UTalk / 歌舞伎町で「地域」を捉えなおす

武岡暢

人文社会研究科 助教

第125回

歌舞伎町で「地域」を捉えなおす

8月のUTalkは、都市社会学を専門とされている武岡暢さん(人文社会研究科 社会文化研究専攻 社会学専門分野 助教)をお迎えします。ふだん私たちは「地域」を「住民」や「自治体」から構成されるものと考えがちですが、武岡さんによる新宿歌舞伎町のフィールドワークからは、人が入れ替わり立ち替わり「活動」を展開する空間としての地域の姿が見えてきます。「地域」を捉える視点のアップデートに向けて。みなさまのご参加をお待ちしています。

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2018年8月のUTalkは、武岡暢さん(人文社会研究科 社会文化研究専攻 社会学専門分野 助教)にお越しいただきました。武岡さんは都市社会学の観点から、新宿歌舞伎町のフィールドワークをされています

歌舞伎町の一般的なイメージと言えば、町中に張り巡らされた路地に、風変わりな店が次々と連なる不思議な歓楽街でしょうか。夜になると、会社帰りのサラリーマンたちが店を探しにやってきて、奥へ奥へと入っていく。いかがわしいイメージもあるかもしれません。

そんな歌舞伎町で参与観察を行われてきた武岡さんは、歌舞伎町をひとつの「地域社会」と捉えたときに、その特徴を「整序されずに流動する細分性の集積」(著書『生き延びる都市――新宿歌舞伎町の社会学』より)と形容されています。

いわゆる「住民」が定住している「地域」と比べて、歌舞伎町は様々な人が短いスパンで出入りを繰り返しています。一見、無秩序に見えるかもしれません。ですが、きれいさっぱりとはしていなくても、歌舞伎町には歌舞伎町なりの「地域」の保ち方があります。

例えば、「歌舞伎町商店街振興組合」の下部組織「よくしよう委員会」は、月2回自由参加の定例会での意見交換を通じ、行政と民間(店舗)のあいだで歌舞伎町ならではのまちづくりを目指しています。これは暴力団の影響力を減少させるための自浄組織ともいえます。商店主たちにとって、歌舞伎町の熱気を保ちながらも、危険なイメージは変えていくべきものかもしれません。

その一方で、歌舞伎町に出入りする水商売のブローカーたちも、「地域」を危険にしようと思っているわけではありません。彼らも安定して稼がねばならないのです。そのために、働き手となる女性を見つけ、店にちゃんと紹介し勤めてもらうための「ルール」を持っていたりします。

「まち」「地域」「都市」…私たちは人が集まる場所について様々な言葉を持っていますが、歌舞伎町を通して見えてくるのは、動き続けるものとしての地域の姿です。そこに住んでいるわけではないけれども、でもその地域を保ち続けている人たちが見えてくる。歌舞伎町を学問することの意味を考えさせられました。

武岡さん、参加者のみなさま、ありがとうございました。

[アシスタント:東野美夢]