UTalk / 天文学者は高い山で何を考える?

本原 顕太郎

理学系研究科天文学教育研究センター・准教授

第33回

天文学者は高い山で何を考える?

11月は、宇宙初期の銀河形成進化をご専門とされ、現在南米チリの高山に新たな天文台を建設する、TAOプロジェクトに携わっておられる本原顕太郎さん(理学部天文学教育研究センター・准教授)にお越しいただきます。

 11月20日のUTalkでは、本原顕太郎さんをゲストにお迎えし、「天文学者は高い山で何を考える?」と題し、チリでの天文観測プロジェクトについてお話を伺いました。理学系研究科天文学教育研究センター准教授でおられる本原さんは、宇宙初期の銀河形成進化をご専門とされ、現在チリにある標高5640mのチャナントール山に新たな天文台を建設する東京大学アタカマ天文台(TAO)プロジェクトに携わっておられます。

 乾燥したチリ高山では、宇宙からの赤外線を吸収する水蒸気が大気中に少なく、赤外線を観測するのに適しているそうです。天文観測では、今赤外線での観測がメジャーとのこと。可視光線ではなく赤外線で見ることで、ダストに隠されている星の生成過程の観測も可能になります。また、望遠鏡から覗く宇宙は「過去のもの」ですが、より遠くを見ることでより過去にさかのぼり、銀河の形成と進化の過程まで観測できるようになるそうです。
 チリの高山での望遠鏡の建設と運用は決して楽なものではありません。年2回、4か月間におよぶ観測期間中、メンバーは町のホテルに宿泊し片道約2時間かけ山に向かいます。万が一の場合にも下山できるよう車は必ず2台出すそうです。山では医療用液体酸素のボンベをつけ、あかぎれ防止の手袋とマスクも欠かせません。気圧の違いもあり、「体力がないとできない」ものだと本原さんは話します。学生を連れて行っていますが、みんな「1回行けば十分」と言うそうです。電気、ガスもない環境ですが、今は観測隊で無線LANの構築を進めていて、近々遠隔観測を行えるようにするそうです。今回はマスク、酸素吸入用チューブ、手袋など観測に用いる道具の一部も本原さんにお持ちいただき、その雰囲気を感じることができました。
 2006年には、チャナントール山山頂へのアクセス道路が開設されました。2009年には山頂に設置された口径1メートルの赤外線望遠鏡で地上初の30ミクロンでの銀河系中心の観測が行われましたが、最終的には口径6.5メートルの大型赤外線望遠鏡を建設し、より精密な観測を目指しているそうです。
 写真やグラフを交えながら大変わかりやすくお話いただきました。お話の合間にも、参加者からのいくつもの質問が挙がりました。たとえば、「人工衛星を打ち上げて観測したらどうか?」という質問には、大きい人工衛星の打ち上げにはお金がかかるためなかなか難しいとお答えをいただき、NASAのプロジェクトの話にも花が咲きました。

 「同じ宇宙を対象としていても、さまざまなアプローチ・態度がある」という本原さん。研究活動と開発活動を活動の両輪とされている本原さんから、宇宙と、その謎に少しでも近づこうとする試みを身近に感じることができました。参加者の皆さん、本原さん、ありがとうございました。

[アシスタント:清宮涼]