工学系研究科・特任助教
第32回
現代は、人口減少、環境問題などを背景に、建設量が減少しています。そのような中、依頼を待つ受け身の設計ではなく、設計前の企画段階から提案 をする建築家が注目を集めています。「上流」にさかのぼる建築の可能性とは? 建築設計事務所も主宰する成瀬友梨さん(工学系研究科・特任助教)をゲストにお迎えし、チームプレーならではの建築の魅力や、建築と社会のつながりについてお話を伺います。
10月9日のUTalkには、成瀬友梨さんをゲストにお迎えし、「上流にさかのぼる:建築を通した社会とのつながり」をテーマに、建築の魅力や 建築と社会とのつながりについてお話を伺いました。成瀬さんは東京大学工学系研究科で特任助教をされており、建築設計事務所も主宰されています。
そんな成瀬さんのお話は、ある普通の集合住宅の依頼から始まります。
最初は様々な大きさの部屋がある住宅を提案したのですが、事業費の関係で予算を 減らす必要が出てしまい、同じような部屋の集合住宅を再提案したそうです。ところが、それでも事業収支が合わず、依頼先からは「やめます」と言われてしまいました。
ちょうど同じ頃、成瀬さんはシェアハウスという住み方があることを知り、キッチンやお風呂を減らすことができるなら費用が安くなるのではと思って、 集合住宅をシェアハウスとして設計をしなおし、事業収支があうことも確認したうえで、依頼者に41人で住むシェアハウスを提案したそうです。すると依頼先 の反応も良く、話が進むようになったそうです。
それからは、シェアハウスに違う人が41人も集まるとどうなるかを想像し、みんなで共有できる暮らしができるように吹き抜けのリビングやダイニングを作ったお話を、実際の図面やデザインを使いながら紹介して下さいました。
成瀬さんはこの成功の理由として、建物の表面的なデザインだけを考えるのではなく、その前段階の「住み方」を考えることが大事だったと説明して下さいまし た。成瀬さんは建築に4年ほど携わるうちに「建物は人の生活や社会と関わってしまう」ということに気づいたそうです。そして、それだけ建築には責任が出て くるし、同時にやりがいもあるということを話して下さいました。
今、大学で設計を教えられている成瀬さんは学生に、建築はどうやっても他の人とつながるということを伝えたいそうです。そして、自分の好きなことを形にするだけでなく、他の人とつながる中で生まれてくる建物を学生につくってほしいと考えていることを話して下さいました。
成瀬さんのお話の後は次々と質問が飛び交い、さらに面白いお話がどんどん出てきました。
例えば、「設計の段階で、この方針で大丈夫か悩んだ際にはど うするのですか?」という質問には、「1人だと全体が見えなくなるので、今は2人で設計しています。2人でディスカッションをすると違う考え方が入るし、 安全性に関してもよく考えられるようになりますしね。」と答えられたり、「設計をするときは、そこに住んでほしい人や景観を想定しているのですか?」とい う質問に対しては「ユニバーサルデザインも大事だと思うのですが、かなり具体的に住む人のことも想定して作っています。例えば、家族連れが多く住んでいる 地域の広場にあるベンチの設計をした時は、座った時にちょうど子ども目線になるようにと考えてベンチの高さを設計していました。」と答えられるやり取りも ありました。
また、今回のタイトルに含まれている「「上流」や「下流」、それから「さかのぼる」というのはどういう意味なのですか?」という質問に対して、成瀬 さんは「1950年代、60年代くらいは建築家が住み方も考えて設計していたのですが、現代では、建物のコンセプト、使われ方、時にはデザインの方向性ま で決まっており、建築家は末端のデザインをするという、「上流」と「下流」の関係になったのです。そこで、建築家はもう一度「上流」、つまり人の暮らし方 や建物の使われ方に積極的に関わり合えるようにしよう、といった意味を込めました。」と建築のこれからについて話し合うやり取りもありました。
UTalk終了後も、まだまだ話し足りないということで、参加者の方と成瀬さんの間で交流が活発に行われていました。素敵な設計のお話や建築の在り方について、とても面白い話ができた貴重な機会になりました。参加者のみなさん、成瀬さん、ありがとうございました。
[アシスタント:池尻 良平]