韓国ではすでに7万5千人を越えるユーザーが携帯でモバイル放送を利用しており、教育放送も視聴できるようになっています。今回のセミナーでは、モバイル放送のもう一つの先進地域であるヨーロッパの現状と教育利用の展望について、スカンジナビア諸国(デンマーク・ノルウェー・スウェーデン・フィンランド)の放送局のスタッフからお話を伺いました。
さらに、ヨーロッパの現状と課題にとどまらず、日本の現状と今後、およびモバイル放送の教育利用の有効なモデルについて議論がされました。
まずは、各国のパネラーの方々からそれぞれの国でのモバイル放送事情についてプレゼンテーションをしていただきました。
子どもたちはこれまで、何世代にも渡り親の後を着いてきた。しかし、今はそのような時代ではなくなってきている。私は教師生活の後、教育放送で30年間働いてきた。その間、教育の現場は様変わりした。以前は「どのように教えるか?」が重要であったが、現代は「どのように学習するか?」が問題になっている。
子どもに学習環境を与えるのが教師の義務である。近年、学習のための新しいツールが登場した。コンピュータと携帯電話である。また、ここ15年間でもっとも発展した技術は通信技術である。北欧の99%の若者は携帯電話を所有しており、それを使い関係を保っている。携帯電話はもはや、ステータスシンボルではなく、生活の必需品となっている。携帯電話のメモリーに入っているかいないかで、知り合いか、そうでないかが決まる。若者はメモリーにどの人を追加してどの人を削除するのか、また学校の先生を入れるべきかそうでないかで悩む。若者たちは単に「デジタルオタク」なわけではなく、若者たちにとってデジタル技術がもたらすメリットが大切なのだ。デジタルツールは友達づきあいをするための必需品となっている。
携帯電話は、仕事や待ち合わせの時間に柔軟性をもたせ、計画を最後の1秒でも変更できる可能性をもたらした。しかし、反対に携帯電話に行動をコントロールされていると思う若者も現れ始めた。携帯電話に相手が出ないとナーバスになる人も増えている。15年前は問題があるときに電話をしたが、今日では電話に出ないと問題であると考えられている。このような結果が示唆することは、若者はプロダクトそのものよりもプロセスに関心を持っているということである。
デンマークにおける教育放送の原則は、「学ばなくてはいけないことを楽しく学ばせること」、「教えることより学ばせ、学ぶ能力を身につけさせること」、そして彼らが「自ら責任を持って学べるようにすること」である。番組は基本的にはプロジェクトベースであるが、個人向けのコンテンツも提供している。
我々は50年代からテレビ番組を提供してきたが、90年代に入って新たなメディアが登場し、今はWEBとテレビを関連づけたコンテンツを提供している。デンマーク政府に支援されており、25のテーマでそれぞれ50項目以上、15,000を超えるビデオを含んだマルチメディア・コンテンツを生徒の学習のため、または指導する先生のために提供しており、テーマから好きな物を選んで見ることができる。また、エージェントによる検索も可能である。これらは有料で学校に提供される。このアーカイブはまだ携帯電話向けに最適化されていないが、今後はこれらを携帯電話向けに提供し、宿題などのニーズに応える可能性がある。
また、別の機能として、公開されているメディアに加えて、PDAでサンプリングしたメディアを取り込み、それらの映像や音声を編集する機能がある。それによって、教材を自由に作ることができる。さらに、コミュニティ機能によって、参加者同士がコンピュータや携帯電話を使ってコミュニケーションをとることができる。コミュニティは20万人ほど参加しており、同様の物の中では最大級だろう。我々はメディアを提供するだけでなく、学校にもあるような学習者同士のコミュニケーションが重要であると考えている。
フィンランドの状況は、前の2人の発表と似ている。携帯電話はほぼ100%の普及率を誇っており、SMSは1日20億件やりとりされていると言われているが、まだ教育に関する取組みは少ない。そのような中、言語教育に携帯電話を取り入れ、端末で動画を見ながら日常会話の表現を学ぶことができるものが登場した。
また、日本のモバイル放送と似たもので、「Mobile TV」のパイロットテストが端末メーカー、メディア提供会社、放送局を取り込んで行われている。3ヶ月にわたり500人のテストユーザーを集め、消費者はモバイル放送についてどのような考えを持っているのか、製造・電装など技術的課題は何か、ビジネスモデルとしてどのようなものが必要なのか、そしてどのような規制が必要なのかを見極めた。結果として挙がったものは、
といったことである。将来に向けては言語や科学、歴史、文化といった学習コンテンツを提供していきたい。これらは短時間での視聴に適していると考えられる。
ノルウェーの公共放送では、近年、教育部門を廃止した。これは大変良い結果をもたらした。その結果、教育番組をゴールデンタイムに放送することが可能となり、視聴率が上がった。
ユーザーに対して、モバイルサービスの啓蒙が必要だと考えており、何ができるようになるのか、どう使うのかを伝える必要がある。その実践として啓蒙のためのTVコマーシャルを放映している。調査によると、8%の人が既存のテレビより、携帯端末でのテレビの視聴をのぞんでいるという結果が出た。また、イギリスのガーディアン紙によると、イギリスの25から34才の人の30%はテレビ以外、たとえばコンピュータや携帯端末などでのテレビ番組の視聴の経験があると答えた。
そして、我々はモバイル放送について、誰が、何を、どこで、いつ視聴しているかなどを詳細に得ることができるので、ユーザーが求めているコンテンツを的確に提供することができる。また、テレビの利用はゴールデンタイムに、ラジオの利用は日中にといったようにメディアには利用される時間帯に偏りがあるが、携帯電話はそれらに比べて幅広い時間帯で利用されていることが確認できる。
これらには、モバイル放送に対する潜在的なニーズの存在が確認でき、モバイル放送成功の可能性を示唆するものであるといえる。携帯電話は支払いも情報の蓄積も可能で、モバイル放送には最適なメディアである。また、放送を受信するだけでなく、送信も可能であり、あらたな使い方の提案がユーザー側からなされるだろう。
携帯電話はインタラクティブなテレビのリモコンとなるだろう。たとえば、クイズ番組に参加することもできる。テレビ番組で放映されているクイズに、キーで解答を入力する。しばらくするとベルが鳴り、正解・不正解が判明する。このようなシステムを利用すれば、教育をより楽しいものにできる。この構想は来年には実現したいと考えている。
日本は今、地上波をデジタルに置き換える作業をしているところであり、これがもたらすメリットについて述べる。
まず一つは、デジタル化により電波を有効活用できる点にある。電波は公共資源であって、近年の携帯電話などの普及によって、現在使用できる範囲では足りなくなっている。テレビをデジタル化することによって、狭い帯域により多くの放送をのせることが可能になる。加えて、それによって空いた電波をモバイル放送に利用することができるようになる。
もう一つは、デジタル放送は携帯端末でも、高品質な動画と音声の受信が可能になる。テレビ局にとって視聴率は重要な問題であるが、モバイル放送によってどこでも見られるようになるというのは大きなメリットである。デジタル化によって、放送に対してテキストデータなどメタデータの付加、双方向機能が可能になるが、このような機能がもっとも生かされるのがモバイル放送であると考えている。テレビは元来ネットワークにつなぐ物ではないという意識が強いが、携帯電話ならもともとつながっているので、デジタル放送のメリットが享受しやすい。
また、緊急災害時に被災者やその親類が一斉に携帯電話を使い回線がパンクするといったことがしばしば起きるが、携帯電話に放送を受信する機能があれば、全員に伝えるべき重要な情報は放送にのせることができ、回線のパンクといった事態を避けることができる。他にもGPSと放送の連携など、携帯電話とデジタル放送は相性が良い点が多い。教育に関してテレビ局は、様々なコンテンツを所有している。報道やドキュメンタリーを中心としたコンテンツを、先生や子どもと協力して、展開していく土壌として双方向性を持ったモバイル放送は大きく期待できる。
発表資料はこちら(015-MotohashiNHK.pdf、825KB)
続いて、2名の指定討論者からモバイル放送と教育についてのキーワードを挙げてもらいつつ、会場の質問を交える形で、前出のパネラーの方々に討論をしていただきました。