UTalk / 車載カメラで都市を視る

小野晋太郎

生産技術研究所 特任助教

第47回

車載カメラで都市を視る

2月は、車載カメラを使いながらシミュレーションを用いた研究をされている小野晋太郎さん(東京大学生産技術研究所 特任助教)をお招きします。眼鏡型ディスプレイやドライビングシミュレーターの映像などをお見せいただきます。

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2月11日のUTalkは、小野晋太郎さん(生産技術研究所・特任助教)をお迎えして行われました。小野さんの所属している研究室は画像を専門にしていらっしゃいます。画像と言っても、コンピューターグラフィクス(CG)ではなく、カメラの画像を主に研究されているそうです。その中でも小野さん個人は街や交通を関心に研究をされているのだといいます。
まず、小野さんの所属される生産技術研究所(以下、生研)に ついての説明がありました。生産技術研究所は、駒場Ⅱキャンパスにあります。東京大学の学部生が通う駒場Ⅰキャンパスの西にありますが、所属しているのは 院生以上のみのキャンパスです。生研の建物は長辺が数百メートルもあるとても長い建物です。その長い建物の中に様々な工学系分野の研究室があります。その ため、常に異分野の研究者と建物の中で出会い、話す機会が多いのが生研ならではの特徴だそうです。
小野さんの研究室でやっていることの一つとして文化財のモデリングがあります。奈良の東大寺の凹凸や彩色をCGで再現。万が一災害がおきても、そのままの形で復元できるようになっているのだとか。
車載カメラを使った取り組みとしてはほかに、ドライブシミュレーターの開発もあります。使うカメラは6面にレンズがついている車載カメラ。なんと市場価格100万 円弱という高価な品物です。このカメラを自動車の上に載せて、映像を撮ります。シミュレーターでは自動車で自分が走った車線を映像でプレイバックできるほ か、同じ映像から隣の車線を走った映像も再現することができます。映像の再現率はとても高く、ビルのガラスの反射もしっかり再現できています。
昨年 行ったもう一つの大きな取り組みは、被災地の映像を車載カメラで撮影したこと。撮った映像はヘッドマウントディスプレイによって仮装臨場体験を行うことが できます。このディスプレイは装着者の視線を感知して、映像の方位がそれに合わせて動きます。会場にお持ちいただいた実機を筆者もつけさせていただきまし たが、目の前に被災後まもなくの何もない街の風景が広がる臨場感にただただ驚きました。この取り組みは被災地の記憶を風化させないために行っており、学術 的にはどういうことができるのかまだわからないそうですが、小野さんの中に、今しかできないことをやっている、という強い思いがあるように感じられまし た。
被災地 の映像をアーカイブすることに関して小野さんは、データをとることの重要性に触れました。生物学などの分野ではデータをとることはとても重要視されていま すが、情報分野ではパソコン上の分析だけで済んでしまうという考え方もあったりするとのことです。小野さんによれば、きちんとデータをとることはとても大 変で価値があることであり、データを自分でとることを軽視しないことが大事だとのことでした。
質疑応答では車載カメラが複眼であることのメリットについての質問が出ました。小野さんによれば、複眼であることのメリットは、左右で別々の映像を与えることができる点だそうです。一つのカメラよりもより自然に映像を見ることができます。
さらに、左右で映像を分けられるのであれば、2ヶ月前の映像と3ヶ 月前の映像を左右で分けるとどうなるのか、という質問も飛び出しました。小野さんは、実際にやったことがないのでわからないが、お互い半透明で重なり合う ようなイメージではないかとお答えになっていました。ただ、技術的に時間などを厳密に合わせるのは難しいかもしれないそうです。
ここで、話は視野角の話に。小野さんによれば映像を見る場合の視野角には2種類あるそうです。一つはデバイスの中の視野角。映像装置の中の視野角です。もう一つはコンテンツの視野角。これは映像の圧縮度です。たとえば、プラネタリウムにたとえると、自分の見えている視野がデバイスの視野角で、その見えている視野が150°だとすると、150°の中にどれだけの角度の映像を入れているかがコンテンツの視野角になります。圧縮すれば150°の中に200°分の映像を圧縮して表示することも可能というわけです。この2種類の視野角がうまく合っていると、リアリティが増すとのことでした。
最後に 話は実用的な評価と工学的な評価についての方向に。実学的に言えばドライビングシミュレーターはとても大きな貢献をできているそうですが、一方で工学的な 成果として評価をしてもらうのはなかなか大変なようです。工学では既存の技術を組み合わせるよりも、今ある問題点をどのように解決したかが評価されるから です。この実学と工学で両方評価されるようにバランスをとることがとても大変だと小野さんは言います。
実学的 には車載カメラの技術はどのような用途で使えるのでしょうか。参加者の方を中心に、絶対にミスが許されないことに対して、シミュレーションできることがメ リットとの意見も出ました。運転のシミュレーションのほかには、医療のオペの練習などでも使えるのではないかとのこと。なるほど、あったらとても便利そう ですね。
今回もたくさんの参加者の方がいらっしゃいました。車載カメラにヘッドマウントディスプレイを持って下さった小野さんを、寒い中お集まりいただいたみなさま、ありがとうございました。

[アシスタント:中野啓太]