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Beating 第29号
2006年度Beating特集「5分でわかる学習プロジェクト講座」
第7回:ビデオカメラを新しい研究の道具へ 〜最先端技術の研究への応用〜 『The DIVER Project』

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  東京大学大学院 情報学環 ベネッセ先端教育技術学講座「BEAT」   
  メールマガジン「Beating」第29号     2006年10月31日発行    
                        現在登録者1227名   
  2006年度Beating特集「5分でわかる学習プロジェクト講座」
   第7回:ビデオカメラを新しい研究の道具へ
          〜最先端技術の研究への応用〜 『The DIVER Project』

           http://www.beatiii.jp/
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皆さまこんにちは。お元気でお過ごしでしょうか?

朝晩冷えるようになってくると、布団から出るのが億劫になりますね。秋の夜
長を楽しんでしまうと、なおさらです。
けれども秋晴れの清々しい日、朝早くから活動すると得した気分になります。
これから行楽シーズン真っ盛り、皆さまも体調などにはお気をつけ、今シーズ
ンをお楽しみ下さい。

それでは、2006年度Beating第29号のスタートです!

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┃★CONTENTS★
┃■1. 特集:2006年度Beating特集「5分でわかる学習プロジェクト講座」
┃      第7回:ビデオカメラを新しい研究の道具へ
┃         〜最先端技術の研究への応用〜 『The DIVER Project』
┃
┃■2. 【お知らせその1】公開研究会「BEAT Seminar」2006年度第6回:
┃                         〜11/11(土)開催!
┃
┃■3. 【お知らせその2】2006年度第5回公開研究会「BEAT Seminar」
┃                         Webサイトのご案内
┃
┃■4. 編集後記
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■1. 特集:2006年度Beating特集「5分でわかる学習プロジェクト講座」
       第7回:ビデオカメラを新しい研究の道具へ
          〜最先端技術の研究への応用〜 『The DIVER Project』
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今年度のBeatingでは、BEATの研究をより理解していただくため、Beatingで昨
年度までに見てきた学習理論を土壌に、世界各地で花開いている学習プロジェ
クトを、1年を通じてみなさんに紹介していく講座を開講いたします。

昨年度のBeatingバックナンバー
http://www.beatiii.jp/beating/index.html

「◯◯理論とは言うけれど、いまいち具体的なイメージがわかないなあ…」
「どうやったら教室や学びの場に実際に使えるのだろう?」そんな声にお答え
するべく、今年度のBeatingでは古今東西学習プロジェクトの"いま"を、みな
さんにお届けしていきます。

さらに、今回のBeatingでは、これまでと少しだけ趣向を変え、時代の最先端
技術が、どのようにして学習研究に使われているのかを紹介したいと思います。
研究者の「学び=研究」を支援するプロジェクト、とでも言えるでしょうか。
今回は、そんな最先端のビデオカメラを使って研究者の「学び=研究」を支援
するシステムのお話です。


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第7回:ビデオカメラを新しい研究の道具へ          
          〜最先端技術の研究への応用〜 『The DIVER Project』
プロジェクト名:The DIVER Project
国・発足年  :アメリカ・2001年
代表者    :ロイ・ピー
所属     :スタンフォード大学
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■どうしてビデオカメラなの?
みなさんは、これまでの学習研究が抱えていた、大きな問題点をご存知ですか?
それは、極端に言ってしまえば、現実に起こっている学びの場面(たとえば、
教室だったり職場だったりしますよね)を、うまく扱うことができえないとい
う問題です。その原因は単純で、現実に学びが起きている教室の場面では、
たくさんの生徒がそれぞれに問題を解決しており、さまざまな情報で溢れかえ
っているため、そのような複雑な場面をどうやって研究すればいいのか、はっ
きりとした方法がなかったことによっています。もちろんこれは学習研究に限
ったことではなく、およそ社会の中にある問題の多くは、同じように複雑な環
境の中で起こっています。

このような難しい問題に対して、文化人類学や社会学、経営学や教育学など、
さまざまな分野の学問の中から、何とかして複雑な現象を捉えられる方法を考
えよう、という機運が高まってきました。そう、そのひとつの可能性を担って
いたのが"ビデオカメラ"です。

学びが生起しているまさにその現場では、いったい何が起こっているのかを知
りたい……そんな研究者たちの長年の思いが、技術の進歩によって現実になろ
うとしているのです。近年特に普及が進んでいるデジタルビデオカメラは、こ
れまでの紙とペンによる記録を大きく変化させつつあります。現場で起きてい
ることを細部まで記録し、研究室に持ち帰って繰り返し分析する。20年前に
はごく一部の限られた研究者にしかできなかったことが、今や誰にでも可能に
なっているのです。


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■ビデオカメラの限界
「でも、ちょっと待てよ?」そう思われた読者の方も多いかもしれません。
そう、ビデオカメラって、そんなに現場で起きていることをはっきりと記録で
きるものなのでしょうか? 運動会のビデオを見てみると、映っているのは大
はしゃぎのお父さん・お母さんばかりで、肝心の子どもの競技は終わった後だ
った…なんて経験はないでしょうか。これまでのビデオカメラでは、その構造
上どうしても視点がひとつになり、視野が狭くなってしまうことは避けられま
せんでした。

この問題を解決しようと始まったのが、スタンフォード大学のロイ・ピー博士
たちによる、DIVER(Digital Interactive Video Exploration
and Reflection)
プロジェクトです。


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■どういうシステム?
DIVERは、ビデオカメラを使って記録をし、その記録をさまざまな形で利用す
るための方法を提供するシステムです。DIVERでは、複数のレンズと鏡を組み
合わせたシステムによって、対象のまわり全て、360度全景を撮影すること
ができます。撮影したビデオは画面内のどの部分にもズームすることができ、
どのような角度からでも対象を見ることができます。また、映像の特定の部分
だけを好きな範囲、角度から切り出すことができ、そこにコメントを付記する
ことができます。

実際にDIVERが使われている場面の例をひとつ挙げてみましょう。
現場の教師たちからは長年言われてきたことですが、熟練した教師と、経験の
浅い教師とでは、授業の場面で着目するところが違う、ということがわかって
きています。ところが、経験の浅い教師にとって、「違う」といわれてもどこ
がどう「違う」のかはわかり難いものです。実際に自分が行った授業で熟練し
た教師はどこを見るのだろうか…これまでのビデオカメラでは、このような問
いに答えることは必ずしも簡単ではありませんでした。一人の生徒や教師が喋
っている場面、ひとつの視点からの映像だけでは、着眼点の違いを説明するこ
とは難しいものです。

しかし、DIVERを使うことによって状況は劇的に変化します。たとえば、経験
の浅い教師の授業をDIVERを使って撮影したとしましょう。授業の後、DIVER上
に記録されている映像は、必要であればインターネットを介して熟練の教師と
共有されます。DIVERを使うことで、これまでのような単一の視点では捉えき
れなかった部分を補うことができます。およそ授業風景の全て、必要な情報は
全てDIVER上にあることになります。教室の中で同時並行的に起きているどの
ような行動にも、着目することができるのです。これまでのビデオでは、単一
の視点による制約から、見るべきところがわかっていないと記録することはで
きませんでした。しかしながらそれでは、熟練の教師がどこを見ているのか、
経験の浅い教師はどこが見えていなかったのかを判断することができません。
DIVERを授業に持ち込むことで、経験の浅い教師が見えていなかった生徒の反
応や活動を、授業が終わった後から振り返ることが可能になるのです。


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■今後の展開
最新の技術から作られているDIVERは、まだまだ実績と呼べるほどのものを残
してはいません。しかしながら、既に多くの研究の現場へと持ち込まれ、デー
タが蓄積されつつあります。また、スタンフォード大学を中心に全米規模でワ
ークショップが頻繁に開催されるなど、デジタルビデオカメラをどうやって研
究に結びつけるか、という問題が活発に議論されつつあります。DIVERが、今
後の教育、学習研究を占うひとつの重要な技術であることは間違いないでしょ
う。DIVERはそのコストの安さや拡張のしやすさから、教育/学習研究のツー
ルだけにとどまるものではありません。事実、ロイ・ピー博士自身も、医療分
野や天文学への応用など、幅広い用途の可能性を示唆しています。技術の進歩
は、日常生活だけでなく、研究をも日々進化させていると言うことができるで
しょう。


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●参考文献
Pea, R. D. (2006)
Video-as-data and digital video manipulation techniques for transforming
 learning sciences research, education and other cultural practices.
in J. Weiss, J. Nolan & P. Trifonas (Eds.), "International Handbook of
 Virtual Learning Environments". Dordrecht: Kluwer Academic Publishing
【ご購入したい場合はコチラ】
http://www.amazon.co.jp/gp/product/140203802X

Pea,R. Mills,M. Rosen,J. Dauber,K. Effelsberg W Hoffert,E. (2004)
The Diver Project: Interactive Digital Video Repurposing.
in "Multimedia", IEEE.

ウウェ・フリック(2002)『質的研究入門—「人間の科学」のための方法論』
春秋社
【ご購入したい場合はコチラ】
http://www.amazon.co.jp/gp/product/4393499093/sr=1-4/
qid=1161238808/ref=sr_1_4/250-9165854-7191403?ie=UTF8&s=books

●参考URL
『DIVER』公式サイト
http://diver.stanford.edu/

(特集記事協力:
 三宅正樹/東京大学 大学院 学際情報学府 修士1年
 平野智紀/東京大学 大学院 学際情報学府 修士1年)
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今号での『The DIVER Project』の紹介、お分かりいただけましたでしょうか。
Beatingで知ってもっと学びたくなった、という方のために参考図書も充実さ
せていく予定です。どうぞご期待ください。

では、「5分でわかる学習プロジェクト講座」次号もどうぞお楽しみに!
ご意見・ご感想もお待ちしております。


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■2. 【お知らせその1】公開研究会「BEAT 'Special' Seminar」:

       学習科学とICTは学びのあり方を変えるか
        - 高等教育の変革を事例として -

            11/11(土)開催!

                 http://www.beatiii.jp/seminar/

 主催:東京大学情報学環 ベネッセ先端教育技術学講座 (BEAT)
 共催:東京大学大学総合教育研究センター
        マイクロソフト先進教育寄附研究部門 (MEET)
  後援:NPO法人 Educe Technologies

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 11月のBEAT公開研究会は、学習科学の世界的研究者であるスタンフォード大
学 Roy D. Pea先生、中京大学 三宅なほみ先生、静岡大学 大島純先生という
豪華ゲストをお迎えして、「学習科学とICTは学びのあり方を変えるか」という
テーマで'BEAT Special Seminar'としてお送りします。
インターネットの急速な普及により、教室にコンピュータや携帯電話などの
テクノロジーがある姿はめずらしいことではなくなりました。しかしながら、
これらのテクノロジーが学習環境に統合され、人々の学びを支えているかとい
えば、全くそうなっていないのが現状です。
 その原因として、人はどのように学んでいて、どうすれば支援できるのか
という原理を意識せずにテクノロジーを導入していることがあげられるでしょう。
このセミナーでは、学習科学の第一人者が「人はいかに学ぶか」に関する学習
科学の知見を援用しながら、ICTを導入して教育実践を改善しているケースを
ご報告いただき、学びの場の構成において重要な原則を共有したいと思います。
 事例は高等教育ですが、学習の原理そのものは子どもから大人まで共通した
ものが多いですので、多様なフィールドに示唆が得られる研究会になると思います。
ICTを用いた学習環境に興味がある方は「必見」の研究会です。
多くの方のご参加をお待ちしております。

企画責任者:山内祐平(東京大学情報学環/BEATフェロー)

—————————【第6回 公開研究会 概要】————————————

■日時
 2006年11月11日(土曜日)
 午後2時より午後5時30分まで

■場所
 東京大学 本郷キャンパス 工学部2号館北館 213大講義室
 http://www.beatiii.jp/seminar/seminar-map26.pdf
 (定例会場と同じ建物の1Fです)

■定員
 200名

(最近、BEATの公開研究会は〆切前に募集停止になることが多くなっています。
お早めにお申し込みください。キャンセルの場合は、お手数でもsato@beatiii.jp
までメールをいただければ幸いです。一人でも多くの方に ご参加いただくため、
ご協力をよろしくお願いいたします。)

■参加方法
 参加希望の方は、BEAT Webサイト
 http://www.beatiii.jp/seminar/ にて、ご登録をお願いいたします。

■参加費
 無料

■内容

 ●企画趣旨
  pm2:00-pm2:10
  山内 祐平 (東京大学)

【第1部】
  
 ●プレゼンテーション1
   "The need to understand life-wide learning across contexts"
   pm2:10-pm3:00
   Roy D. Pea (スタンフォード大学)
  (同時通訳がつきます)
 
 休憩10分

 ●プレゼンテーション2
  「大学における教員養成系プログラムの改革:知識構築共同体を目指して」
  pm3:10-pm3:40
  大島 純 (静岡大学)

 ●プレゼンテーション3
  「大学生の協調学習とICT」
  pm3:40-pm4:10
  三宅なほみ (中京大学)

 休憩10分

【第2部】

 ●グループディスカッション
  pm4:20-4:50
 (参加者の方にグループで話し合って質問を出していただきます)

 ●パネルディスカッション
  pm4:50-5:30

  メンバー
  ・Roy D.Pea
  ・大島純
  ・三宅なほみ

  コーディネータ
  東京大学  山内 祐平 (BEATフェロー)

※終了後、懇親会を開催します。カジュアルな会で、発表者と参加者が交流
できるものですので、ぜひご参加ください。


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■3. 【お知らせその2】2006年度第5回公開研究会「BEAT Seminar」
                         Webサイトのご案内
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10月のBEAT公開研究会「イマドキ・キッズの遊び場、学び場:どのようなチル
ドレンズミュージアムを創るか?」は、おかげさまで席が足りないほどの盛況
でした。みなさまのご参加ありがとうございました。

その内容を BEAT Webサイトに本日公開いたしました。当日出席出来なかった
方、内容を振り返りたい方など、どうぞご覧下さい。

第5回:「イマドキ・キッズの遊び場、学び場:どのようなチルドレンズミュー
ジアムを創るか?」」
http://www.beatiii.jp/seminar/025.html

これからもさまざまなかたちで、進捗状況や成果の報告をしていきますので、
みなさんどうぞご期待ください。


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■4. 編集後記
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最後までお読みいただき、ありがとうございました。

先日小学生の息子の運動会に行ってきました。

我が子が出ない競技のときに、ふと他のお父さん達が懸命に構えているビデオ
カメラのファインダーをチェックしてしまいました。同じ場所で同じ組体操を
撮影しているのに、捉えているものがすごく異なっていることに改めて驚きを
感じました。1つの情報源から多様な切り出し方がある!と実感しました。

この人はあの背の高い女の子のお父さんなのかぁ、あのピラミッドの一番上の
男の子のお父さんはこの人なんだ、などと一人で楽しんでいました。ただ、ビ
デオには、肉眼では捉えきれない表情までズームで確認出来るという利点はあ
りますが、全体の雰囲気、他の子との関係性までは残すことが出来ません。
運動会において、どの親にも編集可能なアーカイブを残すとしたらどんな撮影
がいいのかなぁ・・・と今月のBeating特集を読みながら考えてしまいました。

では、次号のBeatingもお楽しみに。


                        「Beating」編集担当
                             佐藤 朝美
                         satomo@beatiii.jp


-------次回発行は11月第4週頃の予定です。
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します。また、ご本人の同意なく、第三者に提供することはございません。

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無断転載をご遠慮いただいておりますので、転載を希望される場合はご連絡
ください。

□登録アドレスの変更、登録解除などはコチラ
http://www.beatiii.jp/beating/

□ご意見ご感想はコチラ
「Beating」編集担当
佐藤 朝美(東京大学大学院 学際情報学府 山内祐平研究室 修士課程2年)
satomo@beatiii.jp

□「BEAT」公式Webサイト
http://www.beatiii.jp/

□発行
東京大学大学院 情報学環 ベネッセ先端教育技術学講座「BEAT」

Copyright(c) 2006. Interfaculty Initiative in information Studies,
The University of Tokyo. All Rights Reserved.
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