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018:2005年度 第10回 2006年1月7日開催

使える英語を身につけたい!:語学学習を支援するデジタル教材のこれから

  • 使える英語を身につけたい!:語学学習を支援するデジタル教材のこれから

0. 趣旨説明

今年度のBEAT Seminarでは、歴史的に著名マルチメディア教材のレビューを行っていく予定です。
第10回となる今回のテーマは「使える英語を身につけたい!:語学学習を支援するデジタル教材のこれから」です。現在実際にユーザに提供されている先進的な語学学習教材が紹介されました。CD-ROMを媒体としたもの、学校放送とWebを連携したもの、短期集中型のe-learning教材が紹介されました。その後のディスカッションでは、語学学習を支援するシステム・教材開発の今後の展望について討論されました。

1.「『思わず話したくなる』ゲームで『使って通じる楽しさ』を育てる…『BE-GO』」
子ども向け・在宅学習・音声認識CD-ROM教材
ベネッセコーポレーション/BEATコーディネータ 中野真依氏

1.1.「BE-GO」とは?
http://www.be-go.com/

「BE-GO」は7才から13才を対象としたCD-ROMの英語教材である。ポイントは在宅でコミュニカティブな英語を身につけ、始めたその日から英語でのコミュニケーションを楽しむことができるという点にある。3年間のコース教材で、対象年齢中の任意の3年間で履修することを想定している。「コア・イングリッシュ」、「Learning by Doing」、「子どもが自分のペースで学べる」という3点を重視して制作された。これらの詳細については後に述べる。

1.2.「BE-GO」の特徴

「BE-GO」の特徴 「BE-GO」の最大の特徴は音声認識・発音評価にある。学んだ英語表現をマイクに向かって話すことにより単語単位での発音の評価が可能である。キャラクターのアクションに対し、子どもはヘッドセットを使って英語で声かけをする。声かけのための選択肢や発音の手本を参照しながらヘッドセットで発音をすると、キャラクターがリアクションをするとともに採点がされる。選択肢に正解・不正解はなく、このような状況でこのようなことを言うとこのようなことが起きる、といったことを学習することができる。CD-ROMを終了する際には、今回どれだけ話したか、次に何をしたらよいのかなどの活用促進のメッセージが表示される。

1.3.「BE-GO」の構成

「BE-GO」はこの機能と教材を含んだCD-ROM、学んだことを書いて覚える冊子、Webを用いたリスニングテストの「BE-GO検定」から構成される。検定に合格すると、分野別の評価やアドバイスが記載された検定証が郵送される。
CD-ROMには1枚ごとにいくつかのゲームが入っているが、全体を貫く目的として「買い物」などのテーマが設定されている。買い物をしながら英会話をしていくと、スタンプがたまっていく「スタンプラリー」などの機能を設けることにより、CD-ROMをまんべんなく利用させる工夫をしている。

1.4. 開発の背景

開発の背景 「BE-GO」は1999年に開発が開始され、2001年に商品化された。この時期に「BE-GO」が開発された背景には、ニーズ的背景として従来の在宅英語学習に対する問題点の顕在化と、環境的な背景としてPCの普及、インターネット環境の充実や音声認識技術の精度の向上などがあった。
過去のビデオ教材などのように一方的に見たり聞いたりするだけの教材では、学習者のペースに個別に対応することができない。また、部分を繰り返すことが難しいため、一回通して見て終わってしまったり、何回聞いたらいいのかがわからなかったりして、間違って覚えてしまう可能性もあった。またビデオ教材に加えて、英会話教室でも同様であるが、決められたフレーズの練習ばかりするので、自分のしゃべりたいことの練習ができない。一人での学習では、自分の発音が正しいのかわからない、すぐに飽きてしまう。これら「受身・実感がない・続かない」という従来の教材の問題に対して、解決案を提示してほしいというニーズが高まってきた。「BE-GO」ではコンピュータの特性を活かし、能動的・伝わった実感・飽きが来ないといった在宅英語学習の実現を目指した。

1.5.「BE-GO」で何ができるのか?

「BE-GO」で何ができるのか? 「BE-GO」では知っている言葉を増やす「コア・イングリッシュ」と、実際に自分で使えるようになった言葉を試す「コミュニケーション体験」の2つのプロセスを、自分のペースとレベルで繰り返すことができる。これが「Learning by Doing」である。「コア・イングリッシュ」では、使う必然性のある言葉やフレーズを厳選して、覚えるまで練習する。「コミュニケーション体験」では覚えた言葉を使う意味のある状況を設定して、自然な形でロールプレイングできるようにしている。また、学習を継続させるために、具体的な学習結果に応じて点数を提示したり、タイミングに応じてキャラクターからほめ言葉を与えたり、コンピュータのインタラクティブ性を活かしいろいろな形で学習の成果を実感させるよう工夫している。

1.6. 今後の展望

テクノロジの進化と活用について期待はいくつかあるが、学習支援の点から、ネットワークとの連携をより高度化し、学習状況に応じて見守りや声かけをする仕組みと、より個人に適したコンテンツの提供を図りたい。また学習効果を高めるという点から、音声認識や評価技術の向上により、発音や発話のより具体的なアドバイスが可能になることを期待している。

2.「新旧メディアを連動させて、教室に楽しい英語活動を実現する…『えいごリアン』」
初等教育向け・学校放送とWebの連動
NHKエデュケーショナル 箕輪 貴氏

2.1.「えいごリアン」とは?
http://www.nhk.or.jp/eigorian/

「えいごリアン」とは? 「えいごリアン」は小学校3年生4年生を対象とした15分の英語教育番組である。年間20本の映像を2年間、制作して放送してきた。今はそれらを再放送している。補助教材として、学校放送テキスト、DVD、CD-ROM、カードゲームが用意されている。
制作・放送の背景としては、1996年に中央教育審議会が、小学校教育に英語を取り入れようという議論を始めたところにある。小学校における英語学習の内容に関する議論は今もなお続いている。また「総合的な学習の時間」の導入も大きなきっかけである。総合的な学習の時間では、外国語に触れたり、外国の生活や文化などに慣れ親しむ、体験的な学習が推奨されている。NHKでは文部科学省の方針に沿った教育番組を制作しており、この総合的な学習のためのコンテンツとして「えいごリアン」を制作した。

2.2. 番組開発のためのリサーチ

番組開発のために、児童英語教育の実践例、第二言語習得理論(臨界期)、小学校英語のカリキュラム開発、インターネットと英語教育、小学校英語の授業をリサーチした。また、文部科学省教科調査官、大学研究者、児童英語実践者、小学校英語研究開発校、小学校教員、ウォルトディズニーの英語教材開発者などを取材した。なかでもウォルトディズニーはアジア全域に向けてコンテンツを提供している点が興味深かった。それに対して我々は日本の教育に適したコンテンツの作成を目指した。

2.3.「What is this?」「This is a pencil.」

「What is this?」「This is a pencil.」 こういう英会話の表現は、教科書でしばしば目にしたことがあると思うが、「これはなんですか?」に対して「これは鉛筆です。」といったやりとりは日常では考えられない。つまり鉛筆は誰が見てもわかるわけで、鉛筆を指してこれは何という発問は通常あり得ない。このような表現を教科書に用いていたのは、単純に文法を教えるためということが考えられる。教科書の英語表現が、いかに現実的な場面に即して作られていないかということを象徴している。今、ほとんどの大人は6年から10年以上英語教育を受けているにも関わらず、英語で日常会話ができると答えられる人は少ない。前出のよう古いタイプの教科書による弊害であると考える。公立の小学校で、定期的に英語教育を行う試みは過去に無かった。「えいごリアン」ではこれまでの教科学習のしがらみを受けずに、新たな英語教育を提案しようとした。小学校での英語活動を今の大人が見るとただ遊んでいるだけに見えて不安に思えるかもしれないが、自分たちが受けた英語教育と同じような教育を受けていたとしたら逆に効果を疑うべきである。
実際に番組を見ていただくとわかるが、たとえば日本の子どもが外国人の家を訪れるというシチュエーションを設定し、見たことがない外国の物に対して子どもは「What is this?」と問いかける。それに対して外国人は「This is ○○○」と答えていく。このような現実的なシチュエーションを設定している。これは総合的な学習の時間で言われていることを実現しようとしている。

2.4.「えいごリアン」の基本方針

「えいごリアン」では音声中心の英語表現が基本である。日本語は極力使わず、シチュエーションの中で英語を使用している。また、英語を国際語と考えているため、登場する人物の国籍は問わない。コミュニケーションのツールとして英語をとらえている。

2.5. 指導する先生へのお願い

「えいごリアン」は英語がわからなくても内容はわかるように制作されている。この点についておもしろい現象がある。高学年になるにつれて「解らない」という児童がでてくる。高学年になって知的好奇心が強くなり、英語を理解しようとすることで、逆に英語がわからないことに気付くからである。高学年向けに「スーパーえいごリアン」を制作しているが、逆にこちらでは英語表現を「えいごリアン」より簡単にすることを心掛けている。高学年になるにつれて英語表現を優しくする。これが小学校英語のメソッドである。
「えいごリアン」はあくまで外国語・外国文化への興味をかきたて、語学学習への期待感を高めることを目指している。よって、先生は子どもに対して「解った」、「言えた」、「覚えた」は禁句である。これらは楽しむことを阻害し、プレッシャーを与える。同じ理由で発話・発音の強要、文法的な間違いを指摘してないことを現場の先生方にお願いしている。

2.6. Webとの連携

箕輪 貴 「えいごリアン」のWebサイトでは放送の一部や、クイズのコンテンツを提供している。クイズは自分の能力を試すというよりは、間違った選択肢を選んだとしてもそこで発話される表現を聞くことによって、より多くの英語表現に触れてもらうことが目的である。またWebでは、先生のための指導方法も公開している。「えいごリアン」を学校の授業で活用する場合のマニュアルや、具体的な授業の様子を動画で見ることができる。放送とWEBを用いれば小学校でも相応の英語教育ができるようになっている。

2.7. 今後求められる英語教育とは?

英語教育に求められるのは、受験のための英語ではなく、小学校では国際理解、中学校では国際交流、高校では国際協力、大学以上では国際貢献を目指していくべきであると考える。学校教育のひとつの目標として、例えば、「NPO・NGO活動ができるような能力」と規定した場合、コミュニケーション能力が伴う英語力、IT技能を有してネットワークで活動できること、チームワークをとりながら力を発揮できること、ボランティアとして働けること、社会から必要とされることなどのスキルや知識が求められると思う。実は、こうした能力は、企業も求めているものである。このことを逆算した結果できたのが「えいごリアン」である。

3.「徹底した集中訓練で、伸び悩みの壁を突破する…『ぎゅっとe』」
高等教育・一般向け・短期特訓e-learning教材
広島市立大学 青木信之教授

3.1.「ぎゅっとe」とは?
http://gyuto-e.jp/

「ぎゅっとe」とは? 「ぎゅっとe」は大学生や一般を対象にした短期集中型のe-learning教材である。現在の大学英語教育には2つの根幹的問題がある。一つは絶対的な授業時間の不足である。英語を専門とする学部でない限り、1週間に90分の授業を2回程度、学期間に22時間程度である。もう一つは授業の中で英語を実践的に使う機会がないことである。一般的な受講者数は50名程度で、少人数をうたっている大学でも30名弱である。このような規模のクラスになると、先生の目は隅々に行き届かないし、会話などのコミュニカティブな授業は不可能で、できることは限られてくる。一見するとシンプルなこの2つの問題は、しかしながら、予算や時間など様々な制約で解決することが難しい。
「ぎゅっとe」の基本的な考え方は「外国語学習≒スポーツの習得」である。共通しているのはコーチが手取り足取り指導をすることが必要なことと、素振りなどの反復練習が必要なところにある。前者にはコーチが必要であるが、後者は必ずしもコーチが必要ではない。反復練習にはコーチは必要ではないが、技術の習得には大変重要である。スポーツにしても英会話にしてもある程度反射的に行動しなくてはならないが、そのためには反復練習が必要である。これまでの授業を振り返ってみると、英語の授業では指導と反復練習の両方を、先生が学生に付いてやろうとしていたのではないだろうか。ただでさえ先生の時間が限られているわけだから、先生がいなくてもできる反復練習はコンピュータに任せて、先生は先生にしかできないこと、すなわち指導に専念すべきであるということが、「ぎゅっとe」の基本的なコンセプトである。
「ぎゅっとe」は産学連携の産物であり、現在は製品として他大学での英語教育にも活用されているhttp://gyuto-e.jp/参照)

3.2. カリキュラムへの応用

青木信之 「ぎゅっとe」の考え方をカリキュラムへ応用すると次のようになる。一つは、反復練習の部分をコンピュータに任せ、絶対的に不足している学習時間を大量に増やす。もう一つは、反復練習の部分をコンピュータに任せることによって、負担が減った教師を再配置し、少人数制のクラスを実現する。そして、その少人数クラスを、教師しか指導できないこと、例えばスピーキングやライティングの指導に当てる。このように「ぎゅっとe」のメリットを前出の2つの根幹的問題の解決につなげることができる。広島市立大学では、英語科目が合計8単位あるが、4単位を授業、4単位をe-learningとする予定である(平成19年度より)。

3.3.「ぎゅっとe」の内容

使える英語を身につけたい!:語学学習を支援するデジタル教材のこれから 教材は出版社の物を使う場合、契約が大変厄介になるため、独自に開発をしている。「リーディング」「ライティング」「スピーキング」「グラマー」などの項目がある。
「ぎゅっとe」の基本コンセプトは、大量の教材を集中して学習することにより英語力を伸ばすというものである。例えば、「リーディング」には、80の英文とそれぞれに10問の内容把握問題がついており、また、「リスニング」は合計800問と、相当なボリュームとなっているため、学生は「リーディングとライティング」、「ライティングとスピーキング」といったように2項目を選択することになる。リーディングは通常の大学の英語のテキスト3冊分に相当し、リスニングはTOEICの問題集8冊分に相当する。受講者はこれらの教材すべてを8週間で終えることを求められる。これまでの実施結果から、TOEIC500点程度の受講者であれば、8週間で終えるには、月から金まで毎日1時間半の学習が必要となることがわかっている。
また、学生の学習の履歴は受講態度の評価に加えて、研究目的のために記録されている。例えば、「リーディング」では開始ボタンを押すと文章が表示され、読み終わったら終了ボタンを押す。それによって、1分当たり何ワード読んだかが記録される。不真面目な学生が手抜きをしようとすると、1分当たり1,000ワードや2,000ワードといったあり得ない値が記録されるため、不正の防止にもなっている。文章を読み終わったら10問の問いが表示される。10問のうち、6問は細部について理解をチェックするローカル問題、3問は大きな理解を問うグローバル問題、そして1問は文章には明示的に書かれていない内容を問う推測問題となっている。このような項目分けによって、受講者の弱点を把握しようとしている。また、この10問のうち何問正解すれば次の英文に進むことができ、できない場合は何回の読み直しを課すかなどについても、教師側が自由に設定できる。さらに、復習したい場合は、復習ボタンを押すと復習リストに追加され、後から同じ問題を参照することができる。
「リスニング」の問題では、英文を聞き、問題に答えるわけだが、「もう一度聞く」などのボタンも用意されている。このボタンを何回押したかというログが記録されていて、学生の特徴や学習の効果を把握しようとしている。

3.4.「ぎゅっとe」の効果

「ぎゅっとe」での教育効果はTOEICのスコアに表れている。また、消化率はいずれの項目も90%以上と非常に高い。これは実際のTOEICのスコアに表れているという実績を学生が理解し、熱心に取り組んでいるためと思われる。また、評価でCをもらう最低条件が70%の消化率となっている。BをもらうにはTOEICのスコアの伸びが加味される。ドロップアウト率は1.9%と非常に低い。
また、本プロジェクトでは、学習システムや教材をさらに効果的なものにするための試みと同時に、学習者の態度を変容させる試みも行っている。例えば、伸びの良い学生(overachievers)のやり方を、伸びの良くない学生(underachievers)に教えたらどうなるかなど検討している。

4. ラウンドテーブル

前出の3名に加えて、京都外国語大学マルチメディア教育研究センターの村上正行氏を指定討論者として迎え、ラウンドテーブルが行われました。まずは村上氏に前出の3名のプレゼンテーターに対して質問をしていただきました。

中野氏に対する質問
Q: 初等教育ということで、子どもにどのようにモチベーションを持たせるかということの工夫をされていましたが、そのポイントはどのようなものでしょうか。
また、初等教育については親との関わりが重要ですが、それについて詳しく説明してください。
最後に、音声認識の技術についても触れられていましたが、どのような技術があればどのようなことがこれから実現されるのでしょうか。

中野真依 A: モチベーションについて、ベネッセではアンケートによって子どものモチベーションが低下する時期をある程度把握している。教材になれてきたときの中だるみや、内容が難しくなってきたときがそれに当たる。そのような時期には派手目のゲームを入れたり、キャラクターからの新たなゲームをすすめるような声かけをさせる、WEBでイベントを組むなどの工夫をしている。保護者は教材の決定権・購入権があるので、学習の効果を理解してもらうことは大変重要である。
「BE-GO」については、学習の場がお茶の間にあるパソコンであるため、学校での教育よりは保護者の目の届く範囲で学習が行われている。また、スコアも見ることができる。音声認識に関しては、単語ごとの発音の評価は現状でも可能であるが、全体としての「英語らしさ」といった曖昧ではあるが重要な部分を評価できるシステムがあれば良いと考えている。

箕輪氏に対する質問
Q.「えいごリアン」と「スーパーえいごリアン」の違いについては非常に感心しました。初等教育における英語教育というのはあまり知見が無いと思われますが、NHKその他、制作に関わっている機関がどのように連携しているのでしょうか。
また、中野氏に対する質問に近くなりますが、WEBでの教師に向けて指導方針の公開はありましたが、保護者の関わり方についてはどのようにお考えなのかをお伺いしたいと思います。

箕輪 貴 A.「えいごリアン」の場合、プロデューサーが1人、ディレクターが2人から3人関わる。英語表現の監修の先生を1人お願いし、台本を見ながらこうした表現のほうが子どもにわかりやすいとか、この場合はこの表現を用いた方がよいといったアドバイスを頂いている。それをもとにディレクターが台本を制作する。また、台本はネイティブのアメリカ人がチェックをする。その他カメラマン、編集、音響効果のスタッフも含めて20人ほどのスタッフで制作している。研究者が5人関わっていて、全員がメーリングリストを用いて連携している。他にもウエブの制作、CGキャラクター制作、番組利用の研究校など何らかの形で、プロジェクトに関わっている人がいて、合計で90人程度である。
保護者の関わりについてであるが、「えいごリアン」を作るにあたって、多くの人に言われたことは「英語嫌いをつくらないでくれ」ということである。中学校以降の英語は子どもに負荷をかけるために英語嫌いを多く作り出している。初等教育での英語はあくまで英語は楽しいものだと感じてもらうことが重要である。初等教育において子どもの負荷となりうるのは、保護者が子どもに対して「英語の勉強をしているなら何か英語でしゃべってみろ」といった問いかけである。保護者にはこのような問いかけはせずに、英語を楽しんでいる子どもを評価して欲しいと考えている。この先、「えいごリアン」をリニューアルするとしたらWEBでそのような保護者に対するメッセージを充実させたいと考えている。

青木氏に対する質問
Q.「ぎゅっとe」については以前から注目していました。制度的な問題になりますが、1単位は通常45時間とされていますが、「ぎゅっとe」を用いた授業では112時間となります。これは制度的に可能なのでしょうか。また、e-learningに関する学生のケアはどのようになっているのでしょうか。たとえばTAやメンターを入れているのでしょうか。

青木信之 A: 単位に関しては、「ぎゅっとe」は最短でこなせば45時間で終わらせることが可能であるため、制度的には問題がないと考えている。広島市立大学では「ぎゅっとe」に関して教師と生徒は特別なことがない限り対面する機会を学校としては設けていない。ただしメールでの質問は受け付けている。加えて、明確な不正がある学生に関しては呼び出して指導をしている。

続いて、会場からの質問にパネラーが回答しました。

Q: 幼児から中学生の学習効果についてはどのように評価しているのでしょうか。

箕輪氏: 研究者に頑張って欲しいというのが本音であるが、NHKとしては小学校4年生から6年生のための英語教育のカリキュラムを制作している。そしてその各項目についてどのような評価をしたらいいかというチェックリストを小学校の先生や英語の先生と作成しているところである。

村上氏: 各項目に対するチェックリストを作ることは重要である。大学ではTOEICなどで評価ができるが、初等・中等教育においては何を学ばせたいのかを明確にして、それらが学べているかをチェックすることが重要であると考える。

Q: 青木先生の理論は、反復学習で基礎を固めた上で、それを土台としてコミュニケーションが成立するということでしたが、土台がある人と無い人でコミュニケーション能力に実際差があったのでしょうか。

青木氏: 土台が無い状態である程度のコミュニケーション能力を身につける可能性はあるが、そうなってしまうと能力が化石化してしまって伸びが期待できないと考える。 TOEICの点数が向上しているのは明らかではあるが、その向上が何を意味しているのかを検討したことがある。結論から言うと、このシステムは英語の知識より処理能力を高めていたと言える。TOEICの本物の試験を受けた翌日に全く同じ問題を時間やリスニングの回数の制限を設けないで受けさせると、点数が向上する。これは、時間によるプレッシャーによって本来の能力が発揮されなかったことを示している。受講後に別のTOEIC問題で同じ実験を繰り返し、タイムプレッシャーによる点数の目減りを比較することで処理能力の向上を調べることができ、またプレッシャーのない状態で受けたテスト得点を比較することで知識の増大を測ることができる。そうした実験から、本システムは処理能力を15%程度、知識を7%程度増加させていたことがわかった。

中野氏:

Q: ここで出てきた英語の教材を使うことによって、母国語である日本語のコミュニケーション能力に何らかの影響があるのでしょうか。

青木氏: 表現したくても言葉がわからない場合、身振りや言い換えなどで補うことが考えられる。ただし、私の基本的な考え方は難しい表現を平易な表現で補うことも重要ではあるが、基本的な知識は身につけておくべきであるということである。やはり、補った表現は本来的な表現よりも目減りして感じられるからである。日本語に関しては努力しなくても知識が入って来やすいが、英語などの外国語は自分からアプローチしないと知識に到達できない。英語などが自然に入ってくる環境が整えば話は別であるが、現状の大学生に関してはそのような環境にあるとは考えられず、それに対する私の考えが、例えば今回紹介したスピーキング、ライティングプログラムである。

箕輪氏: 日本語にしても英語にしても、思ったことを素直に表現できるような子どもにするにはどうしたらよいか、ということを常に念頭においている。そのためにも教材で表現されるシチュエーションは不自然にならないように留意している。

中野氏: ベネッセの英語教材で重要にしている考え方は、「Learning by Doing」である。自分が持っている英語の能力を駆使して、自分の伝えたいことを表現しながら、コミュニカティブな英語力を高めていくという考え方である。ここで身につけた方法は英語だけではなく、日本語の表現力の向上にもつながるのではないだろうか。

使える英語を身につけたい!:語学学習を支援するデジタル教材のこれから 村上氏: 京都外大には、英語で会話ができるようになりたいという学生も多いが、大学としてはそれだけではなく、しっかりとした知識を英語で身につけて欲しいと考えている。そのためには日本語での知識をしっかりと身につけている必要があると考える。コミュニケーション能力の向上自体は英語・日本語関係なく必要なことである。英語教育においてコミュニケーション能力の向上がはかれれば理想的であると考えている。

最後に山内氏からまとめのコメントがありました。

山内氏: ここまで議論してきて様々な問題が明らかになってきた。外国語教育に限らず、あらゆる教育が現実世界との歩み寄りをはかろうとしており、現在は試行錯誤している状況である。そのために重要であると考えるのは「評価」である。「評価」といっても厳密すぎない、ある程度の水準で使えて、継続的に行える「持続可能な評価」である。研究者が集めるデータはたくさんあるのだが、具体的にどのように処理をしたらいいのかは現場の先生にはわからない。これからの研究の方向は、教育以外の分野で用いられているデータマイニング技術を応用した、評価方法の提案に向かうのではないかと考える。

今回のセミナーでは、個性的な英語教材が紹介されました。どの教材もそれぞれ明確な考えのもと制作されていて、見方によっては全く異なる哲学に基づいて作られているように感じる部分もあります。しかし共通していえることは、山内氏の最後のコメントにもあったように、現実世界との歩み寄りを目指しているということです。各アプローチがこれからどのように発展していくかが楽しみですが、発展を評価する技術の動向にも目が離せません。

テーマ

使える英語を身につけたい!
:語学学習を支援するデジタル教材のこれから

日時
2006年 1月7日(土)
午後2時より午後5時まで
場所
東京大学 本郷キャンパス
情報学環暫定ANNEX 2F教室
定員
50名
内容
現在実際にユーザに提供されている先進的な語学学習教材を紹介し、語学学習を支援するシステム・教材開発についての理解を深め、今後の展望を探ります。

◇「『思わず話したくなる』ゲームで『使って通じる楽しさ』を育てる…『BE-GO』」子ども向け・在宅学習・音声認識CD-ROM教材
ベネッセコーポレーション/BEATコーディネータ 中野真依

◇「新旧メディアを連動させて、教室に楽しい英語活動を実現する…『えいごリアン』」初等教育向け・学校放送とWebの連動
NHKエデュケーショナル 箕輪 貴氏

◇「徹底した集中訓練で、伸び悩みの壁を突破する…『ぎゅっとe』」高等教育・一般向け・短期特訓e-learning教材
広島市立大学 青木信之教授

◇ディスカッション
18:00〜
懇談会(希望者)
参加費
無料

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