UTalk / 中世人の肉声をきく

本郷 恵子

史料編纂所・准教授

第21回

中世人の肉声をきく

日常の手紙や文書を手がかりに

 現代に生きる私たちは、日常の連絡は電話やメールで済ませていることが多いかと思います。もちろん、今でも手紙や文書でやりとりをすることもありま すが、たとえば、鎌倉時代の人々は、私たちが電話やメールをするように、さまざまな日常の連絡を手紙や文書で取り交わしていました。そうした手紙や文書を 読み解いていくと、私たちがイメージするのとはちょっと違う、中世の社会の様子、人々の生活が見えてきます。その中には現代社会のさまざまな問題を考える ヒントも隠されているかもしれません。  11月のUTalkでは、中世の人びとの肉声に耳を傾け、その等身大の姿を捉える試みを続けておられる、本郷恵子さん(史料編纂所・准教授)にお話を伺います。

 今回のUTalkでは東京大学史料編纂所准教授の本郷恵子さんをゲストにお迎えし、中世の日常の手紙をもとに当時の人々の生活の様子についてお話しいただきました。

 元々テキストを読むのが好きだったという本郷さんは、世界的にも古文書の数が多い日本の中世史を研究されています。今回のUTalkでは、公的な古文書 ではなく、ちょっとした連絡や手続きのために書かれた「紙背文書」という、今で言うとチラシの裏のようなものを数枚用意して下さり、当時の肉声をみなさんにお届けする形になりました。
 例えば、現地の支配者によって不当に追い出された百姓の訴え状に対して、領主が「そいつの首を切るべし。さもなければ十五貫(今でいうと車一台分くらいの値段)の罰金を払いなさい」という意味の鎌倉時代の書き残しを紹介していただきました。当時はささいなことでもすぐに領地から追放したり、逆に命に関わるような判決が出されたりしていたのですよと話されると、参加者のみなさんは驚いたような表情をされていました。
 他にも、幕府への年貢を捻りだすために金融業者が各地にお金を借りに行くも、各地の金融業者も借金をしていて、結局お互いにお金を借りられなくなっている様子などが書かれた文書も見せて下さいました。当時の人々の首の回らないてんやわんやな状態を説明すると、気の毒だけれどもどこか滑稽なせいか、少し笑いも起きていました。
 こういう日常の文書を見ると、鎌倉時代では支配したり支配されたりの関係が上から下まで連鎖していたことや、最終的には弱い者に借金などのしわ寄せがきてしまう構造があったことを話していただいて、お話は終わりました。

 質問では、当時の利子などが聞かれました。本郷さんが、利子は大体月3%くらいであることや、当時は種籾を渡して作物として返してもらっていたこ とを話すと、今と比べてかなり高い利率であることに驚いたり、まだお金が浸透していない時の借金の仕組みに感心されたりしていました。
 また、今回の告知にあった「現代社会のさまざまな問題を考えるヒントになる」とはどういう意味ですかという質問に対し、本郷さんは「今とかなり違う社会 構造を知っていると、今の社会構造がダメだと思った時に、新しいものをイメージしやすくなると思うんです。結局今も鎌倉時代も狩猟採集時代のような社会構 造で苦しんでいるので、中世史を通してここから抜け出すヒントを見つけられたらいいなと思っています。」と言われて、みなさんが共感したところで今回はお 開きになりました。
 自分たち一般人とかけ離れた偉人のエピソードを知る歴史の時間も楽しいですが、昔の一般人の生活風景を知って、今の自分たちの生活風景と比べる歴史の時間も面白いなあと感じました。

 外は段々と寒くなってきましたが、とても温かみのある素敵な時間になりました。貴重なお話をしてくださった本郷さん、寒い中お越し下さった参加者の皆様、本当にありがとうございました。

[アシスタント:池尻良平]