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051:2012年度 第3回 2012年12月1日開催

スマートテレビが変える家庭学習

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0. 趣旨説明

スマートテレビが変える家庭学習

スマートテレビとは、ざっくりいうと「テレビ(放送)がネット(通信)につながる」ということだ。画面がネットにつながるようなものは、すでに山のようにある。今日、この会場にもPCやスマートフォン、タブレットを利用している方がいるが、それらとは何が違うのかと思われている方もいるかもしれない。私は個人的にはかなり違うと思っている。今回のBEAT Seminarの開催予告のイラストを使って少し説明したい(図1)。

スマートテレビが変える家庭学習

図1 BEAT Seminar「スマートテレビが変える家庭学習」開催予告イラスト

この絵では、お父さんがタブレットを使っている。実際の家庭での一場面では、1人1人PCや携帯を使っていることも考えられる。そしてその家族の前にテレビが鎮座している。かつてとは異なる、テレビの利用シーンである。学習の観点でいうと、今までのデバイスは、ほとんど個人学習用だった。PCも、このイラストでお父さんが扱っているタブレットもほとんど個人学習用だった。携帯は究極の個人学習機械といえる。しかしテレビは大きさ、利用シーンから考えて、明らかに個人学習用ではない。もちろん、今この絵では、子どもが学んでいる主体だと思うのだが、横にお父さんとお母さんがいる。これは学習シーンからすると、革命的に違うことだ。おそらくPC、タブレットの画面が単に大きくなっただけのものではないだろう。このようなスマートテレビは、今までとはかなり違う学習のノウハウと、違う利用シーンを開拓する可能性がある。その意味できちんと一度話をした方が良いと思い、今回セミナーのテーマとして選んだ。

放送業界からはNHKの方にお越しいただき、通信業界からはKDDIの方にお越しいただいている。業界的には放送と通信の融合というのは、数十年かけたある種業界の夢といえる。ところが、実際には、テレビが今まで培ってきた文化や、学習に寄与するために培ってきたノウハウ、通信やITの世界で培われてきた個人学習のノウハウは、かなり違っている。今日のお2人のお話のなかでも、そういう話が出てくると思う。この融合が本当の意味で成功しないと、たぶん利用のブレイクスルーはおきないだろう。しかし、これが成功すれば、今までにない新しい、豊かな学習環境に化ける可能性がある。それを期待しながら、今日のお話を聞いて頂けると面白いかと思う。

1. 講演1「新しいメディア経験としてのSmart TV」
神部恭久(株式会社NHKエンタープライズ・事業本部・企画開発センター・事業開発/エグゼクティブ・プロデューサー)

神部恭久

1.1. 本日の流れ

スマートテレビが変える家庭学習 「新しいメディア体験としてのSmart TV」ということで、お話をしていきたい。Smart TVという言葉を最近いろいろと聞くようになった。Smart TVは、まだしっかりとかたちが定まっていないので、現状から話させていただきたい。後半は、今回のテーマである学習との関係について話をさせていただきたい。最後は未来像ということで、わからないなりに話をしたい。

1.2. 自己紹介

本題に入る前に、まずは自己紹介をさせて頂く。私はNHKに1990年入局し、教育番組、科学番組、スペシャル番組など、比較的幅広い番組を担当してきた。そして、2009年にNHKエンタープライズに出向して、事業開発部というところにいる。Smart TVの開発動向調査、NHKの放送技術研究所が開発しているSmart TVの技術「Hybridcast」のデモンストレーションを考える仕事や、スマートフォンアプリの開発運用なども行っている。もともと本当に技術畑ではなく、番組のコンテンツ系の人間なので、そういうスタンスでの話だと思っていただきたい。それと、今日お話させていただくことは、基本的にほとんどが私見で、NHK、および、NHKエンタープライズの公式見解ではないということで、ご理解いただきたい。

1.3. Smart TVとは

WikipediaでSmart TVをみてみると「スマートテレビ(Smart TV)とは、インターネットとweb2.0の特徴を現代のテレビセットやセットトップボックスへの統合や、コンピュータとテレビセット・セットトップボックスの技術融合する現在のトレンドを表現するときに使われる用語。“Connected TV”とか”Hybrid TV”とも時々呼ばれる。」と書いてある。ここで言われているように、Smart TVとは「現在のトレンドを表現するときに使われる用語」であり、テレビのハードウェアなのか、サービスなのか、何なのかということに関しては、いまだ決まってないということである。そういったもやもやとした全体に、みんなが「Smart TV」という名前をつけて呼んでいるというのが、現状だ。

1.4. Consumer Electric Show(CES)

「Smart TV」という言葉が、非常に世の中に知られるようになったきっかけは、2011年1月にあったCES(Consumer Electric Show)という見本市だと思う。これはラスベガスで毎年1月に開催される非常に大規模な家電見本市だ。こちらで、2001年に韓国の2大メーカーであるSAMSUNGとLGが、大々的に「Smart TV」と看板に書いて、全面的に押し出した。これにより、それまでConnected TVとかいろいろな呼び方をされていた、一つのテレビモニターで放送と通信のコンテンツが両方表現されるといったハードウェアは、「Smart TV」だという風にほぼ認知されたと思う。今年1月のCESでは日本のメーカーも、ヨーロッパのメーカーも各社モデルを展示していた。今この画面に出ているのは、日本のソニーが展示していたSmart TVのトップ画面だ(図2)。

SonyのSmart TVのトップ画面

図2 SonyのSmart TVのトップ画面(CES2012にて 写真, YASUHISA JIMBU)

左側に「tv」と書いてあるが、ここが放送だ。右側に「apps」とか「video」とか書いてあるが、ここは通信側からやってくるサービスやコンテンツだ。それがトップ画面で両方並んでいる。これが非常に典型的な「Smart TV」のイメージではないかと思う。CESではこういった展示を行うとともに、各社がそれをどう差別化していくのか、今後の課題についてもセッションが行われた。これは私見であるが、そこで言及された普及への課題は、大きく分けると3つにまとめられる。

1.5. 普及への課題-操作性・コンテンツ・ビジネスモデル-

第一に、「操作性」だ。画面が複雑になり、従来のテレビのように、つけたらすぐに放送が流れるというのとは、ちょっと違ってくる。ではそれをどう操作するのか。遠くにある画面で検索する時に、細かいテキストをどう入力するのか等、大きな課題だ。第二に、「コンテンツ」である。コンテンツは放送だけではなく、様々なものを含む。この画面の中に表示されるもの、その周辺で行われるサービスも含めて、コンテンツといえる。一体どんなものがSmart TVにふさわしいコンテンツなのかが、議論の1つだ。第三に、「ビジネスモデル」である。収益をどうあげていくのか、サービスを出して流して行く側の会社も含めて、継続可能なビジネスにするためにはどうしたら良いのかということが、今度の課題だ。

1.6. Smart TVのコンテンツとは

コンテンツに注目して話をしていきたい。今年のCESで、いくつか特徴的だったものを紹介する。まずはSAMSUNGのSmart TVに搭載されている「SAMSUNG apps」というSmart TV向けのアプリだ。「Family Story」、「Fitness」、「Kids」といろいろとあるが、SAMSUNG向けのアプリだ。その中の1つ「Family Story」の画面はこのような感じである(図3)。

SAMSUNGのSmart TVのFamily Storyの画面

図3 SAMSUNGのSmart TVのFamily Storyの画面(CES2012にて 写真, YASUHISA JIMBU)

神部恭久 左側にあるのは写真である。家族があちこちから投稿したものを、クラウドに溜めてある。右上のスペースには、「私今これしています」とか、近しい友人が「どこで、なにをしています」とTwitterのような表示が出てくる。下には「間もなく誰と誰の結婚記念日だよ」とか、「誕生日がもうすぐあるのは誰だよ」というお知らせが出てくる。今までメモを貼り付けていた冷蔵庫の扉の役目に取って代わる、家族の掲示板のような方向性が見える。このアプローチは、パーソナルを志向しているといっていい。テレビが、作られたコンテンツを受動的に見るというものだとしたら、これはSmart TV化することによって、TVの画面がよりパーソナルになっていく未来像の一つの提示だ。

もう1つ、特徴的だと思ったのは、TOSHIBAである(図4)。大きい上の画面がテレビだ。下にあるのがタブレット画面の、セカンドスクリーンである。セカンドスクリーンにはケーブルテレビと連携し、かなり詳細な番組表が出されている。さくさく動くという快適性と合わせて展示されていた。

TOSHIBAのSmart TVの画面

図4 TOSHIBAのSmart TVの画面(CES2012にて 写真, YASUHISA JIMBU)

この中である番組を選ぶと、1つの番組に関しての詳細なデータが出てくる。例えば、出演者が出ている他の番組の情報などだ。1つのコンテンツとの出会いが、新たなコンテンツとの出会いへとつながっている。今までテレビの番組を知るきっかけというのは、おおむね新聞だったり、最近だとソーシャルの評判だったりする。そういったきっかけをシステム自体の中に取り込んでいこうとする動きといえる。これがSmart TVの一つの方向性としてある。

ここからさらに話を広げていこうと思うのだが、Smart TV業界のプレイヤーは、メーカーだけではない。通信キャリア、IT企業、メディアなど、さまざまなプレイヤーがSmart TVに関わろうとしている。そのため、冒頭のWikipediaでの定義「トレンドの集合体」に象徴されるような、もやっとしたイメージにつながっている。

1.7. Smart TVの分類学

今、人々はどんなかたちをSmart TVと呼んでいて、それはどういう仕組みになっているのかを一度整理したい。これも完全に私見なので、誤りがあれば何らかのかたちで指摘していただければと思う。

1.7.1. 棲み分け型

まず一番基本的なパターンだ。1つの画面に放送と通信の両側からコンテンツが送られてくる。放送の方は、アンテナで受信して、テレビの受動器に届く。通信系というのは、サーバーから回線を通って、テレビの受動器に届く。その結果、このようなかたちの画面がテレビ上で構成される(図5)。

Smart TVの分類学 基本的なパターン

図5 Smart TVの分類学 基本的なパターン

テレビを見る、アプリでゲームをする、ビデオを見るといったことができる。さらにこれは、テレビ1つの単体で実現する場合もあれば、一度Set Top Boxで放送と通信のコンテンツを統合してから、テレビの方に送って、画面を構成するという場合もある。これに名前を付けるとしたら「棲み分け型」になると思う。放送のコンテンツは放送のコンテンツ、通信のコンテンツは通信のコンテンツ、1つの画面で両方見ることはできるが、放送は放送、通信は通信として棲み分けているというかたちだ(図6)。

Smart TVの分類学 棲み分け型

図6 Smart TVの分類学 棲み分け型

棲み分け型には他にもいろいろある。例えば、通信用のコンテンツが、家庭内無線LANルーターを通って、小さいガジェットに送られ、それをHDMI端子に差し込むことで、1つの入力切り替えで通信側のコンテンツを見ることができるというものだ。Soft BankのSmart TVはこれだ。こういう場合には無線LANを利用できるので、リモコンだけでなく、スマートフォンやタブレットも操作の端末になる。これも1つの棲み分け型だ。

他にも、apple TVの棲み分け型がある。通信コンテンツを、Set Top Boxを使って、これもHDMI端子でテレビに送る。入力切り替えをして、apple TVでのゲームを楽しんだり、iTunesの楽曲を聞いたりすることができる。 iPhoneやタブレットで操作をすることができる。

1.7.2. 連動型

地デジによるデータ放送というのは、既に完全に普及しているSmart TVだと言っていい。放送は放送、データはデータというかたちで、インターネットからデータを取り込んで、それをテレビの上で再現して、一つの画面の中に構成させている。時間的に完全に連動できるので「連動型」と呼んでいいのではないかと思っている(図7)。

Smart TVの分類学 連動型

図7 Smart TVの分類学 連動型

1.7.3. 融合指向型

もう一つ忘れてはいけないのが今年サービスを始めた「nottv」だ。デジタル化であいた周波数を使って放送を流し、まるでワンセグのように携帯端末がその放送を受ける。そして、通信は通信で、パケット通信として端末が受ける。小さい端末が、放送としての電波も、データ通信としての電波も受けて、そこで全てを統合して表現することができる。こちらは「融合指向型」と名付けて良いのではないか。今の段階では、放送から来るものと通信から来るものが、1つの画面で合わさっているものはほとんどないようだが、メニューを見ると、放送番組と同時に電子書籍が並んでいて、そこの間にはほとんど差がない。今後もっと融合していく可能性があるSmart TVの一形態だと思っている(図8)。

Smart TVの分類学 融合指向型

図8 Smart TVの分類学 融合指向型

1.7.4. 脳内融合型

最近よく言われるソーシャル視聴である。スマートフォンやタブレットで、その番組に関してのツイートを同時に見たり、つぶやいたりしながら観る。人気アニメの決めゼリフのシーンで一気にツイートされたりするのは、実際には一つの画面の中で、通信と放送が融合されたり、棲み分けている訳ではなくて、放送は放送でテレビを観ながら、自分でアプリを立ち上げてアクセスして観ているのである。これもすごく広い意味でいうとSmart TV的形態ではないかと思って「脳内融合型」と名付けてみる。こういうソーシャル視聴をしている人は増えてきていると思う。今後、放送のある音声に連動してコンテンツをタブレットやスマートフォンに表示するという技術などが注目され、サービスが増えてくるのではないか。これは脳内ではなく、本当に融合していくかたちだ。そういうものの見方、Smart TVの楽しみ方が増えてくると思う(図9)。

Smart TVの分類学 脳内融合型

図9 Smart TVの分類学 脳内融合型

1.8. Hybridcastについて

神部恭久 最後に、融合指向型のSmart TVのかたちをご紹介させていただきたい。これが「Hybridcast」である(図10)。さきほど少しだけ話をさせて頂いたが、NHK放送技術研究所の公開資料をもとに説明させていただく。放送通信連携サービスのための基盤システムで、既存のデジタル放送に通信サービスを融合し、放送と通信が機能的に連携した、これまでにないサービスを提供するというもの。テレビを軸に様々なサービスを展開するための基盤システムといったことを標榜している。

実際に具体的にどういうことができるのかというと、1.通信ならではのソーシャル、パーソナルなサービスを放送と連携して使う、2.通信コンテンツとの合成で放送番組をより面白く、分かりやすくみる、3.テレビを携帯端末やPCと連携させ、番組をより便利に、深く楽しむ、4.信頼できる情報を確実に提供する、ということだ。今までに紹介したものを全て取り込んで、なおかつ、より深く放送と通信を連携させていけるようにしようという技術である。現段階で実際に運用している訳ではないが、サービスの例として、番組関連情報の提供、セカンドスクリーンとしての情報提供、SNSとの連携サービス、他言語の字幕サービス、スポーツ選手の上に名前を重ね合わせたり、通信コンテンツから情報を持ってきて重ね合わせたりして表現することなどが挙げられる。あとはユニバーサルデザインの方向性だが、手話のCGを通信コンテンツと見せるということができる。マルチビュー、別アングルのカメラ映像を通信で提供して、スイッチングをしながら、自分の見たい画面をみることもできる。私はこのHybridcastでどんなことができるのかというデモンストレーションを考える仕事を去年と今年で行った。

Hybridcastが実現できること

図10 Hybridcastが実現できること
(出典: www.nhk.or.jp/strl/hybridcast/HCsummary.pdf

1.9. Smart TV体験と学習

Smart TVが実現されたあかつきには、視聴と同時に学習することは新しい体験になり得る。この体験が、結構大事だと思った。

語学学習のセカンドスクリーン

図11 語学学習のセカンドスクリーン

これは、デモンストレーションとして展示された語学学習のセカンドスクリーンの画像だ(図11)。放送が流れている時に同時に、Smart TV的なコンテンツが提供されるというイメージだ。真ん中のところに「about」、「dictionary」、「exercise」という3つの項目を考えた。「about」というのは、概要や出演者等の番組情報である。「dictionary」というのは、その放送回に出てくるキーワードやフレーズが出てくるところだ。その中で、「自分にとってこれは重要だ」、「解らない」、「メモをしておきたい」というものをチェックしておくと、個人の「dictionary」にも記録できる。おそらく、クラウドサービスにすることで、いろいろな端末、いろいろな場所から、アクセスできるようになると想像される。例えば電車の中でも学習を継続できる。コンテンツと触れるきっかけや場が増えていくというのが、体験の1つ重要な意味だ。

もう1つ、「exercise」ではリスニングとスピーキングのチェックを2つ考えた。想像していただけるような単純なイメージ通りのテストだ。放送コンテンツでは、どんどん進む会話映像を見ながら空欄補充のテストをする。放送というのは、待ってはくれない。それに一生懸命についていくということを、あえてやったらどうかと思った。実際にやってみると、何かけっこういい汗をかくような感じになる。今まで語学の学習番組とどんな関わり方をしていたかは、人それぞれだと思う。もし、放送は放送として観て、テキストを見た後でそれを勉強して、繰り返し聞くといったようなことをする人が多かったとしたら、そういう人たちにとって、これは違う体験になると思った。最終的に、自分の正解数や、あなたは今何人中何位ですということが、通信の世界だと即座に解る。その下に、あなたにオススメの番組というボタンをつくったが、中級向けにはこんな番組があるよといったリコメンドができるなと思った。放送している時に汗をかくということで、ちょっと違った気分で放送を観て、その後にそこから派生した新しいコンテンツとの出会いがあり、辞書みたいなものを使って、まったく放送とは関係ない時にもこれに触れる。これは、トータルな体験になると感じている。そこをちょっと話しておきたい。

1.10. トータルな体験としてのSmart TV

神部恭久 観るということが、能動的になる。例えば、ランクや点数が出るということで、テレビを観るということが、ゲーム的な感覚になる。さらにそれが、全国で何位だとかいうようなことになると、自分自身が1人で行っているのではなく、とても大勢の中で行っているという、感覚の拡張が起こるのではないか。さらに、例えば家族と一緒に行っていた場合、子どもが行っているのをお母さんが隣で見ているという状況を考えた時、テレビという画面はだいたい大きいので、その行為が劇場化する。そうするとそれを行っている私、それを見てくれている誰々といったような新しい関係性が、普通にテレビをソファーに座って観ているのとは、ちょっと違った次元に生まれてくる。たぶん、これがサイクルとして回っていって、あたらしい体験が出てくるのではないか。

テレビというのは、もともと受動的な存在だ。テレビ局からほぼ完全につくられたコンテンツが流されてくる。それを選ぶというところでは能動的だけど、選んだ後は観ているというのが基本的なスタイルだ。しかしこれが根本的に変わる可能性がある。私の専門ではないが、新しい学びを生み出す可能性があるように思う。そうなると、放送自体も自ずと変わってくるのではないか。ここから先は、本当に私見だが、未来像に対する一つの考察をしてみたい。

1.11. 未来像の一考察

本格的にSmart TVが普及し、人々が慣れ親しんでいくという時代が始まっていた場合、コンテンツというのは、完成品を届けるのではなく、サービスとして運用していくものに変わっていくのではないか。放送番組というのは、きっかけであり、一気に広がる爆発力のようなものでもあり、即効力でもあると思う。能動的視聴といえる。その後、ゲーム的視聴を呼び起こすのは連動するアプリだ。こういったもので、ゲーム的に楽しむことができる。またSNSと連携することで、いろいろな人が、同じコンテンツに関わっているということが、これまで以上に感じられるようになる。そして家庭内劇場で、リアルなフィードバックが起こる。さらに非連動アプリも併用することで、番組の放送とは全く別の時間帯でも、放送のコンテンツで関係する別のサービスに触れることが出来ると思っている。先ほどの語学学習の例で言えば、「dictionary」のようにもっとすごく楽しいものになって、番組の放送時間でなくても、非常にアクティブな辞書として提供されるようになると、今までは放送している時間にしか基本得られなかった、関連するさまざまな体験が、分散して浸透していくようになる。これがトータルな体験として、私たちのライフサイクルに関わってくるとしたら、ビジネスモデルとしても上手くいくと思う。受け手にとっては体験だが、送り手としては運用になる。放送番組をつくって終わりにはならない。その番組と番組の間、番組が始まる前、終わった後も含めて、全体的に運用を考えていかなくてはならない。そういう時代がくる。

Smart TVというものを今後考えて行く時、運用に適したコンテンツ、視聴者・ユーザーに楽しんでもらえるようなコンテンツをどう開発してくのかが、メディア側からすれば鍵になる。その時に、学習というのは、非常に重要なコンテンツになると思う。

2. 講演2「スマートTVのプラットフォームの概要」
堀内浩規(KDDI株式会社・メディア・CATV推進本部/メディアプロダクト技術部長)

堀内浩規

スマートTVのプラットフォームの概要ということで、最近我々が開発したケーブル事業者向けの次世代Set Top Boxである「Smart TV Box」について紹介する。*1

*1 参考:「Smart TV Box 提供開始について」のKDDIプレスリリース
http://www.kddi.com/corporate/news_release/2012/1128/index.html

2.1. ケーブルを取り巻く状況

ケーブルテレビは、地域ごとに数多くの事業者があり、多チャンネルやケーブルインターネットのサービスを提供している。関東周辺だとJ:COM、JCN、イッツコムなどがサービスを提供しているが、全国には数百の事業者がある。KDDIはケーブル事業者向けに、これまでに2005年の10月からケーブルプラス電話を提供しており、約250万の加入者がいる。今年の3月からはケーブル事業者のインターネットとauスマートフォンをセットで利用すると、スマートフォンの月額を割り引く「auスマートバリュー」を開始し好評を博しており、ケーブル事業者向けの「WiFiプログラム」なども提供している。今日お話するSet Top Boxは、先週の11月28日にJCNからの販売開始をアナウンスさせていただいたSmart TV Boxについてである。

堀内浩規 少し背景を説明すると、KDDIは、ケーブル事業者の国内最大手のJ:COM、業界2位のJCNや、業界3位の中部地方のケーブル事業者CNClに資本参加している。全国のケーブルテレビの約80%のところには、なんらかのかたちでKDDIがサービスを提供している。そうした中で、ケーブル事業者と一緒に、これからお客さんに満足していただくにはどういったサービスを提供していったら良いのかを考えており、その一貫として、この「Smart TV Box」がある。

2.2. ケーブルテレビの大競争時代

地デジへの移行でテレビを買い替えた方がたくさんいたように、ケーブル事業者はアンテナを設置しなくても地デジを視聴できるなどのメリットもあり、大きな需要があった。しかし、その後は多チャンネルの需要が落ち込み気味で、大競争時代となると言われている。

多チャンネルサービスは、加入すれば地デジ、BS、CSと100以上のチャンネルをお茶の間で楽しめる大きな魅力がある。一方で、数年前から、ネットから放送コンテンツなどを視聴できるOTT(Over the top)の波が、日本にも確実にきはじめているし、TV離れもすすんでいる。

多チャンネルサービスの魅力が薄れつつある今、放送だけではなく通信を絡めていかなくてはいけないということで、インターネットへの加入増に活路を見いだしていきたいと考えている。アメリカではケーブルインターネットシェアが54%に対し、日本では17%にとどまっている。実際には、すぐサービスを提供できるようなネットワークは出来ていて、ポテンシャルもあるのだが、その活用が不十分なのでネット軸を強化する必要がある。このため、大競争時代の中で、新たなユーザ獲得の商品として「Smart TV Box」をケーブル事業者に提供開始することにした。

2.3. Smart TV Boxについて

Smart TV Box は、既存のテレビをSmart TV化するSet Top型だ。放送と通信を一つの装置でカバー可能で、従来の多チャンネルサービスに加え、インターネットを経由した様々なサービスや、スマートフォンと同様に豊富なアプリケーションを楽しむことができる。ケーブル事業者の特性を生かした地域密着のサービスを提供することも可能だ。まずはJCNでサービスが開始される。JCNのキャラクターである俳優の松平健氏がアンドロイドマツケンに扮して、発売開始当日のイベントでもその新しさに力を入れてPRしていただいた。引き続き、JCN以外のいろいろなケーブル事業社にも供給し、ユーザーの満足度をあげられるようにしたい。

2.3.1. 商品コンセプト

堀内浩規 非常にコンパクトなSTBで、まずは白一色のスターリッシュなデザインでリリースした。商品コンセプトとして以下の3つが挙げられる。1つ目は家庭内の配線を簡易化すること。従来では、それぞれの装置を揃えて接続しなければいけなかった、放送信号を受信するSet Top Box、モデム、Wi-Fiのアクセスポイントを一体化させた。機器をたくさん用意しなくても、これひとつでホームネットワークが構築できるようになり「スッキリ宅内配線」が実現できた。

2つ目は操作性である。多チャンネルを視聴しているのは高齢者も多い。自宅で過ごす間、時代劇専門のチャンネルを見ているおじいちゃん、おばあちゃんがいると聞く。どんな年齢層でも使いやすいように出来るだけ操作を簡単にしようということで「カンタンUI」をコンセプトとした。リモコンは、上下左右キーでほとんどの操作ができるようにした。操作に迷ったらとりあえずHOMEボタンを押すと、いつも固定的なホーム画面に戻れるようにしてある。あとはテレビ視聴する時に、前回の操作履歴が解るように画面上にうっすら矢印が表示されるようになっている。高速なレスポンスといったことを考えて仕立てていった。

3つ目は、ユーザーに「最先端のプラットフォーム」を提供することである。スマートフォンをはじめ、デバイスの開発のスピードに対応できるよう、グローバルな方式を採用して、世界最先端のインターネット体験ができる商品を目指した。Andoroidの最新版を採用し、処理のためのチップを通信と放送それぞれに分ける等なスペックを備えている。

ホーム画面の構成は大きく4つのエリアに区切られている。自分のお好みのエリアに進んでいくと、そのサービスが享受できるというかたちだ。各エリア間もシンプルなUIと高速なレスポンスで自由に行き来することになる。1.はTVエリア、2.はエンタメエリア、3.はインフォメーションエリア、4.アプリエリアだ。それぞれのエリアを簡単に説明する。*2

*2 参考:Smart TV Box画面の関連記事
http://www.kddi.com/corporate/news_release/2012/0718a/index.html

2.3.2. Smart TV Boxの各エリアについて

2.3.2.1. テレビエリア

まず、テレビエリアはHome画面の右側に置いてテレビ関連の操作を集約し、多チャンネルの視聴に加え、録画などの機能を持つ。3つのチューナーを備えており、2番組を同時に録画することも可能で、外付けHDDを利用した録画や、Gガイド番組表、リモート録画にも対応する。リモコンで上下左右のカーソルを動かすだけで、地デジ、BS、CSの各チャンネルを選択できる。「RECOMMEND」のところには、ケーブル事業者がおすすめしたい番組がある。また、キーワードを入れると、番組の検索、ビデオオンデマンドの検索などの結果が一括で表示されて、そこから選択できるようにした。テレビ番組表もインターネット上の動画と連動するようなかたちになっている。

2.3.2.2. エンタメエリア

ホーム画面左側にはエンタメエリアがある。YouTubeやニコ動に、ここからアクセスできるようにしている。このエリアから音楽とかゲームも選択してもらって、利用できるようにした。すでにスマートフォンで提供している「ビデオパス」のサービスもここからアクセスできる。出来るだけ多くの映像をスマートフォンで楽しんでいただきたいということから、定額で見放題の視聴が可能だ。Smart TV Boxでは、このサービスにスマートフォンで加入していれば、追加の料金なしに視聴できる。今後もスマートフォンとの連動を考えている。

2.3.2.3. 生活情報エリア
スマートテレビが変える家庭学習

ここのエリアでは、ユーザーがよく使いそうなサービスを提供している。ニュースや天気などの日常情報をチェックしたり、カレンダーで日々の予定を家族と共有したりできる。日常生活でよく使うアプリをカテゴリーごとに集約した「LIFE」というコーナーも用意している。カテゴリーには、学び、ネットスーパー、ショッピング、健康、安全安心、ラジオなどがある。事業者ごとにコンテンツを用意するエリアもあり、JCNの場合は、関東にいても全国の地域のニュースやイベントが見られるサービスを行っている。

2.3.2.4. アプリエリア

Smart TV BOXの特徴として、アプリケーションをダウンロードして追加できるアプリエリアを用意した。ここは、自由に拡張できるようになっていて、テレビでアプリケーションを楽しむことができる。「auスマートパス」といわれるアプリケーションマーケットで、100個くらいのアプリケーションを提供する。「Google play」というGoogle社が提供しているマーケットからも、世界中からアプリケーションが提供されている。ケーブル事業者もマーケットをつくる動きがあるので、将来的にはそこからもダウンロードして利用することができる見込みである。

2.3.3. Smart TV BOXのメリット

堀内浩規 冒頭にも説明したように、Smart TV BoxにはケーブルモデムとWi-Fiアクセスポイントが入っており、その他の装置を用意しなくてもシンプルに活用できるようになっている。例えば、リビングのテレビを家族の誰かが占有しても、書斎や寝室からタブレットやスマートフォンで、多チャンネルや録画番組を視聴することも可能だ。操作を簡単にするため、タブレットを手裏剣操作でなぞると、テレビでその続きが観られるような仕組みも入っており、スマートフォンやタブレットとの上手い連携ができる。連携が可能なスマートフォンやタブレットの機種は順次拡大予定だ。

2.4. 質疑応答

山内:それでは事実確認的なご質問があればお受けしたいと思う。

フロア1:メディアがたくさんあるが、商売として行われる訳なので、たぶん細かく課金されると思う。そのパターンは具体的にどうなっているのか?

堀内:今見ていただいたものは、基本的に無料で使えるアプリがほとんどだ。プラットフォーム料として事業社からいただいているので、そこがどう利用者に還元されるかは、事業者に任せている。個別のアプリケーションは有料なものもあるが、無料のものも多く、一定のお金を払うことで、それ以降はそのまま使い続けられるものもある。

フロア2:このSet Top Boxはユーザーにとってはとっても使い勝手が良く、いろいろ楽しめると思う。特にインターネットの使用時間が増えると思うのだが、他の時間に割かれるということで、ケーブルテレビ会社に、どうメリットを説明されているのか?

堀内:テレビ視聴以外の時間が増えるのではという懸念は当初あった。しかし、テレビに接する機会は増えるので、それにより、ネットをPCやスマートフォンで見ている人たちよりも、テレビ視聴のきっかけが増えるのではないかという話をした。また、ケーブル事業者も折角だから、インターネットでも様々なサービスを提供していこうというコンセプトで動いていて、加入者やARPUを増やすことで、win-winになるということで、納得いただいている。

3. パネルディスカッショ.「スマートテレビが変える家庭学習」

パネリスト中谷友紀氏より話題提供
中谷友紀(株式会社ベネッセコーポレーション・グローバル教育事業部・事業開発セクション/課長)

中谷友紀

私はグローバル教育事業部に所属している。どんなことを行っているのかというと、ベネッセの英語サービス、特に幼児から小学生までを対象とした家庭で学習する通信教材、企画開発と販売を担当している部門である。なぜ、スマートテレビと関わりを持つようになったかを、ディスカッションの前提の自己紹介をかねて、簡単にご紹介させていただきたい。

4.1.1. 英語教材開発における問題意識

英語学習では、どうしても英語の音にたくさん触れさせる必要がある。教材をどんなメディアで届けるかといった時に、音を届けられるメディア、英語にたくさん触れることの出来るメディアというところから選ぶ。その結果、幼児の「こどもちゃれんじEnglish」という教材では、メインのメディアはDVDとなっていて、英語の音にたくさん触れられるようにしている。小学生になると、これがパソコン中心となる。DVDを見ているだけでは飽き足らない年齢になってくるので、ヘッドフォンマイクをつけてスピーキングの練習もできる。

最近英語熱が上がり、低年齢化が進んでいて、今は10年間分の教材の設計をしている。そうすると、この中でも段階的に利用するメディアを変えながらメリハリをつけていかないと、子どもたちの在宅での英語学習の興味を10年間持続させることができない。子どもたちに英語をもっと届けられて、年齢にあわせて、興味を持ち続けていけるようなメディアを常に考えている。

今回Smart TVに注目するきっかけとなったのは、DVDだ。みなさんが家で観る時に、字幕の切り替えをしたりしているかと思う。その機能の応用で「こどもちゃれんじEnglish」のDVDには、簡単なインタラクティブ機能を入れている。例えば、旗揚げゲームのようなものをリモコンの上下左右キーの決定だけで行うというものだ。1枚のDVDにだいたい15個くらいのコーナーが入っているのだが、人気満足度調査をすると常に上位となる。幼稚園の年中さんの教材では、毎号こういったインタラクティブコーナーを入れている。

中谷友紀 しかし、まだ課題がある。使いにくいと言われているテレビのリモコンだ。自宅のテレビリモコンをそのまま利用でき、操作も上下左右と決定だけという決して難しくはないものだが、普段使わないキーなので、年中や年長のお子さんの半分は、保護者の方に教えてもらわなければ使えない。また、選択と決定キーだけではアクティビティのバリエーションに限界がある。結局三択クイズとか、ストーリーの分岐を作るぐらいしかつくれない。マルチアングルなどもやろうと思えば取り入れられるのだが、教材としては使いにくい。リモコンのレスポンスも少し間があくので、スピーディーなものや動的なものは、この機能だけでつくるのは無理といえる。このような点について、Smart TVだと、デジタルコンテンツの良さをフルに活かせるので、DVDインタラクティブのいいところを取りつつ、課題も解消できるのではということで注目した。

4.1.2. ユーザーのニーズ

「Smart TVを使った教材はどうですか」とお客さんに資料で見せたところ、実は非常に評価が高かった。Smart TVはネットにつながるというのが強みなので、毎日テレビで英会話番組が配信されることになる。子ども専用のリモコンで気軽に学習ができるというところが、1位に選ばれた。ちょっとした合間にテレビを見る感覚で英語ができるという気軽感、時間が有効活用できるという点が評価された。これは4歳から小学校2年生くらいまでで取った評価だが、どの学年でも評価が高かった。これを受けて、追求してみようということになった。

4.1.3. 学習教材の試作

ハード面とソフト面をこの半年くらいかけて検討してきた。ハード面では、子ども向けなので、やはりリモコンを全面的に考え直さなくてはいけないということになった。手元と画面とを両方見なければいけないのは、幼児にとっては難しい。手元を見なくても操作できるシンプルなもの、かつ、ポインターをちゃんと受信機に向けることも幼児には難しいので、入力を安定させるために有線リモコンを考えたり、学習の間疲れずに持ち続けられるものを考えた。また、保護者の方の評価も得られるように、いかにも玩具というものではなく、学習感をどう出すかも考えてデザインを練った。

中谷友紀 試作する中で解ってきたことは、Set Top Boxについてである。最初、パソコンでつくってきたものを単純移植すれば使えると思っていた。しかし、今のところ、パソコンほど高スペックではない。単純にパソコンで映していたものを持って来ても、動作が鈍くなると解った。あとはテレビの前に置けるかとか、Wi-Fi環境がすぐあるのかということにも対応していかなければならない。その一方で、DVDと違って、周辺機器としてUSBでマイクをつけたり、カメラをつけたりすることもできるので、ハード面で学習を広げられる可能性も多分にある。操作やつくりはシンプルにしないといけない。ただ、シンプルなアプリを大きな画面で行ってももったいない。つくりはシンプルだけど、大画面の非常にリッチな体験ができるというバランスの良いものを追求してみたい。

幼稚園の年中さんだと、上下左右の理解もままならず、左右と決定ぐらいしかない本当に簡単なリモコンになってしまう可能性がある。それでも、タイミングよく押すとか連打するとか、3つボタンでいろいろなアクティビティが出来るように考えた。通信につながっているところを活かして、こちらからの声かけができたり、出来高によって「おかわりコンテンツ」が配れるなど、デジタルかつ通信だからこそできることをしたい。

10年間の英語学習で子どもの興味を惹きつけつづける必要があるのだから、その間に学習スタイルを変えられる可能性があると思っている。非常に可能性のあるメディアだ。先ほどのKDDIのSmart TV Boxにも対応したアプリを、一足先に一般向けとして提供させていただいた。Smart TVを教材に使う可能性を検討していきたい。

スマートテレビが変える家庭学習

パネリスト

  • 中谷友紀
  • 神部恭久
  • 堀内浩規

司会

  • 山内祐平
パネルディスカッション「デジタル読解力を育てる情報教育」

※みなさまからの意見を司会がまとめ、パネリストに質問を投げかけるという形で進められました。

それでは、パネルディスカッションに移りたいと思う。かなり多様な質問や意見を頂いている。まずはそれぞれ個別に伺った方が良いだろうという質問から進めたい。
神部さんにまずはお聞きしたい。現実的には、リビングで高校生の子どもはスマートフォンを使って、お父さんはタブレットを使い、そしてそこにテレビがあると思う。つまり画面がたくさんある。いわゆるマルチスクリーンだ。まさに学習の文脈では、画面がたくさんある状況が問題になっていると思う。こういう複数のサイズの異なる画面がある時に、どうリンクさせていくのかが重要だ。質問は、特に学習効果をあげるためにはどうしたら良いかというものだ。マルチスクリーンをつなげるときのSmart TVなりの在り方やパターン、スクリーンのつなぎ方についてお答えいただければと思う。

神部:これも私見でしかお話できないが、どんなデバイスでも、同じことができないとあまり便利じゃないし楽しくない。今後、そのための技術がどう実現されていくかは解らないが、今であれば、さまざまなスクリーンをWi-Fiでつなぎ、同じことができるようになっている。今すぐ出来ること、出来ていることではなく、これから先いくつかのステップを経て、一番いい方法が選ばれて行くだろう。

次に堀内さんにお伺いしたい。これは比較的シンプルな質問だ。Smart TV Boxの価格について質問をいただいている。個人で導入するとしたら値段はどれくらいで使えるのか。実際サービスの値段の問題は結構重要だと思うので、その辺をお聞かせいただきたい。

堀内:基本は、KDDIからケーブル事業社に販売して、ケーブル事業社がどういうサービス内容でユーザーに提供するかは任せている。例えば、JCNではインターネット、多チャンネルの基本サービスのセットで月額9,450円だ。タブレットをつけると11,000円になる。詳しくはJCNさんのホームページを参照いただきたい。*3

*3 参考:JCNスマートTVのHP
http://stvb.jcntv.jp/top.html

中学生や高校生のように学習が高度になった場合、テレビでは支援しきれないのではないか。それとも、テレビでもできる可能性があるのかという質問があった。是非中谷さんにこれはお伺いしたい。

中谷友紀 中谷:私もそこを今悩んでいる。中高生だった場合、テレビじゃないとできないことは何だろうと休憩時間に話していた。内容的には、タブレットでできることと、多分に重なってしまうかもしれない。ただ、利用シーンを考えると、電車の中でのちょっとした時間で携帯を触ってしまう時にやりたいこと、家に帰ってなんとなくいろいろしている時にテレビをつけてやりたいことは違うのかもしれないと、参加者の皆さんと話していた。さきほどの神部さんの話の中に、能動的な関わりに変わるのではないかという話があったが、本来、テレビでは受動的に観ることができる。これはスマホやiPadで見るのとは異なる良さでもある。それが向いているシーンにあった学習を設計できれば棲み分けられるのかもしれない。

本質的な話で、多くのグループの方々から共通して出ている質問は、それはテレビでなくてはいけないのかという質問だ。そのまま画面が大きくなっただけなのではないかと。それに対しての反論をぜひ3人からしていただきたい。

神部:テレビ業界の者として、テレビでなくてはいけないところと、テレビでなくてもできることはあると思う。私の場合の「テレビ」が何を指しているかと言えば「放送」だ。この放送というのは、同時に大量に確実にデータを届けることができる。ここの部分は、なかなか通信ですぐにとっては変われない。将来的には通信でも出来るかもしれないが、当面はこれだけインフラが整っていて、受動器も普及していて、使い方についてもよく理解されているメディアの形態であるテレビは強いと思う。放送は視聴率が数%〜10%程度でも100万〜1000万という桁数の人に届く。スマートフォン向けのコンテンツでは、そう簡単にはいかない。映像をストリーミングで見るとしても、そんな数にはならない。この爆発力みたいなものは、放送というものが持っている整ったインフラの力だと思う。これがベースにあるということを無視して、スマートテレビは、当面考えられないのではないか。
あともう1つ、ハードウェアのテレビとして言うと、あれだけの大きい画面がどこの家にでもだいたいある。複数の人が観られる画面があるということは大きいのではないか。PCを1人1台持っていたとしても、2人で同時に観るのは、なかなかしんどい。そこが、ハードウェアのテレビがまだ意味を持ち続けていくところではないか。

堀内浩規 堀内:私もそう思う。多くのテレビのユーザーがいて、PCでもできるかもしれないが、家族で共有できるということに加えて、さきほどご紹介のあったHybridcastのように、今後、本格的なテレビの放送と通信の融合が控えていると思う。テレビの画面にいろいろものが表示されることに対して否定的な意見が特に放送業界の方々からあるが、それも次第に少なくなっていくのではないか。もちろんPCでもスマートフォンでも観られるところはあるが、放送と融合する上では、家族で観たりするというテレビの位置づけは重要になると考える。

中谷:教材開発の立場からすると、スマートテレビだとすごくいいなと思うところがある。英語学習には、たっぷり耳から触れて欲しい部分と、一生懸命使ったり、反復して覚えて欲しいなどのいろいろな要素がある。今だとたっぷり触れるところはDVDで届けて、覚えたり使ったりする部分は玩具で学ぶというようにメディアが分かれてしまう。しかし、そこまでこちらが意図したようにうまく連動して使い分けてくれない。その点、スマートテレビだとたっぷり触れるところから、覚えるところまでが、すべて1つのメディアでシームレスにできるのではないか。だから玩具がいらないということではないが、今までと違った活用の促しができるのではないかという期待を持っている。

次以降の質問にも絡めて行きたい。違った観点からいくつか質問がきていたので、まとめてお聞きしたい。今日はいつものBEAT Seminarに比べると企業の方のご参加が多く、ビジネスモデルの話に関心がある方が多い。まずビジネスモデルをどうやって続けて行くかと考えた時に、持続的に収入が入る仕組みが必ず必要だが、そのような仕組みをどうやってつくっていけば良いのかということを伺いたい。

神部恭久 神部:公共放送なので、ビジネスモデルにそぐわないところがあるのだが、ただここを突破できないと、継続した業界にはなかなかならないというのがみなさんの思いだと思う。あまりに大きいテーマで簡単に答えられることではないと思う。ただ今スマートフォンというのが、爆発的に普及している。そちらで生まれているさまざまなビジネスモデルは、スマートテレビの1つの参考にはなると思う。スマートフォンで、どういうかたちでお金が生まれているのか。それは広告やアイテム販売だと思う。何が成功していて、何が失敗しているのかというのはまだ正確には解らない。ソーシャルゲームはすごく収益が高いが、放送コンテンツが主体となるような業界で同じようなことができるかというと、たぶんそんな簡単ではない。そこには突破しなくてはならない壁がたくさんある。答えとしては、スマートフォンで何が起きているのかを参考としてよく見続けることだと思う。

堀内:Smart TV Boxの場合はどういうかたちかというと、当然ケーブル事業社の方も儲からないといけない。われわれはスマートフォンを会社の商品として持っていて、そのアプリケーションのマーケットも持っている。ネットやアプリをユーザーに提供することによって、ケーブル事業者さんも手数料が貰えるし、サービスを開発すれば、サービスで自由に利用料を取って貰っていいと提案している。あとは、「片方向通信」と言われている、放送視聴だけのユーザーがいるのだが、その方々が併せてインターネットにも加入してくれることで、提供するサービスも増やしていくことができる。我々はボックスとサービスのプラットフォームを提供して、そのプラットフォームの一部の料金をケーブル事業者から継続的にいただくという形態でビジネスをまわすことも考えられる。

中谷友紀 中谷:持続可能と考えると、極力コストをかけずに、いかにコンテンツを供給し続けられるかだと思う。平たい言い方をすると、コンテンツの再利用という話になってしまうが、CESの話にもあった、LGとかSAMSUNGの中で提供されている教材は、その辺がよく工夫されている。1つのストーリーのコンテンツをつくったら、それを歌や反復学習とか、毎日新しいことに取り組んでいるように飽きない工夫がされている。テレビに対する「毎回新しい情報を提供してほしい」というニーズにフィットさせていると思う。大変勉強になる。教材側から供給を持続可能にするには、その辺の戦略が必要だという課題認識を持っている。

ベネッセとしては、コストを下げたとしてもコストはかかる訳だが、収入としてはどういう収入を想定しているのか。

中谷:2つの方向がある。教材の一部として2年間、スマートテレビのボックスを使っていただくような契約のかたちと、アプリ提供というモデルだ。そこはまさにスマホ同様で簡単ではないと思う。

何らかのかたちでモデルが出来たとしたら、コンテンツをつくるのは誰の役割になるのか、一社なのか、誰かと誰かが組んで行う話なのか、どういうノウハウが必要になるのか、その辺のお話を伺いたい。

神部恭久 神部:Hybridcastでは、APIを公開して、サードパーティーに参入してもらうことを想定していると聞いている。それとともに、放送局自体も考えていかなければならない。コンテンツ側からものをみると、最初につくる人が、全てのことを解っている。誰が出ているのか、どこで撮影しているのか、食べている料理の材料は何なのか。これらは割と、ビジネスに直結することだ。ここをうまくそれ以外のサービスにどう載せて行けるか。学習のものも、放送側がどういうスキットを出すのかが解っているからつくれる。通常、それは放送前には、なかなか全部教えるということにはならない。公共放送という立場ではありえないことだが、放送業界として見ればそこをうまくビジネスに変えて、放送ではないサービスを継続してつくっていけるように、良いタッグを組めるようにしないとスマートテレビはうまくいかないと思う。

堀内:今回はAndroidを1つのオペレーティングシステムとして採用している。スマートフォンではご存知のように、iPhoneとかAndroidとかには60万といわれるアプリケーションがある。スマートフォンをそのままではなく、マルチタッチを改造して、スマートフォンで構築したものを、そのまま、あるいは一部手直ししたものを供給して行くことが考えられる。それ以外は、共通して使えるものはKDDIも用意しているが、地域にケーブル事業社は密着しているので、役所などのいろいろなニーズに合わせながら作っていただいてもいいと思う。それが簡単に搭載できるプラットフォームになっている。それと、Hybridcastの時代になれば、通信と放送が融合したようなソフトウェアを、放送事業社自体がつくると思うし、それによって収入を得ることもありえるし、APIを通してプロバイダーや第3者がサービスを提供すして収益をあげることも将来的には可能と考える。スマホのうまい活用と共通の枠組みを用意しながら、ケーブル事業者が主体的にコンテンツ作りに取組むこともKDDIがサポートしたいと考えている。

中谷友紀 中谷:ベネッセの教材としてスマートテレビを使うのであれば、確かに質問をいただいたとおり、コンテンツをつくる体制は変わっていくと思った。今はDVDを作る時に、発注させていただく会社と、デジタルコンテンツをつくる時に発注させていただいている会社は、別である。今回のアプリの試作では、まずDVDの会社にしっかり良い映像を作っていただいたものをデジタルに加工していくというかたちで、やはり2社を連携させるところが生じてきた。どこまでをどちらにお願いするかというところの開発スキームが今後ますます新しくなっていくだろうなと思った。

ツイッターからの質問だ。ビジネスモデルが出来て、コンテンツ開発の体制が整って、普及も始まって、いろいろコンテンツがあると、ユーザーはこれを選んでいかなければいけない。ユーザーにどれでも良いから選んでというと、学習コンテンツは選ばないのではないかという危惧があると思う。これはスマートフォンやタブレットでも同じ問題だ。教育のことを考えた時、誰がメディア体験や時間の使い方を監督するのか。是非ご見解をいただきたい。

神部:すごくおもしろいことが起こる気がしている。数が多くなればなるほど、人は簡単に選べなくなるので、コンシェルジュのような機能が求められると思う。もしかしたら、その評論という仕事が重要になってくるかもしれない。スマートフォンのアプリは、ランキングがすごく重要だ。ランキングが上の方にくれば、認知してもらえて、25位以内に入らないとみんなに知られもしない。そこをどうするのかということが、アプリベンダーの人たちの非常に重要なトピックだ。スマートテレビにも起こる可能性がある。新しい産業や新しい職業が生まれる可能性があり面白い。ただあらかじめ決めてかかるべきではなくて、流れの中で、自然にユーザーとの間で伸びて行くというのが良いかたちではないかと思う。

堀内:コンテンツはたくさんあるので、ベネッセから提供していただいたようなものは、年齢別にカテゴライズして教育に役立つアプリが推薦されている。結局はコンシェルジュみたいなかたちかもしれないが、できるだけカテゴライズし、ランキングにあわせてうまく分類し、提示してあげることが必要だ。あとは個人の趣味を学習しながら提示していくことも進めている。多様化の時代なので、個人の趣味でいろいろな使い方があるし、教育関連も重要なコンテンツと思う。

中谷:スマートテレビでコンテンツをつくることになった時に、いろいろとアイディア出しをした。あえて学習を自分たちでさせるアプリにしないで、薦めるアプリをつくったのは、まさに同じ課題認識に基づいている。これぞテレビで学習する意味があると思うものをおすすめしていきたいのだが、なかなかそこまでコンテンツの質が洗練されていないのが正直なところだ。大画面でやるからさらに良いというほどではないというところがある。コンテンツがありすぎることによって、お客さんが離れてしまわないようにしたい。そこに一役買えるようなアプリにしたい。

最後の質問にしたい。今回ご登壇いただいた皆さんは、今回のテーマについてお話しがしづらかったのではないかと思う。というのは、神部さんは研究開発の段階で、堀内さんは今リリースしたばかりで、中谷さんは今から取り組んでいくところだからだ。このテーマを設定した時に、これからのテーマなので、お話する方は相当大変だろうなと思った。5年くらい取り組んで来て、実際ユーザーさんはこうだったとか、こうやって使われているみたいだというような話ができない段階で、シミュレーションとしてお話していただいたので大変だったと思う。ただあえて、みなさんが期待として持っている未来像をお話いただけないかと思う。10年後のテレビのかたち、スマートテレビでリビングがどういう風に変わっていて、そこで具体的に子どもと親とがどういう学習、または学習につながる活動をしているのかということに関して、夢でかまわないので話をお伺いしたい。

神部恭久 神部:発表の時に最後に未来像ということを述べたが、基本的にはあの話だ。メディアというものは、これまでいくつか大きな歴史的な変遷を遂げてきた。石碑に何かを刻む時代から、印刷機が発明され、同じ情報を多くの人にばらまけるようになった。これが1つの革命だったといえる。さらに音声で遠くまで届けられるようなコミュニケーションが生まれて、ラジオ、映画、テレビができるといったすごく大きな飛躍があった。
今起こっていることを期待を込めて言うと、その次の変化の節目であった方が面白いと思っている。今のテレビというのは、あまりにも影響力が大きいメディアとして、ここ数十年存在した。これが非常に大きく変わろうとしている。これはある意味危機でもあり、チャンスでもある。100%に近いものをつくって放送して「ああ良かった」、「視聴率がどうだ」、「こんな反応が来て嬉しかった」といったようなかたちで僕たちは動いているが、10年後には少し変わるのではと思っている。例えば、すごく人気のあるスターがいるとして、そのスターは映画にも出る、歌も歌う、本も書く、写真集も出す、あるブランドのモデルにもなるということがあった場合、そのスターのファンは、たぶんその人の出た作品は見たい、その人の歌った歌は聴きたい、発言を知りたい、ツイッターをフォローしたい、自分も着てみたいということが起こると思う。番組というのが1つの時間軸に紐づいて出される音声と映像の集合体ではなくて、もっとすごくトータルなものとしてファンとのコミュニケ——ションの中で存在する。その中にエンターテイメントももちろんそうだが、学習的な要素は入ってくる。
なぜなら、とても忙しく、情報がたくさんあり選ばなくてはならない時に、何が選ぶ1番のモチベーションになるかというと、“自分を良くしてくれるもの”だと思う。だから学習というのは、一見、お勉強の顔をしていなかったとしてもその要素はすごく重要だ。自分が変わっていける、自分の明日の暮らしが良くなるのではという期待をかけられるものが、さらに楽しい体験を伴って番組だったり、アプリだったりいろいろなものとして存在する。それをお父さんはお父さんなりに楽しんで、子どもは子どもなりに楽しむ。子どもが楽しんでいる様子をお父さんが見て、それを俺もやろうと思ったりする。そういう風なお茶の間であり、そこで共有する画面、ボードみたいなものが、大きなテレビ画面ではと思う。

堀内浩規 掘内:今はハードウェアとソフトウェアの限界をある程度は妥協して、工夫してやってきている。ここ数年Wi-Fiとか、スマートフォン、センサの進化で、本当にいろいろなことができるようになった。Set Top Boxが必ずしも箱のままではなく、テレビにより入って行くかもしれない。各ディバイスが垣根なく、放送も通信もソーシャルなメディアも融合してやれる世界をイメージできる。UIもよりユーザフレンドリーになり、現状でも一部で実現している音声認識やジェスチャー操作が一層進化して自然に行えるのではないか。TVの大画面化も進んでいるので、等身大の先生とのインタラクティブな授業なんかも興味深い。ただ、生活している人がどういう豊かな生活を送っているかというのをイメージできるところまでは至っていない、開発が終わってほっとしている状況というのが本音。

中谷:ずばりという答えに辿りつけないのだが、学習サービスを提供する立場なので、英語であろうと何であろうと、何とかして学習に楽しく無理なく向かってほしいという思いがある。それでデジタルや通信が出来ることは、究極にはプッシュが入ると一番強いと思っている。単にデジタルのコンテンツがたくさんあるのではなくて、「今日の君はこれをやると良いよ」という絶妙なタイミングで声がかけられるということだ。そのきっかけが、個別のデバイスでもいいのだが、ふとしたときにお茶の間でもプッシュされて、無理なく学習が積み重ねられるということができてくるといいと思っている。

山内:最後に少しまとめておきたい。テレビとは何だろうという話があったが、テレビの教育利用というのはここ数十年で培われてきた。NHKのEテレ、教育テレビは50数年前に世界ではじめて教育放送としてはじまった。まったく教育と関係ないものとして見なされていたテレビを学習のための道具として、文化的に根づかせるために数十年かかった。神部さんもお話しされていた大変化の過程で、テレビの文化とネットの文化をどう融合していくかという話は今から始まるので、具体的なイメージが湧きにくいのは当然だと思う。その時に、今日の話でなるほどと思ったのは、テレビが何を培ってきたのかということだ。それは3つあると思う。

1つ目は、放送というマスメディアの持つ、つなげられる人のスケールだ。100万とか1000万は、通信メディアで原理的につながる可能性がある。Facebookは8億人がつながっているというが、ただ、それでも全員同時につながることはない。現実的に同時に、これだけのスケールの人がつながるというのは、通信系のメディアではほとんどない。AppleがSet Top Boxだけでなく、本当にテレビをつくるのではないかという噂が消えないことや、Googleがテレビになんとしてでも乗り出そうとするのは、これだけの人をある種同時に動かせるプラットフォームが他にないからだと思う。これはいままでにない新しいことができる可能性がある。つまり、100万人とか1000万人という桁数で同時にインタラクティブにつながる可能性だ。これはものすごく強力なポテンシャルを秘めている。

山内祐平 2つ目は、まったくそれの逆のように見えるが、一番身近なマイクロコミュニティである家族がテレビの前にいることだ。これは、やはり人間のつながりの中で最も強いつながりの人たちが画面の前にいる訳だから、まったくこれまでのタブレットやスマホとは違うポテンシャルを持っている。実はおもしろい研究があって、最近は絵本も電子化されるようになり、KindleとかiPadとかそういうもので電子絵本が見られるようになった。紙の絵本とは何が違うのかというと、一番面白いのが読み聞かせをする時に、子どもと親のインタラクションが変わるということだ。一番典型的なのは、画面の大きさだ。小さい画面だと覗き込まないといけないので、インタラクションがすごくやりにくい。テレビが目の前にあると、自然にそこは劇場型の空間になるので、3人、4人でのインタラクションが非常に自然に起こる。個人学習メディアではなくて、マイクロコミュニティが支える学習メディアであるとともに、何百万とか何千万人の人にも同時につながれる。おそらくその間には今まで通信コミュニティが培ってきた数千人レベルのミドルレベルコミュティもあり、コミュニティが3層構造になっている。これをどういう風に使って行くのかが、今後スマートテレビのアプリケーションがブレイクスルーするかどうかの鍵になると思う。

3つ目は、世代によってだいぶ違うと思うが、全体でトータルの視聴時間を見た時に、これだけネットを使っている人がいるにも関わらず、しぶとくなかなか減らないことだ。一体それは何だろうと考えた時に、もちろん人によって違うと思うが、基本的にはテレビを観ていれば、なんとなく信頼できる情報がくるだろうという感覚がある。これは培ってきた遺産だ。気に食わない人は、ネットでテレビのことを批判する訳だが、それでも多くの人はやはり、テレビというものにある一定の信頼を持っている。それはエディターシップに対する信頼ともいえる。先ほどから話が出ているように、山のように情報が溢れる中で、「もうわからん、お手上げです」という人がこれから増えてくるのではないかと思う。その時に、ここに任せればセレクションと能動性を同時に成立させてくれるというような安心なサービスができるとすると、それはネットやテレビだけでのサービスではなく、スマートテレビ的なサービスになると思う。それができた時には、おそらくテレビの経験がメインで、タブレットがサブになるようなメディアの生態系ができる。それに失敗すると、タブレットの方がメインで、テレビはただの大きい画面で、今まで培ってきたある種のテレビの文化みたいなものは絶えるということになる。私としては、せっかく培ってきた遺産がここで絶えてしまうのは残念だ。やはり今までのものと、これから新しく出てくるものが競争関係、競合関係になりながらも、新しいものを何か生み出していくきっかけになればいいと思う。

スマートテレビの話は、ハードウェアとしても今からどんどん出てくると思う。今話したような話は、神部さん的にいうと脳内融合みたいな話で、結構既存の技術の組み合わせでも出来ることがいろいろあると思う。最終的にはトライアルの結果として、定式化し、ハードウェアになっていくというのが一番ありそうなシナリオだ。いろいろ試してみないと新しい領域というのは上手くいかないので、成功も失敗も含めてその結果、10年後くらいにリビングのテレビのイメージが変わると思う。今日はご紹介しなかったが、このシナリオはテレビと通信だけではなくて、おそらくゲームも関係する。ゲーム機も独自の文化を持っている。きっと3つの文化が今後どうコンバージェンスしていくのかがポイントになるのではないかと考えている。

スマートテレビが変える家庭学習

この公開研究会レポートは当日の記録をもとにベネッセ先端教育技術学講座で作成したものです。

テーマ

スマートテレビが変える家庭学習

BEAT(東京大学情報学環ベネッセ先端教育技術学講座)では、2012年度第3回 BEAT Seminar「スマートテレビが変える家庭学習」を12月1日(土)に開催致します。

放送とインターネットを連携させた新たなサービスである「スマートテレビ(Smart TV)」が、注目されてきています。これまでのテレビは、放送局から視聴者への一方向的なコンテンツの提供が主流でしたが、スマートテレビの登場により、ユーザー参加型の利用が加速されると思われます。家庭用のテレビがインタラクティブになってインターネットにつながることで、家庭での学習はどのように変化していくのでしょうか。

今回のBEATセミナーでは、神部恭久氏((株)NHKエンタープライズ・事業本部企画開発センター・事業開発/エグゼクティブ・プロデューサー)に、スマートテレビに対応したコンテンツのあり方についてお話いただきます。また、堀内浩規氏(KDDI株式会社・メディア・CATV推進本部/メディアプロダクト技術部長)には、スマートテレビのプラットフォームの概要や今後の展開についてお話しいただき、スマートテレビが変える家庭学習環境について議論を深めたいと思います。

日時
2012年12月1日(土)
14:00~17:00
場所
東京大学 本郷キャンパス
情報学環・福武ホール(赤門横) 福武ラーニングシアター(B2F)
内容
14:00-14:10
0. 趣旨説明
山内祐平(東京大学・大学院情報学環/准教授)

14:10-14:50
1.講演1「新しいメディア経験としての『スマートテレビ』」
神部恭久((株)NHKエンタープライズ・事業本部・企画開発センター・事業開発/エグゼクティブ・プロデューサー)

14:50-15:30
2.講演2「スマートテレビのプラットフォームの概要」
堀内浩規(KDDI株式会社・メディア・CATV推進本部/メディアプロダクト技術部長)

15:40-16:00
3.参加者によるグループディスカッション

16:00-17:00
4.パネルディスカッション「スマートテレビが変える家庭学習」
司会:
山内祐平

パネリスト:
中谷友紀((株)ベネッセコーポレーション・グローバル教育事業部・事業開発セクション/課長)
神部恭久
堀内浩規
定員
180名
参加費
無料
懇親会
セミナー終了後 1F UT Cafeにて 参加希望者(¥3,000)

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