UTalk Report

佐藤克文

大気海洋研究所・准教授

生物が記録する科学

— ウミガメ、マンボウ、オオミズナギドリ

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概要

生き物に小型の機器を取り付け、 彼らの目線でその謎にせまるバイオロギングサイエンス。 1月のUTalkでは、海洋生物の不思議を追って 世界各地を駆け巡っている佐藤克文さんをお招きします。 調査プロセスや生物の知られざる生態についてお聞きします。

2012年最初のUTalkは、佐藤克文さん (大気海洋研究所准教授)をお迎えして行われました。会のはじめに登場したのは「ぺんぎんぺんぎんドボンドボン」という絵本。佐藤さんが南極でなさった調査の学問的成果が絵本という形でまとめられています。ペンギン一匹一匹の描かれ方まで細かくチェックし、ペンギンの首の角度や表情など修正してもらったのだとか。絵本の主人公アデリーペンギンは集団で一斉にもぐり、一斉に戻ってくるため、佐藤さんはこのことを「シンクロナイズドダイビング」と呼んでいるそうです。南極で撮影してこられた動画ではペンギンが次々に海に飛び込み、しばらくすると飛び出してくる様子が何度も見られました。出入りのタイミングは同じなのですが、もぐる深さはばらばらとのこと。面白いですね。
 
どうやって海の中のペンギンの動きをとらえるのでしょうか。佐藤さんの研究では、バイオロギングという手法を用いています。バイオロギングとは「生物(bio)が記録する(logging)科学(science)」を意味し、日本で開催されたシンポジウムをきっかけに作られた日本発の言葉だそうです。生き物に、小型の機器をとりつけ、画像や動き、音などをとらえて生態を明らかにしていく学問です。海中でのペンギンの動きをとらえた加速度センサーは日本発祥であり、それまで使われていた圧力センサーより調査がしやすくなり、水中の動物の動きを秒単位で把握できるのだそうです。
 
南極では、氷のはじで海から飛び出してくるコ ウテイペンギンを撮ろうとしてウェッデルアザラシに襲われそうになったり、アザラシにカメラをつけるのに苦労したり、氷上に仮設したトイレで海中のアザラ シのやりこりする声をきいたり、と調査にまつわる裏話は興味深いものばかりでした。南極をはじめ、世界の様々な地域へ調査に出かけ、ペンギンやアザラシ意外にもウミガメ、マンボウ、ウミドリなど対象としている生き物の種類は多岐にわたるそうです。
 
近年は、学生を送り出す 立場になり、佐藤さんは今までの成果や学生が持ち帰ったデータをもとに、多種類の生物の比較分析を行うようになってきたのだそうです。そして発見したこと のひとつが、泳ぐスピードの共通性で、ペンギンもクジラも秒速2メートルであるということ。たとえば、ペンギンが秒速2mで泳ぐのは、それがペンギンにとって一番経済的であるからだと佐藤さんは分析されています。水の抵抗は速度の2乗に比例するため、泳ぐスピードが速すぎると その分前に進むためにエネルギーが必要であるとのこと。他方、遅すぎると距離を泳ぐのに時間がかかります。ペンギンは普段から体を維持するためにエネル ギーを使っているため、時間がかかるとやはりその分エネルギーを消費することになります。こう考えると、エネルギー効率上、バランスの良い速度が秒速2mになっているのだろうとのことでした。
 
佐藤さんのなさっている調査の要は、機器の開発とそれをどのようにして動物に取り付けるのかということ。動物にセンサーなどを取り付けるのには工夫がいるそうです。昔はペンギンが潜れる深さは水深20kmくらいまでだと考えられていました。ですが、今は水深180kmくらいであると考えられています。この違いは どこから生まれるのでしょうか。その一因は測り方にあると佐藤さんは言います。昔はペンギンに測定器つきのチョッキを着せて測っていました。これでは泳ぐ のに邪魔になり、ペンギン本来の能力を測ることができませんでした。その後、のり付けという方法が登場し、現在は防水テープで測定器をペンギンに固定して いるようです。このテープ、ドイツのホームセンターで売っている家庭用のテープだというから驚きです。佐藤さんによれば、このようなちょっとした工夫で測 定に影響が出てくるところが、学生のモチベーションアップにつながっているとのことでした。
 
また、佐藤さんはあるテレビ番組で依頼されて、陸上動物であるチーターの速度を測ったこともあるそうです。その番組で測定した際に、チーターが獲物を捕るときに時速60kmしか出していませんでした。テレビクルーはがっかりしたそうですが、佐藤さんはこの事が面白いと思ったそうです。動物は常に自分の持てる力を100%発揮して生きているわけではありません。先ほどのペンギンの例にあるように、動物はエネルギー効率を重視して生きています。この場合、チーターにとってその獲物は時速60kmのスピードで捕ることができるわけです。時速60kmで捕れる獲物を捕るのに、もっと早く走れたとしても時速60kmで走るのは当たり前ではないか、との佐藤さんの言葉に納得させられました。
 
「遊び」の話は参加者を含めて盛り上がった話題でした。たとえば、動物園に行ったとき、子どもは順路に従って効率よく見て回るのではなく、そのときに見たいものを順路とは無関係に見にいく様子がみられます。効率よりも興味を優先する子ども、そこには他の視点から見れば意味があるはずだと佐藤さんは言います。ペンギンのひなは降っている雪を食べようとするときがあるそうです。一件無意味なこの行動は遊びなのでしょうか。人間の子どもと 共通点があるのでしょうか。ここで参加者の方が、都会のカラスは大人でも遊んでいるというお話をされました。都会のカラスはエサを食べるわけでもないのに ゴミ袋をくわえて振り回したり、子犬をつついたりしているそうです。この話を聞いた佐藤さんと参加者は、遊びがあるのは生活に余裕があるからではないか、 という見方を出していました。たしかに人間は常に生命の危機にさらされているわけではないですし、都会のカラスはエサに困っていないのかもしれないです ね。この話題では他の参加者の方も、学校の花壇のチューリップだけを引っこ抜くカラスがいたという話をされ、とても盛り上がっていました。
 
佐藤さんは自分や研究室の学生のことを「探検 家」だと想っているそうです。佐藤さんがされている研究はある仮説をもって、その仮説に実際のデータが当てはまるかどうかを検証する仮説検討型の研究では なく、「ビーグル号に載って探検にいくダーウィン」のような研究であるといいます。ダーウィンはもともと進化論を見つけようと想って出航したわけではな い、と。佐藤さんの研究室の学生には駿河湾でマッコウクジラを調査していた学生がいたそうです。マッコウクジラにつけた測定器が落ちたため、それを回収す るためになんと富士山に登って発信機を探したとのこと。高いところからの方が電波をひろいやすいからとのことですが、聞いて驚きました。佐藤さんによれ ば、このような研究では根性が重要だとのことです。就職には決して有利な分野というわけではいですが、そのようなリスクを承知でくるような人に入ってほし いと笑いながらおっしゃっていました。
 
参加者とのやりとりも活発で、佐藤さんがとても楽しそうに自分の研究のことを話されていたのが印象的でした。佐藤さんはこれからも執筆した原著論文を、絵本や展覧会など形で積極的に発信していきたいとのこと。現在、国立科学博物館で開催中の企画展「動物目線の行動学 バイオロギング」では、佐藤さんの研究成果も展示されているとのこと。
 
今日の話を聞いて、私もぜひ展覧会に行きたくなりました。雨も降り寒い中お越しくださった佐藤さん、参加者の皆様、ありがとうございました。
 
[アシスタント:中野啓太]

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