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Beating 第89号
2011年度Beating特集「@Eduなう!拡大版」
第7回:留学経験が英語の語用論的な理解に与える影響

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東京大学大学院 情報学環 ベネッセ先端教育技術学講座「BEAT」
メールマガジン「Beating」第89号     2011年11月1日発行
現在登録数 2,784名

2011年度Beating特集「@Eduなう!拡大版」
第7回:留学経験が英語の語用論的な理解に与える影響

http://www.beatiii.jp/?rf=bt_m089

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みなさま、こんにちは!

秋も深まり朝晩はだいぶひんやりしてきましたね。
今回は次回BEATセミナーのご案内も掲載していますのでお見逃しなく。

では、Beating第89号のスタートです!

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★CONTENTS★
【特集】2011年度Beating特集「@Eduなう!拡大版」
第7回:留学経験が英語の語用論的な理解に与える影響

1.お知らせ・BEAT Seminar 2011年度第3回 BEAT公開研究会
「デジタル読解力を育てる情報教育」開催予告

2.お知らせ・UTalk
「科学技術とその使い方 ―そのとき社会は」のご案内

3.編集後記



特集─────────────────────────────────
━━ 2011年度Beating特集「@Eduなう!拡大版」
第7回:留学経験が英語の語用論的な理解に与える影響
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■       2011/10/05 16:05:22
http://twitter.com/#!/beatiii/status/121481086772588544
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解説
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(Taguchi,2011) 第二外国語としての英語学習において、慣習的含意と非慣習的
含意の理解として定義される語用論的理解力の2つの側面-理解の正確さと
流暢さ-に、習熟度と留学経験が与える影響を調べた実験研究。
http://ht.ly/7dtzE



■背景と問題
語用論的言語能力とその発達に影響を与える要因として、習熟度と留学経験の
2つが主に指摘されています。

習熟度の語用論的理解力に対する効果については、多くの先行研究において
多様な見解が示されていますが、一般的には高い習熟度が高い語用論的理解力
につながると考えられています。一方、留学経験が語用論的発達を支援する
ことに関する研究は、(a) 海外留学と自国での正規教育の2つの文脈間で学習者
の語用論的能力を比較する研究と、(b) 海外留学での学習を観察し、特殊な学習
の文脈が語用論的発達に与える効果を調べる単一事例の研究の2つに大きく分
けられます。(a)タイプの研究では、学習の文脈間で語用論的言語能力に差がみ
られること、(b)タイプの研究では、語用論的理解の種類によって留学経験が異
なる影響を与えることなどが明らかにされています。

しかし、こうした多岐にわたる知見を一般化するためには、より実験的な研究
を行う必要があります。また、語用論的能力が含む異なる2つの側面-正確さ
と流暢さ-を調べることは、語用論的能力を構成する概念の理解や、語用論的
能力の発達とそれに影響を与える要因の解明につながるという点で価値がある
といえます。

■目的
そこで本研究では、習熟度と留学経験が、第2外国語としての英語学習者の
語用論的理解力に与える影響を実験によって明らかにすることを目的としま
した。

■方法
本研究で扱った語用論的理解力は、慣習的含意と非慣習的含意を迅速に理解
する能力として定義されています。慣習的含意とは、固定の言語形式や文脈に
特化した言語使用の習慣によって意味を伝達することを指し、間接的な拒否と
決まり文句の2種類があります。間接的な拒否は、誘いやリクエスト、提案な
どを断るための言い訳として習慣化された会話のパターンを含み、ディナーへ
の誘いを断るときに、「(具合が)あまりよくないの」と答える場合などが当て
はまります。それに対して、決まり文句は固定の意味を伴うほぼ普遍の語彙で
あり、提案の言語行為を表す「何かお手伝いしましょうか?」などの表現が
代表的なものとしてあげられます。

それに対して非慣習的含意は、特定の会話文脈での熟考から生まれる場合が
多く、文脈を越えて不安定なものであるといえます。例えば、「この映画
よかった?」という問いかけに対して、「終わってくれてほっとした」という
答えが例として挙げられますが、この文脈では映画に対するネガティブな
評価であると捉えることができます。

本研究では、外国語としての英語学習者が慣習的含意および非慣習的含意を
理解できる能力を調べるために、コンピュータによる処理機能をもつ語用論的
リスニングテスト(PLT)を開発して使用しました。リスニングの素材は、2種類
の対面状況(家族と友達の交流、接客業務)でのアメリカ英語を用いた自然な
会話を集めた言語資料から引用し、信頼性を確かめるためにネイティブ・
スピーカーに対して試験的なテストを行いました。PLTを構成する実験項目
(40項目)には、慣習的含意と非慣習的含意が半数ずつ、慣習的含意には
間接的拒否と決まり文句が同数含まれていました。

実験には、外国語として英語を学ぶ64名の日本人学生が参加し、英語の習熟
度(英語を公教育で学習した年数、TOEFLのスコア)と留学経験の有無を基準
に3つのグループに分けられました。グループ1は、全員が1年生の前期課程
の学生で、スコアをベースに習熟度が低い学生から構成されました。
グループ2とグループ3の学生は、グループ1の学生に比べて習熟度が高く、
グループ2の学生は留学経験がなく、グループ3の学生は最低でも1年以上、
英語が話されている国に留学した経験を有していました。

PLTは個人のPCに提供され、参加者はヘッドフォンを付けて会話を聞いた後、
スクリーンに提示された4つの選択肢を伴う問題を読み、会話の内容をもとに
正しいと思う選択肢を1から4までのいずれかのキーを押して回答しました。
その際、問題が提示されてから参加者がキーを押すまでの時間を反応時間とし
て測定し、回答はコンピュータにより記録しました。


■結果
本研究では、語用論的理解力を回答の正確さ得点と、回答が選択されるまでの
反応時間によって測定しました。参加者全員が低い正確さ得点と長い反応時間
を示したのは、非慣習的含意の理解に関する問題に対してでした。また、慣習
的含意については間接的な拒否の方が決まり文句よりも反応時間が短く、理解
しやすい概念であることが示されました。
理解の正確さと反応時間についてグループ間の違いを検討したところ、次の
4点が明らかになりました。
(1) グループ1(低い習熟度・留学経験なし)はグループ2(高い習熟度・留学
  経験なし)とグループ3(高い習熟度・留学経験あり)よりも、慣習的含意
  の正確さ得点が低い
(2) グループ1はグループ2とグループ3よりも、非慣習的含意の正確さ得点が
  低い
(3) グループ2はグループ3よりも、非慣習的含意の正確さ得点が低い
(4) グループ1はグループ2とグループ3よりも、慣習的含意および非慣習的
  含意の反応時間が長い

この結果から、非慣習的含意の理解には習熟度と留学経験の両方が影響を与えて
いること、そして慣習的含意の理解には、習熟度のみが影響を与えていること
が示されました。また、含意のタイプにかかわらず、習熟度のみが理解の速さ
に影響を与えていることが明らかになりました。なおこの傾向は、慣習的含意
のひとつのタイプである間接的拒否についても確認されましたが、決まり文句
についてはグループ間で有意な差がみられなかったことから、学生が決まり文
句を理解する速さには、習熟度と留学経験のどちらも影響を与えていないと
考えられます。


■考察
慣習的含意と非慣習的含意の理解の正確さ、速さといった語用論的理解力の
異なる側面は、習熟度および留学経験によってそれぞれに影響を受けている
ことが示されました。理解の速さに影響を与えていたのは、留学経験ではなく
習熟度であったのに対して、理解の正確さについては混在した結果が得られま
した。具体的には、非慣習的含意と、慣習的含意のひとつである決まり文句の
理解の正確さには、習熟度ではなく留学経験のみが影響を与えていることが
明らかになりました。

今後は、より多くの参加者を集める、留学先で実験を行うなど、本研究の限界
点を克服することで、語用論的言語能力に対する留学経験の影響を直接的に
検討していきたいと考えています。


◎特集記事協力◎
伏木田稚子/東京大学 大学院 学際情報学府 博士1年

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発信していますので、Twitterをご利用のかたはぜひBEAT公式アカウント
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お知らせ BEAT Seminar  ─────────────────────
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2011年度第3回 BEAT公開研究会
「デジタル読解力を育てる情報教育」 12月17日(土)開催!
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BEAT(東京大学情報学環ベネッセ先端教育技術学講座)では、
2011年度第3回 BEAT Seminar 「デジタル読解力を育てる情報教育」
を12月17日(土曜日)に開催致します。

今年6月にPISAのデジタル読解力調査の結果が発表されました。
本テストでは「インターネットの上の情報の信頼性を検証しウェブページ
をナビゲードしながらその信頼性を評価するという課題」を実施しており、
従来のプリント読解とは異なる方法で測定しています。
調査の結果、大半の国ではプリント読解力とデジタル読解力には密接な
関係が見られたものの、成績最上位層の比率が国によって大きく異なる
ことが分かりました。
21世紀における教育、雇用、社会参加の機会に完全な形でアクセスする
ためには、このデジタル読解力が大きな鍵を握っていると思われます。
では、デジタル読解力を高めるためにはどのような教育が求められるので
しょうか。

今回のBEATセミナーでは、PISA型読解力の研究をされている
国立教育政策研究所の有元秀文さんと、情報教育の研究をされている
横浜国立大学の野中陽一さんにお越しいただき、
デジタル読解力を育成する情報教育のあり方について議論します。
みなさまのご参加をお待ちしております。

日時:2011年12月17日(土)14:00~17:00

場所:東京大学 本郷キャンパス 情報学環・福武ホール(赤門横)
福武ラーニングシアター(B2F)
アクセスマップ>> http://www.beatiii.jp/seminar/seminar-map47.pdf

内容:
14:05-14:45
1.講演1「デジタル読解力を育てるe-Book Club」
有元秀文(国立教育政策研究所)

14:50-15:30
2.講演2「情報教育研究の実践的課題」
野中陽一(横浜国立大学)

15:40-16:00
3.参加者によるグループディスカッション

16:00-17:00
4.パネルディスカッション「デジタル読解力を育てる情報教育」
司会:
高橋 薫 (東京大学)
パネリスト:
有元秀文(国立教育政策研究所)
野中陽一(横浜国立大学)
山内祐平(東京大学)

定員:180名(定員になり次第締切りますので、お早めにお申し込みください)
参加費:無料
懇親会:セミナー終了後1F UT Cafeにて 参加希望者(3,000円)

お申込みはこちら
↓↓↓↓↓↓↓↓
http://www.beatiii.jp/seminar/index.html


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お知らせ UTalk       ──────────────────────
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「 科学技術とその使い方 ―そのとき社会は」のご案内
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UTalkは、様々な領域で活躍している東京大学の研究者をゲストとして招き、
毎月開催するイベントです。カフェならではの雰囲気、空気感を大切にし、
気軽にお茶をする感覚のまま、ゲストとの会話をお楽しみいただける場と
なっています。

環境と人間活動が調和し、かつ人間と人間が調和した「持続可能」な社会を
つくっていくためには、我々は科学技術はどのように使っていけばいいので
しょうか?都市工学を修め、サステイナビリティ教育や環境リーダー育成プロ
グラム開発にたずさわっておられる小貫元治さん(大学院新領域創成科学研究科)
と共に考えます。みなさまのご参加をお待ちしています。


日時:11月12日(土)午後2:00-3:00

場所:UTCafe BERTHOLLET Rouge(東京大学 情報学環・福武ホール併設)
http://fukutake.iii.u-tokyo.ac.jp/access.html

料金:500円(ドリンク付き/要予約)

定員:15名

申し込み方法:UTalkホームページ https://fukutake.iii.u-tokyo.ac.jp/utalk/
の参加申込フォームに必要事項をご記入の上、お申し込みください。

※お申し込みの締め切りは11月7 日(月)までとします。
なお、申し込み者多数の場合は抽選とさせていただく場合がございます。
ご了承ください。


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 編 集 後 記 ──────────────────────
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今回は変則的に1週間遅れの発行となりましたが、Beating89号は
いかがでしたでしょうか。(お待たせしてしまってごめんなさい。)

本文で告知したように、次回のBEATセミナーでは「デジタル読解力」を
取り上げます。新聞等の報道でご存知の方も多いと思いますが、東京大学では、
日本マイクロソフト、レノボ・ジャパン、豊島区教育委員会と連携し、
「21世紀型スキル」育成の共同研究を開始しました。
「デジタル読解力」は「21世紀型スキル」の中核となる重要な要素でもあります。
必見のセミナーですので、ぜひご参加ください!

それでは、また次号でお会いいたしましょう!

ご意見・ご感想をお待ちしております。

「Beating」編集担当 高橋 薫 (たかはし かおる) kaorutkh@beatiii.jp

-------次回発行は11月29日の予定です。

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□ご意見・ご感想は…
「Beating」編集担当 高橋 薫 kaorutkh@beatiii.jp
(東京大学大学院情報学環ベネッセ先端教育技術学講座 特任助教)

□「BEAT」公式Webサイト http://www.beatiii.jp/?rf=bt_m089c

□発行:東京大学大学院 情報学環 ベネッセ先端教育技術学講座「BEAT」
Copyright(c) 2011. Interfaculty Initiative in information Studies,
The University of Tokyo. All Rights Reserved.

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