情報学環/薬学系研究科・准教授
第20回
みなさまの身の回りにあるお薬、あるいは名前を聞いたことのあるお薬、いったい何種類ぐらい思い当たるでしょうか?現在、医師から処方されたり薬局 で買い求めたりできるお薬の種類は30,000種にもなるそうです。みなさまの健康を守り、病気やケガを治すことができるお薬も、飲み方や組み合わせな ど、正しい使い方をしなければ、十分な効果がなかったり、場合によってはむしろ健康を損ねてしまうことすらあります。そうしたことを防ぐには、お薬につい ての正しい情報が広く知られることももちろんですが、間違いを起こしにくい、より使いやすいお薬に育てていくことも大切なのではないでしょうか。 10月のUTalkでは、お薬についての情報をまとめ、スムーズに流通させることで、お薬を「正しく使って上手に育てる」取り組みをしておられる、 堀里子さん(情報学環/薬学系研究科・准教授)に、お薬の情報学をめぐるお話をしていただきます。
10月のUTalkには、情報学環・薬学系研究科准教授の堀里子さんをお招きし、薬を「正しく使って上手に育てる」ための取り組みについてお話いただきました。
薬が私たちの手元に届くまでには、さまざまな研究と検証がなされます。堀さんは学生時代に薬学部に所属し、化学の目からミクロの構造を通して薬を生み出すという方法をとっていらっしゃいました。
情報学環に移られてからは「薬の情報学」といって、世の中に薬が送り出された後、どのようにしたら患者が薬を有効に使えるか、仕組みを考えるという活動をなさっています。
お話は「薬とは何か?」という質問から始まりました。
薬はモノ(化学物質)と情報から出来ています。化学物質を正しく使うためには、薬ごとに持つ情報を知る必要があると、堀さんはおっしゃいます。口から入る薬は、食べ物とは違い、においや見た目ではその効き目や強さを確認することができません。
「みなさんは薬の成分が痛みにすべて集まって作用するような錯覚がありませんか?」実は食道を通って胃から小腸に運ばれた薬は徐々に分解され、肝臓で解毒 されてしまったり、吸収されることなく体外へ排出されるなど、薬によっては1~2%しか体内に吸収されることがないのです、と堀さんが説明なさると参加者 は「なるほど」といった表情で聞き入っていました。
次に話題は医療現場で薬を正しく使うことが出来た例と、失敗した例に移りました。
成功例として紹介されたのは「アスピリン」です。解熱・鎮痛の効用以外にも、現場で使っていくうちに、少量であれば血栓の防止に役立つとわかったとのことです。失敗例としては、薬自身のリスクではなく、飲み合わせによって死亡例が出てしまった問題があげられました。
前半のお話を終え、会場からは「回避可能な薬の取り扱いトラブルは、行政が管理すべきなのに、なぜ大学が情報学として取り扱うのですか」という質問が出ました。これをきっかけに後半がスタートするのでした。
医療現場のミスには知識不足の場合と、システム上うっかり見落としてしまうことに原因がある場合に分けられるそうです。「薬の情報学」では、医療従事者のミスや、事故につながる一歩手前のエピソードを教材にして、繰り返さないためのしくみを模索しているとのこと。
その実践例として「internet based Pharmacist's Information Sharing System: i-PHISS、通称アイフィス」(http://www.dlmc.jp/iphiss/) という薬剤師のためのインターネットによる薬剤師間情報交換・研修システムコミュニティーサイトをご紹介くださいました。業務に追われて自分で詳しい情報 を調べることのできない現場薬剤師にかわって、大学の研究者が文献に当たり、実験をすることで連携を図っているというスタイルがわかります。
これに対して、会場からは、行政との連携をも求める声が飛び出しました。堀さんからは、現場から寄せられる事例が重篤でない限り、行政が直ちに強い措置を 取ることは難しい面もあるため、大学が判断の基準となりうる情報の評価をするという連携の取り方をご説明いただきました。
患者の生の声は作り手である製薬企業に届きにくい現状にあるので、大学がその橋渡しになることが今後の目標であるとして今回のUTalkは締めくくられました。
うっすら肌寒くなってきた秋の午後、薬という身近な情報のありかたをめぐって熱い話し合いの時間となることが出来ました。貴重なお話をしてくださった堀さん、参加者の皆様、本当にありがとうございました。
[アシスタント:帯刀菜奈]