情報学環/社会科学研究所・准教授
第23回
新聞やテレビで、私たちはよく、政治についての「世論調査」の結果を目にします。内閣や政党の支持率や、大きなテーマについての賛成・反対の意見などが数字で表されています。 では、世論調査は実際にはどのように行われているのでしょうか?なぜ実施する会社や団体によって結果が異なるのでしょうか?結局、その「数字」は何を意味しているのでしょうか? 1月のUTalkでは、世論調査などの「数字」と政治の関係を読み解く研究を続けておられる、前田幸男さん(情報学環/社会科学研究所・准教授)に、先日の「政権交代」を主な題材にしてお話を伺います。
1月のUTalkでは東京大学大学院情報学環/社会科学研究所の前田幸男さんをゲストにお迎えし、世論調査などの「数字」と政治の関係についてお話しいただきました。
当初は法律家を志して法学部に入学したものの、法学よりも政治学に興味の中心を移された前田さん。当初は日本文化論のような観点など、思想的に政 治を論じるものに興味の中心がありましたが、突飛なまでの発想力が時に必要なことから、数字という確実な根拠を使う統計的な研究の道へ進まれたとのことで した。
そして、そうした統計的な研究のうちの一つである、新聞の世論調査を使った研究のお話へと進んでいきます。日本で政治意識の統計的な研究を行っている人 のうち、新聞の世論調査を用いた研究を行っている人は前田さんを除いてはいません。新聞社が原票を使わせてくれないために、そのデータが魅力的ではないと いうことがその主な原因だということです。
しかし、前田さんは、その研究を行っています。なぜでしょうか。
あるとき、前田さんは、新聞社に勤める友人から、世論調査の詳細な集計を渡され、解説記 事を書いてくれるように頼まれたそうです。しかし、時は小泉郵政総選挙。「民主党にも勝機はある」と指摘した解説記事は「外れて」しまいました。そこで、 悔しく思った前田さんは徹底的にデータを洗いなおしたところ、「刺客」が話題になったところで世論の潮目が変わったようだ、ということがわかったそうです。その後、他社の集計も手に入れて整理するようになり、研究を発展させました。
前田さんは、世論調査を見る際に「比較」が重要だと言います。一回だけの調査の結果を見て、その数字が多いか、少ないか、どのような意味があるか憶測しても、実際にはほとんど何もわからないのです。時系列や、年齢層などを使って、比較をしなければ数字の意味を知ることはできないということでした。しかも、数字は調査の方法や会社、言葉のわずかな違いでも変わってくることにも注意が必要とのことでした。
最後に、具体的なグラフを見ながら、内閣支持率と政党支持率の特徴について教えていただきました。内閣支持率は、大きな事件などのインパクトはありますが、国会の会期に合わせて変動するということです。国会会期中は野党の激しい批判で支持率を落とし、サミットなどのイベントがあれば支持率は上がります。 次に政党支持率。「政党支持率が高ければ選挙に勝つ」と思いがちですが、実際には「選挙に勝つと支持率が上がる」という傾向が強いとのこと。野党の政策は選挙前にならないとマス・メディアに反映されないし、有権者もいざ選挙が近づいたところで、実際にどの党に投票するかを真剣に決めるからだそうです。
常識を覆すようなお話に、参加者からの質問も相次ぎました。「地域による比較はできないのか」「世論調査をやって回答者は嘘をついたりしないのか「世論 調査をしすぎるのはよくないのでは」「調査する第三者機関を設置できないのか」などなど、多くの質問にわかりやすいたとえ話を交えながら答えていた前田さんが印象的でした。
データを使って常識を覆す面白みが感じられた一時でした。前田さん、参加者の皆様、ありがとうございました。
[アシスタント:神足祐太郎]