UTalk / アートの営み≒研究の営み

横地 早和子

教育学研究科・特任助教

第40回

アートの営み≒研究の営み

アートと研究の営みが似ているってホント!? 実は結構似ているんです。アートはわかりにくいですよね。そう、研究もわかりにくい。アーティストは神秘的な感じがしますし、研究者も難しいことを考えていそうで近寄りがたいですよね。あら、意外と似てるかも... 7月のUTalkでは、 横地早和子さん(教育学研究科・特任助教)をゲストにお迎えします。 現代アーティストへのインタビューから見えてくる、アーティストと研究者の意外な共通性についてお話ししてみたいと思います。

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 7月のUTalkでは、教育学研究科で特任助教を務めていらっしゃる横地早和子さんをお迎えしました。夏場は涼しい店内での開催です。

 横地さんは教育心理学の分野から芸術家と呼ばれる人々について研究されていて、これまでに数人の芸術家に密着して実際の制作の様子を観察したり作った際の心境をインタビューしたりしてきたそうです。実家が造園業で庭を造作する人々を間近で見て育ってきたこともあり、ものづくりをする人への興味が高じて今の研究をしているそうです。そして今回は「アート」の営みと「研究」の営みは似ているというお話をしていただきました。
 当初は友禅染めや水墨画といった伝統的なアートを営む方、それも60~70代の方に密着して研究を行って来ました。今では20~30代といった若手の現代美術家を対象に、「どういうことを考えて作品を作っているか」という芸術家自身の考えと、そしてその考えの変遷に着目して研究を行っているとのことです。この「考えの変遷」は、今回の本題である「アート」の営みと「研究」の営みが似ているという話につながっていきます。
 
 ここで横地さんから参加者にいくつか問いかけました。
「『美術』に対してみなさんはどんなイメージをもっていますか?とくに『現代アート』について。」
「『研究者』に対してみなさんはどんなイメージをもっていますか?」
「『美術家』に対してみなさんはどんなイメージをもっていますか?」

 こんな問いかけをした後、横地さんは芸術家と研究者の間にある次のような共通点を挙げました。
・ひらめき(インスピレーション)が必要
・変わり者
・社会への影響力 特にメディアに露出している人達(思想的に独自の何かを持っている人たち)
・天才肌 クリエイティブな能力に長けている
 そして冒頭に話されていた「考えの変遷」についても、美術家の熟達に照らし合わせるとよく似ているという話をされました。
美術家は20~30代で作品を作るに連れて考え(コンセプト)が変わっていき、それに伴って用いるモチーフも変わっていくそうです。特に最初の考えの変化は、既存の作品に沿った作り方が誰かの「モノマネ」だと感じてしまうようになって満足を得られなくなるため、考えに変化が訪れるのだと語ります。「自分は何を作りたいのか」と自問自答していく中で作品を作り続け、やがて独自のコンセプトを見出していくそうです。
 研究者も同様で、院生くらいまでは与えられた条件で研究を行い、そのなかで学ぶべきもの・研究手法を取り入れて学びます。初めからいきなり新しいテーマを研究できるわけではありません。そして大学務め、自分の研究室をもつようになってからやっと独自の研究テーマを持って研究します。そこで「自分は何を研究したいのか」という問いが生まれていくそうです。

 このように芸術家と研究者は「考えの変遷」に焦点を当てるとよく似ていることがわかります。しかし両者で大きく異なるのは、美術家は「作品」という形で考えの変化が外に表れやすいのに対して、研究者は「論文」という形で考えを表すため中身をよく見ないとわからないということです。
 芸術家と研究者、両者に共通する「熟達」のプロセスはもしかしたら他の職業に通ずるものもあるかもしれないと横地さんは話します。それは人間の変化、特に成人以降の変化に普遍的な何かがあるのかもしれません。

 時間もオーバーするほど熱く語ってくださいました。そのためか質疑応答も中身の濃い質問が出ました。
 「変化」は「熟達」なのか、という問いに対しては、「創造的破壊」という言葉を挙げて、変化も熟達の一つであると答えます。は何がきっかけで起こるのかはわかりませんが、一度作ったものを壊してそこから何かを見出して新しいものを作る「創造的破壊」は芸術家の内面的な変化をもたらし、結果的に作風に影響します。しかしインタビューした中ではそういったケースはあまり多くないそうです。モチーフが大きく変わりすぎると同じ作家として認識されなくなるおそれもあるからだそうです。
 アートとして「残る物」と「残らない物」があるのはなぜか、という質問に対しては、作品に対する評価が時間の経過と共に変わるからであると話します。熟達した芸術家の中には若い頃の作品を見せたがらない人もいるそうです。しかし横地さんは「若い頃には若い頃の、熟達した後では熟達した後の良さがある」と話します。有名な作家が傑作を残したのは、数多の作品のうち優れたものだけが傑作として残っているからだという説もあるそうです。
 芸術家にとっての人付き合いについても質問が出ました。芸術家は単独で仕事をするのではなく、どんな人とどう手をつないで作品を世に出していくかということについて長けていることも必要です。研究でも似たようなことで、自分だけに見えている「向こう側」にたどり着くためにどんな方法を使うかということに長けていなければならないのではないか。大学では造作や研究方法のテクニックしか教わりません。誰と付き合っていくかは非常に重要であり、後で形として残るものだと横地さんは語ります。

 今回は社会人の参加者が多く見受けられました。横地さんは本題に入る前に「自分のことに引きつけて聞いていただき、いろいろな人生経験をしている人にとっても興味を持っていただければ。」と話されていました。UTalkの時間が終わってもカフェの外で参加者と横地さんの会話は盛り上がっていました。は芸術家の営みは研究者だけでなく様々な仕事に通ずるものがあるのかもしれません。とても興味深いお話を伺うことができました。横地さん、お集まりいただいたみなさま、ありがとうございました。

[アシスタント:市原大輝]