UTalk Report

遠藤 秀紀

東京大学総合研究博物館・教授

動物の死体と語る

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概要

動物はなぜ多様な形に進化してきたのか? その問いにこたえるため、比較生態学、進化生物学の視点から、動物の遺体に向かい合っている遠藤秀紀さん(東京大学総合研究博物館・教授)をゲストにお迎えします。 あるときは動物園で亡くなった動物遺体を解剖し、あるときは東南アジアの山奥で鶏を捕獲し調査する。目で見て手で触れて発見することが醍醐味だという比較形態学、遺体科学の研究生活についてお話いただきます。

 3月13日のUTalkでは、東京大学総合研究博物館教授の遠藤秀紀さんをゲストにお迎えしました。遠藤さんは比較生態学・遺体科学を解剖学と いう手法で研究されています。今回は、「目で見て、指で引っ張って、発見を生む」解剖学とはどういった学問なのかについてお話をいただきました。

 お話は、多くの「動物の死体」の写真と共に展開していきました。"死体"というと物々しく感じられるのかもしれません。しかし、遠藤さんはその一体 一体を名前で呼んでいるのが印象的で、全くそういった物々しさを感じさせませんでした。むしろ「これは多摩動物園のゾウのガチャコの写真で・・・」と、写 真の一枚一枚に思い入れを持って語る姿には深い愛情すら感じられました。
 「普通のサイエンスの場合はデータやコンピュータによって研究していくが、比較解剖学の場合は目で見て、指で引っ張ってみて、五感を使うことが大事」と語る遠藤さん。お話は19世紀のフランスの動物学者キュヴィエに及びました。彼の業績にインスピレーションを受けたとおっしゃっており、彼の残した 標本を見ると「次はあいつで研究してやろう」という思いが生まれてくるそうです。
 写真の展開とともに、お話は動物園のゾウへと移りました。「世界的な発見をすることを頭の片隅に入れつつも、見るべきは社会と個人だ」と遠藤さんは 語ります。一体のゾウの死の裏側には、何十年も愛情を持って育ててきた動物園の職員がおり、遺体解剖を行うことは非常に気持の絡む問題なのだそうです。ま た、解剖自体も人目につかないように場所を選んで行うのだそうです。実際にその動物と関わっている人たちの思い入れを無視して、「研究の合理化」として動 物園を研究機構の末端に組み込んでいくようなことは、するべきでないと遠藤さんは語ります。
 お話は、ラッコ、オオアリクイなど多岐にわたりました。身体の謎を解き明かすためには無制限・無目的の死体の収集が必要なのだそうです。また、死後 を扱うということでその手続きも状況もケースバイケースなのだそうです。例えば、ゾウ・クジラの場合は埋葬が必要であり、しかも運ぶのには建築重機が必要 だ、骨を作る際に肉をはぐのかも状況による、火山灰の土壌ではなかなか腐食が進まない、などの非常にリアルなお話をいただきました。
 事例は、ひとつひとつが具体的で、動物園の職員、猟師、市役所の職員など、そこに関わっている人たちが話に登場しました。「社会の人々と一緒に生きていたい。それでこそ発見がある」遠藤さんはそう語りました。
 最後に一枚の写真が提示されました。それには二つのものごとが対比されるように写っていました。一つはハンバーガーショップの「私たちの肉は安全 に生産されています」というキャッチコピー。そして、もう一つはイノシシの肉を焼いている場面でした。「最近のファストフードは死を拒否してしまってい る。せめて、教育くらいは生命と一緒に生きているという辛い現実も伝えるべきだ」。いくつもの動物の死に携わってきた、遠藤さんの思いが最後の写真には込 められていました。

 ここで遠藤さんのお話はいったん終わり、質問へと移り、盛り上がった雰囲気で進みました。「シーシェパードについて」「解剖のための道具」などの質 問が次々に上がいきました。なかでも「パンダの指は7本ある」という遠藤さんの発見についての話が印象的でした。通説であった、パンダの指は6本であると いう考えに対して、実際に目で見て、指で引っ張る中で違和感を覚えたのが発見のきっかけだったそうです。また、質問が実際の人たちとの関わり方に及んだ際 には、「やっぱり大学に死体は譲れません」とプロジェクトの途中で死体の提供を断られることがあっても、それは仕方ないことで全く構わない、と笑みを浮か べておっしゃっていました。その姿に、動物の死体を扱うという一風変わった研究をされている方だからこその、覚悟や懐の広さを感じました。
 
 今回の遠藤さんのお話を伺うことで、研究活動がとてもリアルなものになりました。本日は貴重なお話を下さった遠藤さん、参加者の皆様、本当にありがとうございました。

[アシスタント:平川裕也]

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