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Beating 第41号
2007年度Beating特集「5分で分かる教材評価講座」
第7回:"軌跡"を残せ!−ポートフォリオ評価法−

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  東京大学大学院 情報学環 ベネッセ先端教育技術学講座「BEAT」   
  メールマガジン「Beating」第41号     2007年10月30日発行    
                        現在登録者1514名   
  2007年度Beating特集「5分で分かる教材評価講座」
  第7回:"軌跡"を残せ!−ポートフォリオ評価法−

           http://www.beatiii.jp/?rf=bt_m007a
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皆さまこんにちは。

さわやかな秋晴れの日が続いておりますが、皆さまはどんな秋を楽しまれてい
らっしゃいますか。紅葉だよりに旅心をさそわれたりしませんか。味覚の秋、
行楽の秋、秋は楽しみが色々満載の季節ですね。Beatingもその楽しみの1つに
是非ご満喫下さい。

それでは、2007年度Beating第41号のスタートです!

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┃★CONTENTS★
┃■1.  特集:2007年度Beating特集「5分で分かる教材評価講座」
┃   第7回:"軌跡"を残せ!−ポートフォリオ評価法−
┃
┃■2. 【お知らせ】公開研究会「BEAT Seminar」2007年度第3回:
┃                         〜12/1(土)開催!
┃
┃■3.  編集後記
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■1. 特集:2006年度Beating特集「5分でわかる教材評価講座」
   第7回:"軌跡"を残せ!−ポートフォリオ評価法−
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今年度のBeatingでは、BEATの研究をより理解していただくため、学習の「評
価」についてさまざまな観点から紹介し、一年間で皆さまと一緒にその秘訣を
探っていく「5分で分かる教材評価講座」を開講しています。

2007年度Beating特集「5分で分かる教材評価講座」も7回目となりました。
今月号では、学習や取り組みのプロセスを残して、多角度からの評価を行う
「ポートフォリオ評価法」について説明します。数字だけでは測れなかった、
カユイところに手が届く。そんな方法です、どうぞお楽しみ下さい。


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第7回:"軌跡"を残せ!−ポートフォリオ評価法−
ケーススタディ5:ポートフォリオ評価法【教育・カリキュラム評価】
ポイント    :"学習の軌跡"、"真正な評価(authentic assessment)"
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■カユイところに手が届く!?ポートフォリオ評価法

 「A君はこの授業を通して大きく成長したと思う。決して自分の考えを
  上手に喋れる子ではないけれど、グループ内での話し合うときの発言は
  前よりずっと多くなった。他の子に比べたらレポートのまとめ方はいま
  いちかもしれないけど、積極的に調べ物をしていて、他の子どもや僕に
  説明するときにはそれがよく現れていた———」

もしもあなたが学校の教師で、ある子どもがどれだけ成長したかを評価しなけ
ればいけないとき、どのような方法を取るでしょうか。

上記のような子どもの場合、レポートの採点だけで成績をつけるとしたら、こ
の教師が思っているA君の良さは正確に評価できないでしょう。教師は子ども
達と毎日触れあうなかで、点数だけでは測れないその子その子の「良さ」を肌
で感じています。

「成果物からだけでは分からない子どもの声を拾い上げたい・・・」
そんなジレンマの声が聞こえてきそうですね。

このような要望に応えるべく、従来のペーパーテストだけでは測れないことを
評価するための方法として1990年代初頭から少しずつ注目されはじめたのが
「ポートフォリオ評価法」です。


●そもそも「ポートフォリオ」って何?−評価の道具としてのポートフォリオ
ポートフォリオとは、もともとはファイルを意味する言葉で、自分で調べた資
料やまとめたノート、その時感じたメモなどをファイリングして保存したもの
のことを指します。
ただ単に集積するのではなく、目的や計画を持ってまとめていくことによって、
その人が何をしてきたかという学習の軌跡が追えるだけでなく、これから何を
目指せばよいのかを形成的(※)に評価することができるのです。

※ 形成的評価の詳細は、2007年度Beating特集「5分で分かる教材評価講座」
  第1回:そもそも評価とは?なぜ必要なの?「形成的評価と総括的評価」
  をご覧下さい。
  http://www.beatiii.jp/beating/035.html?rf=bt_m007

では、「学習の軌跡が追える点」と「形成的評価が行える点」について、もう
少し詳しく見ていきましょう。


●真正の評価とは?−ポートフォリオ評価で捉えられること
ポートフォリオを作るということは、それまでの学習の積み重ね、つまり、
学習のプロセスを残していると言えます。このような「学習の軌跡」から、
今まで取りこぼされがちであった成長の詳細や、テストの点数だけでは評価し
得なかった側面を追うことが可能になります。

例えば、テストで80点を取ることができた子がいるとします。この評価によっ
て、その子が大枠は理解していることが分かります。また、どの問題が解けな
かったかを見れば、どこが苦手なのかも分かります。しかし、どうしてその問
題を解けなかったのか、別の教材や方法で教えれば改善されるのか、というこ
とは分かりません。そこで、ポートフォリオの評価を用いると、その子が今ま
での学習で何が足りなかったのか、どこでつまずいたのかを「学習の軌跡」か
ら追っていくことが可能となるのです。

さらに、これらの評価法は教師に役立つだけでなく、子ども自身の学びにも有
効です。例えば、道に迷ってしまった際には原点に立ち返ったり、自分の学習
のよかった点や不十分だった点を自ら振り返ることもできます。これは、自分
の成長を実感することにつながりますし、客観的な視点を持つことにもつなが
ります。自分の学習に責任を持つことで、学習活動へのコミットメントも深ま
ります。

このようにポートフォリオ評価法は、従来の評価の拡充的な役割を担うことに
よって、学習者の成長した点だけでなく、困難や苦手としている現状を確認す
ることを可能とし、学習にとってより「真正な評価(authentic assessment)」
を行うことができるのです。



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■ある小学校の授業の中での活用例

これまで、子ども個人に対する評価という視点から、ポートフォリオ評価法を
見てきました。教師が子どもを評価する際に用いることができるということは、
何も1対1の関係に限ったことではありません。ポートフォリオを用いて教師
同士が話し合うことで、より詳細に子どもたちの学習状況をチェックすること
ができ、それにより授業やカリキュラムの改善にも効果的に用いることができ
るのです。
具体的に1つの事例を見てみましょう。(『総合学習のためのポートフォリオ
評価』(1999) 加藤幸次・安藤輝次著 黎明書房)


●総合学習「雪はよいものか、困りものか」
とある雪の多い地域の小学校で行われた実践です。ここは、雪が降ることによ
って交通事故が頻繁に起こったり、除雪に伴う苦労が多い反面、雪が降ること
で生活が成り立っている家庭も存在しています。

担当の教師は、初めての総合学習で、どのような方向に学習が向かうか見当も
つかないまま、「雪はよいものか、困りものか」という問いかけまで方向付け
ました。その後、子ども達は「雪は良い派」と「雪は悪い派」に分かれ、それ
ぞれ調べる内容を決めました。

 ・雪は良い派のテーマ例
  「雪は豊富な地下水を作る(地下水と雪の関係を追求)」
  「スキーができる(雪の量とスキー客の関係を調べる)」など
 ・雪は悪い派のテーマ例
  「通勤通学が大変(除雪の様子について調べる)」
  「交通事故が増える(雪と冬の交通事故の関係を調べる)」など

子どもたちは、発表会でもっともな証拠を示してみんなを納得させるために、
自分たちの仮説を裏付けるための資料を探して調べ学習を進めていきましたが、
次第に、子どもたちの学習の進度に差が生まれてきました。「地下水と雪の
関係」や「雪と冬の交通事故の関係」のグループは、図書館から借りてきた統
計資料や新聞記事など様々な資料を使って上手にまとまっていたのに対し、
「雪の量とスキー客の関係」のグループは、その地域に昔からスキー場が
あったということがわかっただけでした。どの本にもそれ以上の事柄を説明
した情報が載っていなかったのです。


●教師の意思決定・授業改善の過程
教師は、上手に調べている「地下水と雪の関係」グループと、難航している
「雪の量とスキー客の関係」グループのポートフォリオを同僚の教師達と検討
し合い、この先の授業展開を考えていきました。

両者のポートフォリオを見比べると、調べ学習をするにあたり掲げさせた目標
の明確さに大きな違いがあったことが分かりました。より具体的な目標を持っ
て何を調べたらよいかを考えながら進めていた「地下水と雪の関係」グループ
に対し、「雪の量とスキー客の関係」グループはスキーが好きであることを理
由に「雪はよい」としただけであり、目標が具体的ではありませんでした。

教師は自分も問題作りの際に自分なりの見通しをもっと持っておくべきだった
ことや、子どもの特性を考えて1対1の対話がもっと必要であることなどを反省
しました。また、「雪の量とスキー客の関係」グループは、自分のスキーの
体験や保護者からの意見を取り入れることで視野を広げさせるということが
決まりました。

このような反省点は来年度同じテーマで実践を行う際のカリキュラム改善に役
立つ評価になりますし、途中で行ったポートフォリオの検討会は授業を改善す
るための形成的評価として機能していることがわかります。ポートフォリオは
最終的に行うアンケートやレポートの結果だけでは分からない多様な情報を提
供してくれているのです。



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■まとめ:「真正な評価」に近づくために

ここまで、ポートフォリオ評価法の特徴についてざっくり説明してきました。

 ・学習の軌跡が追えること
 ・教師だけでなく学習者自身の学びにも有効であること
 ・過程から形成的評価を行い、授業・カリキュラム改善にも役立つこと
 ・従来の評価と組み合わせることによって、学習の真正な評価につながる
  こと

これらの特徴をみると良いとこばかりの評価法なのですが、これで「真正の評
価が可能になるか」というと、もちろんそんなことはありません。ポートフォ
リオにもできないこと、難しいことがあるということを把握し、目的に合わせ
て他の手法と組み合わせていくことが大事です。

ポートフォリオにできないこと、難しいこととしては、まず、ポートフォリオ
は「学習の軌跡」を残す以上、それなりの手間と時間がかかるということが挙
げられます。ポートフォリオ評価法の効果を十分に発揮させ、学習の変化を追
うには、長期的に継続しなければ意味がありません。また、学習の「全て」を
残すことは不可能としても、より真正な評価を行うためにできるだけ多くの情
報を保存しようとすると、普段以上に学習活動の記述を試みることになります。
大量の情報が集められるということは、それを丁寧に整理しなければいけな
くなりますので、時系列でまとめる以外にも、課題やワークシートの種類によ
って分類をしたり、インデックスを変更していったりといった工夫が求められ
ます。
また、ペーパーテストから学習の軌跡を判断することが困難なように、ポート
フォリオでは学習を点数化することが困難です。1人ひとりの成長過程は見て
取れますが、それだけに力を注いでいては、定められた学習目標に到達したの
かを評価することはできません。

悲しいことに評価にはお手軽な万能薬は無いのですね。目的を設定し、従来の
評価法との相互補完関係として用いることによって、学習の「真正な評価」に
近づいていこうとする姿勢が大変重要ではないかと考えます。


●教材・システム評価への応用
今月は、今年度のBeating特集テーマ"教材"の評価としては異例の、"学習者"
の評価としてポートフォリオ評価法を紹介しました。しかし、この授業やカリ
キュラムの改善にも役立つという視点は、教材やシステム開発における評価に
も用いることができるのではないかと考えられます。

つまり、教材やシステムの開発・実践におけるプロセスを長期的にまとめてい
き、そのポートフォリオから評価を行うというわけです。その場合、実験によ
り効果がある・なし等有意な差を確認するだけでなく、例えば、目的とされる
効果にいま一つ足りなかった点に対し、開発プロセスにおいてどのフェーズに
つまずきがあったのかを確かめることが出来ます。また、利用の詳細も長期に
蓄積していけば、教材やシステムの改善のための情報源にもなるわけです。

もちろん、先に挙げたような手間や時間を考慮に入れなければなりませんが、
設定した評価目標に見合う量のプロセスを残し、その多様な情報源を用いてポ
ートフォリオ評価を行うことで、「真正の評価(authentic assessment)」に近
づくための拡充的な働きをしてくれることは大変価値のあることだと思います。

数字だけでは把握することができなかった、カユイところに手が届くポート
フォリオ評価法、ぜひ試してみてはいかがでしょうか。



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●参考文献
『総合学習のためのポートフォリオ評価』(1999)
 加藤幸次・安藤輝次著、黎明書房

『ポートフォリオをデザインする 教育評価への新しい挑戦』(2001)
 B.D.シャクリー、R.アンブロース、N.バーバー、S.ハンズフォード著、
 田中耕治監訳、ミネルヴァ書房

「e-learningにおけるポートフォリオ評価法の動向とその応用」(2003)
 望月俊男・小湊啓爾・北澤武・永岡慶三・加藤浩、メディア教育研究
 Vol.10 pp.25-37、メディア教育開発センター

(特集記事担当:坂本篤郎/東京大学 大学院 学際情報学府 修士1年)
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「5分でわかる教材評価講座」次号もどうぞお楽しみに!
ご意見・ご感想もお待ちしております。


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■2. 【お知らせ】「2007年度 第3回 BEAT Seminar 」のご案内
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2007年度第3回となる12月のBEAT公開研究会は、
 「子どもの放課後学習環境」
というテーマで開催します。

学校教育のような公的に提供される学習は "Formal Learning"、
それ以外の家庭や社会で行われている学習を "Informal Learning"
と呼ぶことがあります。

"Informal Learning"は、時間的にも圧倒的に長く、重要な存在でありながら、
今まであまり注目されてきませんでした。

今回のBEAT Seminarでは、子どもが放課後や休日にどのように学んでいるのか、
また、学びをささえる空間や人工物はどうあるべきなのかについて、考えて
いきたいと思います。

—————————【2007年度 第3回 公開研究会 概要】————————
■テーマ
 「子どもの放課後学習環境」

■主催
  東京大学大学院 情報学環 ベネッセ先端教育技術学講座

■日時
  2007年12月1日(土)午後2時より午後5時まで

■場所
  東京大学 本郷キャンパス 工学部2号館北館 9階 92-B教室
http://www.beatiii.jp/seminar/seminar-map32.pdf?rf=bt_m007

■定員
  70名(お早めにお申し込みください)

■参加方法
  参加希望の方は、BEAT Webサイト
http://www.beatiii.jp/seminar/?rf=bt_m007
  にて、ご登録をお願いいたします。

■参加費
  無料

■内容
  詳細が決まりましたらお知らせします。

■登壇者
  ・木村治生氏 (株式会社ベネッセコーポレーション
             Benesse教育研究開発センター 教育調査室長)
  ・藤井繁子氏 (住生活ジャーナリスト・株式会社リクルート
             住宅総合研究所 主任研究員)
  ・安永哲郎氏 (コクヨ株式会社 RDIセンター ThinkEngine 事業開発部)


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■3. 編集後記
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最後までお読みいただき、ありがとうございました。


秋といえば運動会のシーズンでもありますね。
そして運動会といえば、何といっても徒競走やリレー!!我武者羅に走る
子ども達の真剣な顔には毎年心が打たれ、思わず感動してしまいます。
我が子はトップ争いの枠には入っていないのですが、チームに点数が入るのは
4位からということで、必死に頑張りました。

徒競走は一瞬ですが、2学期からはじまった、タイムの測定、コースの決定(幼
稚園時代からのライバルとの対決!)、スタートの練習、靴選び等々、そこまで
長い道のりがありました。リレーの代表選手や1位の子の華々しいドラマとと
もに、小さな物語が沢山あるわけです。

最近は順位を付けない徒競走があると聞きましたが、劇的なドラマが生まれる
には、順位は不可欠な要素だと思います。どうしても抜かせない相手がいても
決してへこたれず、スタート時のドキドキ感を克服し、最後まで諦めずに走り
抜くことは貴重な体験だと思います。

徒競走もポートフォリオ評価したなら、その子なりの成長がきちんと評価出来
そうですね。


では、来月のBeatingもお楽しみに。

                         「Beating」編集担当
                             佐藤 朝美
                         satomo@beatiii.jp
-------次回発行は11月第4週頃の予定です。

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「Beating」編集担当 佐藤 朝美
(東京大学大学院 学際情報学府 山内祐平研究室 博士課程1年)
satomo@beatiii.jp

□「BEAT」公式Webサイト
http://www.beatiii.jp/?rf=bt_m007b

□発行
東京大学大学院 情報学環 ベネッセ先端教育技術学講座「BEAT」

Copyright(c) 2007. Interfaculty Initiative in information Studies,
The University of Tokyo. All Rights Reserved.
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