東京大学大学院 情報学環 ベネッセ先端教育技術学講座(BEAT)では、携帯電話などのモバイル・ユビキタス技術と学習と結びつけ、新しい利用法を探るプロジェクト研究を展開してきました。
今回は、BEATの3年にわたる研究をご理解いただくことを目的とした研究成果報告会です。特に、2006年度に展開されたプロジェクト「なりきりEnglish!」と「学習ナビ」については、今回初めての成果報告となります。
「おやこde食育」プロジェクトは、株式会社エヌ・ティ・ティ・ドコモと株式会社ベネッセコーポレーションが主催、イオン北戸田ショッピングセンターと総務省ユビキタスラーニング推進協議会、BEATの協力によって行われた、親子でケータイを使った「食」に関する教育の実証実験である。
総務省では、ユビキタスラーニング共通基盤の開発を2005年度から2カ年で実施しており、実用化に向けた実証実験を行いたいというニーズがあった。一方、BEATには「おやこdeサイエンス」の研究成果を活かして、携帯電話を使った新たな学びを検証したいというニーズがあった。そこで、親子にとって身近な「食」をテーマとした本イベントを合同で企画した。
今回は、ユビキタスラーニング共通基盤についてNTTドコモの川上氏に、実証実験実施と結果について、ベネッセコーポレーションの中野氏より報告する。
「ユビキタスラーニング共通基盤」とは、簡単に説明すると、携帯電話とPCの双方から、教材や学習履歴を共有してシームレスに学習できる、携帯電話に対応したeラーニング環境のことである。総務省委託事業「平成18年度ユビキタスラーニング基盤の開発・実証実験」として、NTTドコモがPC向けeラーニングコンテンツの標準的技術である「SCORM」と互換性のある携帯電話向けeラーニングコンテンツの技術仕様策定を行い、この実証実験として「おやこde食育」を行った。
日本でも食育基本法が施行され、親御さんたちは食育が大切だと言うことはわかっている。しかし、何をしたら食育になるのか、正しい知識が自分にはあるのかという疑問や、教育的なものを毎日するというのは大変であるという考えを持っている人が多い。
ベネッセでは「ボンメルシィ!」という食をテーマにした雑誌を発行しており、その制作を通して家庭には食育に関する様々な課題が存在していることを認識していた。
「おやこde食育」のねらいは、親子で「本物」の野菜にふれる機会を提供することである。これが携帯電話によって可能になるということがポイントである。
保護者に対しては、食育を行う方法を教授し食育が日常化すること、子どもに対しては、野菜や食生活に対する関心を高め、自分自身の食について考える力を身につけることをねらっている。
学習の流れは、
という順番に進む。
事前学習では、講演と全体クイズを通して、野菜の栄養や、食生活についての正しい知識を身につけてもらう。
続く体験学習では、ユビキタスラーニング共通基盤を使って、「野菜クイズラリー」に取り組む。ラリーは、本物の野菜を手に取りながら、野菜に取り付けたQRコードを読み込んでクイズに回答する仕組みになっている。クイズの詳細な解説および保護者の関与を促進するためのアイデアを掲載した冊子も同時に配布し、親子の学習活動を活性化した。
事後学習では、家庭のPCを使ってサイトにアクセスすると、イベントの全内容が確認できる。イベント時のクイズの学習履歴がわかるので復習ができる。
ショッピングモールに買い物に来た普通の家族連れを対象に、その場で参加者を募集した。1回あたり保護者と子供のペア20組を定員とし、4回行った。年齢・性別の制限は設けなかった。端末はドコモの903iシリーズを1ペアにつき1台貸し出した。
「野菜クイズラリー」では、システムは安定して稼働し、低年齢の子供でも問題なく利用できた。参加者の満足度は、子どものためになると答えた方が96%、今回のイベントで、別の内容があったら是非参加してみたいと答えた方が94%と、非常に好意的な結果が得られた。 1週間後に保護者アンケートを行った結果、フリーアンサーには
というポジティブな意見が多数あがっており、「親子で食育」の日常化、定着を示唆している。
また、食育というテーマは、一般を対象として訴求力があるテーマであることを確認した。加えて、就学前の子どもでも問題なく活動ができ、携帯電話を使った学習が、多様なコンテンツに展開できることを確認した。
フリーアンサーにあったネガティブな結果は
といったものである。これらは今後イベントオペレーション、コンテンツユーザビリティの改善によって解決していきたい。
また、PCなどの他のメディアとの連携を強化し、携帯電話を、日常の中に起こる学びを促進する道具と位置づけ、ユビキタス学習環境へと育てていきたいと考えている。