第2回 公開研究会 beat seminar は、情報学環と共催の形をとり、情報学環ワークショップとしての開催となりました。東京大学山上会館に、前回の2倍以上120名超の方々がお集まりくださいました。
冒頭には花田情報学環長より、ご挨拶をいただきました。
ビジネスユースを目的としていた携帯電話が、利用者のさまざまな動機に支えられ、形態を急激な進歩で変容させ“ケータイ”となったこと、さらに教育利用という新たな変容の局面を迎え、その“ケータイ”という道具の可能性を探る取り組みがBEATであることをご紹介くださいました。
続いて、「“ケータイ”と教育の未来」というテーマについて、3人のゲストスピーカーの方々から、研究者・学校現場の立場から論じていただきました。
モバイル社会研究所とは、急激に普及しているケータイが社会に及ぼすプラスの面だけでなく、マイナス面も考慮して研究を進めている、NTTドコモの研究機関です。
社会に組みこまれた大きなシステムとして、様々な角度からケータイを捉えようとしている山川氏からは、ケータイとコミュニケーションの近未来を考える上で、重要な視座を呈示いただきました。
どこでもつながることができるネットワーク接続の最終形態ともいえるケータイは、まさにウェアラブルコンピュータであり、そのメディアを『未来心理』、予兆をもって見ていく事が重要である。
知識伝達方法が変わるであろうし、その変化の速度もさらに加速すると考えられる。そのコミュニケーションをデザインするために、再度、五感の研究が必要であり、そして、機械と人間、情報と人間の関係を考え、この新しい生態系をバランスよく維持していくためにも新しい社会規範を作っていかなければならない。
この、「新たな社会規範」という問題の提起に、参加者も非常に刺激を受け、最後のディスカッションの時間には多くの質問が山川氏に寄せられました。
まず、ケータイを含むモバイルメディアの教育利用について検討する土台として、他メディアと比較してのモバイルメディアの特徴、モバイルメディアに適した学習のデザイン、モバイルメディアが可能にする学習スタイル、などについて、非常にわかりやすく分類・整理されました。
これらのフレームを踏まえ、世界的動向について、海外から国内まで幅広く研究事例をご紹介くださいました。
事例紹介では、上に挙げた以外にもたくさんの事例をご発表くださったため、参加者からは「もっとじっくり伺いたい」などの声も多く寄せられました。
ケータイを利用した授業実践として、ご自身が担当された6年生の国語の授業での取り組みを紹介されました。
これは、2003年度から始まった「携帯電話の教育活用プロジェクト」の一環として実施されたものです。具体的には、千葉県の小学校と広島県の小学校が互いに修学旅行などで行ったことのある観光地のガイドブックを作成し、相手校に渡すというものでした。
渡すだけでなく、もらったガイドブックを実際に利用し相互評価も行いました。プロジェクトからはFOMAが2台提供され、子どもたちは学習のさまざまな局面でケータイを活用しました。
ケータイは、問い合わせなどの情報収集に使われるだけでなく、テレビ電話機能が出版社のゲストティーチャーからの添削、相手校の子どもたちから感想をもらう(相互評価)などの場面で活用されました。子どもたちは顔を寄せ合うようにして小さなケータイの画面を覗きこみ、電話の向こうの相手とのコミュニケーションを楽しんでいました。
ケータイを活用することにより、人と人との結びつきが深まり、学びを深められるという可能性を感じる実践報告でした。
また、ケータイの写真付きメール機能を使い、学校での毎日の出来事をインターネット上で発信する『行事掲示板』では、保護者と子どもの交流が生まれていました。さらに子どもと共に大人も巻き込み、ケータイのメリットおよびデメリットに関して討論するという授業実践など、ケータイという道具とどう付き合っていくのか、子どもたち自身がよく考えることができるような、様々な取り組み事例がを紹介されました。
ケータイというメディアを活用し学びを楽しむ子どもたちの様子に、驚きと感銘を受けたという参加者の感想が多く寄せられました。
講演終了後、参加者から、カタカナで表記した“ケータイ”に込められた意図、メッセージについてのご質問がありました。既に携帯電話は電話としての役割を超えて、新たなモバイルコミュニケーションツールとしての機能を与えられています。従来の、固定電話の代替品としての携帯電話と区別するため、姿を変えつつあるモバイルメディアとしての現在の端末を“ケータイ”と表記しています。この“ケータイ”は、新しいメディアとして私たちのコミュニケーションの形を変え、学びの在り方も変化させています。近未来まで広げた期間で、学習というコミュニケーションの形にどのような変容の可能性があるのか、BEATではこれからも模索していきたいと考えています。
次回の開催は10月9日(土)が予定されています。皆様の参加をお待ちしております。