UTalk / 昭和三陸津波にみるアソシエーション

岡村健太郎

生産技術研究所 助教

第95回

昭和三陸津波にみるアソシエーション

2月のUTalkは、災害復興を建築史・都市史の視点から研究されている岡村健太郎さん(生産技術研究所 助教)をお迎えします。東日本大震災発災後5年を経た現在でも、被災地の復興が果たされているとは言えない状況が続いていますが、その問題点は現状だけを見ていても理解できない、と岡村さんは指摘します。なぜなら災害復興は、人類がこれまでに災害を経験しては復興を繰り返すなかで構築されるいわば歴史的産物と考えられるからです。80年前の昭和三陸津波後の復興の事例をもとに、今後の災害復興のあり方を見通します。

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2月のUTalkは、生産技術研究所の岡村健太郎さんにお越しいただきました。岡村さんは災害復興を建築史・都市史の視点から研究されています。自身が阪神淡路大震災を経験し、自分も何か震災からの復興に貢献できないかと思ったことが、災害復興に関する研究を行うようになったきっかけだそうです。建築史、都市史の視点が重要な理由は、災害が発生した地域の建築的・都市的な特性によってその災害の規模や内容が異なってくるという点で社会的な現象であるためであると岡村さんは語ります。特に自然災害には地域的な偏りと周期性があり、災害復興は人類がこれまでに災害を経験しては復興を繰り返すなかで構築されるいわば歴史的産物と考えられるため、歴史から学ぶことが重要であるとのことでした。

岡村さんは人間の居住地と災害との関係をテーマに、地球全体と歴史全体を扱って、誰が復興を担ってきたかというところに着目した「全球災害復興史の構築」を目指していらっしゃいます。ここで扱う復興とは災害が発生する前から次の災害が発生するまでを通した広義の復興を指すそうです。今まで復興を担ってきたのは主に3つの主体、個人と国と市場でした。まずは個人が主体となった復興。被災した個人がお金や人脈を使って別の都市で暮らしたり、家を建て直したりする場合がこれにあたります。次に、国の公共事業として、税金を使って再分配する形で公的空間を復興するというやり方。そして区画整理などによって土地の価値を上げ、財の交換を活発に行うことによる市場が活躍した復興がありました。

その他に、第4の復興として岡村さんが注目しているのがアソシエーション、日本語では組合にあたるコミュニティによる復興です。80年前の昭和三陸津波後の復興の際には集落ごとに結成されていた産業組合が大きな役割を果たしたといわれています。組合は貧富の差に関わらず加入可能で、震災で家を失った人などに無担保で低利子での融資を行ったり、共同浴場などのインフラを整えたり、協働によって経済的な基盤の安定に努めたりすることで、平等ですみやかな復興をサポートしたそうです。

岡村さんは、こういった過去の復興の事例をもとに未来の復興に重要な視点を提供したいとおっしゃっていました。東日本大震災発災後五年を経た現在でも、被災地の復興が果たされているとは言えない状況が続いています。個人、国、市場での復興は試みられてはいますが、より平等で自由な形での復興を目指すうえで、林業の再生を目指すNPOや、加工・販売をふくめた漁業の再生など、現在の社会に無理のない形で、組合的な要素をいれていくことが重要なのだそうです。

参加者の方からは、アソシエーションは共産主義的でデメリットもあるのではないのかという質問がありました。アソシエーションはもともと、資本主義に対抗して中小の商工農業者を守るために結成されたものだそうです。万能なわけではありませんが、堤防等をつくるだけではなく、生活や産業に直結した復興を行うためには、アソシエーションは重要ではないかとおっしゃっていました。なにより個人と国と市場と組合という4つの復興の担い手のバランスをとっていくことの重要性を岡村さんは説かれました。

震災復興を、復興を担ってきた主体という切り口で歴史を通して考えることで、今の復興に足りていないものについて新たな視点を得ることができるのだなということがわかりました。たくさんの資料を基に、具体例を交えつつ災害復興のありかたを俯瞰して説明してくださった岡村さん、会の終了後も熱心に質問、議論してくださった参加者の皆さま、ありがとうございました。

〔アシスタント:加藤郁佳〕