新領域創成科学研究科・准教授
第34回
12月のUTalkでは、ゲストに、ヒトの進化と適応について生物学的な視点で解き明かそうとしている米田穣さん(新領域創成科学研究科・准教授)をお迎えします。 研究室のテーマは「骨に聴け!」。何千年も前の人びとが何を食べ、どのような暮らしをしていたのかについて考えます。
12月11日のUTalkでは、新領域創成科学研究科・准教授の米田穣さんをゲストにお迎えし、「人は何を食べてきたのか:人骨の化学分析からわかること」と題し、骨の分析を通した人間の生活と適応についての研究のお話を伺いました。
今回のUTalkは米田さんがオーストラリアの海岸で拾った骨を見ることから始まりました。
手触りのよい白い骨はウミガメの肩の骨。ダイビングサークルに所属していた学生時代から骨を集めることが好きだったそうです。今日は、まず骨を触ることで、骨への親しみを感じてほしいとのこと。
骨を使った研究において、かつては発掘された骨の形を残すことが大切とされてきましたが、今では骨に含まれる成分を分析することも注目されるようになってきたとのこと。骨のタンパク質に含まれる炭素の同位体を測定をすることで、その骨の主が生前にどのようなものを食べていたのかががわかります。そこから当時の人の食事や生活、社会関係までをも解明していくことができるのだそうです。骨の炭素成分の研究が始まったのは1980年代以降で、まだまだ新しいものです。こうした生物学的視点からの分析は今までの考古学だけでは見えなかった、生態系の中での人間のあり方を明らかにします。研究には正解がなく、だからこそ「推理小説のようでおもしろい」と米田さんは語ります。
米田さんの最新の研究結果についても紹介がありました。縄文時代の人骨分析により、北海道では海獣を中心とした食生活、青森など東北地方では陸上の植物と魚を中心にした食生活、沖縄では魚や貝類中心とした食生活を送っていたことがわかりました。米田さんらはこの結果から、弥生時代に北海道や沖縄で農耕が発達しなかったのは気候だけが原因ではなく、元々植物を多く摂らない食生活だったため米が魅力的でなく、独自の食文化が発達したのではないかと提唱しています。また、乳幼児の骨を分析することで離乳の時期を明らかにし、弥生時代の人口増加と、農耕の普及により離乳食を作られるようになったことの関係を検証しています。人間は元来4~5歳までは授乳で栄養を摂取するはずですが、離乳食により授乳期間が短くなることで、母親は着床が可能となり早く次の子どもを生めるようになるとのことです。
米田さんは人類学を専攻し、様々な分野の人が集まる場であるフィールドワークの魅力に気づいたといいます。過去の人間の食生活を探る現在のテーマについても、「自分の研究だけでは語れない」と米田さん。考古学、人類学など他の分野の知見と組み合わせ新しい知見を加えることが大切だといいます。この分野においては、対象とする人間が生物学的・社会的・文化的といった複雑な側面を持つからこそ、学際的な研究が活きるのだとのこと。
参加者からも多くの質問があり、盛会となりました。参加者の皆さん、米田さん、ありがとうございました。