第6回 公開研究会 beat seminar はNTTドコモモバイル社会研究所との共催で、東京大学経済学部を会場に開催しました。年明け早々にも関わらず80名ほどの方々がお集まりくださいました。
冒頭にNTTドコモモバイル社会研究所の山川隆副所長より、ご挨拶をいただきました。
beat seminar第2回にも登壇いただいた山川副所長は、モバイル社会研究所の活動の概要と、特にこれからは子供とケータイの関わりが大事であることを指摘されました。
続いて、「メディアとこどもの今とこれから」というテーマについて、3人のゲストスピーカーの方々から、ケータイを中心にインターネット、そしてテレビと子どもの関わりについて論じていただきました。
※毎日教育メール(メールマガジン)2005-01-12 No.730号でも紹介いただきました。
松田先生は、メディア・コミュニケーション論を専門とされ、新たなメディアが進化・普及する過程で人間や社会とどうかかわっていくかを、調査研究されています。若者や子どもたちのケータイ利用の特徴について、様々なデータの分析に触れながらお話しくださいました。
発表資料はこちら(006_1-matsuda.pdf、729K)
中高生を中心とする10代にケータイが普及したことによって、彼(女)らのコミュニケーションのありようがどう変わったのかを考察されました。
「若者のケータイ利用」の特徴について下記の3点を指摘されました。
ケータイを利用することで、もともと社交的な人は直接顔を合わせるきっかけ作りをし、より社交的になる。対面でのコミュニケーションが苦手な若者はメールを好んで利用する場合もあるが、どちらかというと、ケータイの活用自体が少ない。
日常的に会う友人との24時間の親密な関係を望み、そのため、通話はもちろん、メールも長文ではなく短文、数文字のメールを頻繁にやりとりし、常に相手との関係を確認する傾向にある。
アドレスの登録件数が多いにも関わらず、利用相手は少人数に限られており、相手を積極的に選び選ばれるという選択的な人間関係が顕著になっている。かつての気の合う友人との関係を維持し、留まることを可能にするケータイ・メールにより、友人関係は広がっていく「多様化」ではなく、「多層化」される。
友人からのメール、もしくはその多少によって、自分が誰かから必要とされているかどうかを計っている。ケータイというメディアの存在があるがゆえに、仲間内での自分の位置づけをいつも確認せざるを得なくなっているという側面がある。
ケータイの所有が小学生の低学年からとますます低年齢化していますが、その所有目的は中学生以上とは全く異なります。
小学生が持つケータイの機能の中で特に注目されているものが位置情報サービスであり、同様のサービスとしてICタグを利用した塾教室などの出席有無や下校時刻の通知などもある。今後もさらに充実していく傾向にある。
しかし、このような監視メディアとしてのケータイは、親の「安心」を得ることは出来るが、子どもに「安全」をもたらすものではないと指摘されました。子どもの「安全」をもたらすケータイについて再考する必要があるとの問題提起がありました。
若者の特徴的なケータイ利用は、思春期の心理−アイデンティティを確立する過程で揺れる自分への不安−の表れであり、ケータイという新しいメディアを通しているため目立ちますが、デジタル社会が新たに生んだ特殊な傾向ではなく、普遍的な問題ではないかと考えられます。また子どものケータイ利用についても、保護者が子どもを危険なことから守りたいという普遍的な願いが、ケータイの位置づけを進化させたと考えることができます。
ケータイのある社会として、望ましいコミュニケーションを支えるケータイ、安全・安心を提供するケータイとはどのようなものか、またどう使えばいいのかを明らかにしていくことが求められています。今後の松田先生の研究に、会場から大きな期待が寄せられました。
河村先生は、10代(小学校高学年〜高校生)の子どもを対象にした新しいメディアの利用実態に関する調査・研究をされています。この10年における新しいメディアの普及は、大人にとっては「環境の変化」ですが、子どもたちにとっては「はじめから存在していたもの」です。この違いによる、大人の予想をはるかに超える子どものメディア感覚について、調査・研究活動から得られた事例などをもとにお話しくださいました。
発表資料はこちら(006_2-kawamura.pdf、754K)
インターネットは、「多くの人に向けて発信するメディア」から「個人を繋いでいくメディア」へと潮流が変化しつつあるが、この変化は、いまの子ども世代にとって常識化している。子どもたちは、ごく身近な友達をターゲットにホームページを作成する。少し内向きに見えるような少人数のコミュニケーションがベースとなり、それがコロニーを作り、そのコロニー同士が繋がっていくような新しいコミュニケーションの形態が生まれている。
子どもたちは、音楽をかけ、ネットサーフィンをし、ゲームをしながら映像作品の制作作業をする。大人の感覚では、全く集中していないように見える“ながら作業”にも関わらず、子どもの作品は大学生の作るものと変わらない出来栄えである。これは、今の子どもたちはデジタルメディアを利用していくつもの作業をパラレルに行うことが常識化していることの表れではないかと考えられる。
今の子ども世代では、インターネットにケータイから入ることが多く、実際に触れる時間も回数も多いので、パソコンでのインターネットから入った大人世代とは作法の異なった使い方がスタンダードになりつつある。子ども達は、ケータイによるメールをチャット感覚で使う。文章自体は非常に短く、タイトル(件名)がつけられたものはほとんどなく、メールには返事をすぐに出すことが当たり前であり、短時間の間にかなりの数のやりとりが続く。絵文字の使用頻度が高く、話し言葉であることに加え、写真や動画のやりとりも多いなどの特徴も挙げられる。
3G携帯電話の一般化は、「繋がっている」感覚を常に提供し、インターネットそのものの感覚や使い方、さらにはライフスタイルの中でのインターネットの位置付けにまで影響を与え始めている。例えば、ソーシャルネットワーキングサービス(SNS)では、自分を中心として、信頼関係や共通する関心事を持った特定の人達との間でのコミュニケーションによりコロニーを形成する。そこではさらにメンバーを通じ、また近しい関心事を持った別のコロニーとも繋がることができ、コミュニケーションの繋がりが重層的に構築されていくことになる。
いつでもどこでもインターネットに接続することを可能にするケータイは、情報伝達の速度をさらに加速すると同時に、鮮度の高い情報の取得を可能とする。そのようなケータイは、子どもの価値観を新しい世界の価値観へとネットワーク的に変容させるものである。また、これまでネットワークは、リアルの隙間を埋めるものであったが、これからはケータイにより、バーチャルとリアルが混ざり合った重層的な世界観が生まれるだろう。
インターネットに関わる子どもの事件などにより、子どものインターネット利用を否定的に捉える意見もあります。しかし、子どもに新しいメディアへの接触を禁止することよりも、子どもが最新のインターネットコミュニケーションの主役となりつつあるという実態をしっかり捉え、そこから大人の経験をもとに、より良い方向へと導いていくことが、現実に必要とされていることではないでしょうか。会場からも、子どもの実態をより鮮明に捉えたいといった意見や質問が寄せられました。これからの河村先生の活動や実態調査から得られる知見に注目していきたいと思います。
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注1)SNS 【Social Networking Site】
参加者が互いに友人を紹介しあって、新たな友人関係を広げることを目的に開設されたコミュニティ型のWebサイト。誰でも自由に参加できるサービスと、「既存の参加者からの招待がないと参加できない」というシステムになっているサービスがある。(IT用語辞典e-Wordsより)
インターネットやケータイに先行し、子どもにとって最もつきあいの長い映像メディアであるテレビ。そのテレビが子どもに与える影響等、子ども・青少年とメディアの関係について調査研究をされている小平先生から、国内外の子ども向け教育テレビ番組を中心に、1)子ども番組の歴史、2)世界の子ども向け番組に見る最近の特徴、3)番組Webサイトの進展、などについて、お話をいただきました。
日本では1959年にNHK「おかあさんといっしょ」が始まり、それから10年経って、子ども番組における金字塔的番組である「Sesame Street」が放映開始された。
民放においては、やや遅れて1970年代、いくつかの子ども番組が始まった。「ひらけポンキッキ」「あそびましょ パンポロリン」「カリキュラマシーン」「ワンツージャンプ」などが開発される。ちょうどその頃アメリカでは、子ども向けの専門チャンネル「Neckelodeon(ニコロデオン)」が立ち上げられた。このころから、子ども番組は量的に拡大の一途をたどる。
最近の子ども番組の特徴としては、1)社会の現実を直視する番組の重視、2)参加型番組の増加と多様化などが挙げられるだろう。
1)の系譜には、「週刊こどもニュース」に代表される“子ども向けニュース番組(情報番組)”がある。世界各国で同じような趣旨を持った番組が制作されている。
2)は、子どもたちが番組内でリポーター役をつとめたりするなどして、積極的に番組制作そのものに関与するものを指す。ドイツの子どもニュース(「Logo!」)などがそれに当てはまる。
現在、多くの子ども番組がWebサイトを持っている。たとえば、アメリカの小学生向けのマガジン番組(PBSが放送)である「Zoom」は、Webサイトが最も充実している番組と言われている。いまだモバイルメディアとテレビ番組の連動の具体化した事例はまだ限定的な段階だが、近い将来、パソコンに取って代わるのはモバイルである可能性も多いにあるだろう。
また小平先生は、2001年11月に発足し12年にわたるプロジェクト:「 “子どもに良い放送”プロジェクト」にて、生まれた時から映像メディアに囲まれて生きる現代の子どもたちが、実際に映像メディアからどのような影響を受けて育つのか。また、子どもの発達にもたらす効果はどのようなものか。そこに親や大人がどのように関われるのか。といったテーマで、2002年生まれの子ども1000人以上を対象に、様々な角度から科学的に追跡調査する研究にも関わっていらっしゃいます。
子どもの成長につれて、テレビに加えインターネットやケータイが子どもに接触するようになってきたとき、映像メディアは子どもに対し複合的にどのような効果を与え得るのか。小平先生と同プロジェクトの研究に注目しつつ、BEATでも研究を進めていきます。
(『放送研究と調査』は、NHK放送文化研究所編の月刊誌で、日本放送出版協会から発行されています)
講演終了後、参加者の質問用紙からトピックをとりあげる形でディスカッションが行われました。特にケータイがこどもたちの身近に入ることでコミュニケーションのあり方が変わっていくのかということが話し合われました。ケータイが入ることで子どもたちの人間関係がより選択的になること、より加速していくこと、月に一度しか会わないけれどお互い何をしているかがわかりあえるような新たな関係ができていることが指摘される一方、根本的な人間関係の基本の部分はメディアの形がかわってもかわるものではないのではないか、そこに学校や親からの教育の可能性があることなどが話し合われました。
BEATでは、先行するテレビメディアの研究成果も生かしながら、ケータイコミュニケーションがこどもたちにどのような変容をもたらすのか、そこにどんな教育の可能性があるのか、これからも模索していきたいと考えています。
次回の開催は2月5日(土)が予定されています。皆様の参加をお待ちしております。