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008:2004年度 第8回 2005年3月5日開催

姿をあらわしはじめた新しい学習テクノロジー 世界最先端の現場から
モバイルする学習環境 MoovieとSavannah

  • 姿をあらわしはじめた新しい学習テクノロジー 世界最先端の現場から モバイルする学習環境 MoovieとSavannah

0. 趣旨説明

“NESTA Futurelab
http://www.futurelab.org.uk/
NESTA Futurelabは、イギリス政府が資金を投資し、モバイルデバイスなどを利用した新しい学習環境の構築を行うために作られた組織です。NESTA Futurelabには、世界トップクラスの科学教材制作力を持つと言われるBBCのノウハウやコンテンツが生かされています。今回は、研究員のベン・ウィリアムソンさんをお迎えし、代表的なプロジェクトの報告をしていただきました。

1. Futurelabとは

“ベン・ウィリアムソン NESTA Futurelabはイギリスの教育省が出資し、デジタルの教育資源を使い、未来の教育のプロトタイプを研究するために作った組織である。教育省の他に、マイクロソフトやBBCも出資している。
研究は必ずFuturelab単独ではなく、個人や組織と組んで行われる。個人では、教員、教育学の研究者、他の分野で具体的なノウハウを持っている研究者がパートナーとしてあげられる。また組織としては、クリエイティブな能力、特殊な技術を持った産業界のさまざまな組織があげられる。そして何より大切なパートナーはその教育を受ける側である、若者や子どもたちである。
また、プロトタイプの研究の他に、教育または教育に関する新技術についての最新の研究内容・評論情報を出版すること、そして、毎年国内で国際会議を開くことも、主な仕事である。

2. 研究対象

私たちが現在関心を持っている研究内容は、以下の4つである。

クリエイティビティ

“ベン・ウィリアムソン イマジネーション、オリジナリティ、目的意識を持って価値判断をする、といった能力を指す。オリジナリティといっても、全く新しい物を発明・発見するというわけではなく、様々なアイデアをこれまでと違った側面から捉え、自分の目的に合わせた組み合わせの方法を考えるということである。あくまで自分にとってのオリジナリティを指す。

コラボレーション

“ベン・ウィリアムソン クリエイティビティを外側に向け、様々な意見を交換・評価し、自分と他者の知識を共有することを指す。コラボレーションによって、全てのメンバーが、個別の時とは違ったかたちで、物事の理解を深めることができる。

ヴィジュアル・リテラシー

ヴィジュアル・リテラシーは、様々な映像について、子どもたちが内省・考察し、批判的に受け止めることができる能力である。こうした訓練を積むことによって、周囲の映像を受けるだけではなく、能動的に創りだす能力を身につけることを期待している。つまり、メディアについて、批判的な精神を持って理解し、なおかつそれらを使って、コミュニケートできる能力である。

テレビゲーム

一般にテレビゲームには、内容は決して簡単ではないが、子どもたちが夢中に取り組むという特徴がある。このような特徴を学校教育に取り込みたいと考えている。自分の能力で難しいことにチャレンジすることに、子どもたちが楽しみを見出せるようなテレビゲームタイプの教材を作ろうとしている。既にオンラインのゲームでは、そこに上級者から初心者までが存在しており、彼らが互いにサポートし合える空間が提供されている。子どもたちはこのゲームの中でキャラクターを演じることにより、個々にストーリーを作り上げる。ここで興味深いのは、子どもたちは単に操作を行うプレーヤーとしてではなく、プロデューサーとして全体のストーリーを作る側にまわっている点である。

3. プロジェクト事例紹介

先にあげた4つのテーマをもとに展開しているプロジェクトを紹介する。

Moovl

“Moovl Moovlは、スクリーンに絵を描くとそれに対して、重みや反発力、空気抵抗、固さといった物理特性にもとづいた、アニメーションを作成することができるペイント(お絵描き)アプリケーションである。対象年齢は5才から10才である。
このツールで、子どもたちに日々経験している物事を描かせることにより、重みや反発力といった物理特性の意味を考えさせることができる。子どもたちが描いた物は、ネットワークで共有することができる。これによって子どもたちはコラボレーションを行うことができる。
40人の子どもにテストした結果、子どもたちはある動的な現象をよりよく理解することができた。そして物理特性の変数を変えることによって、物がどのような性質を持っているかの理解を促すことができた。そして何より重要なのは、紙などのメディアに描いた場合、たいていの場合は描いたままにされてしまうが、Moovlの場合は、描いた後も子どもたちは再び遊んだり、内容を再構成したり、友達に見せたりするといった行動をし、理解をより深いものとしていることである。

Virtual Puppeteers

“Virtual Puppeteers スクリーン上で、仮想の粘土を使いカラフルな人形を作成し、動かしてアニメーション(人形劇)を作ることができるアプリケーションである。作った仮想の人形が動くステージはオンラインで共有されており、ネットワーク上で人形劇をすることができる。この人形劇は記録をすることができ、後で見直したり、再編集することができる。対象年齢は7才から12才である。
子どもたちはもともと頭の中にすばらしいストーリーを持っているが、文章に書いたり絵を描いたりすることができずに、それがフラストレーションとなっていることが多い。ヴィジュアルを子ども自身が簡単に作れるような仕掛けを提供することで、子どもたちが自ら欲しているキャラクターはどのようなものかを深く考え、よりしっかりしたものを描き、それに感情移入するようになった。また、常に誰かとコラボレーションをすることで、ストーリーを共有し共創するので、再検討する機会が設けられ、よりよい人形劇を作ることができるようになった。

Savannah

“Savannah Savannah は、GPSを搭載したPDAを用いて、ヴァーチャルにアフリカの環境におかれている経験をすることができる体験型シミュレーションゲームシステムである。子どもたちは、ライオンの群れの一員になったという想定で、音や風景、または自分の縄張りの範囲といった情報が提示される。そこで、自分の縄張りを守るために戦ったり、においをかいで獲物を捕らえたり、子育てをしなくてはならない。これは、10才から13才を対象としている。
この体験をすることにより、様々なことにトライアルすることになる。体験終了後、「巣」に戻る。巣では、ホワイトボードや書籍、WEBを用いて、群での行動を通して、行動自体がうまくいっていたか、または互いに協力できたかなどを反省し、今後の計画を練ることができる。子どもたちは、Savannahにテレビゲームと同様に夢中になって取り組み、ライオンの群れの性質に対してより深い理解をすることができた。子どもたちは、テレビから同じ情報を得るときよりも、記憶に鮮明に残っているとコメントしている。3時間ほどで、子どもたちが戦略を練るのがうまくなっていくのを、はっきりと見ることができた。同時に、以前の経験にもとづき、今後の計画を立てることもできるようになっていた。

Racing Academy

“Racing Academy このレーシングゲームは、大変リアルなエンジンのシミュレーターを内包している。対年齢は14才から18才である。学生たちは、エンジンの特性、タイアの種類、ギア比を変更しながら、レーシングカーを速く走らせなければならない。レース後、自己分析をし、速く走らせるためにはどうしたらいいかを検討する。このプロセスを繰り返すことにより、学生たちは、工学的な原則を身につけながら、それを活用することができるようになっていった。
このゲームを通じて学生たちは、現場のエンジニアが開発の現場において行っているような試行錯誤をした。レベルが上がるごとに分析すべき内容が、ギア比の調整など複雑なものになっていく。そのようなレベルになると、学生たちは、真剣に自動車の仕組みについて考えるようになり、オンラインでのチャットを通じて、情報交換をし、パラメーターの値の意味などの情報交換をしはじめた。

4. まとめ

ヴィジュアル・リテラシーに着目した学習について

“モバイルする学習環境 MoovieとSavannah MoovlやVirtual Puppeteersは、文字やことばだけではなく、日常の様々なリソースを使って考えるツールである。これまでは、アイデアを文章で書いたり話したりしていたが、これらのツールによってそれらをより直感的なかたちで記録できるようになった。つまり、絵や映像などの視覚的な言語で、自分たちの経験を描き出すことを可能にしている。
そこでは、いったん描いた物を消したり変更したりできるので、プロセス自体がとてもクリエイティブであって、オリジナリティを持った物を制作することができる。自分のアイデアをいじって遊ぶことができ、最初に思いついた物を描いただけでそれで終わりというわけではなく、不満な点があればすぐに改善することができる。このような特徴が既存の学習方法とは違っている点である。

テレビゲームに着目した学習について

ライオンやエンジニアのつもりで、その人であればそのことをしただろう、ということを考える経験が重要なポイントである。また、ゲームを通して身につけた知識は、他の方法で身につけた知識のように後で役に立つかもしれない、といったものではなく、その場ですぐに活用しなければならないように設計されている。これはコラボレーションを行っているからこその特徴である。このような学習は、社会的な学習であると私たちは考えている。

今回ご紹介いただいた様々な学習ツールには、子どもが夢中になり、知識を得て、共有し、すぐに活用するといったことをさせるための様々な工夫が盛り込まれていました。先生から生徒に一方的に知識を伝達するこれまでの教育とは異なり、子ども達同士が共同で様々なことを発見していくというスタイルは、伝統的な教育を受けてきた私たちにとって大変うらやましい環境であると感じました。

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