UTalk / 「電話」って何?

水越伸

情報学環・教授

第50回

「電話」って何?

5月のUTalkでは、メディア論を研究している水越伸さん(情報学環・教授)にお越しいただきます。普段なにげなく使っている電話ですが、その形態1つ取っても、固定電話から最新のスマートフォンまで様変わりしています。人は電話をどのように使っているのでしょう。また、人は電話を通じてどのような経験をしてきたのでしょう。今回はそういった視点でお話を伺っていきたと思います。

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2012512日のUTalkは、水越伸さん(ご所属:情報学環)をお迎えして行われました。

水越さんがまず取り出したのは黒電話。この型の黒電話は1964年に生産をはじめたそうで、これは水越さんの生まれた1963年の翌年にあたります。黒電話は人間工学的に優れており、スマートフォンに比べて長電話をしても疲れなかったそうです。参加者には黒電話を知る世代の方も多く、序盤から黒電話を懐かしんで盛り上がりました。

そして話はさらに時をさかのぼって電話の黎明期へ。電話は1876年にベルによって発明されましたが、その翌年にはすでに日本に渡ってきていたそうです。といっても、最初は現在のように個人同士の用途で使われず、サーカス小屋の見世物のような形で使われていたとのこと。その理由としては、電話のやりとりの決まり事がなかったことがあります。現在の通話の最初は「もしもし○○ですが、×さんですか? 今大丈夫ですか? △△のことなのですが・・・」といった調子で始まりますが、このような決まり事が決まったのも2030年後のことで当時はありませんでした。だから、電話に向かってずっと怒鳴る人や事前に準備した紙をただ読み上げる人もいたそうです。

そんな電話独特の決まり事ですが、こんなところにも日本と海外では違いがあると水越さんは言います。日本人はとにかく会話の終わり際が長いそうです。海外では用件が済むとガチャリとすぐに電話を切るのに対し、日本人は「じゃあねー ? あ、今度飲みに行こうねー、うんうん、ではまたねー」というように用件が済んでから電話を切るまでが長い。実際にそういう研究も存在しているそうです。

水越さんによれば、現在は携帯電話の出現によって決まり事にも変化が生まれているようです。たとえば、昔は電話が一家に一台しかないことが多かったので、電話をかけても誰が出るのかわかりません。それより前は電話交換手を通して電話をしていたのですから、最初に電話に出るのが本人である確率はそもそもかなり低かった。ところが、携帯電話は個人で持つことが多いため、電話をかけた先が電話の所有者本人でないことはほぼないと言ってよいでしょう。

さらに、決まり事だけでなく、携帯電話の出現は電話で行うことそのものも急速に変えてきています。1999年に携帯電話でインターネットにつなげるように、2000年には写真をとれるようになりました。携帯電話は3ヶ月単位で新機種が発売されており、次々と新しい技術が生まれてきています。

そんな携帯電話の技術革新に対して、果たして使う側の人間はついていけるのでしょうか。携帯電話を使う文化が十分に普及していない状況で携帯電話の普及が進むと、携帯電話が軍事目的ばかりで利用される場合もあるという例をひきながら、現在Facebookなどのアプリがスマートフォンに入って使えるからといって、それだけで使っていくという考え方はどうなのだろうか。水越さんは話の最後にそんな疑問を投げかけていました。

お話の後で参加者から、人は電話やテレビといったオカルティックなものが好きなのはどうしてだろうか、という質問が出ました。水越さんは、技術的にはロジカルでどこにもオカルティックなところがない電話ですが、昔から怪談がついて回っているといいます。水越さんによれば、それは電話の決まり事ができていく過程であるとか、電話のコミュニケーションにおける薄暗がりのようなものなどが関連しているのではないか。とのことですが、電話とオカルトの一見つながらないように思える関係があることが個人的にはとても面白かったです。

ここでは書ききれませんでしたが、水越さんの出す電話に関する具体例が誰もが身に覚えがあるような話ばかりで、参加者から頻繁に笑い声が起きていたのが印象的でした。気づけば電話の仕方を覚えていた私も、いつごろやり方を覚えていたのだろうか、と昔の記憶をたぐりよせながらお話を聞いていました。

今回のUTalkは今年はじめてのカフェのテラスでの開催となりました。ユーモアを交えながら興味深いお話をして下さった水越さん、お越し下さった参加者の皆様、ありがとうございました。

 

[アシスタント:中野啓太]