教養学部附属教養教育高度化機構・特任助教
第35回
新年の初回である2011年1月のUTalkでは、インタラクティブな授業にご関心があり、駒場キャンパスにてKALSや教養学部・理想の教育棟といった新しい学習環境のデザインに携わられている林一雅さん(教養学部附属教養教育高度化機構・特任助教)をお招きします。
1月のUTalkでは、インタラクティブな授業に関心があり、駒場キャンパスにてKALS(Komaba Active Learning Studio)や「理想の教育棟」といった新しい授業環境のデザインに関わっていらっしゃる林一雅さんをお迎えしました。
まずは駒場の授業環境についてのお話がありました。
駒場の前期教養課程では、毎年実に夏学期に1700、冬学期に1400もの授業が開講されているそうです。さらに前期教養課程では比較的自由に授業が選択 できるため、このように、授業環境自体は充実しているのですが、学生の評価は高いのかといわれると、意外にもそうではないそうです。進学を控えた2年生に 毎年行われるアンケートによると、授業を通して知識を得ることについての満足度が高いのですが、議論すること・考える力をつけることに関する評価が低いのが特徴でした。
もちろん、知識の蓄積は研究の上での基礎となるため、一方的に知識を詰め込む授業も必要です。しかしそれだけでは身につかない能力があるのも事実です。
一例をあげると、東大、それも特に理系の学生は多数が大学院に進学します。研究全般、自然科学分野では英語で論文を書く機会が多いです。しかし英語で論理的な文章を書くトレーニングが駒場ではあまり積まれていない、ということが長年問題とされていました。
このような意見を受けて、新しく設置されたカリキュラムが「ALESS:Active Learning of English for Science Students」です。
これは理系の1・2年生を対象としたもので、英語で論文を書くトレーニングを行います。実験の計画を立て、実際に実験を行い、パソコンを使って英語で論文を書き、お互いに書いたものを交換して読み合うという一連の流れを早いうちから習得することを目標としています。
ここまでソフト面についてのお話でしたが、ハード面でも問題ありました。施設が老朽化しており、パソコンやスクリーンが設置できるような構造ではないため インタラクティブな授業がしにくいのです。この問題を解決するために、2007年にオープンした「KALS」や現在建設中の「理想の教育棟」など、新しい施設の建設が進められています。
現在建設中の「理想の教育棟」。
この名前は小宮山宏前総長が仮称として考えていたものが正式名称になったのだそうです。
「学びの空間」「滞在できる空間」「ZEB(Zero Energy Building)」という3つのキーワードをもとに作られました。
・まずは「学びの空間」
教室は「アクティブラーニングスタジオ」と呼ばれ、パソコンを活用して学生と教員との間のコミュニケーションを深め、討議する力を高めるようなつくりになっています。
さらに300人収容可能なレクチャーホールも設置されています。
・2つめの「知の泉」
学ぶだけでなく、様々な人と交流できるようなつくりになっています。
オープンスペースでは3F分の吹き抜けがあり、カフェテリアを併設し、長時間滞在しやすいようになっています。
・3つめの「ZEB(Zero Energy Building)」
放射冷暖房システムを用いてゆっくり部屋の温度を調節できるシステムを整備したり、地下水循環型冷暖房システムや自然換気を利用し、従来の教育施設に比べ、エネルギー消費量を30%削減できるように設計されています。
並行して、KALSについてもお話がありました。KAKSとは、Komaba Active Learning Studio(駒場アクティブラーニングスタジオ)の略称で、2007年6月に作られた、新しい施設です。
あえて「教室」ではなく「スタジオ」と称していることからもわかるように、一般の教室とは異なり、4~5人のグループで円卓に座るようなテーブル配置、4面へのスクリーン配置、充実したAV関係機器など、徹底してただの「座学」にならないような配置になっているのが特徴的です。実は私自身も英語の授業を KALSで受けたことがあるのですが、グループ討論をしたり、パソコンで映画を見たりなど、受け身の授業にならないように工夫されていたのが印象的でし た。
30分ほどのお話の後、質疑応答に移りました。
まず、授業を行う先生に対して、教室の使い方を教えたり、授業の方法を提案するなどのサポート体制があるかどうか、という質問がありました。これに対しては説明会を行ったり、先生を個別訪問して授業の作り方を一緒に考えたりはしている。しかしまだまだ教養学部全体にはサポートが広がっておらず、これからの課題ですね。という御答がありました。
またオフィスのレイアウト変更と、教室のレイアウトを変えることには本質的にどのような違いがあるのか?という質問には、本質的には同じ、という答えが返ってきました。オフィスにおいても、同じ部署の人ばかりと話すと情報が偏り、思考が広がらない。
授業でも、先生が一方的に話すだけでは学生の議論する力はつかない。「情報の一方的な偏りをなくし、インタラクティブな関係を作る」という意味では同じ、ということだそうです。
今回は学生から社会人まで、教育に興味のある幅広い参加者がいらっしゃり、まさに「理想の教育棟」が理想とするインタラクティブなセッションができました。寒い中来て下さった参加者の皆様、多数の写真を用意してわかりやすく、楽しくお話して下さったゲストの林さん、ありがとうございました。
[アシスタント:三ヶ島ちひろ]