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Beating 第97号
2012年度Beating特集「いまどきのミレニアムキッズ」
第3回:就学前の子どもの家庭におけるテクノロジーとの関わり

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東京大学大学院 情報学環 ベネッセ先端教育技術学講座「BEAT」
メールマガジン「Beating」第97号     2012年6月26日発行
現在登録数 2,999名

2012年度Beating特集「いまどきのミレニアムキッズ」
第3回:就学前の子どもの家庭におけるテクノロジーとの関わり


http://www.beatiii.jp/?rf=bt_m097

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みなさま、こんにちは!

梅雨の晴れ間の日差しがまぶしく感じられる今日この頃ですね。
ちょっと奮発して、憂鬱な雨の日でも楽しく出かけられるような長靴を
買ってみたところ、これが思いがけず大活躍しています。

さて、Beating特集「いまどきのミレニアムキッズ」第3回では、就学前の
子どもの家庭におけるテクノロジーとの関わりに関する研究を取り上げます。
また、6月2日に開催されたBEAT公開研究会「子どもとデジタル絵本」の開催
報告も掲載しています。セミナーにお越しいただけなかった方、必見ですよ。

では、Beating第97号のスタートです!

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★CONTENTS★

【特集】2012年度Beating特集「いまどきのミレニアムキッズ」
第3回:就学前の子どもの家庭におけるテクノロジーとの関わり

1. お知らせ・BEAT Seminar 2012年度第1回 BEAT公開研究会
「子どもとデジタル絵本」開催報告

2. お知らせ・東京大学×ベネッセ:ソーシャルラーニングプログラム「Socla」
オンラインサマースクール高校生参加者募集のご案内

3. お知らせ・UTalk
「隠れキリシタンを図像に探る」のご案内

4. 編集後記


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特集─────────────────────────────────
━━ 2012年度Beating特集「いまどきのミレニアムキッズ」
第3回:就学前の子どもの家庭におけるテクノロジーとの関わり
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インターネットが一般家庭に普及するようになり、子どもの頃からあたりまえ
のようにインターネットやコンピュータを使いこなすデジタルネイティブと
呼ばれる世代が登場してきました。「いまどきのミレニアムキッズ」では、
そんな子ども達のメディア利用の現状と、これからの教育に何が求められて
いるのかを、研究者へのインタビューや最新の研究を取り上げながら探索して
いきます。
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──
第3回は「就学前の子どもの家庭におけるテクノロジーとの関わり」に関する
Plowman, Stevenson, Stephen, and McPake(2012)の論文を取り上げます。
子どもの家庭内における学習体験とテクノロジーを使った遊びに焦点を当て、
テクノロジーと子どもとの関わり合いに関し、家庭へのエスノグラフィーや
家族へのインタビューを通した多面的な分析を行なった観察研究です。
http://bit.ly/K88fj8
──

●背景と問題
従来から子どものメディア研究は行われてきましたが、 子どもがテクノロジー
を扱う能力をどのようにサポートし、成長させるかといった手法については
ほとんど注目されてきませんでした。

従来の幼児を対象としたメディア利用研究については、利用時の文脈について
十分に考慮されていないこと、また、Vandewater, and Lee(2009)は近年では
アナログからデジタルメディアへの移行が生じており、メディアによるメッセ
ージの伝達とその内容ばかり重視していた従来の指標では不十分であると指摘
しています。

そして家庭におけるテクノロジーを利用した遊びと学習に関する研究は5歳児
以上を対象としたものが多いとPlowmanらは指摘しています。この理由として
就学前の子どもたちは活発に動き回ること、家族に何度も家庭を訪問する許可
を得る必要があることなどを挙げています。

The American Academy of Pediatrics(2011)やFunk, Brouwer, Curtiss, and
McBroom(2009)の研究から、親はテレビなどスクリーンメディアに幼児が触れ
ることに対してネガティブな印象を抱いている一方、適切な利用については
あまり認知していないことが分かっています。また親はテクノロジーとの
インタラクションから生まれる学習についても未だ十分に認識していません。
このため、どのようなテクノロジーが幼児教育をサポートするのか、また、
家庭内の実践や取り組みによってどのような影響が生まれるのか、といった
ことについて正しく理解することは重要なことだと考えられます。

●目的
そこでPlowmanらは、以下の問いについて調査することで、家庭における
子どもとテクノロジーの関わりについて明らかにしようとしました。

1. 子ども達は家庭内においてどのようなテクノロジーに接しているのか
2. 家庭でのどのような実践が、子どものテクノロジーとの触れあいに影響を
及ぼすのか
3. 子どもは、テクノロジーとのインタラクションから何を学ぶのか

●方法
まず、調査するにあたってスコットランド中部に在住し、3歳児のいる家族
14組を社会経済的地位に偏りが出ないように選定しました。 イギリス国家統計
局の社会階層の基準(収入,職業,教育などを基にした相対的な社会経済的
地位)に照らし合わせると、そのうち7組が「高階層」、7組が「低階層」で
した。 調査対象児童のうち12人には兄弟がいて、2人は一人っ子、1組の家族
は調査時に赤ちゃんがいました。

Plowmanらは家族の役割や、おもちゃ、テクノロジー、それらのインタラク
ションが生じている空間について分析するために18ヶ月以上にわたり、
それらの使われ方や態度のパターンがどのように変化していくか追跡しました。
この2008年6月から2009年10月までの18ヶ月にわたる家庭への訪問で、
信頼関係の構築や、子どものものの見方についての聞き取り、家庭内の文化と
実践について深く知ることができたとPlowmanらは述べています。

各家庭には最低9回以上データ収集に赴き、各回ごとに「おもちゃとテクノロ
ジーについて」「子どもとの会話からお気に入りのおもちゃを探る」「子どもの
遊びと学習に対して親がどう理解しているか」、といったように内容を変えて
調査を行いました。調査は他にも親へのインタビューや親自身に子ども時代を
記述してもらったり、スタッフによるビデオ撮影や観察記録など様々な手法を
用いています。

また分析にはクラスター分析を用いることで、個人と家族、テクノロジー、
その他のおもちゃや文化的実践の間で生じている複雑なインタラクションに
ついて検討を行いました。

●結果
【子どもたちは家庭内においてどのようなテクノロジーに接しているのか?】
先行研究で述べられていたように、幼児は主にテレビ、家庭用ゲーム機に接す
る機会が多く、またコンピュータやWebサイト、携帯電話でゲームをしていま
した。また、子どもの中には家族とのコミュニケーションにSkypeを使う子も
見られました。ゲームで難しい場面に遭遇した時には年上の兄弟の力を借りて
克服していました。

おもちゃの種類はパズルやおままごとセットから農場、楽器など多岐にわたり、
10組の家族のおもちゃには約4分の1に何らかのテクノロジーが使われている
ことが分かりました。おもちゃの中には算数や読書といった教育目的のものや、
ロボット犬のようにインタラクションをもたらすものもありました。これら
おもちゃの種類や所持数には家庭の収入や性別との関係はみられませんでした。

【家庭でのどのような実践が、子どものテクノロジーとの触れあいに影響を
及ぼすのか?】
複数回にわたるインタビューや観察結果から、子どものテクノロジー利用に
ついて「抑制する」親と「好意的な」親に大まかに分類できることがわかり
ました。論文内では具体的な事例として、テクノロジーを用いたおもちゃが
学習を促進し、進学の準備になると考えており、子どもにラップトップを買い
与える「好意的な」親と、コンピュータの前で座るよりも他者と関わることで
社会的なスキルを磨くべきだとし、家族での遊びを重視する「抑制する」親の
事例について触れています。また、このように子どものテクノロジー利用に
関する親の価値観や態度に多様性が生じる要因として、メディアの報道や親の
幼少期の体験、文化水準、うわさ、信念、兄弟の有無のような家族構成と
いったものの存在が関わっているとPlowmanらは指摘しています。

【子どもはテクノロジーとのインタラクションから何を学ぶのか】
Plowmanらは、ある特定のテクノロジーを使った遊びと、特定の学習との直接的
または間接的な関係性を主張していないものの、何らかのテクノロジーを
使った遊びがもたらされることで、子どもたちの学習の将来性を高める可能性
があると主張しています。また、Plowmanらは親からの報告と観察の結果を総合
的に分析し、テクノロジーとのインタラクションが以下の4つの学習分野を
サポートしうると述べています。

操作技能の獲得:
自動車の運転技能と同様に、マウスやタッチスクリーン、ゲームコントローラ
といったアイテムの機能を理解すること。操作技能とは子どものテクノロジー
とのインタラクティビティに関する概念の発達を促し、操作に応じて反応が
返ってくることに対しての理解を可視化するものである。

世界に対する知識と理解の拡張:
数学や言語、生き物、人々、場所についての知識に関する学習分野で、典型的
なものとしてソフトウェアやWebサイト、しゃべる本の内容から得られる能力
を指す。このようなコンテンツやテクノロジーを使ったおもちゃに触れること
は、読み書きや算数に慣れておくことで学校への準備をさせるという点で重要
である。

学習意欲の発達:
子どもの学習能力の違いを生む、多様かつ、認知的な特徴。この側面は、自立
支援や、困難に直面したときの我慢強さ、どうやって学ぶのかといった自己
認識、成功から得られる自尊心や自信の増幅といった要素を含んでいる。

日常生活におけるテクノロジーの役割に対する理解:
コミュニケーションや雇用、学習、娯楽といった多様な社会的、かつ、文化的
な目的においてテクノロジーが果たす役割についての学習。観察した子ども
たちを例に挙げると、まだ文字が書けない子どもがMSNメッセンジャーで
コミュニケーションをとったり、また電話やSkypeで会話し、Eメールや携帯
電話で家族や友人と写真を共有している。

●考察
これらの結果から、何らかのテクノロジーを用いた遊びをもたらす機会は、
子どもたちの学習の将来性を高める可能性があるということ、そして家庭内で
のテクノロジーを用いた学習は、親が遊びと学習のバランスを取ろうと試行
することで各家庭にローカルな文化が生まれ、幼児教育の多様性を生んでいる
とPlowmanらは述べています。

また、Plowmanらはこのような手法に基づいたケーススタディによって、子ども
と家族、テクノロジーの家庭内におけるインタラクションに対する気づきや、
学習が操作技能に対するものだけでなく、世界に対する知識と理解、学習意欲、
日常生活におけるテクノロジーの役割に対する理解などより発展的なもので
あるという学習の重要性について気づくことができると締めくくっています。

◎特集記事協力◎吉川遼/東京大学 大学院 学際情報学府 修士1年


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おしらせ・BEAT Seminar  ─────────────────────
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2012年度第1回BEAT公開研究会
「子どもとデジタル絵本」開催報告
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2012年6月2日(土)に2012年度・第1回 BEAT公開研究会
「子どもとデジタル絵本」を開催しました。

当日の内容をセミナーレポートにまとめました。会場にお越しになった方も、
残念ながらお越しになれなかった方も、ぜひご覧ください。
http://www.beatiii.jp/seminar/049.html

セミナーでは、前回に引き続きTwitterでハッシュタグ #beat2012を
設定し、Twitter上でも多くのコメントをいただきました。皆様から集まった
TweetをTogetterでまとめましたので、こちらも、レポートと併せてご覧くだ
さい。

▼Togetter - まとめ「子どもとデジタル絵本」
(2012年度第1回BEATセミナー)
http://togetter.com/li/314857


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おしらせ・ 東京大学×ベネッセ :ソーシャルラーニングプログラム「Socla」
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オンラインサマースクール高校生参加者募集のご案内
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東京大学大学院 情報学環ベネッセ先端教育技術学講座BEATでは、2010年度
より(株)ベネッセコーポレーションと共同で、高度に進展する情報化・国際化
社会において、学びを自ら切り開いて行けるような人材の育成を目指し、ソー
シャルメディアを活用した学習支援プログラム「Socla(ソクラ)」を実施して
います。

その一環として、「2012年夏、インターネットを使って進路について考えよう!」
をキャッチフレーズに、高校生を対象としたSoclaオンラインサマースクール
を開催いたします。本サマースクールでは、高校生と大学生や社会人とを、
ソーシャルメディアのひとつであるFacebookでつなぎ、キャリアに関する
プロジェクト学習を行います。主体となる高校生が自らのキャリアについて
調べ学習を進めるプロセスで、大学生や第一線で活躍する社会人とのFacebook
上での対話を通じ、自ら学ぶことの意味について体験的な理解を促す活動を
行います。

ソーシャルメディアを利用することで、普段の生活ではなかなか接することの
できない社会人・大学生の、さまざまな学び方・働き方・生き方を身近に感じ
ることができ、彼らをロールモデルとして自分の進路を具体的にイメージする
ことができます。今夏の経験が、将来について考えるひとつのきっかけに
なればと思っております。

つきましては、本サマースクールに参加する高校生を募集しています。
実施期間や応募要件は次の通りです。

■応募要件(以下4点すべてを満たす必要があります)
1.高校生の方
2.自身の携帯電話をお持ちで、携帯メールのできる方
3.サマースクール期間中、インターネット接続可能なパソコンで学習を進めら
れる方
4.プログラム参加に関して保護者の方の同意を得られた方

■プログラム詳細・参加のお申し込みはこちら!
https://www.facebook.com/BEAT.Socla

☆昨年の参加者の体験談やスケジュールなども公開されています☆


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お知らせ UTalk       ──────────────────────
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「隠れキリシタンを図像に探る」のご案内
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UTalkは、様々な領域で活躍している東京大学の研究者をゲストとして招き、
毎月開催するイベントです。カフェならではの雰囲気、空気感を大切にし、
気軽にお茶をする感覚のまま、ゲストとの会話をお楽しみいただける場と
なっています。

7月のUTalkゲストは、ポルトガル語をはじめとする南欧語の古文書解読と
アジアでのフィールドワークをもとに日欧関係史を編む岡美穂子さん
(史料編纂所助教)。
南蛮貿易とともに日本にもたらされたキリスト教。宣教師が帰国した後、
隠れキリシタンはどのようにして信仰を守り伝えてきたのでしょうか。
浦上天主堂にあって、原爆で焼失した隠れキリシタン秘蔵の絵画。
その残された模写絵をたよりに謎に迫ります。

みなさまのご参加をお待ちしています。

日時:7月14日(土)午後2:00-3:00

場所:UT Cafe BERTHOLLET Rouge(東京大学 情報学環・福武ホール併設)
http://fukutake.iii.u-tokyo.ac.jp/access.html

料金:500円(ドリンク付き/要予約)

定員:16名

申し込み方法:UTalkホームページ
https://fukutake.iii.u-tokyo.ac.jp/utalk/
の参加申込フォームに必要事項をご記入の上、お申し込みください。

※申し込みの締め切りは7月6日(金)までとします。
なお、申し込み者多数の場合は抽選とさせていただく場合がございます。
ご了承ください。


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 編 集 後 記 ──────────────────────
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Beating第97号は、お楽しみいただけたでしょうか。

3ヶ月ごとに開催しているBEATセミナーですが、次回9月1日(土)に開催
する予定のセミナーは、なんと記念すべき「第50回BEATセミナー」なんです!
セミナーの詳細は次号Beatingでお知らせします。(ひっぱるひっぱる…笑)
何が飛び出すか、どうぞお楽しみに。

ご意見・ご感想をお待ちしております。

「Beating」編集担当 高橋 薫 (たかはし かおる) kaorutkh@beatiii.jp

-------次回発行は7月31日の予定です。

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情報を発信しています。Beatingで紹介している情報以外にも多くの情報を
発信していますので、Twitterをご利用のかたはぜひBEAT公式アカウント
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□ご意見・ご感想は…
「Beating」編集担当 高橋 薫 kaorutkh@beatiii.jp
(東京大学大学院情報学環ベネッセ先端教育技術学講座 特任助教)

□「BEAT」公式Webサイト http://www.beatiii.jp/?rf=bt_m097

□発行:東京大学大学院 情報学環 ベネッセ先端教育技術学講座「BEAT」
Copyright(c) 2012. Interfaculty Initiative in information Studies,
The University of Tokyo. All Rights Reserved.

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