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江前 敏晴

農学生命科学研究科・准教授

たかが"紙"、されど"紙"

― 紙が語る歴史と未来 ―

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概要

紀元前に発明された紙。紙は身近な材料でありながら、その性質や構造は多様で、現代はエレクトロニクスやバイオセンサーへも応用されています。また東日本大震災の被災地では、紙を塩水で保存するという技術が、津波による被害を受けた文書類の救援に活用されようとしています。 12月のUTalkでは、紙文化財学、紙の物性解析から、子ども向けの「紙の科学」教室まで多彩な研究を展開されている江前敏晴さん(農学生命科学研究科准教授)をゲストにお迎えします。


12月のUTalkは、農学生命科学研究科で准教授を務めていらっしゃる江前敏晴さんをお迎えしました。暖かい店内での開催でした。

「好きな事をやる!楽しいことをやる!」というのが江前さんの信条だそうです。ご自身の研究はもちろん、ボディビルやベンチプレスパワーリフティング、スキー、水泳といったスポーツも楽しみ、休日には10キロのランニングをしていらっしゃるとのことです。

さて、本題である紙の研究についてお話ししていただきました。
紙は紀元前に発明され、以降私たちの生活になくてはならないものになりました。
今では読み物・書き物だけでなく、ティッシュやダン段ボールなど、さまざまな用途で紙が使われています。そんな紙の「過去」と「未来」について、江前さんにお話しいただきました。

まず、紙の未来についてのお話です。
江前さんは、なんと紙で電子回路基板を作るという「印刷エレクトロニクス」の技術を開発しました。
基板というものは今までシリコンやガラス、プラスチックなどで作られていました。しかし江前さんの研究によって、紙に基板を「印刷する」という技術が開発されました。
銀ナノ粒子の特殊インクをセットし、インクジェットプリンタで紙に印刷すると基板ができます。
驚くことに、特殊インクさえあれば家庭用のプリンターでも印刷が可能だそうです。
紙で基板を作ることで、非常に安価に安全に安定して供給ができるようになるとのことです。

今回は実際に紙に印刷された基板を参加者のみなさんにお見せいただきました。
現在は医療検査や食品成分検査などで実用化に向けて研究がなされています。

また、東日本大震災からの復興についても紙の研究が役立っているというお話をいただきました。
過去を記録してきた様々な紙が津波で被害を受けましたが、江前さんはその復元・保存に取り組んでいらっしゃいます。

数年前のインドネシアの大津波では土地台帳や登記簿が海水に浸かってしまいました。水に浸かった紙を放置しておくと普通ならカビが生えて文字の判読ができなく使えなくなってしまいますが、このときはカビがあまりほとんど生えなかったそうです。
このことから江前さん達は海水に含まれる塩分がカビの繁殖を抑えているのではないかという仮説を立てました。そして3種類の菌(一般的に紙に生えやすいとされている菌)を使って実験を行ったところ、真水に浸した紙には菌が著しく繁殖して文字が読めなくなってしまったのに対し、塩水に浸した紙にはわずかなカビの斑点が見つかっただけで読字を阻害するほどのほとんど繁殖が見られしませんでした。同時に別の実験では、インクや墨がは塩水には溶け出しにくさないこともわかりました。

この研究を背景に、江前さんは自分の足で東日本大震災の被災地に取材に行き、各地の海水の塩濃度を調べて回られました。
旧家のそして古文書や屏風・襖といった紙文化財の保存・復元修復活動にあたられました。そして現在は写真や資料の復元にご尽力されているとのことです。

また、被災地以外での社会活動についてもお話しいただきました。
紙の博物館などでNPO法人ネイチャーセンターリセンの副理事長として「楽しい紙の科学」というテーマで子ども向けにレクチャーをされています。江前さんは、ある文字を書いた便箋を入れた封筒とトイレットペーパーの芯を取り出して、「外側からは見えないけれど芯を当てて覗くと封筒の中の文字身が見える」という現象を実際に参加者に披露されました。
また、NPO法人ネイチャーセンターリセンの副理事長として紙漉き体験などの環境体験教育などにも取り組まれているそうです。

質問タイムで「お好きな紙は?」と参加者に尋ねられたところ、和紙がお好きだとおっしゃっていました。
今は紙のを均質化を目指してきた流れの中でしている時代ですが、1枚1枚手作りされるテーラーメイドのような感覚を持っているところに和紙の魅力を感じていらっしゃるそうです。
また、「紙の未来についてどう思うか?」という質問もありました。江前さんは、紙業界はの生産量は停滞しているとしながらも紙を振動させる紙スピーカーなどの例を挙げて、紙のテクノロジーをいかに社会に役立てるかが大事だとおっしゃっていました。

「紙ってなかなかおもしろい」と冒頭に江前さんが感慨深げにおっしゃっていたのが印象的でした。「たかが"紙"、されど"紙"」というタイトルのとおり、紙が織り成す過去と未来というたいへん壮大なお話を伺うことができました。
お集まりいただいたみなさま、ありがとうございました。

[アシスタント:市原大輝]

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