UTalk / 流れをつかむ日本の歴史

山本博文

史料編纂所 教授

第100回

流れをつかむ日本の歴史

第100回記念のUTalkは、山本博文さん(史料編纂所 教授)をゲストにお迎えします。歴史のなかにみられるさまざまな事件はなぜ起こったのでしょう。個々の出来事をこえて、ことがらの後ろにあるしくみを読み取ることで、日本の歴史の何がみえてくるのでしょうか。多くの史料を見出して読み込み、さまざまな史実を解き明かしてきている歴史学者の山本さんとともに、歴史が動く流れをつかみ、歴史へのまなざしを拓いてみませんか。 なお今回は100回記念として、東大TV(http://todai.tv/)による開催風景の撮影が行われます。撮影した映像はWEB上で公開され、多くの方々にUTalkの様子を視聴していただけるようになります。それにともない、今回は映像の撮影・公開について同意いただける方に参加を限らせていただきます。皆様のご参加をお待ちしております。

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2016年7月、第100回記念となるUTalkは、史料編纂所・教授の山本博文さんにお越しいただきました。山本さんには個々の時代を越えた流れとして歴史を見ると、いったいどのような日本の姿が見えてくるのかについてお話しいただきました。

山本さんご自身の研究テーマは安土桃山時代から江戸時代にいたる近世史ですが、それと同時に日本の歴史を通覧するような仕事も数多くなさっています。角川まんが学習シリーズ『日本の歴史』の監修がそのひとつで、旧石器時代からの日本の歴史を最新の研究成果につき合わせながら編んでいかれました。そうした著作を通して、個々の時代の詳説とは違い全体的な歴史の流れをつかむ視点に立つと、歴史の姿が新しく見えてくるといいます。

今回のUTalkのために用意されたのが、旧石器時代から現代までの時代が書かれた年表です。この年表を指しながら、山本さんは日本の歴史をずらっとたどっていかれました。実際のお話しよりもさらに駆け足で振り返ってみましょう。

旧石器時代は3万年前から1万6000年前まで、縄文時代が紀元前4世紀頃まで、あわせて3万年間続きました。鎌倉時代がせいぜい150年です。このタイムスケールのもと日本人的な気質が育まれました。弥生時代に至ると富の蓄積や階級が発生し、朝廷の原型ができます。律令制の奈良時代まで、国家的な軍事力があったのが、ここまでの歴史の特徴です。それが平安時代になると、土地と税金による支配が始まる。ここに至って、朝廷がもっていない軍事力を補完するものとして武士が登場します。武士はあくまで朝廷のためのもの。鎌倉時代までは朝廷の歴史です。

室町時代になって、日本の国家の体制ががらりと変わっていきます。朝廷=天皇の国であった日本はしだいに天皇をみなし上の権威、便宜的な存在として位置づけていきます。戦国時代、江戸時代になって「日本における第二の国家」が成立したのでした。こうした時代、価値観は明治時代以降も変わることなく、現代に続いていきます。私たちもこうした歴史の流れのうえに立っているのです。

こうした歴史の流れに、日本のまわりからどんな影響があったのでしょうか?参加者の方からいただいた質問に、山本さんは律令制や漢字など中国の影響を挙げられました。ですが、いったん入ってきたものを「道具」として使うことで、日本的なものを比較的残していくのが特徴だといいます。江戸時代の国学のように日本の原点に戻りたいと考える人は出てきますが、そこまで日本のものは変わっていないのかもしれません。

山本さんはご自身の研究をされる時には、近世の手紙などの文書を読み込んでいかれるそうです。今なら電話で済ませるようなことも、手紙として残っているおかげで、書いている人たちの時代感覚がつかめるといいます。それをもとにして、ほかの時代のことも考えていく。それが、個々の時代を見つめると同時に、歴史の流れをつかむやり方だということでした。

研究者として個々の時代に焦点化しながら、一方で多くの人に向けて歴史の流れを見せていく。そんな山本さんの研究者の姿がとても感じられるお話でした。山本さん、参加者のみなさん、どうもありがとうございました。

[アシスタント:杉山昂平]