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016:2005年度 第8回 2005年11月12日開催

CAI / WBT

  • CAI / WBT

0. 趣旨説明

CAI / WBT 今年度のBEAT Seminarでは、歴史的に著名マルチメディア教材のレビューを行っていく予定です。
第8回となる今回のテーマは「CAI/WBT」です。CAI(Computer Aided Instruction)、WBT(Web Based Training)はともに、コンピュータやインターネット(WWW)を利用して教育や学習を支援することが意図されたものです。
前半では、CAI/WBTの歴史と今まで開発されてきた教材の具体例などについて大阪大学大学院人間科学研究科の重田勝介氏によりレビューが行われ、後半は、今後の教材・教育システムの中で、CAI/WBTがどのように活かせるのか、また、何を変えていけばよいのかについてのパネルディスカッションが行われました。

1. CAI

1.1. CAIの概説と誕生

重田勝介 CAIは、コンピュータと学習者が相互にやり取りしながら、教授・学習過程を進行させ、学習者に学習を成立させていくことを目的としたシステムである。1950年代の米国における行動主義に基づくプログラム学習(ティーチングマシンの開発)に端を発する。その後メインフレームを利用し教授活動を代替するシステムが検討され、1970年代頃からパーソナルコンピュータの普及に伴い、幅広く利用されるようになった。

1.2. CAIの特徴

CAIでは、従来の指導者が発する発問・補足説明、正答提示・賞賛をコンピュータが学習者の行動との対応を考えてディスプレイに出力する。また、学習者は解答・質問に際しキーボード・マウスを通してコンピュータに入力する。
CAIには以下の特徴がある。

  • 教師はCAIを指導の道具として利用可能。
  • 個々の学習者が、それぞれの進度で自学自習を行うことが可能。
  • コンピュータ上で映像や音声などのメディアを複合的に用いた教材を作成可能。
  • 学習者の進度・理解度を蓄積し、フィードバックを行い、個々の学習者ごとに教材の内容を変えることが可能。(配列の変更、補足説明の付加、学習の繰り返し)
  • ネットワークを用いて、物理的な距離を超えた学習環境が構築可能。(後にWBTへ)

教材を開発する視点の側からは、ある課題について小さな段階に分け、簡単なものから難しいものへと段階を踏む学び(スモールステップ)を提供していくという特徴が挙げられる。(後にインストラクショナルデザインのタスク分析へ)

1.3. CAIの事例

CAIの事例 CAIの具体例として、いくつかの事例が紹介された。例えば、視覚的な提示を行い、漢字の書き順を学ぶCAI教材がある。また、「星の動きと天体の観測」では学習者の解答結果を蓄積して、誤りの傾向を返す。学習塾での個別指導の教材としても利用されている例もある。学校の授業内容に沿ったCAI教材・プリント教材を用意して、テストを行い成績管理システムに蓄積をする。またテスト結果から弱点を分析し、不得意な分野を繰り返し学習ができる。

1.4. 知的CAIの概説

知的CAIは、認知的な学習理論や発達理論をベースに、人工知能の知見を利用して開発された。人間がコンピュータとの対話などの相互作用を通じて学習する。その際に、コンピュータは学習者の知識構造を「類推」し、個々の学習者に適した問題提示と解説を行おうとする。

1.5. 知的CAIの事例

事例として中学校数学・幾何の証明問題を扱う「GEOMEX」が挙げられる。これは、学習者とシステムの対話を通じ、証明過程における学習者の誤りをシステムが類推して認識し、学習者に指摘するものである。システムは証明問題の解答を学習者への「問いかけ」のかたちでなぞりながら、その誤っているポイントを指摘することで、学習者が自ら思考過程を修正することの支援を行おうとした。

2. WBT

2.1. WBTとは

WBTとは WBTは、インターネットに接続されたコンピュータなどを通じ、教材を配信し学習を行うことができるシステムである。インターネットを介し、個々の学習者が教材閲覧・試験などを行うことができるため、地理的・時間的制約にとらわれないという利点がある。教材と学習者履歴を管理するLMS(Learning Management System)を組み合わせて構成される。資格教育や企業内教育で利用が進んでいる。

2.2. WBTの事例

WBTの具体例として、以下の事例が紹介された。

「日本語教師のためのオンラインIT講座」
http://tell.fll.purdue.edu/hatasa/kurosio/NihongoIT2004.html

  • 日本または海外に在住する日本語教師が対象。
  • ワープロ・表計算ソフトやWWWブラウザやメールソフトなどの使い方を学ぶ。
  • 10のコースで構成され、コースごとに教材・用語辞典・課題・参考資料が用意される。
  • 講師とアシスタントが学習者をサポートし、グループウェア(Yahoo Groups)を利用し、メーリングリストや掲示板システムを通じて学習者同士のコミュニケーションを図る。

企業内教育での事例−「E3-learning (NTT-X)」
https://www.e-cube.goo.ne.jp

  • 企業における人材開発を目的とし、学習者が用意されたコースを自由に選択し学ぶことができるシステム。
  • 学習者はITスキル・語学・交渉術などのビジネススキルなどから任意の単元を選び、受講料をその都度支払い、教材を利用できる。
  • 学習履歴をシステム側で管理する。
  • 学習者にはそれぞれメンターがつき、E-mailによる質問への回答や学習進度に応じた復習問題の送信・各種試験や技術情報の提供を行う。
  • 学習者同士がコミュニケーションを行う電子掲示板を設置。

CAI / WBT 続いて福武書店(現ベネッセコーポレーション)の「STUDY BOX」のデモが行われました。これは、任天堂のファミリーコンピュータで動作するCAIシステムです。1980年代に通信教材として販売されていました。

後半には、これらのレビューを受けてパネルディスカッションに入りました。今回のパネリストは、常磐大学 国際学部教授 堀口秀嗣氏、青山学院大学総合研究所eラーニング人材育成研究センター客員研究員 松田岳士氏、ベネッセコーポレーション教育研究開発本部長 新井健一氏です。

堀口秀嗣 まずは初等教育におけるCAIの実践について堀口氏から解説があった。

堀口氏がCAIとeラーニングに関わるようになったきっかけは、昭和48(1973)年に物理の先生が一クラス50人の学生に対して、それぞれに適合した個別学習を提供できないか、という要望であった。また、CAIは学習の履歴が自動的に残るため、学習過程の研究をすることができると考えた。しかし結果的にはCAIはうまく普及しなかった。

原因の一つは、情報インフラ整備不足である。数年前までは中学校でもパソコン室にコンピュータは2人に1台程度が基準であり、ひとり一人の学習の個別化には足りなかった。また、ソフトウエアも高価であった。かといって教師が自作しようとすると1時間の教材を作るのに300時間以上かかってしまうという指摘もあった。他にも、用意したコースウェアが実際の学習のプロセス、特に学習指導要領に沿って進む、年間の指導過程にうまく組み込めなかったことも原因としてあげられる。

もう一つの問題として、授業ではできない生徒に対応しようとして治療型コースウェアが多く作られたが、そうなると、できない児童生徒ほど多くの学習内容に取り組まなければならず、結果として学習時間の差が大きくなって、一斉授業に戻りにくくなる。さらに、学習の進捗が生徒によってばらばらになると、先生がひとり一人の学習状況を把握しきれないという問題も発生した。このような経緯もあり、研究段階では学習効果の向上が期待されたが、実際の教育現場では普及しなかった。

CAIからeラーニングに発展した今日、建設的な提案をするとすれば、学習者に電子的なノートをとれる機能を提供することが期待される。実際の学習ではノートやメモを書き留めることが重要であるが、マルチメディア化したコースウェアでは画像や動画や音声などを手書きでノートに取ることは不可能に近い。デジタルポートフォリオや電子ノートのような情報をキャプチャする機能を提供し、そこで生徒達が自分でキャプチャし,学習のまとめを作れるような仕組みが必要である。

CAI / WBT 続いて事例を紹介する。1976年に茨城県つくば市の竹園東小学校で初めてCAI教材を作成した際に、どのような単元に対する教材を作るかを考えたとき、「分数の計算」や「てんびんの釣り合い」といった、教科の中で「できる子ども」と「できない子ども」にわかれてしまいやすい単元に対して教材を作成することにした。「てんびんの釣り合い」の学習では、子どもたちがどのような順序で釣り合いの条件(要因)を考えつくかを記録に残そうとした意図もある。10個の円形テーブルに小型のテレビを4台おき、教師、児童ともにお互いがマシンに隠れてしまわないように配置し、そこで顔を合わせて話し合い活動をしやすい環境にした。児童は個別実験をしたり、結果についての話し合いをしたり、個別学習をしたり、多様な学習活動が弾力的に組めた。実際の教育の現場では、つまづいている子どもや学習が遅れている子どもを早く発見し、手当てして救済するシステムへのニーズがあるが、ゴールを同じにするとスローラーナーほどたくさん学習して苦しくなっていく。初等中等教育では、治療型コースではなく、到達目標を変えながら同じ学習時間でどの子も学習する内容があるように内容の個別化をはからなければならないだろう。

次に、松田氏からは大学院におけるWBT・eラーニングについての解説があった。

大学というのは初等教育と違って、学習に対する強制力がそれほど無く、本来的にはカリキュラムを自ら構成することになっている。また、高校を出たばかりの学生から、最近では社会人も増え、幅広い年齢層が在籍している。そのような大学の状況において、カリキュラムの多様性や時間の融通の利くWBTやeラーニングに期待が高まっている。

松田岳士 対面型の授業を基本とする伝統的な大学では、授業の補強としての用い方と補償としての使い方があり、たとえば、前者ではリメディアル教育的に使い理系科目において必須な微分・積分の教材の提供をするなど、後者では対面型授業の代替として時間的な拘束の多い社会人学生に対して録画した授業を公開するなど、といった用い方に期待をしている。

また、前者は、授業でできないことをするのに対し、後者はできるだけ授業を再現する必要があるといった性質の違いがある。この両者を混同すると混乱を招く。またeラーニングの価値は「いつでもどこでも」という点にあると思われがちだが、実際は受講者同士の双方向コミュニケーション、豊かな学習リソースとしてのインターネット、様々なデータの保存管理にある。大学のeラーニングが抱えている問題としては、インフラ、ハードウェア、ソフトウェアといった技術的な問題、著作権などの制度的な問題、教育としての位置づけがある。

また、単位の取得率の問題があるが、青山学院大学ではチューターやメンターを設けることによってその問題は解決できつつあるが、そのような専門的な人材育成については課題が多い。また海外や企業では多くの成功事例が現れているが、日本の大学でそれらを活用しようとしても、そもそもモチベーションや文化が違いすぎて参考にならず、日本独自の成功モデルが不足している。青山学院大学では人材不足の問題に対して、インストラクショナルデザイナー、インストラクター、コンテンツスペシャリスト、メンター、コース運営マネージャという専門職の認定制度を設けた。また、人材を雇用するコストについては学生、とくに大学院生の力をうまく使うべきである。eラーニングそのものを研究している学生、関わることで身につく技術に興味がある学生、純粋にアルバイトとしてなど様々な関わり方が可能であり、双方にとってメリットがある。また学習支援の方法はメンター以外にもある。堀口氏も述べたように、コンピュータベースで提供する方法であればノートを残すような機能、CSCLのような協調学習支援、システムの効率化などが考えられる。

新井健一 最後に、新井氏から企業の立場からCAIについての解説があった。CAIのメリットは、教える側から考えると、コンピュータのほうは機械だから飽きない・疲れない、また、記録性、自由なカリキュラム構成、時間的な制約の少なさが挙げられる。しかしながら、実際にカリキュラム構成や時間的に自由だったかというとそうとも言えなかった。誤答例を蓄積してそれに対応した設問を設けても、最初は子どもの反応がよいが、蓄積ばかりでなかなか先に進めず段々飽きてしまう。OSの問題も意外に大きく、たとえばWindowsがアップグレードされたために教材が使えなくなり、つくり直しになる、また使う側も新しい教材が出ても動かすためのハードウェアを購入するコストの問題が発生する。

最も大きい問題は、モチベーションである。たとえば企業内教育においては、仕事であればモチベーションが自然と高まる。または極端な話、上司からの命令であればCAI教材は利用されるだろう。しかしながら子どもたちの学習となるとモチベーションの設定が難しい。ストーリーを設定してモチベーションを高めようとする教材もあるが、各単元ごとにいちいちストーリーを見なくてはならないとなると、結局子どもたちはストーリーをスキップしてしまう。

このような状況を考えると、コンピュータは単なる道具なので、以前TLC(Teaching Learning with Computer)という考え方があったが、言葉としてはこの方が学習におけるコンピュータ利用を表現する方法として適切ではないかと考えられる。コンピュータを用いた方が効率がよいと考えられる内容に絞り込んで教材を作るべきではないだろうか。

CAI / WBT 今回のセミナーのテーマはCAI/WBTでした。CAI/WBT教材の課題は、何がCAI/WBTに適しているのかを見極め学習内容を絞り込まなければならないこと、学習の進行が良くない生徒ほどやるべき内容が増えてしまい泥沼にはまってしまうこと、子どもにどのようにモチベーションを持たせるかということであると理解しました。また、CAI/WBTは教える側の負担が低減するように思われがちですが、実際にそれらが効果を発揮するためにはメンターなどの学習支援をする人材が必要不可欠であり、新たに専門的な人材を開発するなど、システムだけでなくそれを継続的に運用していく仕組みを作る必要があるということがポイントです。ドリル的な教材を単純にコンピュータの中に入れるのではなく、教材をダイナミックに変化させ、またそれを取り囲む環境を整備することが、これからのコンピュータを利用した学習には必要であると感じました。

テーマ

CAI / WBT

日時
2005年 11月12日(土)
午後2時~午後5時
場所
東京大学 本郷キャンパス
情報学環暫定ANNEX 2F教室
内容
CAI(Computer Aided Instruction)、WBT(Web Based Training)ともに、コンピュータやインターネット(WWW)を利用して教育や学習を支援することが意図されたものです。

当日は、前半にCAI/WBTの歴史や、今まで開発されてきた教材の具体例などをレビューします。
後半には、今後の教材・教育システムの中で、このアプローチがどのように活かせるのか、また、何を変えていけばよいのかについてパネルディスカッションで検討したいと思います。
発表担当者
レビュー
重田勝介
大阪大学大学院 人間科学研究科
先端人間科学専攻 D2

パネルディスカッション
堀口秀嗣
常磐大学 国際学部教授
松田岳士
青山学院大学総合研究所eラーニング
人材育成研究センター客員研究員
新井健一
ベネッセコーポレーション教育研究開発本部長
【司会】
山内祐平
18:00~
懇談会(希望者)

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