UTalk / ほのぼの時間のつくり方

大武美保子

人工物工学研究センター・准教授

第48回

ほのぼの時間のつくり方

3月は、サービス工学の研究者である大武美保子さん(人工物工学研究センター准教授)をお招きします。大武さんは、認知症予防回復支援サービスへの応用研究を進めつつ、NPO法人ほのぼの研究所を立ち上げ、研究と実践を往還するアプローチをされていらっしゃいます。その活動の中で開発された「共想法」を参加者の皆様にもご体験いただきながら進めたいと考えています。

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3月のUTalkは、人工物工学研究センターで准教授を務めていらっしゃる大武美保子さんをお迎えしました。
合格発表でキャンパスが賑わう中、店内で開催されました。

開始前からテーブルに置かれたロボットを囲みつつ、大武さんのつくるほのぼの時間が始まりました。
大武さんはサービス工学という分野で研究をする傍ら、NPO法人ほのぼの研究所を立ち上げて認知症予防の実践もされています。

今回はその活動の経緯や、そのなかで開発された「共想法」という手法を参加者の皆さんと一緒に体験しました。

大武さんが現在の活動を始めたきっかけは、ご自身のお祖母様が認知症を患っていたことでした。
「何か聞かれれば答えるけど、何も聞かれなければ同じ話を繰り返す」というお祖母様でしたが、写真を見せると聞いたことがない新しい話が出てくるようになったそうです。

大武さんはもともと人工筋肉材料を使ってヒトデ型ロボットを作り動かす研究をされていました。
そのなかで、人の頭の中の神経系がどうなっているかということに興味を持ち、頭の中の信号のやりとり、刺激などの「入力」と感情・行動といった「出力」との関係に関心を抱かれたそうです。
そして、何にも刺激がないとうまく情報発信できなかったご自身のお祖母様が、写真や問いかけといった刺激の入力によって話すという出力ができるようになったことに着目しました。

いろいろ試行錯誤した結果、「共想法」が生まれたのは約5年前のことでした。
2007年、柏市内で、集まった6名の高齢者の方々と初めての実践を行いました。
ここから定期的に活動を始め、大武さんと高齢者を中心とするNPOほのぼの研究所が立ち上がりました。

実践の中でお会いした方の中には、クモ膜下出血で一度倒れたことのある方などもいたそうです。その方にとっては、「行くだけでもリハビリ」だったそうですが、今では最初に会った時より元気になって、研究所で大活躍されているそうです。

ここで参加者から、「なぜ「ほのぼの」なのか」、という質問が寄せられました。
これについて、「いろいろ考えたがほのぼのが一番コンセプトにあっている」と大武さんは話します。
実は、初めて行われた実践の場所が「ほのぼの通り商店街」に面する「ほのぼのプラザ」にあったことがきっかけだそうです。

さらに、「ほのぼのとしていたほうが頭が柔軟に使える」という仮説を考えていることも話していただきました。
硬直化した思考は、推論力など高齢になると衰えやすい認知機能を使わないことにつながると考えられ、「ほのぼの」とした場づくりと認知症予防の関係の理論化に取り組んでいらっしゃるそうです。

お話がひと通り終わったところで、今回は実際に参加者といっしょに「共想法」を試しにやってみました。
開始前からテーブル上に鎮座していたロボット「ほのちゃん」にようやく話が触れられましたが、ここでトラブルが。
なんと、ほのちゃんがうまく作動してくれない・・・

後で調べたところ、ハードディスクが壊れていたそうです。
ということで今回はほのちゃんの活躍を見ることができませんでした。

普段はほのちゃんが参加者に話を振る役割を担っているそうです。
必ずしもロボットにファシリテーターをさせる必要はないそうですが、ロボットという不思議な存在がいることで、「ほのぼの世界」へと入り込みやすくなるそうです。
また、大武さんは自分の話が長くなりがちなので、ほのちゃんに話を振る役割を任せているそうです。
ほのちゃんもまだ完成品ではなく、実験中とのことでした。

「共想法」の主な流れは、写真を持ってきた人が1分間でその写真にまつわる話を全体に向かって話し、その後、2分間で質問に受け答えるというものです。
1、2分という時間にしてあるのは、程よく話し足りなく、また全体で全員が話せる時間を確保できるからなのだそうです。時間は全体のスケジュールに合わせて柔軟に設定し、十分時間が取れる時は、5分ずつにするそうです。

話すのが長い人はあえて短く話し、まとまった話をすることがない人はまとめて話す、という普段あまりやらないことをやってみることで、ほのぼのとしつつトレーニングの効果があるそうです。

今回は実際にスタッフが持ってきた写真で共想法を試してみましたが、難しいけど楽しいようなゲームの要素を含んでいるようでした。

最後に、「ここでお会いできたのも何かのご縁ですし」と大武さんの提案で、参加者全員が、一人ずつ「今回UTalkに参加した理由」を15秒で話してお開きになりました。
終始ほのぼのとしながらも実のあるお話を伺うことができました。
大武さん、そしてお集まりいただいたみなさま、ありがとうございました。 

[アシスタント:市原大輝]