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048:2011年度 第4回 2012年3月24日開催

特別セミナー ソーシャルラーニングとこれからの人財育成
講演
「先端人財育成モデルのイノベーション
~工業モデルの熟達者訓練、農業モデルのイノベーター育成~

  • BEAT 特別セミナー ソーシャルラーニングとこれからの人財育成
  • 講演「先端人財育成モデルのイノベーション ~工業モデルの熟達者訓練、農業モデルのイノベーター育成~」
妹尾堅一郎

1. イントロダクション:You & Fuji Xeroxの動画紹介

CMのあらすじ:
路上で見向きもされずに、ジャグリングをする男。彼は確かな技術を持っていながら、自分の価値を見出せないままに毎日を過ごしている。
ところが、ある日突然現れた子供が、ちょっとしたアイデアで、彼の人生を変えてしまう。前回、空高く飛んでいってしまった風船を取り戻したように、今回もパートナーの存在が「不可能」を「可能」へと導きます。力を合わせれば、きっと叶えられる。
あなたの「成功」が、私たちの目標です。信じられるパートナーになるために、富士ゼロックスの挑戦は続きます。パートナーがいれば、可能性は広がる。
Soluton for you

参照:富士ゼロックス企業広告 http://www.fujixerox.co.jp/company/ad/cm.html

「技術があっても社会的価値にならない」、これが日本の現状の縮図。日本は現在科学技術大国だと言われている。たしかに、ほとんどの科学技術はトップとまでは言わなくとも、ファイナリストのレベル。しかし、日本の産業競争力は、世界で30位近くに落ちてしまった。天下のパナソニック、ソニー、シャープ、3社合わせて1兆数千億円の赤字。日本が今まで培ってきた原動力がここまで崩壊してきている。日本は特許件数を見ても知恵も豊富で、優れた科学技術は多くあるのだが、なぜ産業がだめになってしまったのか。「知を活かす知恵」の開発が遅れたからではないか。先ほどのCMの「Xeroxくん」が存在しないからではないか。いくら優れた技術を持った「ジャグラー」を多く育てても、社会的価値には繋がらない。そこで「イノベーションを仕掛ける人財」が重要となってくる。しかし「イノベーション」と聞くと、多くの人は「発明家」をイメージする。そうではなく、発明を社会の価値つなげる、あるいは発明を産業競争力に転化する人材を育てる必要がある。 先ほどの山内先生の「65%小学生は現在存在しない職業につく」という話は象徴的。身近に見れば、明治維新の頃、90%以上は農民だった人々が、様々な新しい職業に就いたのと同じようなことが起こり始めているのである。

2.「3.11」の経験から

2.1. ニーズ社会からリスク社会への移行

ソーシャルラーニングとこれからの人財育成 現代の社会は【モノ・エネルギー・情報】に依存するDIME(Dependent on Information, Materials and Energy)社会。私たちは震災で、物・エネルギー・情報がなくなる世界を経験した。

ニーズとは、需要や欲求というより、むしろ欠乏・不足と訳す。第二次世界大戦後の日本は欠乏・不足感にあふれていたが(「顕在化したニーズ」)、そこにモノを供給することによって高度成長が生まれた。60年代後半から70年代には高度成長により、その欠乏・不足感が隠れたので、企業は「潜在化したニーズ」を調べ、そこにモノやサービスを提供した。80年代のバブル期には欠乏感をあおる「ニーズの喚起」がなされた。そして90年代のバブル崩壊とともに、私たちはモノの欠乏ではなく、「今あるモノを失いたくない」という社会に入っていった。これがニーズ社会からリスク社会への転換である。リスク社会での象徴的な出来事といえば、95年の阪神淡路大震災とサリン事件。それが世界的にピークとなったのは2001年の「9.11」。今ないモノのためではなく、「今あるモノをなくさないため」にお金を使うようになった。そして10年後に「3.11」を経験し、我々はそれを実感している。
3.11のようなことが起こったときに対応の迅速性を求めるだけでなく、生活や仕事を継続させるためにライフ・コンティニュイティー・プラン(LCP)が必要であり、そうした事前準備の必要な世界へ突入する。教育もまたLCP、ラーニング・コンティニュイティー・プランすなわち学習継続性を担保するようにすべきである。また、情報技術を使えば、東北と九州の子どもたちを繋いでリアルタイムで授業をすることは可能。しかし、「技術」はあるのに、そのようなことは行われていない。私もコンピュータ利用教育学会(CIEC)の会長として反省し、実施できるよう進めていきたい。

2.2. リスク社会におけるデジタルメディアの活用

我々は生活・業務そして学びを継続できるようなデジタルメディア活用を本当に教えていただろうか。3.11当時、電話やメールが使えなかったが、SNSが役立った。デジタルメディア活用というと技術的操作的な教育(メディア・オペレーショナリティ)を考えがちだが、生活基盤としてメディアを活用するメディア・リテラシー教育が必要。
ただし、3.11以降、誰もがテレビに張り付いていたように、一方でオールドメディアも活躍していたということも忘れてはならない。どちらが良いという話でなく、Old mediaとNew media、Personal mediaとPublic mediaをどう使い分けるか、どう使いこなすかが重要であり、オペレーショナリティ教育もリテラシー教育も必要である。コンピュータ利用については、まず生活の確保をどうするかが第一であるが、そこにコンピュータ利用教育の焦点をもう一度合わせ直したい。

3.「教育」を根源から考え直す

3.1.「教育」とは、「学習者」の創造:気づき・学び・考える力

妹尾堅一郎 学生は知識の貯金箱ではない。私たちはつい「知識」を貯金箱に放り込み、6割貯まれば“C”、7割貯まれば“B”、8割以上が“A”という評価をしてきた。問題はその貯金されたものをいかに社会的価値に繋げられるか、ではないか。「学びにワクワクし、学び続ける人」をいかに育てるかが重要。
「イノベーション人財を育成したい」ということを言われる。「先端領域を体系的に学びたい」とよく頼まれるが、体系化されていないから先端領域であって、体系化されたらそれは先端領域とは呼ばない。つまり、概念矛盾。体系立てられていないような混沌とした知の世界を自ら体系化させられるような人財をどう育てるかという問題。「皆と同じことがいえるか」だけでなく、「他と違うことが言えるか」も重要だ。それが教育の要諦。とすると、従来の教育方法論で良いのだろうか。

3.2. 教育・学習モデルを変える

基本的な教育・学習モデルとして、(1)知識伝授(教える、教わる):確かめられ、体系立てられた、知識を、順序だてて、受講生へ教える教育から、(2)学習支援(学ぶ、たすける)、(3)互学互習(学び合い、教え合う)の3段階ある。この3段階の学びが、LPP(正統的周辺参加)から、オープンエデュケーション、ソーシャルラーニング、ゲーミフィケーションなどまで繋がってくる。

3.3. 授業法の多様化

従来からある授業法として、講義、セミナー、ワークショップ・演習、ドリル、ロールプレイメソッド、ケースメソッド、プロジェクトメソッドなどがあるが、新しいスタイルとして、我々もコンセプト・フレームワークメソッド、エディトリアルメソッド、リカーシブメソッド等を開発して提供している。

4.「人財育成」と「イノベーション」

4.1. 人財育成の難しさ

「じんざい」の五段活用:

  • 人在:いるだけの人
  • 人材:材料としての人
  • 人財:価値を生み出す人
  • 人罪:いると困る人
  • 人済:もう終わってしまった人

「3K分野」という呼び方がある。広告、観光/企画、教育だ。これらの分野については、誰でも何かを言えて、言いたがる人が多い。素人談義、お茶の間談義、居酒屋談義がはびこっている。一般の人々の意見は重要だが、他の分野で著名だというだけで、教育のイロハを学んでもいない人の意見が政策でまかり通るのだろうか。教育関係者はもっと奮起して良いのではないか。

4.2. 人財育成の方法と観点

妹尾堅一郎 一般的な人財育成の方法として、(1)「職場の業務」「家庭の生活」による育成、(2)「交流」による育成、(3)「教育(授業)」による育成、の3つに大別できる。
人財育成の観点として、既存モデルの量的拡大を意味する「成長(Growth) 」と、新規モデルへの不連続的移行を意味する「発展(development)」 の違いを意識する必要があり、人財育成を行う際に、どちらの観点でみるかが重要。日本は、それぞれの分野において、そこが成長段階か発展段階かの見極めを上手にできていない。これがイノベーションと非常に関係している。

4.3. イノベーションとインプルーブメント

「Innovation(創新)」とは、新規性・進歩性を志向し、有効性を生み出す。画期的な新モデルを作り(創出)、既存モデルから移行させること(普及・定着)。すなわちモデル創新。他方、「Improvement(改善)」とは、効能性・効率性を志向し、生産性を高める。これは既存モデルを磨き上げていくこと(モデル錬磨)。たとえば、黒電話をいくら改善しても携帯電話にならない。新しいモデルは全て外からやってくる。外からのモデルに凌駕されたくなければ、自らが変わることが必要。自らのモデルを変えられる人財をどうすれば育成できるのか。

学生に説明するときの例を紹介しよう。PlayStation3はこれまでの既存モデルを磨き上げたもので、これまではゲームのやり過ぎで健康面を心配されていたはずなのに、健康のためにWii(Wii Fit)で遊ぶようになった。更に、今はソーシャルゲームに変化した。

コンピュータもハードウェア中心の時代から、ネットワーク中心の時代に変わった。スタンドアローンのワープロからパソコンに移り、周辺機器がネットワーク化された。機器中心の時代だ。そのPC中心もスマートフォン中心へと変化したが、デジタルハブとして中心はクラウドへと移行中だ。今や機器は端末として周辺に位置する。

「イノベーション」とは、社会・産業・生活等の「価値システム」の基本モデルを大きく変えることで、インベンション(発明)でもインプルーブメント(改善)でもない。「モデルを変える」とは、杉の苗木が杉の木に育つような「成長」モデルから、オタマジャクシがカエルに変わるような「発展」モデルに自ら変われるかということが問われている。

4.4. 先端人財育成とは

妹尾堅一郎 皆と同じことが言える「既存モデルの熟達者」育成ではなく、他と違うことがいえる「モデル創新型人財」の育成が求められる。イノベーション人財育成のイメージは、稲育成・稲刈りから開墾である。私が東京大学イノベーションマネジメントスクール(TIMS)や一橋大学のHMBAで授業する時の第一声は「教えない」。教えようとすると、学生はノートを取って覚えようとする。覚えようとすると考えなくなる。そのため、授業の形態は、いわゆる「講義」は最小限で、「グループワーク」、「クラスセッション」を主体にしている。講義は考えるための素材提供である。大部分の知識は自学自習すれば良い。事前学習は大前提であり、個人ワークやグループワークはクラス外で行う。クラス貢献が重要で、有言は「金」、無言は「無能」。

新しいことをするには、「教わって、覚える」のではダメで、自ら「気づき、学び、考える」ことが重要。調べつくし、考えぬき、紡ぎ出すプロセスを体験すること。TIMSで強調したことは、ビジネスモデル、つまり定石を学び、定石を超えろ、ということ。方法論的には、仮説検証(調査分析)ではなく、探索学習を奨励する。議論は「まとめるな、整理しろ」と言っている。PDCAサイクルを強調しすぎると、その副作用として、PDCAを回せるものしか回さなくなる。安直な思考で結果を出そうとしがちになることを戒めなければならない。

4.5. 先端領域とは

先端領域とは、混沌領域、融合領域、非体系領域。知の新領域の創出のためには、アドバンスト(専門知)、インター(学際知)、ニッチ(間隙知)、フュージョン(融合知)、トランス(横断知)、メタ(上位知)といった知の領域を意識すべき。先端的融合領域に取り組むためには、まず状況を認識し、イシューを整理すること。先端的融合領域(未開拓領域)とは、知が体系化されていない領域。

4.6. 先端人財の教育:人材育成の方法論的基盤

工業モデルにおいては、標準化や単位化、品質管理の発想が主体。他方、農業モデルでは、対象は自ら育つので、環境(風土)整備を行う発想となる。私たちの現在の教育モデルは19世紀の工業モデルが支配しており、標準化=学習指導要領、単位化が行われてきた。これからは、既存領域の熟達者訓練優先の発想だけでなく、新規領域の創造的開発者育成が急務。先端領域の人財には、知を学ぶ力、知を創る力、知を活かす力、知をつなぐ力が求められ、技術人財・活用人財・事業人財の並行的育成が必要。

4.7. 教育的イノベーションに向けて

妹尾堅一郎 「メディアと学び」の関係の変容と多様化しており、従来発想の電子書籍(教科書)から、電子教材(学習材)として捉え直していくことや、産業論(デバイスからクラウドまで)、文化論(活字文化の意味)、教育論(知識伝授から互学互習へ)といった観点からの議論を進めていく必要があり、これからさらに、「オープンエデュケーション」、「ゲーミフィケーション」、それに本セミナーのテーマである「ソーシャルラーニング」といった考え方が重要になってくる。現在のモデルを常に批判的に捉え直し、モデル創新を行うこと。そのモデル創新を行うこと自体をデフォルトとしたメタモデルをいかに構築するかが問われてくる。

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