UTalk / 建築と都市のデリバリー

太田 浩史

生産技術研究所・講師

第28回

建築と都市のデリバリー

6月のUTalkでは、ゲストに、都市再生学の研究、建築設計、東京ピクニッククラブなど、多彩な活動を展開されている太田浩史さん(生産技術研究所・講師)をお招きします。 公共空間はどのようにすれば驚きや喜びに満ちたものとして再生されるのでしょうか?建築と都市が使い手に送り届けられていくプロセス=「デリバリー」に込められたアイデアとは?世界各地の先進的な事例をご紹介いただきつつ、太田さんの研究・設計・プロジェクトに通底する問題関心に迫ってみたいと思います。

 6月のUTalkでは「建築と都市のデリバリー」をテーマに、生産技術研究所・講師の太田浩史さんをゲストにお迎えしました。
 
 お話は都市とピクニックの二本柱でした。都市については、太田さんの経歴も織り交ぜながら、風景が人に何を届けるのかについて説明して下さいました。ピクニックについては太田さんが主催されている「東京ピクニッククラブ」の活動紹介が中心でした。

 太田さんが建築に興味を持ったきっかけとなるイベントは、1988年、学部2年の時の駒場祭でした。駒場祭委員を務め、駒場キャンパス1号館にアドバルーンを上げ、ライトアップすると試みを通し、「風景を変える仕事は面白い」と思ったそうです。
 太田さんはその後建築学科に進み、都市再生について研究しました。研究のために年間20回のペースで海外旅行をし、世界中の様々な都市を回ったそうです。メキシコでは壁に多種多様な色を塗っているため、日が沈むころになるととりどりの色が「踊りだす」ように見えること、地下道を整備して美術館にしたところ、犯罪が激減したことなど、都市や風景は人々の心を変えられる、ということを説明して下さいました。
 
 都市再生・風景についての話が一通り終わると、太田さんが主宰する「東京ピクニッククラブ」の話に移りました。東京ピクニッククラブは、2002年にピクニック発祥200年を記念して結成され、東京の公園を活動拠点に、「社交」としての現代的なピクニックを提案している団体です。
 お話の中心は「ピクノポリス」というイベントについてでした。これはピクニックの本家であるイギリスで開かれたもので、26mの固定「マザープレイン(飛行機の形をしたピクニック用のマット)」と、200体のエアマット製の巡回「ベビープレイン」を両市内の10カ所を巡らせて、10日間毎日ピクニックをする、という企画です。近くのパブやレストランと提携して、テイクアウト用のオリジナルメニューも出してもらったそうです。ピクニックの様子を写したたくさんの写真と、太田さんが実際に使っているトランク型のピクニックセットを見せて下さり、楽しさがこちらにまで伝わってきました。

 日本における建築はまだまだ「ハード」「ハコモノ」というイメージが先行しています。しかし、建築や都市が作り出す「風景」が人々に届けるもの、例えば「街に灯りがつくとほっとするなあ」と感じたりすることは、非常にソフトでプライベートなものだ、ということに気づかされました。
 
 お話の後の質疑応答の時間では、パブリックアート、情報メディアと都市の関係など、非常に多岐にわたる質問をいただきました。その中でも特に印象に残ったのは、「ソーシャルメディア、スマートフォン、ARなどの情報技術の発達によって、都市は劇的に変わるのでしょうか。」という質問です。太田さんは「案外、それほど変わらないと思います。例えば渋谷の巨大スクリーンも、全員が見ているわけではありません。どれだけ最先端の技術を使うかというよりは、どれだけ風景を変えることで人の心に何かを伝えるか、ということが大事だと思います」とおっしゃいました。
 当日は爽やかな陽気で、そのままピクニックに行きたくなるような和気あいあいとした雰囲気でした。太田さん、参加者のみなさん、ありがとうございました。

[アシスタント:三ヶ島ちひろ]