子どもが安全に、そして安心して遊び学べる場所としてチルドレンズミュージアムが注目されています。
今回は、JMMAチルドレンズミュージアム研究会の方々にご登壇いただき、第一部で、近年のチルドレンズミュージアムの動向をご報告頂きました。第二部では、「子ども向けのプログラムをいかにつくるか?」と題し、イマドキ・キッズに求められる遊びや学びのプログラム、展示や遊具づくりについて語って頂きました。
JMMAチルドレンズミュージアム研究会は、単にアメリカの事例を研究しているだけではなく、日本にはどのようなチルドレンズミュージアムが最適なのかを考えることが最終目的である。日本でチルドレンズミュージアムができるとしたら、その社会的背景はどのようなものか、そこにおけるチルドレンズミュージアムの役割とは何か、それを実現するためのハード・ソフトはどのようなものかを3カ年で考えていて、今は2年目である。
現代社会の特徴として消費社会、高度情報化社会、学歴社会、少子高齢化があげられるが、こういった状況で子どもたちの教育の現状はどうなっているのかを考えると、理科離れ、受験戦争、いじめ、不登校、知識偏重型、美術・音楽の授業の減少があげられる。
遊びの現状については、安全性の低下、塾通いによる遊び時間の減少、自然体験の減少などが指摘されている。
家庭の現状は、核家族化、過保護・多干渉、離婚率の増加、女性の社会進出があげられる。
地域社会の現状は、コミュニティの崩壊、少年犯罪の低年齢化、地域行事の衰退があげられる。昔は悪いことをしていたら地域の大人が叱ってくれる、祭りがあればゲームをするなどの交流があったが、コミュニティの崩壊により子どもたちの人付き合いは家族か同級生のみとなり非常に狭くなっている。
このような現状の中、日本でチルドレンズミュージアムをつくる場合、遊びと学びの支援という方向性で何ができるかを考えた場合、学校ではできない学びを提供していくべきであると考える。学校ではどうしても受験というものを視野に入れなくてはならないので、美術や音楽、実験学習の時間が減少しているが、そこを補完したいと考えている。また、外で子どもだけで安全に遊ぶ環境が無くなってきているので、そのような環境を提供することにも意味がある。
家族とコミュニティの支援という面では、共働きや核家族化で家庭内のコミュニケーションが減少しているのに加え、地域コミュニティの崩壊によって他学年の子どもとのコミュニケーションが減少している。このようなコミュニケーションの場を提供すると共に、子育てするお母さんのネットワークを活性化する役割を果たせるべきである。
チルドレンズミュージアムのハード面では、建築のあり方、遊具や展示のあり方について、ソフト面では事業展開、活動プログラム、地域課題・学校とのリンクの検討、運営面では運営形態の理想的なあり方、組織体制、人材について検討したいと考えている。
アメリカはチルドレンズミュージアムの数が最も多く、活動も活発である。必ずしも日本とは背景が一致しないが参考になる面が多い。
AYM(Association of Youth Museums)のチルドレンズミュージアムの定義は以下のようなものである。
「子どもの博物館とは、好奇心を刺激し、学習の動機付けを行う展示やプログラムを実践することによって、子どものニーズや関心に応えることにかかわる機関である。子どもの博物館はその本質において教育を目的とした組織的かつ恒久的な非営利組織であり、資料を活用し、専門職員を配置し、一定の計画に基づいて一般に開かれているものである。」
ここに書かれているのは、「子どもに対してどうするか?」という定義である。それに対して新しいACM(Association of Children’s Museums)の定義は以下である。
「チルドレンズミュージアムは、子どもと家族をつなぐ、新しい形の町の広場のようなもので、そこは遊びから生涯学習につなぐ場である。チルドレンズミュージアムは、多様化社会の中にいる子どもと家族の生活に重要な役割を果たす。貧困や劣悪環境にある子どものためのアウトリーチプログラム、学校とのパートナーシップ、そして幼少期の子を持つ親に役立つであろう教育プログラムといったサービスは、社会の中にある家族のためにチルドレンズミュージアムが供する方法である。」
この新しいチルドレンズミュージアムの定義のキーワードは「つなぐ」である。最初のものと比べて、子どもと家族をどうつなぐのか、遊びと学習をどうつなぐのか、貧困や劣悪環境にいる子どもを社会とどうつなぐのかについて言及されるようになった。
ACMに加盟しているチルドレンズミュージアムはおよそ300で、そのうち233がアメリカ国内にある。1970年代に入って急激に数が増え、82%はそれ以降にできたものである。
その背景として考えられるのは、
が考えられる。
教育との関わりとしては、
があげられる。
地域との関わりでは、
があげられる。
家族との関わりとしては、
があげられる。
これらは学術的な調査に基づいたものではなく、インタビューを通して得られたものである。
ターゲットにしている年齢について調査した結果は、下限が0歳で一番多く、上限は12歳が多い。おもしろい結果としては100歳と答えているところが多数あったことである。
アメリカのチルドレンズミュージアムを調査した際に何度も聞いた言葉が「Family Learning」という言葉である。チルドレンズミュージアムの目標として、子どもと家族の生活を変える力を持ったすばらしい学習体験を創造することがあげられる。親子で同じ体験を共有できるように展示に工夫がされている。
それらの展示は、日本の博物館などでは、展示は外部に委託して制作することが多いが、アメリカのチルドレンズミュージアムでは自前で展示を作れるインハウス工房を持っているケースが多い。
また、展示物を市民から集めたり、ボランティアを受け入れたりなど、地域との関わりにも積極的である。 運営に関して興味深いのは、世界規模の巡回展が貴重な収入源になっているという事実である。また、有名なキャラクターを用いた企画展、子どもとの関わり方を提案する保護者のための企画展も行われている。アメリカ的なものとしては、薬物中毒の母親のための更正プログラムを提供している例もある。
チルドレンズミュージアムがいったい家族に何を与えてくれるのかと考えた場合、それは学びのスタイルである。利用者自身が洞察して、学びを獲得する環境を提供することがチルドレンズミュージアムの命題と考えている。
ハンズオン展示が目指しているものは、学びを誰かに与えられるのではなく、利用者が持っている経験と展示を結びつけ、自ら獲得する学びを獲得することである。ハンズオン展示の分類には以下のように大きく2種類ある。
前者は本当にハンズオン展示と言えるのか、といった議論がなされている。後者は子どもの興味をひく力が強く、30分もその場を動かないような子どもも多い。またそこで体感したことを親や兄弟に自慢げに説明する子どももいる。子どもの興味をひき、学びを発見し、それを家族と共有する仕掛けが、チルドレンズミュージアムのハンズオン展示では重要である。
チルドレンズミュージアムの展示は、確実に一回の体験で学ばせようとするのではなく、何度も繰り返して、たとえそれが何年かかっても学びを自ら発見できれば良いという考え方も可能である。自ら学びを発見することは子どもにとってこの上ないよろこびとなり、これはカリキュラムが決まっている学校教育では不可能なことである。
チルドレンズミュージアムでは、利用者が主体的に学ぶというコンセンサスが絶対に必要である。ボタンを押させるだけでこちらが伝えたいことを一方的に提示するのではなく、また学ぶペースも強制するわけではない。
展示は必ずチームで開発をする。お互いに「その説明で誰もがわかるのか?」という問いかけをしあうことによってよりよい展示が作られる。ミュージアムに来る利用者は、さまざまな経験や知識を持って展示に触れる。利用者に学びが生まれるかどうかについては、多様な利用者の立場に立って、評価・調査しながら開発することが重要である。
兵庫県立考古博物館(仮称)は、考古学に親しんでもらうために設立される予定の博物館である。これから設置する予定の常設展を評価するために、先行展を行っている。それによって予期される問題点を事前に改善することが可能である。展示の設計は思い込みではなく、このようなステップを踏んで評価を繰り返すことが重要である。
滋賀県立琵琶湖博物館では「漁師修行の旅」と題して、実際に投網を投げる体験ができる。子どもはこの体験を通して、地元の琵琶湖の投網を見て何が取れているのかなどの興味を持ったり、漁師さんとコミュニケーションを取ったり、あるいは自分の祖父が漁師だったらその話を聞くなどの学びが派生したという報告が得られた。
科学展示が観察や観測といった体験を通して表現しようとすることは、たとえば、物理などの現象、状態、標本である。一方で、思索や思考といった内省を通して表現しようとするものは物事の法則、関係、概念などである。問題となるのは、展示はあるけど解説はよくわからない、体験はおもしろいけど意味がよくわからず一般化できないといったことである。
従来的には、展示の効果は
で測定されてきた。代表的事例としてサンフランシスコにある有名な体験型博物館、「The Exploratorium」を対象にした「SEEING Summative Evaluation」(Serrell & Association,2003)という調査があるが、これによると展示には明確に「あつい展示」と「さめた展示」に別れるという結果が出ている。
来館者の興味は必ずしも科学自体に向いているわけではなく、内容が大きい・新しい、動きがある、全身で体験できる、といった関心に沿っている、また、なじみがあるといった要素で展示への興味が左右される。動線パタンを見ると、展示する側の意図した文脈とは無関係であることが多く、「出口の近く」といった空間的、「あまり時間がない」といった時間的制約に支配されることもある。
来館者にとって、関心やなじみのあるものが一番興味を持ってもらいやすく、入り口としては最適である。興味があるものと、これと内容的に関係しているものをうまくグルーピングすることが「あつい展示」の必要条件となる。一般に展示デザインの基本は自分で発見することであるが、見かけ上つながりのない現象同士を結びつけられること、現象の分類だけでなく概念的な枠組みを見つけられることが重要である。
実際の展示では、モーターと発電機が空間的に離されて展示されたり、見かけ上は関連性がないものの、一緒にあれば新たな発見が期待される展示が隔離されているケースがある。そこで、展示同士をつなげ、わかりやすいまとまりを与えたいと考えている。
個々の展示に対して、いくつかの概念的カテゴリを用意して、各展示がどのカテゴリにあてはまるかをチェックして、多変量解析を用いて分類をした結果を実際の展示の配置に反映する手法を提案している。これは展示の数や概念的カテゴリの数が膨大でも使える方法である。多変量解析は数学的な客観性が保たれており、思考を整理する上で有効な道具である。これまでの分析では結果に非線型性の影響が認められることもあり、自己組織化マップの応用を試みているが、よい結果を得ている。
以上の分析結果はそのままでは分かりにくいので、可視化ソフトを作成している。可視化により展示のつながりの全体を見渡すことができるようになる。「知っていること」から「知りたいことは何か」を発見する道具として利用することができる。
ここまでは、目に見えない頭の中のつながりを可視化しようという話だが、チルドレンズミュージアムでは、展示一個一個で小さな発見をさせた上で、それらが蓄積されて、新しい大きな発見があるといった宝の地図のような展示が可能なのではないかと考えている。
つながりを可視化する方法によって、関連している展示をつなぐことができ、興味や間心を入り口として、その世界を広げるような展示空間が可能である。しかしながら、来場者の年齢や知的背景などによりつながりの捉え方が異なるのでそのギャップをどうにかすることが課題である。
染川:ケースバイケースですが、基本構想で2割を使うことを目処にしています。基本構想において、どのようなテーマでどのような展示をするのかを決定します。
高橋:NPOといったかたちで運営されているところでは、子どもが遊べる場所では自己責任という認識で運営されていますが、高い入場料を取るところでは、施設側の責任が大きくなると考えます。
中井:数量化理論とクラスター分析です。それだけでは問題も出てくるので最近では自己組織化マップを用いています。
齊藤:ただいま計画中のチルドレンズミュージアムがあります。またボーネルンドやキッザニアのようなインドアの子どものための施設も増えてきています。
齊藤:ボーネルンドやキッザニアは商業施設ですが、チルドレンズミュージアムは基本的に非営利であると考えています。貧しい子どもたちなども対象としているので公共性が重要であると思います。
高橋:アメリカでは1,300円程度、日本では条例で定まっているのでせいぜい600円程度となっています。ボーネルンドの場合は、親の料金の方が子どもと比べてかなり安く設定されています。また、リピーターのためのパスポートを設定しているところも多くあります。ただし、営利か非営利か、公金が投入されているかいないかで大きく変わってきます。
齊藤:アメリカのチルドレンズミュージアムの収入源は寄付金がかなりの割合を占めています。チルドレンズミュージアムをつくるに当たり、寄付金を集めるのがうまい人を取り込み、財界や政界からの寄付を得ており、入場料以外の収入源も多くなっています。
中井:運営側にとってはわかりやすい展示をデザインするためのツールです。それによって効果的な学びが得られた利用者にとっては、利用者のためのツールです。
染川:スタッフの中にマーケティング調査出身のものがいて、マーケティング的な手法を使っているかもしれないです。
斎藤:釧路の遊学館は古くからあった科学館と、大型の児童館が融合した施設です。目玉の展示は直径16メートルある屋内の砂場です。それは、砂場の研究をしている先生がいたためです。砂場遊びは何度も作っては壊したり、水を入れて質感を変えたりできるなど、子どもにとって奥深いものであると考えます。また、音のアーティストが制作した展示もあります。体を動かすもの、アート系のもの、読み聞かせ系のものが複合的に展示されています。行政の理解については、むしろ担当の方が協力的で、ワークショップのようなものには予算が付きにくいが、担当の方に頑張ってもらえたおかげで予算を得ることができました。
斎藤:学校に使っていただきたい展示はたくさんあるが、学校は学校で忙しいのでなかなか訪れてもらえません。チルドレンズミュージアムまでの道のりを説明した地図を用意したり、先生への説明の機会を設けたりすることで来てもらえる機会が増えたという話を聞いたことがあります。
チルドレンズミュージアムは子どもに学びを提供するというよりは、子どもが学びを発見するための場であり、それには家族や地域といった外部との関わり、また子どもの経験といった内部との関わりを考慮して展示を設計する必要があることを理解しました。また、地域からの寄付や予算を得るためには設計段階での評価も重要です。チルドレンズミュージアムの成功の鍵は家族や地域のあり方に柔軟に対応していくことにあると感じました。