkでは、高橋薫さん(情報学環・特任助教)をお迎えしました。高橋さんは言語のインストラクションを専門にされています。今回のUTalkでは、中学校の「総合的な学習の時間」におけるアントレプレナーシップ教育についてお話ししていただきました。一見したところ「ライティング」とは関係ないように見えますが、高橋さんによれば、この教育によって生徒の「書く力」が向上したといいます。

高橋さんがお話しされたのは、山形県米沢市立南原中学校のアントレプレナーシップ教育です。南原中学校の生徒は1年生から3年生まで、全員がこの教育に参加します。1年生は米沢の地域研究とコンピュータスキルの習得を行い、2・3年生は5、6人ほどのグループで「会社」をつくります。それぞれの会社は地域研究の成果を活かし、地元に密着した商品を企画・製造します。商品は市や町のイベントで販売するそうで、人気商品を売り上げる会社もあれば、赤字になってしまう会社もあるそうです。このように様々な状況に直面しながら、生徒は試行錯誤して学びを深めていきます。

商品の販売に漕ぎ着けるまでには大きな壁があります。それが「教頭銀行でのプレゼンテーション」です。生徒は自分たちの企画した商品を製造するために、教頭先生に対してプレゼンを行い、融資を受けなければなりません。そのためには自分たちの商品の良さを明確に伝える必要があります。ですが、普段の学校生活では「リアルな読み手」に対して文章を書く機会は中々ありません。それを補うため、地元の銀行員などのビジネスパーソンからあらかじめ指導を受けることになっています。この指導では、「商品が想定するターゲットは本当に正しいのか?」など、プレゼンの内容に鋭いツッコミが入れられるそうです。厳しい指導の下で、生徒たちは自分の企画する商品がどのようなものであるのか、徹底的に考えぬき、プレゼンを完成させます。

生徒はこのような機会を通して、自分が本当に伝えたいことは何かを考え、相手に理解してもらうにはどのように表現すれば良いのかを学びます。高橋さんの研究によれば、アントレプレナーシップ教育を受けた南原中学校の生徒は、近隣の中学生よりも「書く力」が高いことが分かったそうです。生徒が作成した学習報告書を読んだ参加者の方々からは、「中学生でこんな文章を書けるのはすごい」という声が上がっていました。高橋さんは「失敗した子どもの方が考察が深い」とも話され、普段はあまり目立たない生徒が報告書で佳作を取り、自信を持ったというエピソードもあるそうです。

参加者からの質問の時間では、「中学生に、頭の良し悪しやスポーツができるかできないかということ以外の新しい価値観が生まれるのではないか」という質問が出ました。これには全員が大きく頷いて共感している様子で、高橋さんも「アントレプレナーシップ教育を通して、プレゼンが上手い、デザインが上手、文章が上手いといった、成績表では測れない子どもの良さが分かります」とお話しされました。また「なぜビジネスパーソンなどの大人が本気で関わってくれるのか」という質問には、「南原中学校のやり方が地域社会に大きく開かれていて、そして何より生徒の反応が良いから大人たちもやりがいがある」と答えていらっしゃいました。

高橋さんのお話をうかがって、「ビジネス」の面が目立つアントレプレナーシップ教育に「書く力」を育てる一面があることを知り、とても興味深く思いました。会が終わってからも多くの参加者の方が残り、話が盛り上がっていたのが印象的です。高橋さん、お越し下さった参加者の皆様、ありがとうございました。

[アシスタント:杉山昴平]


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