Twitterをはじめとするソーシャルメディアは、人と人のつながりを変えることによって社会的なイノベーションの契機になります。このような社会を開拓していくのは、追求する課題を発見し、人的ネットワークを活かしながら、プロジェクトを遂行していく「自律的人材」です。
今回のBEAT Seminarでは、BEAT第2期(2007-2009)の成果を総括した上で、BEAT第3期(2010-2012)の研究テーマに関連して、ソーシャルメディアの登場による社会の変化と、それに対応した自律的人材の育成について議論を深めます。
「conomi+」とは、協調フィルタリングというアルゴリズムを使用した英語学習支援システムである。学習者が授業外に利用することを想定している。
大学生の英語学習時間が少ないという現状から、授業外に英語を学習する時間を増やす必要があると指摘されている。これに対し、eラーニングの導入が進んでいるが、画一化された教材配信をせざるを得ない状況がある。そこで、「conomi+」では、各個人に適した学習方法を提案するシステムの開発を目的とし、協調フィルタリングによって、嗜好が似ている人の好む物を推薦するという仕組みを利用している。「conomi+」が目指しているのは、学校外でできる気軽な学びと学校での学びの接続である。
原理 | 各学習者の興味・関心の強さを予測し、その程度が高いニュースを推薦する |
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学習者の語彙学習レベルに合わせた支援をする | |
理論 | 学習者の特徴と与えられる環境との交互作用により能力が向上するのが望ましいとする考え方:適性処遇交互作用(Cronbach 1967) |
学習者の背景知識や興味がある教材により、理解が深まり、言語学習が促進されるという考え方:背景知識の活性化と関連性(村野井2006) | |
機能 | 評価機能:ニュースに対する興味関心の評価ができる |
単語意味表示機能:事前に登録された学習者の単語レベルより少し高いレベルの単語が表示される | |
線引き機能:文章や単語にマーカーでチェックすることができる |
形成的評価により、以下のような推薦アルゴリズムの効果はある程度示すことができた。
しかし、以下の2点が課題として残った。
そこで、新たな協調フィルタリングのアルゴリズムとして、クライアントであるAさんに対して、嗜好がよく似ているBさんだけでなく、Bさんを媒介にAさんと嗜好がある程度似ているCさんの好みも反映されるようなものを提案した。
推薦アルゴリズムの違いが英語学習時間の効果に与える影響を検討するために、従来のアルゴリズム「GroupLens」(詳しくは2008年度成果報告を参照)と新規アルゴリズムの比較実験を行った。システムの運用期間は、2009年10月12日から12月22日までの約2カ月半であった。実験の詳細を以下に示す。
対象 | 複数の大学に所属する学部1~4年生および大学院修士課程の学生 ※学習の動機づけや学習時間に与える影響は検証しない |
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方法 | 従来のアルゴリズム「GroupLens」(対照群)と、新規アルゴリズム(実験群)の2条件を設けた |
アルゴリズム以外の他要因は確率的に統制をし、学習者を2群にランダムに振り分けた | |
手続き | 10月20日~11月1日:「GroupLens」運用期間-すべての学習者が同一システムを使用した |
11月2日~11月29日:2条件分割期間-対照群と実験群に分かれてシステムを使用した | |
11月30日~12月6日:事後データ収集期間 | |
12月7日~12月22日:自由学習期間 |
事前・事後のテストデータおよび質問票データが揃っていた116名のうち、事前に行ったJACET8000単語テスト80問のうち正解数50問以下(全体平均+1SD未満)の学生を分析の対象とした。その理由は、最初の段階で単語力の高い人に対する推薦アルゴリズムの効果は小さいと考えられたからである。実験結果の分析には、対照群45名(男性15名、女性30名)と、実験群53名(男性15名、女性38名)の計98名のデータを用いた。
本研究により、学習するための道具としてのインタフェースが同じでも、推薦アルゴリズムによって学習の質が変化することが示された。
新規アルゴリズムの効果として、以下のように考えられる。
今後は、さらに学習にとっての「最適化」を探求した推薦アルゴリズムの実装化が求められる。
10年後の2020年に当たり前になっていることは何か。そのなかで我々が生み出し得る付加価値は何か。
インターネットに接続することが目的ではなく、みんながつながっていることが前提となる社会においては、イノベーションの中心が社会変革に移行し、基盤型ではなく媒介型の技術が核を担うようになっていくだろうと予測している。それに伴い、iPadのような端末が学習デバイスの第3の選択肢として浮上し、1人1台の時代も訪れるかもしれない。「知識の流通」と「人とのつながり」、この2つが変革の鍵になると考えている。
情報化の進展により、今までつながらなかったような人々がつながり、あらゆる領域で変革が起こるだろう。
例えば、途上国の起業家と先進国の出資者をつなぐKivaという活動がある。出資者は25ドルからの小口融資が可能で、起業家による返済率は97%と高いのが特徴である。これまでに52万人以上の人が参加し、8000万ドルの融資実績を上げている。このような試みは、貧困対策の社会的イノベーションとして価値あるものと捉えている。
学習の領域で変革を起こすためには、前提となる社会の状況を考える必要がある。雇用の流動化が進み、非正社員が常態となる時代が訪れるならば、正社員を目標にせず、キャリアをつないで仕事をする自律的人材が鍵となるだろう。
以下のような要素が企業的活動を牽引する自律的人材に重要だと考えている。
教育において、「なぜ学ばなければいけないのか」という問いは有名なアポリアである。年を重ねることで、経験から答えを導き出せるようになるものの、その解は他者とはうまく共有できない。ばらばらな知を串刺しにするためには、大学生は知識を、社会人は学ぶ目的を高校生に与えることで、高校生の学びを大学生と社会人が支えるようなInnovative Learning Networkが重要になるだろう。
高い動機を持つ自律的な学習者を養成するためには、大学生と社会人に共通して必要となる内容を、英語や国語、数学などの教科から抽出することが求められる。そして、問題演習とファシリテータによる支援を中心とした「基礎学習」と、ファシリテータを中心にグループで活動する「プロジェクト学習」とを組み合わせることが効果的なのではなないかと考える。
人材を求める企業と就職を見据える大学、日本を学ぶ中国人と中国語を学ぶ日本人、といった異質なネットワークをつなぐ学習環境の構築が求められるようになるだろう。
多くの人に学習を引き起こすためには、Innovative Learning Networkの在り方を考える必要がある。研究のポイントは以下のような点に絞られるだろう。