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050:2012年度 第2回 2012年9月1日開催

安心して学べるソーシャルメディア環境

  • 安心して学べるソーシャルメディア環境
  • 安心して学べるソーシャルメディア環境 講演1「eメンタリングが支える学びの場作り」 松田岳士(島根大学・教育開発センター/准教授)
  • 安心して学べるソーシャルメディア環境 講演2「Amebaサービス健全化の取り組みについて」 藤井琢倫(株式会社サイバーエージェントアメーバ事業本部/ゼネラルマネージャー)
  • 安心して学べるソーシャルメディア環境 パネルディスカッション「安心して学べるソーシャルメディア環境」

0. 趣旨説明

藤本 徹

近年、ソーシャルメディアの普及が進む中で、どういったかたちで安全な環境を創っていけるのか。教育の分野で利用するにあたっても、非常に関心が高まっている。大人も子どもも安心して学べる環境を創るには、どのような仕組みづくりを行うかが大事であり、イベントや運営の仕掛け、体制も非常に重要になってくる。本日はそのような観点について議論を進めていきたい。

1. 講演1「eメンタリングが支える学びの場作り」
松田岳士(島根大学・教育開発センター/准教授)

安心して学べるソーシャルメディア環境

1.1. 発表のアウトライン

「安心して学べる」とはどういうことか。私の専門分野は教育工学であり、なかでもe-ラーニング等のICTを活用した非同期の学習における学習支援が専門である。この視点から考えると、やはり人による学習支援が重要なのではないか。いくらソーシャルラーニングの環境が整ってもそれは同じだと考える。
対面のコミュニケーションとオンラインのコミュニケーションは、非常に共通した部分がある。一方、かなりの相違点もある。例えば「Twitterが出来る前はこんなことは起こらなかったよな」とか「2ちゃんねるがなければ、こんな被害はなかったよな」といったことがたくさんある。そのあたりについて少し分析してみたい。最後に、専門の研究および実践として行っている学習支援のマネジメントについて述べる。そもそもマネジメントを効率的に行うとはどういうことなのか。どういうスキルが必要とされるのかを話したい。

1.2.「安心して学べる」とは-学習者の不安感を払しょくするには

学習者にはいろいろな不安がある。学習の前後や途中でアンケートをとってみると、大きく3つの不安が出てくる。まずはe-ラーニング等で、学ぶ事自体への不安だ。例えば、教室に行って学ぶというのは、1,2回授業に出ていると、この授業はこういう感じで、どういう人が受けていて、どのような教材を使っており、こういう風に進行していくということが自然とわかってくる。それゆえ、急速に不安は解消されるわけだが、e-ラーニング等に関しては、まずは技術面や環境面に対して不安が出てくる.「うちのパソコンで出来るのだろうか」や「すごく難しい操作を要求されるのではないだろうか」という不安や、最近ではソーシャルスキルや情報漏洩に関する不安もある。2点目は、学習内容やレベルへの不安だ。「内容やレベルについていけるのか」などである。それに、人間関係における不安もある。その場に同級生等が一緒にいる場合は、だいたいどのような人が受講しているのかがわかる。しかし、人とのつながりをバーチャルで作るとなると、そこも不安になる。受講しているコースと関係ない人とも交流しながらオンラインでの活動をすすめる場合、さらに人間関係の不安が増してしまう。逆に、人間関係などまったく考えずに、自分だけがログインして、誰ともほとんどコミュニケーションしないままに進むようなコースもある。そうなると、人間関係がないことがむしろ不安になる。「これでいいのだろうか」、「みんな同じくらい進んでいるのだろうか」、「自分の解答はどう評価されているのだろうか」等である。長期のコースの場合は特に、「ずーっと自分でやる気が保てるのだろうか」とか「どんどん後回しになるのではないか」というようなモチベーション維持に関わる不安もある。
これらの不安感を拭うためには、さまざまな対応ができる。まず技術的な支援だ。「学習者にあったコンテンツがちゃんと開発されているのか」とか「評価の方法がわかりやすいか」等といった対応が考えられる。さらには、人による支援がある。人的な対応があると、不安感はかなり減る。従来人の側面はあまり注目されておらず、たいていの大学や企業であっても、ヘルプデスクを置いて、質問に答える程度だった。人による支援にどういった効果を求めるのかというところまでは、注目されない時期がずっと続いていた。最近では、人による対応をいろいろと工夫しようという動きがある。例えば、e-ラーニングチューターだけでも「こんなチュータリングしているところがあるんだ」といった例がたくさんある。SNSを使ったe-ラーニングの学びが進むと、人による対応をかなり真剣に考える必要が生じてくる。 「安心して学べる」とは-学習者の不安感を払しょくするには

1.3. 人による学習支援の必要性

1.3.1. e-ラーニングの問題点(1):夏休みの宿題現象

松田岳士 e-ラーニングのような遠隔で学ぶ時の問題点とは何か。それは修了率の低さである。多くの学習者は「各自、自分の好きなペースで学んでいい」と言われても、そうそう計画的にできない。私はこれを「夏休みの宿題現象」と呼んでいるが、一人で学び続けるのはそう簡単なことではない。それでも日本人はとても勤勉ではあるが、メディアが新しくなったから続くということはあまりない。
1920年の大正時代、日本では正式なラジオ放送が始まって一週間後にはすでにラジオ英語講座が始まっていた。他に調べた限りでは、こんなに教育放送に力を入れているのはハンガリーぐらいしかない。当時の文部省は「これで日本の人たちも英語がしゃべれるようになる」と非常に期待した。しかし、そうはならなかった。また戦後、テレビが普及して教育テレビが出来た時も、1950年代くらいから語学講座を一生懸命放送し、「これで外国人に対するコンプレックスも無くなって、英語もべらべらになる」と期待した。しかし、やはりそうはならなかった。要するに、新しい何か教育のメディアが出てきて、学ぶのに便利な環境が整ったからといって、急にやる気が持続することはないのだ。つまり、e-ラーニングの利便性を無くさないようにしつつ、ドロップアウトを防ぐという有効な方法は簡単には出てこない。

1.3.2. e-ラーニングの問題点(2):学習者とインストラクタ(教員)への負担

きちんとドロップアウトを防ごうとすると、学習者側と教員側、両方の負担が非常に大きくなってしまう。私は大学でe-ラーニングを進める立場だが、一緒に仕事をする先生に「全然楽にならない」、「教材コンテンツをたくさん作った。一回作ったらもういいだろうと思ったけど、全然楽にならない、話が違うよ」などとよく言われる。それに加え、e-ラーニングではあらゆるデータが残ってしまうので、先生は手が抜けない。 ある程度、技術面のスキルを持っていただかないといけないこともある。

1.3.3. 修了度・満足度の低下

対面の授業で100人くらいの授業を受け持つと、こちらは後ろの方で何をしているのかよく わからないし、学生は人前で質問するのを恥ずかしがる。最後にリアクションペーパーのコメント欄に少し書いてくれるか、顔なじみの学生が2,3人終わったら質問しに来るくらいだ。ところがe-ラーニングにすると、人に見られるというプレッシャーもあまりないために、思いついた時に質問ができ、質問数も増える。これは不安感が高いためともいえる。不安感が高いと、修了率が下がるだけならまだしも、満足度まで下がってしまうことも起きる。

1.4. 動機付けがポイント

基本的には、e-ラーニングは「いつでもどこでも」といっているのだから、個別学習である。集合して同時に学習をする訳ではないので、学習者側の自主性が重要だ。インストラクショナルデザインの先生は「良いコンテンツを つくればいい」というがその通りである。悪いコンテンツよりは、良いコンテンツの方が良いに決まっている。それから、情報系の先生は「システムが古い」というが、その通りである。使いやすいシステムの方が良いに決まっている。しかし、あとはやる気次第だ。分かりやすさや利便性がやる気の継続につながるかということだ。システムやコンテンツの技法が進めば進むほど、そうなっていくと思う。新しいメディアが登場するとして、もの珍しさから最初はやる気が出る。新奇性効果というが、こういったものは長続きしない。さらに、孤独な学習になることが多いので、クラスメイトやインストラクタと会うことによるモチベーション維持ができない。プレッシャーがないので、さぼりやすくなる。このあたりから考えると、やはり動機付けはとても大事だと思う。e-ラーニングにおける動機付けについて、次に3つの視点からみていきたい。

1.4.1. e-ラーニングの動機付け(1):学習者

まずは学習者側だ。先ほどから言っている「いつでもどこでも」は裏を返せば、「いつかどこかでやればいい」ということになる。また自習ということは、人間的な交流がない。日本人が特に気にするのが、他の人と比べて自分が進んでいるのか、遅れているのか、他の人と比べてこれは成績がいいのか、悪いのかということである。この情報が不足するとものすごく不安になる。e-ラーニングはこのあたりの対応が弱い。

1.4.2. e-ラーニングの動機付け(2):技術

次は技術面だが、先ほどから述べている「いつでもどこでも学べること」は実はメリットではない。考えてみれば、テキストを渡されて、これを読んでこいと言われた方が、電源の確保や面倒なインストールなどを考えなくていいので、いつでもどこでも読めるのだ。実は、技術的なメリットとは、双方向コミュニケーションの効率や範囲、コストやスピードが格段に進歩していることを指す。ファックスで、先生に 1枚ずつ送る時代にはできなかった、学習者同士のコミュニケーションができるようになったのだ。インタ—ネット上に教材がたくさんあるし、インターネット自体を教材として学習することもできる。
それから学習履歴のデータが残るということだ。大学の教育にとって、これはとても大きい。例えば実際、A大学で実践を行った際、学生はみんな夜中に勉強しているかと思ったら、そのデータから、意外に昼休みに使っていることが多いとわかった。どこまでやったかということもわかる。これまで課題に取り組んだ人しかわからなかった「ここまでやって挫折した」とか「この教材を何回も見直して進んでないから、ここがわからなかったのではないか」という学習活動がわかるようになった。ここが大きな点である。
インターネットがつながる環境であるなら、コミュニケーションは「いつでもどこでも」できる。マルチメディアコンテンツなどが「いつでもどこでも」活用できる。e-ラーニングを提供する側としては、学習者の実態が「いつでもどこでも」わかる。これが「いつでもどこでも」の正体だった。

1.4.3. e-ラーニングの動機付け(3):組織

次は組織の視点だ。e-ラーニングを実施してみると、とても多くの問題が起きる。開発段階では「俺たちが作っているものは完璧だ」と思っていても、いざ始めてみると非常に多くの質問がくる。だいたい平均値を取ると、 1割くらいの学生が質問してくる。例えば、100人受けていたら約10人が、500人くらいだと約50人が、最初の2週間くらいで質問してくる。これでは返事を書いているだけで一日が終わってしまう。学習者へのワンストップサービスの担当者がいれば別だが、いない場合、システム開発の人にヘルプデスク的なことをさせると 嫌がられるし、教員は最初の2〜3問は喜んで答えてくれるが「なんで同じようなことばっかり聞いてくるのか」と言い始めることもある。そこで、学習支援者を置いてみた。これが私たちの取り組みだ。私たちは「e-メンタ」と呼んでいるが、役割によっては「チューター」「ヘルプデスク」「サポーター」など呼び方はいろいろだ。呼び方は重要ではなく、どういう役割をしているかが重要なのだ。
ここまで話をすると「学習支援は大事だが、人がしなくてもいいのでは」と言う人がよく出てくる。特に「わざわざそんなことをしなくても、コースそのものを改善したり、それから技術的な対策で解決できるのではないか」、「MITがバーチャルチューターというのを作ったのを聞いた事がある。人工知能の導入は、なぜ上手くいっていないのか」と思うだろう。このあたりを見てみると、学習支援の方法は実はいろいろある。当然だが、設計を変えて行く方法もある。新しい技術をどんどん導入したり、引き続き人が支援することなども含めて、全体をバランスよくやるのが良いと思う。

1.5. なぜ人が支援するのか

それでも、支援を人が行うことに注目するのはなぜか。リアルな人が応答するということは、機械がなんとなく自動的にやっているのとは、かなり違う。電化製品が壊れた際に電話で調べようとすると、 まず音声自動応答が出てきて、「この症状ですか、これにあてはまりませんか」と出てきて、どっちの都合で話しているのか わからない。たらい回し感がすごく出る。臨機応変に対応するというのもなかなか難しい。さらに、実施して気づいた点としては、人が対応した場合、アンケートでは得られない改善の要望や、感想等が得られたりすることだ。アンケートの弱点は、アンケートに書いてある事しか答えてくれないことだ。自由記述を入れても、よほど不満の高い人以外は「特になし」で終わってしまう。こちらの想像を絶するような情報は、なかなか集められない。

1.6. 人間のコミュニケ—ション

1.6.1. 対面コミュニケーション

松田岳士 人のコミュニケーションは、動物のコミュニケーションとかなり違っている部分がある。人のコミュニケーションには、関係面と内容面と呼ばれるものがあり、2つの側面があるというのが重要だ。
関係面は、メッセージ内容を伝えることではなく、コミュニケーションする人同士の関係を調整するということだ。例えば、どういう口調なのか、あいさつをするか等である。会社で朝の挨拶をするのは、別に「おはようございます、本当に早く来ていますね」と言い合うためではなく、「今日もみなさんと一緒にこれくらいの機嫌の良さで働きますよ」という意を表して人間関係を調整しているのである。だから挨拶をしない人は、なんとなく不気味に見えるのだ。通常、人間関係の調整があってから内容理解に移る。最初から人間関係が壊れていると内容を聞こうとしない。その結果「言っていることはもっともだが、あんな言い方をされると納得できない」ということが起きる。内容自体は納得できても、なにか人間関係が整いきれていないわけだ。つまり対面コミュニケーションは、言っている内容や文字に起こすような内容だけではない部分があるということだ。
しかし、私たちが取り組んで気づいたもう一つ大事な点としては、メール等の文字によるコミュニケーションにも上記の関係面に似たものがあるということだ。それは改行、スペースの取り方、タイトルの長さというようなメール等における見た目だ。だから、私が行っていたe-メンタコースを受けていた学生は、最初にメールの書き方を学んだ。 相手を動かすための印象的なタイトルの付け方、これとこれはどう違うのかなど、タイトルだけで90分くらいやる。普段何も考えずに「〇〇の件」と書いているのでは、全然だめなのだ。これもとにかく勉強したくない学生を、勉強する気にさせるスキルとなる。

1.6.2. コンピュータネットワークを介したコミュニケーション(CMC)

オンラインコミュニケーションには、独特の特徴がある。まずそのひとつは情報量だ。これは文字情報が中心である。また匿名性があり、声のトーンなどの非言語情報が少ないので、プレゼンス(実在感)が低いといえる。そのため、私たちは、実は勝手に相手を想像しながらコミュニケーションする。メールを受け取ったとき、人がどのような想像をするのか、加藤尚吾・由樹先生がされた研究によれば、大きく3通りあると指摘されている。1つめは友好的であるとされ、メール等を貰っても、自分に都合良くとる人のことを指す。例えば、送信者は怒って書いているのに「こんな風に激励してくれてありがとう」ととらえてしまう人だ。2つめは、否定的であるとされ、「もうダメだ、やっぱり僕なんかがこんなコースを受けるなんて間違っていたんだ」等と思ってしまうタイプだ。3つめは攻撃的であるとされ、内容を信じず、やたらと怒る人のことだ。例えば「今やろうとしていたのに、失礼な」などと、攻撃的になり、反撃してくる。あくまでこれらは傾向なので、いろいろな傾向の人がいるということをわかっていただければと思う。でも、こちらが誠意をもって書いているのか、なんとなくやっているのかは相手に伝わる。この辺が面白いところだ。そこからリアルな人とやり取りしている感覚が増すというのも大事な方法だ。
プレゼンスを高める方法としては大きく2つある。まずは、参加者に関する多くの情報、例えば実名、顔写真、趣味、興味等の提示だ。まさに、Facebookがそれだ。少なくとも皆さん、2ちゃんねるとFacebookだったら、Facebookの方がリアルな人とやり取りしている感覚があると思う。それから、より多くのメディアを使って実在感を高めるということだ。別に顔写真は出さなくてもいい。匿名で、参加者情報も少ない上に文字だけにすると、リアルな人を相手にしている感覚がないので炎上する。例えば、ニコ動はメディアとしてはすごい文字量が付けられるし、画も動くが、参加者情報があるかというとそうでもないので炎上しやすいといえる。 メディアとプレゼンス

オンラインコミュニケーションの2つ目の特徴としては、異なる人格が出るということだ。社会心理学の用語では「オンラインペルソナ」と呼ぶ。対面のコミュニケーションでは出ない人格だ。これは、お酒を飲むと人が変わる、車を運転すると人が変わるなど、人間が普段自分には無い力が与えられたりすると出てきたりするのに近い。もしくは、理想の自分の場合もある。それから、攻撃性のはけ口となっている場合もある。さらに匿名性が非常に高いので、自己開示が進む場合が多い。面と向かってはなかなか言えないことを書いたり、ひどい場合は、集団成極化(ポラリゼーション:集団の中で意見交換をすると、個人の意見がバランスの取れたものから極端な意見に変化すること)が起こったりする。悪い方向に行くと、犯罪や自殺につながる。
最後の特徴としては、メタデータというのがある。面と向かって言ったら、言った、言わないでけんかになったりする。しかしオンラインコミュニケーションでは、残っているデータから「何月何日のメールで書いてあったじゃないですか」と言える。何回も見直しができ、冷静に発言を比較されたりすることもある。つまりその付帯情報なども記録されているということだ。
さて、このようなコミュニケーションの中で、私たちが「メンタ」と呼んでいる学習支援者にかかる負担は、スキルをある程度身につけさせているものの、とにかく高い。丁寧に支援すれば、それだけ修了率が上がって、満足度も上がるが、依存度の高い人もどんどん生まれてしまう。このあたりは微妙なところだ。悪い言い方をすれば、一人で学べない学生を拡大再生産してしまったのではないかというジレンマである。朝から晩までメールに追われるなど、やる気のある人はノイローゼのようになってしまいかねないため、効率も考慮しなくてはならないと考えている。

1.7. 効率的な学習支援とは

メンタが必要なスキルを持っていて「こういう場合にはこう答えればいいのだ」と対応できるようなスキルセットがちゃんと揃っていることが重要である。さらに、各コースへのメンタの配置人数や休日対応の要不要、それぞれのメンタのスキルに応じたグループ分けといった体制面も考えないといけない。メンタが身につけるべきスキルはたくさんあるが、コーチングもそのひとつである。友達になるのが目的ではないが、やりとりが一往復すればかなり継続率が上がる。学習開始前の自己紹介ひとつをとっても、相手がこれで勉強する気になるか、ならないかが決まる重要なスキルである。そのため、コーチングのスキルを最初に身につけてもらう。

1.7.1. コーチングの考え方

コーチングの基本は、相手の話を傾聴するということだ。学習者自らが自分の抱える問題やその解決法を見いだせるようになることだ。ティーチングやインストラクションではない。
「君の家に行って、光ファイバーを引いてネット環境を整えてやるよ」ということはできない。「時間がないなら、僕が君の変わりに仕事に行ってやる」という訳にもいかない。ということは、 相手からアプローチしてもらわないといけない。そこで、第一段階でまずは「相手のことをちゃんとわかって、しっかりキャッチボールをしましょう」ということを教える。 コーチングの考え方

1.7.2. 立場・視点を使い分けた承認

よく見られるのは「Youメッセージ」だ。「あなたは最近頑張って勉強している」と、あなたが主語になっている。「あなたはこんな人だ」という認証だ。受け取る側は、上から評価されているような気がしてしまう。しかし評価や指導を行う教員が別にいる場合、メンタの役割は、もっぱら学習支援であるため「Iメッセージ」や「Weメッセージ」を発信できないといけない。特にプライドの高い相手ほど必要だ。その場合、例えばIメッセージは「うちの子も、イチローさんみたいになりたいと言って野球を始めたから、もっと頑張って欲しい」と言った具合だ。「Weメッセージ」というのはもっと広い。相手も自分も含まれる。例えば「この授業を受けている人たち全員にとって、あなたの存在は大事だ」ということを証拠を持って伝えないといけない。「I」、「We」もできないといけないので、ひとつのメッセージをいろいろな風に書く、という練習をする。 立場・視点を使い分けた承認

1.8. e-Learning2.0とは

松田岳士 学習支援という分野は、ジレンマを抱えている。熟達したメンタによる対応や高頻度かつ丁寧なメンタリングをすると、それなりの効果がある。ところが、そういった丁寧すぎる対応では、結局1人のメンタが担当できる学習者は極めて限定的になってくる上に、自律的に学べる学習者の育成にまったくつながらない。あまり支援がなくても、ちゃんと学べるようになっていくのが、ある意味理想である。そのためには、いろいろな力を借りようと思った。あんまり 1対1に追い込まれないように、e-Learning2.0、Learning2.0というような形を使おうと考えている。 学習管理システム(LMS: Learning Management System)というのは教材等が中心である。どういうふうに都合良く教材を提供するかが中心となって、 ソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS: Social Networking Service)に比べると、コミュニケーションの機能が弱い。多少メール機能や掲示板のようなものがついているくらいなので、学習支援が難しい。せっかく学習支援をコミュニケーション中心で行おうとしているのに、学習者同士の交流が難しい。ある学習者が別の授業を受けている人と交流したり、ある授業を担当しているメンタが別の授業の学習者にアドバイスしたりするといった、授業の枠やコースの枠を越えての交流は、さらに困難である。
そこでLMSに入る前に、SNSに1回ログインしないといけないというシステムを導入した。学習者がまず教材を見て、つい学習の方ばかりを行い、本来重要な動機付けや、情報を得るために必要なコミュニケーションの方をあまり見ていないのではないかということが、私たちの予想であったため、e-ラーニングの教材があるところに行く前にSNSが出てくるようにした。これは1対 1の支援とは異なる。そして、コミュニティの作り方も、その授業の人だけしか入れないものと、その大学の授業を受けている人が全員入れるもの、その大学の 1年生だけが入れるもの等いろいろと工夫ができるようにした。
その結果、成果があらわれた。「学生にもコミュニティを作っていい」というと、自発的に作るようになった。多様なコミュニティのなかで、コースの壁を越えて、メンタでもないのに「こういうふうにすれば、ここのところはこう動くよ」と周りを教える学生が現れ、学習者の立場を超えた支援が出現した。答えを教えるのではないかという心配もあったが、そのような人はいなかった。これは実名だったからと考える。しかし、やはり問題発言はあった。
それからもうひとつ、「同じ教育機関のe-ラーニングを受講している僕ら」といったアイデンティティが育った。これは非常にいい成果だ。ただ、結局はメンタの負荷軽減にはつながらなかった。やる気のあるメンタは、さらに発言していた。チームの編成や勤務体制等をいろいろ考えながら、予算的にも最も効率的に行なえるようにしたい。
最後にまとめると、学習におけるコミュニケーションを研究している者としては、「安心して学べる」とは、多様な方法で学習者の不安感を払拭することであると考えている。その中で、人による学習支援というのはとても大事だと考える。そして、これをきちんと行うには、第一にオンラインコミュニケーションの特徴を知らなくてはならないし、学習支援者は専門家としてのスキルを身につけて、そのマネジメントもしっかり行うことが重要だと思う。

2. 講演2「Amebaサービス健全化の取り組みについて」
藤井琢倫(株式会社サイバーエージェントアメーバ事業本部/ゼネラルマネージャー)

藤井琢倫

現在Amebaは、2,400万人の会員がいる国内最大規模のインターネットサービスとなっている。基本的にブログ、アメーバピグという大きな2つのサービスが、これまで多くの利用者に使われている。今は、スマートフォンにも力を入れている。今回は健全化、インターネット上でより安全にコミュニケーションをするという観点から話をする。ブログというテキストを基本とするコミュケーションだけではなくて、「アメーバピグ」という仮想空間上でのコミュニティの話をしたいと思う。

2.1. アメーバピグとは

アメーバピグには、約1,200万人の利用者がおり、月次で100万人近く会員が増えている。そこでは自分そっくりのアバターをつくり、そのアバターを着せ替え、自分の部屋を持ち、飾り付けも自由に変えることができる。テーマ別に分かれたエリアに遊びに行くこともでき、ピグの中で遊んでいる他のユーザーと実際にコミュニケーションをとることが可能である。ただのテキストのコミュニケーションではなく、顔の表情やさまざまなアクションを使って、コミュニケーションができる媒体だ。他にも「今日の夕ご飯何にする?」等のトピックに集まったユーザー同士で、自分の今考えていることを発言し合うようなコミュニティエリアもある。 アメーバピグとは アメーバピグとは

2.1.1. アメーバピグのサービス説明(1):piggチャンネルとは

最近、アメーバピグで力を入れているのが「ピグチャンネル」という動画のサービスだ。みんなで動画を見るというサービス。最近だとaveが行ったxa-nationというイベントを、このピグチャンネル上で中継映像を流し、約10万人がそれを同じ時間に視聴していたという事例もある。1つの動画を見て、みんなで意見を言い合うというニコニコ動画とは、少し違う新しい動画サービスになる。
また、お題(例:この夏観たい動画は?)に対して、ユーザーがYouTubeで検索した映像を自由に流し合うコミュニティ色の強い新たな動画サービスは、1日5~6万人くらいの人が使ってくれている。 piggチャンネルとは

2.1.2. アメーバピグのサービス説明(2):ピグカフェとは

ピグ上で、カフェを運営するというゲームである。カフェを開き、お客様を連れてきて、自分が作ったメニューでおもてなしをすることでポイントを稼ぐ。その稼いだポイントでアイテムを購入し、カフェを大きくしていくことも可能だ。本当のカフェの経営までとはいかないが、カフェの内装を楽しめたり、提供するメニューをつくるための材料を調達したりと(たとえば、オムライスにかけるケチャップを購入するなど)、かなり細かいところまでこだわったゲームである。 ピグカフェとは

2.1.3. アメーバピグのサービス説明(3):ピグワールドとは

これからリリースする仮想空間のゲームである。先月末にβ版が出て、一部のユーザーに開放している。自分の街を作って、そこにお客様を呼び、ポイントを得て、そのポイントでまた新しい家を建てることができる。まちづくりを題材としたソーシャルゲームである。 ピグワールドとは

2.2. 現在の課題

藤井琢倫 ユーザー数が増え2,000万人規模のサービスになると、向き合わなければならない問題も出てくる。特にアメーバピグは、コミュニティ要素が非常に強いので、サービスの利用の中でトラブルが発生するケースが出てくるようになった。
小学生がピグ上でIDとパスワードを他のユーザーから聞き出し、その人になりすまして、ピグを利用するという不正アクセス事件を起こしてしまった例がある。小学生・中学生をはじめ、未成年のユーザーはまだ何が正しくて、何をしてはいけないのかということが、自分では判断することができない。青少年保護という観点からも、このような事態を非常に重く受け止めており、絶対に撲滅しなければいけないと思っている。青少年に限らず、ユーザーがみな安心して利用できる“世界”を創るために、徹底的に健全なサービス運営のための取り組みを行っている。

2.3. Amebaの健全な運営のための取り組み

Amebaでは、大きく3つの取り組みをしている。まず、 1つ目はアメーバピグにおける15歳以下のユーザーに対する機能制限(ゾーニング)である。利用時の登録年齢に応じて、使える機能を制限している。 2つ目は、Amebaサービス全体における、システム&人的監視(パトロール)。そして、 3つ目は、青少年のユーザーを中心に「これはやっちゃいけないんだよ」ということを教えるための啓発活動。  まず、ゾーニングで何をやっているかというと、基本的に15歳以下は、Ameba上でコミュニケーションできないようにしている。コミュニケーションが軸になったコミュニティサービスを運営しているAmebaとしては、コミュニケーションを抑制するということに対して、かなり懐疑的だった。もちろん、ビジネス的な側面で多少なりとも影響が出ることも予想できた。しかし、それよりも青少年保護と健全なサービス運営を最優先に考えて、15歳以下のユーザーに対する機能制限を実施する決断をした。
Amebaでは、メッセージなどのコミュニケーションに関わる機能の登録年齢による利用制限を行っている。また、システムだけではなく人が直接目視での監視も行っている。全ユーザーに対して、個人情報のやりとりや、公序良俗に反する内容がないか、全投稿の監視を行っている。 啓発活動に関しては、いかにユーザーにみてもらうか、試行錯誤していろいろな方法で実施している。「Amebaのお約束」というようなルールをつくったり、理解を深めてもらうため安心してサービスを利用するための4コマ漫画のコンテンツを作成するなどしてユーザーに告知をしている。安心のネットづくり促進協議会にも積極的に参加し、こうした取り組みを行っている。

2.3.1. アメーバピグサービス内での健全化に向けた取り組み

藤井琢倫 アメーバピグは、コミュニケーション要素が強いサービスなので健全なサービス運営のための取り組みに特に力を入れている。ひとつは、15歳以下だけではなく、18歳未満のユーザーに対しても注意喚起のアラートを色々な場所で出している。「パスワードを聞いてはいけない」「電話番号を聞いてはいけない」「メールアドレスを聞いてはいけない、教えてはいけない」ということを何度もユーザーの目に触れるように看板やメッセージを出している。15歳以下のピグユーザーに対する利用制限については、 次のスライドをみてほしい。左側は16歳以上で、右側が15歳以下が利用可能な機能である。15歳以下は、基本的には自身の部屋以外のエリアにも遊びにいけないし、他のユーザーとコミュニケーションをとるゲームも遊ぶことができない。あとは、自分の趣味でつながり、ユーザーとコミュニケーションできる「部活」という機能や、「今、このテレビを見ている人たち集まれ」というような特定のテーマで会話を楽しむような場所にも行けないようになっている。基本的に15歳以下は、ピグ上では一切コミュニケーションができない。
16歳〜18歳に関しては、18歳未満の利用者専用のエリアを用意することで、大人と18歳未満の利用者が交流しないような工夫をしている。また、やってはいけないこと、利用にあたって気を付けて欲しいことに関するアラートを頻繁に出すようにしている。例えば、コミュニケーションする時は、チャットの画面で行うが、入力するスペースの近くに「他の利用者にパスワードを教えてはいけません」というアラート文言を出して、細かくユーザーへの注意喚起を行っている。 アメーバピグサービス内での健全化に向けた取り組み

藤井琢倫 機能制限や地道な啓発活動に加えて、月次で新しい施策を出している。先週から始めたものとしては、全ユーザーに対して、映画上映前の注意喚起ムービーのような、みんなが必ず見る映像として、注意してほしいこと、やってはいけないことを分かりやすく伝える動画を流すようにしている。今後四半期に一度「ピグマナー向上週間」として定期的な取り組みとして実施していく予定だ。
年齢を詐称して使っている青少年ユーザーに対しては、チャットをテキストマイニングして「この人は、実は15歳以下なのではないか」と思われる年齢詐称の未成年ユーザーをシステムと目視で特定し、その人に対して警告やペナルティ対応を行っている。ただ、ネガティブなことをするユーザーとは、いたちごっこになる傾向があるので、我々もそこに対しては、日々健全なサービス運営のための新しい取り組みの手を打って対処している。

2.4. 今後の方針について

引き続き、健全なサービス運営のための対策を行っていく。現在はスマートフォン向けサービスの開発に注力しており、30〜40個くらいの新しいコミュニティサービスを作っている。これらのコミュニティサービスについても、青少年が巻き込まれる事件を防ぐことはもちろん、健全なサービス運営により一層力を入れ、日々努力をしていくつもりである。

3. パネルディスカッション
「安心して学べるソーシャルメディア環境」

パネリスト

  • 松田岳士
  • 藤井琢倫
  • 山内祐平(東京大学・大学院情報学環/准教授)

司会

  • 藤本 徹(東京大学・大学院情報学環/特任助教)
安心して学べるソーシャルメディア環境

※みなさまからの意見を司会がまとめ、パネリストに質問を投げかけるという形で進められました。

Q. まず、コミュニティの運営の規模感について確認したい。Amebaはサービスをさまざま開発されているが、開発体制の規模はどのくらいなのか。

藤井:サービスの運営の規模によって全然違う。現在開発中のスマートフォンのコミュニティに関していうと、極力少人数にしようと心がけている。サービスの責任者がいて、プロデューサー、エンジニア、クリエイターで5〜6名を目標としているが、最終的に10名くらいになっている。

Q. 松田先生が運営されている中で、学習者何人に対してメンタ何人を配置するのが適当か、お話いただきたい。

松田:もちろんいろいろな要素を考慮して決まるが、学生何人に対して、メンタが何人つくかは、文部科学省からある程度の指針が出ている。大学の正規の授業であれば、だいたい30〜40人に1人くらいつけるというのが、標準的な数だと思う。しかし、大学の公開講座等の場合は、そんな人数ではとても回せないので、100人とか200人に1人という場合もある。

Q. その場合、大人数をサポートする時のメンタリングのアプローチと、少人数でのアプローチでは、指導する側としてどう切り分けているのか。

松田:今日はあまり話さなかったが、メンタの活動については大きく2つの活動がある。ひとつは受動的な活動(質問や相談に答える)である。要するに、学習者の側から何らかのアプローチがあった時、それに対して返して行くということだ。それからもうひとつは、能動的な活動(進捗管理の支援、スケジュールの管理、事務連絡、提出物をだした時のフィードバック)である。またチームでの業務の引き継ぎや、メンタの活動から評価に使って欲しいものが出てくるといった、チームメンバーとしての活動もある。実際の活動時間の比率でいうと、受動的活動:能動的活動:チーム活動が2:7:1で能動的なものが多い。こちらから働きかける活動の方が圧倒的に多いし、そうでない限り、修了率はそんなに上がらない。頼って欲しい人が頼ってこないということの方が問題なので、30〜40人に1人つくのであれば、能動的な活動がかなり出来るが、人数が増えるとこのレベルを下げていくことになる。例えば、100人を1人で支援するとなると、細かく一人一人を見ていくことができなくなる。能動的な活動の内容のラインを下げていき、活動量を調整して対応していくことになる。

Q. アメーバピグのようなコミュニティで、運営側サイドがアバターを介して活動を支援したり、あるいはモニタリング時に直接コンタクトをとるような、運営側が直接ユーザーに関わるようなことはしているのか。

藤井:あるとしたら、パトロールがある。エリアの中で公序良俗に反するような発言をしている人や、他の人の利用を妨げるような振る舞いをする人に対しては、パトロールしている担当者が指摘をして、その場から退去させることもある。

Q. そのようなコミュニティを乱す人をパトロールする専任の人はいるのか。

藤井:健全なサービス運営のために24時間つねに誰かしらが見ている。

Q. 機能制限をされているユーザーの参加のモチベーションとは?

藤井:この4月に15歳以下の機能制限を行った。それ以降15歳以下のユーザーの参加へのモチベーションはほぼ無いに等しいと思う。我々としては、15歳以下は利用しなくてもいいというくらいの覚悟で、今回の決断に至っている。それくらい背に腹は変えられない決断だった。今使える機能としては、アバターで着せ替えができるくらいだ。本来のピグの面白さは、今の15歳以下は味わえていないと思う。

Q. ピグで、子どもたちがアバターを介したコミュニケーションをする中で、その活動を通して、子どもたちが身につけていることは何かあるのか。見ていて感じることはあるか。

藤井:15歳以下のユーザーは、ピグでのコミュニケーションをかなり抑制しているので、ピグ上での学びは極端に低いと思う。ピグ以外でのAmebaのブログ、コミュニティサービスでは、普段、人とリアルなコミュニケーションが苦手な方が、web上で別の人格を持って、コミュニケーションをしている。学びという観点とは少し違うと思うが、そういうメリットを感じている人は多いのではと思う。

Q. さきほど「部活」というサービスがあるとお話いただいて、ある種の課外活動的なところで支援ができているのではないかと思ったが、部活とはどういったものなのか。

藤井:私の趣味は釣りだが、釣りの中でもブラックバス釣りというコミュニティを作って、「釣り好きな人集まれ」という場所を設けると、それに対して好きな人がたくさん集まってくる。それが部活となっている。コミュニティの別名として呼んでいる。コミュニティという言い方が普及しすぎていて、オリジナリティがなかったので「部活」という名前に変えた。

Q. 部活と通常のコミュニティの違いは?

藤井:基本的に、ピグでチャットを通して発言した内容は残らないが、部活上で発言された内容は、掲示板のように部活内では残っている。リアルタイムにその場にいない人でも、あとでチャットに書かれたコメントを見て、それに対して発言ができる。

Q. 藤井さんにお話いただいたインフォーマルラーニング的なアプローチで、ユーザーは学ぶことがあると思うのだが、何か気が付いた点は?

山内祐平 山内:先にコミュニティの人数の話について補足しておくと、同期と非同期ではだいぶ違うと思う。例えば、コンサートを Ustreamで中継して見るような、リアルタイムで何かを共有する場合は、数千人とか1万人とかでも大丈夫だと思う。非同期になるとそれが極端に難しくなる。非同期の場合、何人くらいが適当なのかというのは、実はオンライン上での同期・非同期云々というよりも、そもそも人間はどのくらいの人とつながれるのかということに関連する。ポール・アダムスが、『GROUPED』(2011)という本にまとめているが、困った時に助けてくれる人はだいたい5人くらい、死ぬと動揺するのが15人くらい、最近の動向を知っている人が50人くらいだという。一般的にコミュニティの限界値は、いわゆる“村”になる。村のスケールというのは、人類学的にダンパーが明らかにしており、ダンパー数と呼ばれるスケールは150人だ。ほぼリアルタイムで、だいたいひとつのコミュニティが成立するのは、150人くらいまでだが、最近はソーシャルメディアが出てきて、知っているけど親しくない、非常に弱いつながりの人がだいだい500人くらいいると言われている。非同期だと、150〜500人くらいがリミットの数字で、それを越えるとえらいことになる。逆にいうと、アメーバピグはすごいことになっていると思う。もちろん、そういうのを管理できる人を増やしていけば、不可能なわけではない。ソーシャルメディアがすごく普及して、みんながつながるようになると、1人からみた時の限界数はそれくらいで変わらないが、全体でマネジメントしなくてはならない量が爆発的に増えている。これがたぶん今日のテーマで、隠された問題としてあると思う。

Q. アメーバピグの中で展開されている、一般の課外活動的なコミュニティの中で行われている遊び、レクリエーション等の活動について、 教育の観点からご意見をいただきたい。松田先生からコミュニケーションにおける非言語情報の話があったが、アバターを使うことで、コミュニケーションのスタイルが変わってくるのではないか。これまでのいろいろな教育分野でも、アバターを利用したアプローチや研究がされてきたと思う。そうした知見から、SNSでアバターを介し、メディアの組み合わせを行う中で、学習コミュニティを形成していくことへのコメントをいただきたい。

藤本 徹 松田:実際にセカンドライフで授業を行ったことがある。2通りの映像をお見せしたいと思う。普通にe-ラーニングを受けてコミュニケーションをした映像と、セカンドライフの授業の映像だ。普通のe-ラーニングの映像では、右側にチャットが立ち上がっている。これでディスカッションしながら見てもいいし、終わったあとディスカッションしてもいいという状況で、3人に同時に受けてもらっている。これが皆さんの考えるe-Learningに近いのではないか。パワーポイントと動画が合わさったものが出てきて、声に合わせてパワーポイントが動いていく。他の人が入っているのは確認して、まったく別の場所で受けてもらっている。その間は横に並んでいる訳ではない。動画が再生されている間、見るのに夢中になって、学習者はチャットでディスカッションを始めない。終わった後にディスカッションが出てくる。これがLMSバージョンである。
一方、セカンドライフで行ったらどうなるか。バーチャル教室でスクリーンが3つあり、それぞれ違うものを映すことが出来る。また、目線を変えてスクリーンを見ることができる。自分が映らないようにすることもできる。授業後、参加していた3人は、画面上でそれぞれのアバターを操作して集まってきた。チャットでも全員の発言を見る事ができるため、実際はこんなふうに1か所に集まらなくても構わない。これが、プレゼンスが高いということだ。彼らは現実と同じように集まって、ディスカッションを始めた。しかも、キーボードを操作している時に、チャットにどんどん割り込むということが起きないので、思いのほか話が噛み合っていく。これが非常に面白い。操作に慣れている人は、他の学習者に操作についてもいろいろと教えてあげる。
パワーポイントと動画のみを視聴した場合も、セカンドライフの場合も、各学習者は行った講義内容についての知識はほとんど無いということを事前に確認しているが、チャットでのコミュニケーションの内容面がかなり異なる。セカンドライフを活用した例では、自己紹介というものがない。アバターによる非言語情報で、こんな感じの人だと勝手に認識している。探り合いにあたる部分がない。人間はさっき言った関係面を作るために、探り合いをする。相手が全然見えない場合は、どんな人なのか、男性、女性もわからないので探り合う。そのために共通の話題が今の授業しかないために、「最初はつまらなかったですね」等の授業の感想が延々と続く。そのあたりがまた面白いところである。
アメーバピグで何が起こっているのか、私は詳しく知らないが、先ほど話した非言語情報がある中で行っているので、コミュニケーションのスムーズさという面では、普通のチャットや掲示板等とは全然違うだろう。掲示板は別の点で意味が違う。掲示板は何を話してもいいというのではなく、何に対してのスレッドなのかというテーマありきで会話がすすんでいく。その人のスキルのレベルによってかなり異なるが、コミュニケーションという面で見た時には、かなりリアルに近いコミュニケーションが起きているのが、セカンドライフであると言える。

「通常のe-ラーニングでの授業」

「通常のe-ラーニングでの授業」

「セカンドライフを利用したバーチャル教室での授業」

「セカンドライフを利用したバーチャル教室での授業」

Q. セカンドライフの実験を今はされていないのか。その当時終わってしまった課題とか弱点は、どのようなところにあったのか。

松田:セカンドライフの最大の弱点は、いつでもどこでもできないということだ。「いつでも」を統一しておかないとできない。ちなみに、実施後も自由に教室に来て視聴することも、一応は出来るようにしたが、教室に来てぽつんと見る人はあまりいなかった。やはり、非同期にはできない。ここにいる3人はあたかも同じ場所にいるように見えるが、それぞれ別の離れた場所から分かれて授業を受けていた。お互いに会うことは全くなかった。地理的な制約は完全に越えていたが、時間的な制約を越えることができなかった。

Q. セカンドライフから、ずっと仮想空間を利用することはあったと思うが、アメーバピグは非常に仮想空間的な良さを活かしつつも、ソーシャルゲームの良さもうまく組み合わせたサービスを開発されていると思う。当時セカンドライフの仮想空間はいろいろなものが続かなかった。アメーバピグの強みは何かあるのか。

藤井:実は、私もセカンドライフで土地を買って、放送スタジオを建てて、生放送を行ったことがある。セカンドライフをやってみて思ったことは、いつでもどこでもできないということだ。とにかく容量が大き過ぎるので、スムーズに動かない。無線LANでは絶対に動かない。使い方も難しいし、いろいろなエリアに行っても人がいないから、やることがない。そういう課題点を全て払拭したのが、このアメーパピグだ。まず、無線LANでも基本的には動く。数万人が同時接続しても、サクサク動く。人がいる時は、その場で何か発言をすると、答えてくれる人が現れてコミュニケーションが発生し、ユーザー同士が仲良くなったりする。これがひとつの強みである。どこでもサクサク動くというところと、使い方が簡単で、人が多くいるエリアが一目で見てわかる。私たちもセカンドライフが失敗した要因を意識していたので、それらをクリアできているのではないかと思う。

Q. 技術的なところでは、当時からエンターテインメントのコミュニケーションサイトの方が早く改善しようとする動きが見られた。これまで、アバターを利用した教育の取り組みやセカンドライフでの教育が行われてきた中で、現在技術的なところを見ていて、今後の可能性だとか、まだこの部分は課題で残ると思うところは何かあるか。また、アバターを介したコミュニケーション、あるいは学習メディアにおけるコミュニティを見ていく時に、これからはどういったところを見ていくと面白いか、お気づきの点があれば、お話いただきたい。

山内:ちょうど松田さんがセカンドライフの研究をされていた頃は、皆あのような研究を行っていた。コミュニケーションや学習に関しては、本質的ではないと今まで思われていた文脈に関する情報が、コミュニケーションや学習にどう機能するのか。それが見えることによって何が良くなるのかという話がいろいろなところで研究されていた。つまりテキストだけだと、話している人がどういう人かわからないが、アバターを見ると「こういう感じの人かな」と、言語化は難しいがなんとなくわかる。「そういう人だからたぶんこういう風に話せる」というようなことが、コミュニケーションや学習をある種外側から制約している。しかし、その制約があるから逆に楽にできる。制約がないと、その制約を自分で探しに行ったり、考えたり、想像したりしなくてはならない。こういう風に可視化されたりすると、むしろその部分は楽になって、より本質的なコミュニケーションに集中できるというところまできている。ただ、スピードはエンターテイメントの方が早く、学習はここまでついてきていない感じがする。これは結構面白い話で、今回アメーバピグは学習サービスではないが、逆に学習サービスもいろいろ学びながら、Amebaのようなスケールになっていかなくてはならない。しかし、学習サービスはものすごく人に依存していて、言い方を変えると、スケールアップができない限界が来てしまっている。増やすためには、Amebaのノウハウを学ばないといけない。その時、アウェアレス情報を上手に可視化して、学習に関するコミュニケーションをどれだけ楽にできるかという点が、ひとつ私たちが非常に学べるところだと思う。

Q. アメーバピグで、Facebookの「いいね!」のようなことができる「グッピグ」とはどういったものか。

藤井:「グッピグ」というのは、「あなたのピグいいね」という合図だ。それをお互いにしあう。やはり、お互いにウェブ上でテキストを入力して発言するのは恥ずかしい。ウェブ上で発言するより、もっとライトにアクションするというのは、Facebookでいうと「いいね!」、Twitterでいうと「リツイート」にあたる。グッピグされるとピカピカ光る。コミュニケーションをするひとつのきっかけを与える機能となっている。

Q. いきなり現れて話しかけられても困惑してしまうと思うのだが、初心者はそのような段階から次第に慣れていくと思う。その過程とはどのようなものなのか?

藤井:仲良くなった後に「ピグとも」になる。仮想空間での出会いをきっかけに、ピグ上での友達になっていくことができる。リアルタイムに人がピグ上にいれば、会いに行ったりすることができる。ピグともの家に遊びに行くこともでき、遊びに来たと合図を送ることができる。この合図もまた、コミュニケーションのきっかけとなる。そして次第に密なコミュニケーションとなっていく。

Q. 学習関連のサービスについて、Amebaは何か取り組みを行っているのか。

藤井:今のところはしていない。松田先生のセカンドライフの事例とは少し違うのだが、みんなで動画を見るピグチャンネルを、教育に展開できる可能性はあると思う。ユーザー同士で、プレゼンテーションをしているところに対して発言し合うといったことは考えられる。

Q. Amebaには集う場があり、授業を受ける以外で普通に学校で行われているようなコミュニティ活動が、いろいろな機能でサポートされている感じがした。e-ラーニングの分野では、科目の内容について学ぶ講座以外のところではどのようなサポートがされているか。

松田岳士 松田:いろいろなことが考えられる。今のe-ラーニングというのは、e-ラーニングだけで行われることよりも、ブレンデッドラーニングと言われる対面の授業とe-ラーニングでの予習復習を組み合わせて行われている方がはるかに多い。それは、ある意味正常な形だと思う。その中ではブレンドの部分、リアルなコミュニケーションの中でe-ラーニングに言及したりすることもある。それからe-ラーニングを受けている人だけに限らず、コミュニティを作ったりすることもある。例えば、私が取り組んだもので、Y大学時代に、R大学との交流プログラムで、お互いの大学からビデオ会議システムを使う交流活動等をしたが、一番効果があったのは、関係者のみが入れるSNSを作ったことだった。その時、工夫したのが、活動をすると自分のランクが上がっていくというものだ。飛行機のマイレージ会員のようなシステムを入れた。本質とは関係ないのだが、徐々に自分のランクが上がっていくのがすごく楽しかったらしく、画面上にログインすると自分のステータスとして「ゴールド」とか表示されるのがすごく嬉しかったという。そういうことがモチベーションになっていた。したがって、学習すると何か良いことがあるというよりも、人は知らない人と知り合って、次第に友達になっていく過程に、さらにインセンティブが加わると喜んでやる。そこでは結構気難しい人や「SNSなんて嫌です」という学生も最後は「良いですね」と言っていた。やはり人は、コミュニケーションする動物だと思った。しかも知らない人と知り合いになっていくことに、喜びを見いだす。引きこもりの人が、引きこもっているだけなのかと、引きこもりの研究をしている先生に聞くと、そんなことはないという。一生懸命いろいろなコミュニケーションを取ろうとしているが、ただそれが親やリアルな社会の相手では上手く行っていないだけだと言っていて、その点はうなずけると思った。

Q. 提供しているサービスについて、想定していなかった使い方をされて、問題が起きてしまったこと等はあるか。事例があれば教えてほしい。

松田:個人にコミュニケーションする場を与え、個人のストレージみたいなものを作って問題になったのは、あまりにも自由感が出てしまって、自分がやっているサークルの宣伝等を一生懸命し始める人が出てきたことだ。こちらもどこまで利用規則を作るかという部分で、あまり想定していなかったことだったので、規則の穴を突かれたことだった。もうひとつは、まったく関係のない自分のデータ置き場にした人がかなりいたことだ。人とあまり交流せずに、ぎりぎりまで自分のデータを置いていた。みんながそれを行うと、サーバー容量的に厳しくなってくる。また、コミュニケーションのなかで喧嘩気味になり、炎上まではいかないが議論が白熱しすぎたこともあった。企業のように、毎日教員が見回るというようなことは難しく、職員と手分けして、週に2回くらいは見回るようにした。それでもちょっと危険を感じたことはあった。ただし、大学が学生を対象に提供するSNSやe-ラーニングだったりするものは、たとえハンドルネームを認めたとしても、基本的にはこちらは実名で誰であるかがわかっている。そういう意味では、そこまでむちゃくちゃにはならない。

藤井:少し違うかもしれないが、ピグというのはプラットフォームサービスなので「そのプラットフォームを利用して、多様な使い方をしてください」というのが私たちの考え方である。なので、自然といろいろな使い方をしてくれる。勝手にユーザーがピグの使い方、楽しみ方という動画をYou Tubeにアップしてくれていることもある。こちらが出したアイテムを「こういう使い方をしたら裏技が使えるよ」というように教えてくれる。こちら側が意図していないけれども、プロモーションをしてくれている。

Q. ユーザーが勝手に行いはじめるというのは、学習的には面白い点だと思うが、これまでの話を受けて何かコメント、補足などをいただきたい。

山内:今日のテーマに引きつけて話すと、「安心」という時に、ひとつの要素として、好き勝手やらせてくれるということがある。好き勝手というのは、自由があるということだ。 ルールはあるが、自分がそこで何かの活動をすることができて、それによって自分にとって何か良いことがある仕組みであるということをユーザーに認識されれば、比較的安心できる空間の条件の1つにはたぶんなるのではないかと思った。

松田:ひとつ危険に感じたことを思い出したのだが、メンタがストーカーのようにつきまとわれるということがあった。丁寧に支援を行ったことで、「こんなに優しくて、すごくいい大学院生が大学にいたんだ」と良いように良いように想像が広がって、女性のメンタがすごい人気になってしまった。ストーキングに近いことがあって、外れてもらったことがあった。メンタに適し過ぎているのもいかがなものかと思った。

Q. 想定していなかった問題に直接対応するのは、メンタである。その時に、学習支援者のトレーニングはどのように行っているのか。介入のガイドライン的なものは提示されているのか。

松田:「日本イーラーニングコンソシアム」というところに、e-ラーニングの学習支援の資格というものがある。これに準拠した教育プログラムを作っている。基本スタンス、ファシリテータ、組織メンバー、コミュニケーター、オンライン倫理遵守、コーチングなどである。特に個人情報に接する時の個人情報保護法、人のものを引用したりする時の著作権法、プロバイダー責任制限法という3つの法律については、きっちり学んでもらうことにしている。外向けに市民講座等で資格を取る際の標準学習時間は、35時間ちょっとだ。学生の場合には、大学は45時間で1単位なので、1学期で出来るはずなのだが、実際にはそこまでとてもできないので、最低2コマくらいで行なっている。これに基づいて設計し、育成プログラムの外向け、内向けを行っていた。

Q. その際、対応が難しい状況を想定してのメンタリングの練習も行ったりするのか。

松田:行う。仕事として、訓練を行ってもらっているので、どういう手続きでメンタリングするのかというのを話す。メンタがなんとなく自分のスキルのみに依存して、好き放題に行っている訳ではない。メンタリングガイドラインという活動のきまりを作って行うようにしている。例えば、質問があって何時間以内に返信しなくてはならない等の項目がきちんと書いてある。もともとメンタリングガイドラインは、やり過ぎを防ぐものだった。先ほどのストーカーにつきまとわれた事例のように、すべてをフォローしている状況というのはおかしいので、どこまではやって、どこまではやらないという時間の水準や、ここからは踏み込まないなどの目安を決めている。これに基づいて、それぞれの状況に対応しようとするが、それでも困難な場合があるので、その際には先生や、チーフメンタとかに相談できる体制を作っている。ただし、全部の問題を解決することはできない。学習に関係ない質問や相談(例「飼っていた犬が死んだから勉強できない」)をされた場合には、最大限は話を聞いて「どれくらい勉強を中断して、それからまた再開しましょう」とアドバイスをする等、e-ラーニングのメンタとしてどうするべきかを考えていく。ケースは網羅できるようにしている。

Q. 問題が起きるほうが場は活性化する、という側面もあるのかという質問がきている。問題があって、さらに上手くいくようになるというケースは何かあるか。

藤井琢倫 藤井:基本的には、大人のユーザーにピグを楽しんでもらおうという方針に変わってから、成人の方の継続率はあがっている。年齢による機能制限を明らかにしてからは、大人が安心して参加できるサービスになった。思い出したのだが、実は、サイバーエージェントでもe-ラーニングのサービスとして、英会話のアプリを一度作ったことがあった。松田先生がおっしゃっている先生やメンタを、 外国人のすごく魅力的な異性にしたら、英語の勉強が捗るのではないかという仮説をもとに作った.「もし、恋人が外国人だったら」というアプリで、外国のイケメン 男性や美女が恋人で英会話の先生という設定になっている*。その先生から電話がかかってきて、リスニングの練習をし、練習をしたものをクイズで復習し、そのクイズを解くと、新たなメッセージが届くという非常にシンプルな流れだ。憧れの異性によってe-ラーニングする上でのモチベーションを保ってもらおうとした。あとはゲーム形式にして、クリアしていくことにより、英会話力を高めていることを意識してもらうように作った。現在は、新たにちょっと違う観点から、みんなで協力してダイエットしようというサービスを開発した。一人の力ではなくて、ソーシャルメディアの力を使って、みんなでダイエットすれば、すぐあきらめてしまう私の弱い心も、折れずに頑張れるのではないかというものだ。支援者が複数いる状況にしている。

*もし彼氏/彼女が外国人だったら英会話
http://content.ameba.jp/ameba_english/

松田:ブレア政権の時代にイギリスでe-ラーニングがどかんと広がったことがある。労働者政権であったため、労働者の学習を重視する立場から広がったのだ。実は、その時、男性には女性のメンタがつき、女性には男性のメンタがつくという国の政策があった。ある程度成果は上がって出だしは良かったが、だから学び続けようという話にはあまりならなかった。今出てきたみんなで励ましながらの方が、もしかしたら良いのではないかと思う。

山内:まず、あまり今日出ていない視点を紹介したい。日本人はすごく自尊感情が低い。自分は出来ると思っていないので、こういうハードルがものすごく高い状況をつくられても「外国人の彼女、彼氏は俺には関係ないよ」と思われてしまうのでは。逆に、肉食系の人からすれば、既に現実で行っているから関係ないと思ってしまい、ズレを感じてしまう。自尊感情が低いというのは、実はいろいろなところに影響を与えていると思っている。
コミュニケーションのパターンは、自分に自信があるかないかで全然違う。教室内のコミュニケーションも、オンラインのコミュニケーションも、日本人とそうではない人ではだいぶ違うと思う。実は、メンタ等の話も文化差があるのではないか。ここが大事なように思う。自尊心に関する研究はさまざまあるが、国際比較調査をすると、子どもたちを含め、日本人の自尊心は低い。潜在意識の自尊心が最近IAT*というテストで測れるようになり、それを用いて図ると潜在意識的には自尊心が高いのに、従来のアンケートで測ると低いという人が結構いる。これはどういうことかというと、そもそも「俺できるよ」というのは、たぶん日本的には謙譲の精神に反するのでアウトになる。そのため、小学校から中学校にかけて、自分が出来るとか積極的に何かコミュニケーションすることを抑圧されている結果のあらわれと考えられる。こうした非常に複雑な日本独自の事情が、オンラインのコミュニケーションの場に影響を与えているのではないかと思っている。
安心には2つの レイヤーがあって、ひとつは犯罪みたいなことがきちんと起きない「安全」のレイヤー、その上に「なんとなく居心地が良い」というレイヤーがあると思う。そこのレイヤーの話をする時には、自尊心についての話が、結構関連するのではないかと思っている。そのあたりのお話を松田先生に是非伺いたい。

*IATテスト
https://implicit.harvard.edu/implicit/japan/

松田:そうですね。自尊感情が低いというのは、国際調査ではっきりと出ている。それがどういうことにつながるかというのは、いろいろある訳だが、ひとつ言えるのはやはり、そこがグループイズムの根源になっているということだ。 みんなで学習して、みんながこれくらい進んでいる、去年の平均点はこうだったとかいうのを聞くとすごく安心する。私が中原淳先生と本を書かせていただいた時に、いろいろな企業を巡って、社内研修の取材にいった。その中でA社には、みんなで受けるe-ラーニング教室があった。個室になっていて、個々に行われているものだと思っていたので、マネージャーの方に話を伺ったら「日本支社独特のものだ」と言われた。日本とマレーシア等にしかないそうだ。それらの国は「みんなで学ぶことがすごく好きなところだ」とその方は話してくれた。自尊感情と言えるのかわからないが、「突出するのが嫌だ」ということだ。これは非常に不思議な現象だと思った。だからメンタも「みんなも同じだから大丈夫」とか、先ほどのweメッセージがとても効く。

安心して学べるソーシャルメディア環境 山内:別な研究で面白い話がある。グループで学習する際、より出来るようになりたいという達成動機と、人とより仲良くなりたいという親和動機がある。アメリカ人は、「普通よりよくできるためには、自分一人でいっぱい頑張らなくてはいけないから、友達と遊んでいる暇はない」と考えるため、両者は負の相関になる。ところが日本人は、両者が正の相関になる。つまり、誰かのために勉強するということだ。先生やメンタのために勉強するという、実はウェットな人間関係がオンライン上にもある。これが国際的には普通ではない。逆にいうと、日本に特化してそれを行おうとするサービスはできると思うが、国際的にはそれはたぶん通用しない。このあたりは、かなり文化依存の話があるように思う。

Q. ユーザーのパーソナリティや文化的な影響はたしかにある。ソーシャルゲーム等では、ユーザー間でものをあげたりする互助関係が見られると思うが、日本のユーザーの利用動向として、それは認められるのか。

藤井:ソーシャルゲーム全般そうだが、協力しないとレベルアップできず、ボスが倒せないから協力する、武器を交換し合うというのは頻繁に見られる。

Q. ユーザーが他のユーザーを自発的に仕切ったり、サポートしたりすることはあるのか。

藤井:一般的には、ものすごくレベルが高い人で、自分の力を貸してあげるような人は現れる。掲示板で告知して、応募してきた人に力を貸したりすることはある。

Q. 最後にパネリストのみなさまから一言ずついただきたい。

藤井:松田先生から、N対Nでのダイエットサービスはいけると言っていただけたので、自信を持ってサービス化していきたいと思う。

松田:基本的に、学習というのは人対人で起こる。これはどんな便利な世の中になっても、そんなに変わらないのではないか。ただ、コミュニケーションの諸相は、かなり変わっていく。そこの部分を私自身もっと勉強して、きちんと取り組んでいきたいし、皆様からお知恵を借りてやっていきたい。今日も問題があっても良いのではないかというご意見に、はっとさせられた。気づきを得られてよかった。

山内:今日のテーマは「安心して学べるソーシャルメディア環境」ということで、 先ほど話したように「安心」には2つレイヤーがあると思っている。1つ目の「安全」の実現のための対応は、明らかに社会的に認められないことを排除することだ。これは、システム上、ロックアウトするのが一番良い話だが、なかなかそれが出来ない場合はどうするのかというのは難しい問題で、アメリカでもこの問題が最近出てきている。アメリカでは人工知能技術を使って、炎上を上手にコントロールして、管理者ができるだけ初期の段階で手が打てるようにする研究開発が、かなり進んでいる。今まで教育は、教室での対面もそうだが、オンラインもだいたい100人くらいの規模で、高いノウハウを持つ人が頑張ってやるというスケールで行われてきた。しかし、どんどんサービスが大きくなっていくにつれて、それに対応できるように私たちも考えなくてはならない時代になった。2つ目は、人と人との「居心地の良さ」のレイヤーだ。こちらは教育としては本筋といえる。ある種のノウハウは、松田先生のようなこの分野の研究者のところに溜まってきている。そこで研修を受ければ、学習がきちんとできるような支援者を養成できるようになっていると思う。しかし、松田先生がおっしゃるように 非常に難しいところだが、逆にそういったものに学習者が適応してしまって、学習者自身が自らの学ぶ力を失っていくことも考えられる。教育的にそれは矛盾した行為になる。教育という助けの行為が、はたしてどう助けることで意味を持つのかはとても難しい。そのあたりは考えていかないといけない。

安心して学べるソーシャルメディア環境

この公開研究会レポートは当日の記録をもとにベネッセ先端教育技術学講座で作成したものです。

テーマ

安心して学べるソーシャルメディア環境

BEAT(東京大学情報学環ベネッセ先端教育技術学講座)では、2012年度第2回 BEAT Seminar「安心して学べるソーシャルメディア環境」を9月1日(土曜日)に開催致します。

近年のソーシャルメディアの普及が進む状況において、SNSやオンラインサービス利用における個人情報保護やメディアリテラシー教育の問題など、利用者が安心して利用できるソーシャルメディア環境のあり方への関心が高まっています。

今回のBEATセミナーでは、オンライン学習環境における学習者支援のためのeメンタリングについて研究されている松田岳士氏(島根大学・教育開発センター/准教授)に、オンラインの学びの場における人的なサポートの重要性や体制作りについてお話しいただきます。そして、企業でソーシャルメディア運営を行う立場から、藤井琢倫氏(株式会社サイバーエージェントアメーバ事業本部ゼネラルマネージャー)に実際のサービス運営における取り組みについてお話しいただき、安心して利用できるソーシャルメディア環境の人的、システム的なサポート体制について議論を深めたいと思います。

日時
2012年9月1日(土)
14:00~17:00
場所
東京大学 本郷キャンパス
情報学環・福武ホール(赤門横) 福武ラーニングシアター(B2F)
内容
14:05-14:45
1.講演1「eメンタリングが支える学びの場づくり(仮)」
松田岳士(島根大学・教育開発センター/准教授)

14:50-15:30
2.講演2「Amebaのコミュニティ運営における取り組み(仮)」
藤井琢倫(株式会社サイバーエージェントアメーバ事業本部/ゼネラルマネージャー)

15:40-16:00
3.参加者によるグループディスカッション

16:00-17:00
4.パネルディスカッション
「安心して学べるソーシャルメディア環境」
司会:
藤本 徹(東京大学・大学院情報学環/特任助教)
パネリスト:
松田岳士
藤井琢倫
山内祐平(東京大学・大学院情報学環/准教授)
定員
180名
参加費
無料
懇親会
セミナー終了後 1F UT Cafeにて 参加希望者(¥3,000)

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