Beating 第94号
2011年度Beating特集「@Eduなう!拡大版」
第12回:数学離れを引き起こす要因に関わる生態学的な検討
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東京大学大学院 情報学環 ベネッセ先端教育技術学講座「BEAT」
メールマガジン「Beating」第94号 2012年3月27日発行
現在登録数 2,906名
2011年度Beating特集「@Eduなう!拡大版」
第12回:数学離れを引き起こす要因に関わる生態学的な検討
http://www.beatiii.jp/?rf=bt_m094
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みなさま、こんにちは!
朝、通勤の際に東大の懐徳門をくぐったら、なんとウグイスに遭遇しました。
懐徳門の付近は鬱蒼とした樹木が多く、残念ながら姿を確認することはできま
せんでしたが、春の訪れを告げる鳴き声に、心がわくわくしてしまいました。
さて、先日のBEATセミナーでもお伝えしたように、現在、BEAT Socla
プロジェクトでは、数学の研究が進行中です。そこで、今年度最後の
「@Eduなう!拡大版」では、中学生が数学離れを引き起こす要因に関する
研究を取り上げました。
では、Beating第94号のスタートです!
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★CONTENTS★
【特集】2011年度Beating特集「@Eduなう!拡大版」
第12回:数学離れを引き起こす要因に関わる生態学的な検討
1. お知らせ・UTalk
「一堂に会する楽しさと危うさ ―公会堂の歴史を読む」のご案内
2. 編集後記
特集─────────────────────────────────
━━ 2011年度Beating特集「@Eduなう!拡大版」
第12回:数学離れを引き起こす要因に関わる生態学的な検討
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■2012/1/31 20:51
https://twitter.com/#!/beatiii/status/164314779492687874
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──
解説
──
(Martin et al, 2011)どのような要因が将来の数学離れを起こすかを予測する
生態環境モデルを立てて検討した。約1600名のオーストラリアの中学生を対象
に調査し、生徒個人、授業、学校レベルの諸要因の関係が認識された。
http://bit.ly/A04LGU
■背景と目的
国際的なテストで、中学生の数学の成績が低下しています。また生徒の数学に
対するモチベーションの低下が、成績にも影響しているとされ、今国際的な
関心事になっています。中学生が将来的に数学に熱意を持つか、やる気を
失うかの研究は、生徒個人との関係だけではなく、授業を行うクラスや
学校など複数のレベルで、要因との潜在的な関連性を明らかにすることが
必要だと言われています。
しかし、数学に関するこのような研究はほとんどなされていません。
そこで本研究は、Bronfenbrennerの生態環境モデルを用いて、生徒の数学に
取り組む過程と結果への影響を、生徒、家庭、授業のクラス、学校、時間の
5つの要因から検討しました。このフレームワークを用いることは、研究目的の
みならず、広く中学生の数学離れを理解するのに役立ちます。生態環境モデル
は、どのような教育的過程や結果が生じたのか、複数のレベルとの関係を理解
するのに有用です。複数のレベルとは、たとえば、次のような階層を指します。
生徒個人はグループになると、互いに影響を与え合います。生徒個人は授業の
クラスに、クラスは学校にグループ化されます。そこで、生徒個人、クラス、
学校の3つの階層にレベル分けをし、それぞれのレベルに応じてどのように
影響し合っているのか関係を明らかにします。先行研究では、生徒個人レベル
での分析が行われていますが、クラスや学校が個人の数学離れに対して、
どのような影響を与えているかについては、ほとんど研究がなされていません。
そこで、本研究では、数学離れに対する要因とレベルの影響の関係性を見る
新しい試みを行います。
本研究のリサーチクエスチョンは次の通りです。
RQ1. 将来の数学への熱意(future intent)とやる気の喪失(disengagement)
には、生徒個人、クラス、学校に応じて、どのような要因があるのか?
RQ2. 5つの要因(生徒、家庭、クラス、学校、時間)のうち、将来の数学
への熱意とやる気の喪失に関与しているものは何か?
RQ3. これらの要因の中で特に深く関与しているのは何か?
RQ4. 生徒個人、クラス、学校のどのレベルで、要因の関与は変化するのか?
RQ5. 将来の数学への熱意とやる気の喪失の共通点と相違点は何か?
RQ6. 生徒個人や家庭などの個人的な要因は、学校などの生徒を取り巻く環境
要因の関係をどのように説明することができるか?
RQ7. 今回用いた生態環境モデルは有益か?教育実践の情報をどのように伝え
ることができるか(モデルから何が分かるのか)?
■方法
1601名のオーストラリア人の中学生(44校200クラス)を対象にアンケート
調査を行いました。内訳は、女子58%、男子42%、平均12.17歳、学年は
6年生34%、7年生24%、8年生42%で、生徒の19%の母語は英語以外の言語
でした。調査は全て授業中に行われました。
生態環境モデルをもとに個人、文脈、時間という切り口で分け、5つの要因
(生徒、家庭、クラス、学校、時間)を用いることにしました。そして、
これらの要因が熱意とやる気の喪失に起因する仮説モデルを作りました。
分析に当たり、個人とグループ間といった複数のレベルで階層的な要因データ
を分析するために、3レベル(生徒個人、クラス、学校)に分けました。仮説
モデルでは、数学に対する熱意とやる気の喪失において、それぞれ3レベルに
対して要因がランダムに効果があり関係があると仮定し、確認的因子分析を
行いました。
以下は、調査した5つの要因の詳細です。
1. 生徒要因
属性(年齢、性別、母語)、モチベーション(自己効力感、価値観、不安感、
楽しさを7段階で評価)、将来の熱意とやる気の喪失、数学能力を測りました。
2. 家庭要因
父(男性保護者)と母(女性保護者)の数学への関心(3段階評価)、学校外
での数学の教授の有無、数学に関するコンピュータの利用の有無です。これら
は全て生徒の主観に基づいて回答されました。
3. クラス要因
数学能力のクラス平均、クラスの雰囲気の認知(クラス内の自己効力感〈クラ
スメイトは数学ができると思うか〉、価値観〈クラスメイトは重要で役立つこと
を学んでいると思っていると思うか〉、授業が不安な雰囲気か、授業が楽しい
雰囲気か)、クラスの数学への熱意とやる気の喪失についてです。これらは
7段階で評価しました。
4. 学校要因
学校のレベル(国家の算数の基礎学力テストの結果)、学校の規模、スタッフと
生徒の割合、構成する民族(英語を母語とするか否か)、SES(the Australian
Bureau of Statisticsの提唱する保護者の収入・職業・教育)です。
5. 時間要因
生態環境モデルでは、子どもの発達について時間の経過による影響にも焦点を
当てています。1年あけて2回測定し、時間の経過による、将来の熱意とやる気
の喪失を測りました。
■結果と考察
●将来の熱意に関わる要因
生徒要因、家庭要因、時間要因、クラス要因が影響を与えていることが分かり
ました。特に、生徒要因の自己効力感、価値観、楽しさ、時間的要因(事前
調査における将来の数学への熱意)が深く関与しています。
●やる気の喪失に関わる要因
生徒要因、家庭要因、時間要因、クラス要因、学校要因が影響を与えている
ことがわかりました。特に、生徒要因の自己効力感、価値観、楽しさ(いずれ
もマイナスの影響)、不安感、時間的要因(事前調査における数学へのやる気の
喪失)が深く関与しています。加えて、学校要因の保護者の社会・経済的地(SES)
と構成する民族(英語を母語としない)も、マイナスの影響を与えており、
深く関与していることが分かりました。
●生徒個人レベル
生徒の要因では、将来の数学への熱意とやる気の喪失に共通する要因のほか、
やる気の喪失のみに影響する要因がありました。例えば、生徒要因の数学に
対する自己効力感、価値観、楽しさは、熱意とやる気の喪失の両者の要因でした。
自己効力感と価値観は、数学のプロセスや成果に影響します。一方、不安感
のみがやる気の喪失に影響していました。
家庭要因では、同じ保護者でも、母(女性の保護者)と父(男性の保護者)
では、役割が異なることが分かりました。父は将来の熱意を向上させ、母は
やる気の喪失を軽減する役割を担っています。
●クラスレベル
クラスの要因のうち、授業クラスの楽しさは、生徒個人の楽しさとは反対に、
将来の数学への熱意にマイナスの影響を与え、やる気の喪失にプラスの影響を
与えることが分かりました。仮説では、井の中の蛙効果でクラスや学校の能力
の平均に影響されるとしていましたが、実際はクラスの楽しい雰囲気に影響
されていました。また、クラスのモチベーションが高くても、必ずしも生徒
個人に良い影響を与えるとは限らないということが分かりました。
●学校レベル
学校要因のうち、英語を母語としない生徒が多いほど、やる気の喪失が
軽減され、数学離れが低くなることが分かりました。オーストラリアは、
移民の学力が国民のそれに匹敵する数少ない国であると言われることからも
明らかでしょう。同様に、保護者の社会・経済的地位が高いほど、やる気の
喪失が軽減され、数学離れは低くなることが分かりました。保護者の教育
レベルや収入、職業は学校を特徴付け、教育成果を予想するのに役立ちます。
調査の中で生徒個人が自己評価を行うため、仮説では、クラスレベルや学校
レベルよりも個人レベルに影響を与えるとしましたが、仮説は支持されました。
本調査のサンプルは、すべての学校が1都市にあり、カトリック系の学校で
あったため、今後はより広い範囲での調査が期待されます。また、本調査では
生徒個人の主観評価のみになってしまったこと、不安感や楽しさなど数学に
対する要因のみを尋ねており、他教科との比較をしていないことなどが、限界
として挙げられます。また、3レベルに対して調査は生徒個人のみだったため、
今後は他の対象をまじえた調査や、質的な調査も必要でしょう。
◎特集記事協力◎
末橘花/東京大学 大学院 学際情報学府 修士1年
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お知らせ UTalk ──────────────────────
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「一堂に会する楽しさと危うさ ―公会堂の歴史を読む」のご案内
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UTalkは、様々な領域で活躍している東京大学の研究者をゲストとして招き、
毎月開催するイベントです。カフェならではの雰囲気、空気感を大切にし、
気軽にお茶をする感覚のまま、ゲストとの会話をお楽しみいただける場と
なっています。
今から80年前、日比谷公会堂では日々どんなイベントが開催され、どんな人が
何のためにそこに集ったのでしょうか。
4月のUTalkは、文化の営みを音楽ホールの歴史からひもといている新藤浩伸
さん(教育学研究科・講師)をゲストにお迎えします。残された公会堂の
チラシを読み解きながら、人が集まる場が何のためにあるのかを考えます。
みなさまのご参加をお待ちしています。
日時:4月14日(土)午後2:00-3:00
場所:UTCafe BERTHOLLET Rouge(東京大学 情報学環・福武ホール併設)
http://fukutake.iii.u-tokyo.ac.jp/access.html
料金:500円(ドリンク付き/要予約)
定員:15名
申し込み方法:UTalkホームページ https://fukutake.iii.u-tokyo.ac.jp/utalk/
の参加申込フォームに必要事項をご記入の上、お申し込みください。
※申し込みの締め切りは4月6日(金)までとします。
なお、申し込み者多数の場合は抽選とさせていただく場合がございます。
ご了承ください。
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編 集 後 記 ──────────────────────
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Beating第94号はいかがでしたでしょうか。
2011年度の「@Eduなう!拡大版」は、BEATのTwitterでつぶやいた論文を
抜粋し、内容を掘り下げてお伝えしてきました。2012年度は、装いも新たに、
若年層のメディア利用に関する情報をお届けしていく予定です。
また、3月24日(土)に開催された2011年度第4回BEAT公開研究会
「ソーシャルラーニングとこれからの人財育成」のセミナーレポートのご案内
は、次号のBeatingでお届けいたします。
どうぞお楽しみに!
ご意見・ご感想をお待ちしております。
「Beating」編集担当 高橋 薫 (たかはし かおる) kaorutkh@beatiii.jp
-------次回発行は4月24日の予定です。
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(東京大学大学院情報学環ベネッセ先端教育技術学講座 特任助教)
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□発行:東京大学大学院 情報学環 ベネッセ先端教育技術学講座「BEAT」
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