UTalk / 西洋建築再利用の歴史を探る

加藤耕一

工学系研究科建築学専攻 准教授

第101回

西洋建築再利用の歴史を探る

8月のUTalkは工学系研究科、建築学専攻の准教授、加藤耕一さんをお迎えします。立派な建物を造っても、時代とともにそれが不要になることも。ヨーロッパではコロセウムやローマ神殿はじめ、利用されなくなった歴史的建造物を他の用途に使い、大切にしてきた歴史があります。歴史ある建物を壊してしまうのでも、文化財的に保存するだけでもなく、市民に開かれた場として再利用するにはどうしたらいいのでしょう?加藤先生のお話を聞きながらカフェで考えてみませんか。 みなさまのご参加をお待ちしております。

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2016年8月6日のUTalkは、加藤耕一さん(工学系研究科建築学専攻 准教授)をお迎えして行われました。加藤さんは歴史上の魅力ある建築を主に、西洋建築史・近代建築史・建築理論の面から研究されています。今日は実際に西洋建築でよく行われる手法である、「再利用」をテーマにお話を伺いました。

2020年の東京オリンピック開催に備えて、新国立競技場の設立を巡って抗争が起こったのは記憶に新しいかと思います。結果として、「奇抜なデザインの建物は費用がかかる」として新たな建設計画は立ち消えてしまったのですが、加藤さんはその議論に「再利用」の考えが反映されていればまた違った事態の展開があったのではないかと予測しておられます。

そもそも、建築には3つの考え方「再開発」・「再利用」・「文化財」というものがあるのだそうです。「再開発」とは「建物を取り壊して新たな物を建造する」こと、「再利用」とは「元々あった建物を利用する」こと(具体例として、古代ローマのコロッセウムが中世に軍事要塞への転用されたこと)、「文化財」とは「建物をそのまま文化的遺産として保存する」こと(UNESCOの世界遺産などが該当する)です。この3つの考え方はそれぞれ別の時期に発達したもので、「再利用」は古代、「再開発」は16世紀のヨーロッパ、「文化財」は19世紀のイギリス・フランスで起こりました。

加藤さんは、日本では「再開発」と「文化財」の考え方は根付いていたものの、「再利用」という概念が乏しかったのではないかと指摘しておられます。全面修復か公共財産の保存としてしか手段が無かったのです。当初は国立競技場を再利用するという提案もあったのだそうですが、議論のうちに失われてしまったとのことでした。興味深かったのは、それとは対照的に、イギリスのサッカーグループ・アーセナルの競技場がマンションとして「再利用」され、多くのサッカーファンが居住するようになっているという事例でした。

また、参加者の方からは「再開発」より「再利用」の方が一貫したプランで建築計画を進められないため、コストがかかるのではないか?という疑問がありました。これに対して加藤さんは、日本の建築物は西洋と比較して木造のものが多く、却って増改築がしやすい構造であったと答えられておりました。他にも、すでにある建築物に手を加えるか否かという点において「文化財」と「再利用」はしばしば対立するが、どう調整していくのか?という問いも上がっており、加藤さんは世界遺産のようにその文化財の数が増えすぎても価値が下がり、また維持費用がかかるため慎重に検討すべきであると答えられておりました。

その後も、実際に日本で「再利用」を進めていくためにはどうすべきか?について、刺激的な議論が続きました。私自身、今まで「建築」という単語を聞くと、つい「新しいビル群の計画」を連想してしまっていたことに気づき、そのような無意識に行ってしまう判断を自己批判的に見直す必要があると感じました。加藤さん、参加者の皆様、ありがとうございました。

【アシスタント:小寺はるか】