工学系研究科・准教授
第15回
人類は二足歩行をするようになって、「手」の自由を得ました。体を支え、移動するための「前足」ではなくなり、さまざまな機能を発達させてきたのです。 では、私たちは「手」でいったいどれだけたくさんのことをしているのでしょうか?もし今日、突然、昨日まで自由に使っていた「手」を失ったとしたら、いったいどのような「不便」に直面するのでしょうか? 5月のUTalkでは、「環境に適応する義手」の開発に取り組んでおられる、横井浩史さん(工学系研究科・准教授)に、「手」のもっているさまざまな機能と人間の「知能」との関わりをめぐるお話をしていただきます。
5月9日のゲストは、工学系研究科精密機械工学・准教授の横井浩史さんにお越しいただきました。横井さんの研究室では、福祉機器開発の一環として義手の開発に取り組んでいらっしゃいます。
今回は自分の意図通りに動かせる義手、触った感覚が返ってくる義手、サイボーグ技術として広く知られるようになった最新の情報処理技術やロボット工学の技術を利用して人の手指の機能の再建を目指した研究についてお話いただきました。
横井さんのテーブルには手袋をはめた筋電義手が置かれており、参加者は本物の義手を前に興味津々の様子です。お話は、私たちが普段あまり意識せずに 使っている手を観察するところから始まりました。横井さんから結婚指輪を手の指にはめることを指摘され、手は使うだけではなく、人と人とをつなげる器官で もあるということを皆で再認識しました。
そして指で掴む、滑らす、操る、はじく・・・など複雑な動きをするために、手には36本もの筋肉が備わっていると教えていただきました。手は脳で考 えたことを体現できる唯一の器官なのです。5本すべての指を完全に自由に動かせる義手を作るためにはそれぞれの筋電をはかる必要がありますが、現在は人差 し指と中指、薬指と小指の識別は難しく、それらは2本ずつ動くようにしているそうです。参加者は横井さんの説明の動作にあわせ、手をグーパーさせたり、 コップを持つ指の動きを確認しながら話を聞いていました。
50年前には「握る」と「開く」しかできなかった義手も、現在の技術では「手でからだの重みを支える」「持ったものを離さない」「摘む」「持ったも のを道具として使う」など日常の手の役割をかなりの範囲(文字を書く等に至るまで)で可能にしていると、実際に筋電義手をみんなで触りながら教えていただ きました。将来的には神経が切断してしまったり、筋肉が衰えてしまった人のために、筋電義手だけでなく、脳の生体信号から直感的操作が実現されるような義 手の開発研究を進めているとのこと。
そのあと「個性適応機能を有する動作識別法」という映像を皆で観ました。コンピューターに「この信号が伝達されたら握ろうとしている」等行動を符号 で学習させることで複雑な動きを実現させる様子が映し出されていました。横井さんがどんな機能を備えた手が優秀かは決めがたいと話されたことに対し、「本 当に義手には5本指が精密に動く必要があるのか」など参加者から質問が出ました。
本物の義手あり、写真あり、映像ありで情報満載の充実したひと時となりました。
日差しのふりそそぐ気持ちのよい昼下がり、最先端のお話をしてくださった横井さん、そして参加してくださった皆様、ありがとうございました。
[アシスタント:帯刀菜奈]