工学系研究科・助教
第19回
地球温暖化問題や天然資源の価格高騰など、これからの社会がどのような方法でエネルギーをつくり、使っていくか、社会の関心が高まっています。その 結果、「新しいエネルギー源」への期待が今まで以上に高まっていますが、みなさまはどのようなエネルギーを思い浮かべるでしょうか? 太陽光発電、風力発電、燃料電池などは、ニュースなどで取り上げられることも多く、多くの方が普及を期待されているのではないかと思います。しかし、もう一つ。すでに数十年前から「夢のエネルギー」として期待されているエネルギーがあります。核融合技術です。 小さい頃に「地球に太陽を」という言葉を聞いたことがある方もおられるのではないでしょうか。長い時間とたくさんの資金を使いながら、なかなか実用化の声が聞こえない、という意見もあるでしょうが、その研究は地道に続けられています。 9月のUTalkでは、この「夢のエネルギー」、核融合技術の研究にたずさわっておられる小田卓司さん(工学系研究科・助教)にお話を伺います。
今回のUTalkでは、東京大学大学院工学系研究科助教の小田卓司さんをゲストにお迎えしました。小田さんは核融合に関連した材料について研究されています。今回は核融合というのはどういった現象なのかといったことや、その技術的な課題についてお話しいただきました。
大学入学当初は天文学を学びたかったという小田さん。お話は太陽から始まりました。核融合反応というのは、太陽が熱や光を出すときに起こっている反 応です。それと同じことを地球上で行おうというのが核融合だそうです。非常に高い密度と温度が必要なため、地球上では不安定とのこと。反面、核分裂と違 い、制御ができなくなれば自動的に反応が止まるため安全性は高いそうです。
未来のエネルギーとあって、参加者のみなさんから質問が相次ぎました。「夢のエネルギー核融合を実現するための具体的な課題はなんですか」という質 問には、プラズマを作る、安定させることが課題となっているとのお答え。プラズマを作るには大きな装置が必要です。そうした装置が今まではありませんでし た。そのため、プラズマに関する理解は進んでいってもなかなか実践ができないという状態にあったそうです。しかし、このたび、大規模な国際実験が行われる ことになったとのことです。
ここで、そもそもプラズマとは何か、というお話に移っていきました。プラズマは、電子と原子核が別れた状態のことで、蛍光灯やプラズマテレビも温度 の低い種類のプラズマだそうです。ここでまた質問が。「なぜ、核融合を人工的に作り出すときには太陽より高い温度で行うのか」というものです。太陽の中心 温度が数千万度に対して、作り出そうとしているプラズマは3億度と非常に高いものになっています。この質問には、密度を低くするため、というお答えをいた だきました。太陽ほどの高密度は人工的には作り出せないため、温度を上げることで比較的低密度でプラズマを作り出すことを試みているそうです。
次第にお話は専門にされている材料の方に向かっていきます。プラズマは非常に高温なため、接すると材料は溶けてしまいます。そこで、磁場を用いて閉 じ込め、材料に直接触れないようにしているそうです。ただ、それでも非常に高温と言うことで、それに耐えられる材料が必要とされています。あるいは、核融 合で作り出されたものを電気へと変換していくような材料の研究も必要です。核融合というと派手なプラズマの方に目が向きがちですが、実はそれを実用化する にあたって材料の研究と言うことがとても大切だということでした。
核融合の燃料は重水素やトリチウムといった水素の同位体で、リチウムなどから作れるそうです。リチウムは海水などからもとれるため、燃料はほぼ無 限。核融合の技術が完成すれば、エネルギー問題は解決するといってもよいそうです。ただし、最初の核融合炉ができるのは研究者の間では2070年と言われ ているそうで、まだまだ時間がかかるとのこと。では何を現実的な目標にしているのか、との質問には、実は核融合の実現がモチベーションではなく、単純に材 料中での水素の動きという自分の興味について研究することが楽しいのだとおっしゃっていました。また、現在の研究を生かす道として、核分裂の安定性を高め ることなどに応用できるそうです。
研究者一人一人の地道な研究が「夢の技術」へとつながっているのだと改めて感じました。本日は貴重なお話をくださった小田さん、参加者のみなさま、本当にありがとうございました。
[アシスタント:神足祐太郎]