http://evangelion.mit.edu/802TEAL3D/
大学に入学したばかりの大学1年生が受講する初等物理の必修授業。かつてMITでは、数百名を対象にした一斉講義で、この授業を行っていました。しかし、数年前、この大教室講義を見直す動きがはじまりました。初等物理のクラスルームにテクノロジーを導入し、また教授法も協調学習を中心にすえたものに大幅に見直すことが試みられたのです。
彼らは新しい物理教室をStudio Physicsとよんでいます。そして、このStudio Physicsを実践、運営、研究するのがTEAL(Technology Enabled Active Learning)プロジェクトです。センベン=リャオ博士は、このプロジェクトの運営・研究を担当するひとりです。本講演では、TEALプロジェクトの全体像、導入されたテクノロジーの紹介、Studio Physicsの学習の実際、その学習効果などについて解説していただきました。
物理学の教育方法として一般的な大型教室での講義は、100年前と現代を比較してもそのスタイルはあまり変わっていない。私が10年間の教員生活を続けてわかったことは、学生のやる気がなく予習をしてこない、知識がどのような意味を持つのかを充分に認識していない、抽象的で複雑な数式を理解できない、物理学の概念の可視化が困難である、出席率が低いということである。
教員は成績が悪いと学生を責めがちではあるが、そもそも授業のフォーマットにも問題がある。物理の講義は大人数で行われ、質問を受ける時間がない、口頭による質問をしても質問を受ける側のTAの能力が不足している、そして実験と講義の内容が必ずしも一致していないといった問題がある。
21世紀の学生として必要な資質は、デジタル・リテラシー、分析能力・問題解決能力、コミュニケーション能力、批判的な眼である。これらを満たすために必要なことは以下にあげられる。
また、以下のことを、念頭に置くべきである。
以上のような教育の様々な課題に対して、私たちはTEALというプロジェクトを開始した。
「Technology Enabled Active Learning(テクノロジーで可能になる能動的な学習)」
TEALは、講義、口頭試問、実験を統合し、テクノロジー的にもコラボレーション的にも豊かな環境を提供する。
また、TEALの教室はとても特徴的である。
物理学はそもそもも実験科学であるが、MITではこれまで実験は軽視されていた。TEALでは実験を中心に扱うため、カリキュラムに13の実験を組み込んだ。最初に理論を講義し、その後、それを確かめるための実験を行う。実験は主に各テーブルで行える簡単な物で構成されているが、教師が大規模な実験を行うこともある。実験を組み込むことによって、通常の授業より活発な学生の行動が認められる。
実際の実験を学生に見せた後、3Dアニメーションやアプレットを用いて、見えない磁気や電波などの要素を可視化し再現する。このような可視化は、方程式など抽象的な概念の理解を促すことができ、世界的に評価されている。また可視化したものを見せ合うことにより、学生同士が互いに学び合うことができる。
PRSは、学生が授業にどのように参加しているかをモニターするための装置である。教師が出した質問に対して、学生個人がPRSで選択肢を選び回答する。教師は正答率などの情報を見ることができる。成績がよくない場合は次のトピックに進むのを中止するなどの措置がとられる。
PRSの重要性は能動的な学習のプロセスの促進にある。まずは質問に対してPRSで回答をさせる。自分の回答と他学生の回答が異なっていたら、なぜそのような回答なのかディスカッションをさせ、再度PRSを使って回答させる。このようにして、学生同士の相互作用を高める役割を担う。
実際の講義が始まる前に、シンプルな質問を投げかける。講義開始前にある程度の内容を理解させ、授業時間を最大限活用するためである。形式は自由回答で電子提出、提出期限は講義が始まる午前9時前までとなっている。これは教師にとっては、学生がどのような点で混乱するのかを理解でき、講義の進め方の参考にすることができる。
金曜日には問題解決のセクションがある。ワシントン大学での「Tutorials in Introductory Physics」と似ているものである。ここでは問題解決能力に重点が置かれる。協力的な学習が行われ、努力に応じて成績がつけられる。
TEALと伝統的教育の比較調査のため、授業の前後に25問のテストを行った。授業前のテストは各授業の初日に行われ、成績は3レベルに分けられる。授業内でのグループは各レベルの学生が均等になるように形成される。そして、授業後に再度テストを行った。
授業の前後にどれだけ成績が向上したかを評価した結果、TEALの方が伝統的な教育より、学生の成績が向上していることが示された。
どちらの授業がよかったかを口頭で調査した結果、もっとも重要なものは講義と答える学生が一番多いが、次いでテクノロジーが重要であると答えた学生が多かった。
なぜTEALがより効果的なのか。それは、まずは理論を学習し、次いで実際に学習した現象について実験を行う。そして、実際の実験に基づいたバーチャルなシミュレーションを加える。最後に再び理論に戻り、実際の現象とバーチャルな現象を連結させる。このプロセスの結果、授業で一方的に講義するより、TEALの方が効果的な教育方法であるといえる。
TEALの実現には、広大なスペース、高価なマルチメディア機材、より多くのスタッフが必要である。それに加えて、このインタラクション環境を実現するためには教える側にもスキルが求められるため、トレーニングが必要である。この方法には、教員の熱意と学生への積極的なコミットメントが必要である。またITに強くなることも求められる。そして、教員自身が学生にTEALの効果を理解させなければならない。
また学生には、予習をすること、コラボレーションを学ぶこと、問題解決を学ぶこと、実験を行って理論を確認することがどれだけ重要であるかを理解すること、物理学のトピックを理解することはどのような成果を得られるかを理解することが求められる。
以下にあげる点から、TEALは21世紀の学生を育てるために最適な教育法であると結論づけられる。
TEALでもまた、NESTA Futurelabの例と同様に、教師による一方的な知識伝達ではなく、学生が能動的に学習をすることを最大の目的としています。自分で体験し、そしてそれを可視化するといったプロセスは、物理学だけではなく、様々な概念を理解するための方法として今後定着していくのではないかと考えます。また、パーソナル・レスポンス・システムのような教室内でのコミュニーションをテクノロジーで支援する部分に、ケータイ技術を導入する可能性を感じます。